第六話 アカネと試験と…… その1
遠くで花火が上がっている。
学校の中でだけではなく町全体が大きくざわめいていた。
「いらっしゃい! 武具をそろえるならうちがいいよ!」
「さあさ、今はポーションや薬草が大安売りだよ!」
「うちの宿が安いよ! 期末試験を見るならぜひうちで!」
行く人来る人、すべての人に声をかけていく商人たち。
学園都市と化したこの町の大きな祭り。期末試験が始まったのだった。
町の中央の広場では生徒全員がそろっていた。
アカネも、ローラも、イリアも綺麗に整列をしている。
ただし、まだ始まらないのかみんな雑談をし始めた。
しばらくするとジョーニアスが壇上に登る。
普段とは違って妙に気合を入れてめかしこんだのか、妙に光っていた。
そして生徒たちの雑談をかき消すかのように高らかに宣言をする。
「これより、期末試験開始式を行う!」
雑談は潮が引くかのように終わり、壇上の校長へ視線が注がれる。
「諸君、ついにこの日が来た! 腕に、頭に、そして心に自信がある者たちよ。己が力を存分に試すがいい!」
一人の生徒が壇上に登る。冒険者学校の生徒会長だった。
「宣誓! 冒険者の精神に則り、未知の世界に対して、自らの力を示すことを誓います!」
「ならば行くがいい! 未知への探求者たちよ! ダンジョンを制覇し、強敵を打倒し、自らの知恵を使い、見事宝を持ち帰るのだ!」
「はっ!」
「それでは期末試験、開始!」
宣言とともに歓声が上がる。今ここに試験が始まったのだった。
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「アカネはトーナメントに出るんだ」
「うん!」
「イリアは筆記試験、あたしはダンジョンに潜る」
「みんなバラバラだね」
オプティムの軍事学校には三種類の試験があった。
一つ目は筆記試験。どこの学校にもある試験用紙に答えを書くもの。
二つ目はダンジョン探索。試験用に発見されたダンジョンを散策し、指定されたものを持ち帰ること。
三つめは武術トーナメント。敗者復活もない一回だけの勝ち抜きトーナメントである。
試験期間は一週間。その間に力を示せれば補習をはじめ、様々な免除を受けられるのだ。
「力を貸してほしい時はいつでも言ってね」
「ええ、それじゃ!」
ローラが二人に背を向けた。その背中はどことなく気合が入っている。
この試験にローラは何かをかけているようだった。
「じゃあ私も行くね」
「頑張って、イリアちゃん!」
「アカネちゃんも頑張ってね」
イリアも去っていった。
残されたアカネも両手で顔を叩いて気合を入れなおす。
「私も頑張らないと!」
トーナメントの地、コロシアムへ向かうアカネ。
石でできたその建物は血と汗を染み込ませたかのような熱気が漂ってくる。
思わず身体が身震いしたが、気にせず中へと入っていく。
アカネも他のものと同じように登録名簿に名前を書き記す。
書類を受け取った係員がアカネに小さな鉄のプレートを手渡した。
「アカネさんの番号は二十六番です。呼ばれるまで控室でお待ちください」
「はい!」
控室へ入ると中は何やら殺気立っていた。
中の生徒たちはみんな受付を澄ませたのか、準備を行っている。
屈伸運動をして体をほぐす者、自らの武器を磨く者、座禅を組んで心を落ち着かせる者。
「よう! 来たか、元気娘」
「ブレイク先輩!」
学校一の巨漢。ブレイクだった。だがアカネには学食で出会った時より大きく見えた。
普段の学生服ではなく、冒険者仕様のフルプレートアーマーを着ている。
重圧なハルバートを軽々と操り、邪魔にならないように担いでいた。
「今日は手加減しねぇからよ! 怪我すんじゃねぇぞぉ!」
「はい、ご忠告ありがとうございます! 先輩こそ、けがに気を付けて!」
「へっ、頑丈さには自信があるんだよ、俺は!」
「ふっ、後輩の小娘ばかりに目を奪われてると怪我をしますよ」
横から何者かが口を出してきた。声の主はかなり細身な男のだった。
筋骨隆々なブレイクとは対照的なその男は、どことなく鋭いカミソリのような殺気を放っている。
着ているものも同じように対照的であり、簡素な鎧とロングソード。その二つしか身に着けてなかった。
しかしアカネは、ブレイクと同じくらい強い存在であること十分に感じ取ることができた。
その証拠に彼はブレイクに話すまで足音を一つもさせていなかったのだから。
ブレイクもアカネと同じように慇懃無礼気味に声をかける。
「来たか、アイン!」
「今回は試験ですが……勝たせてもらいますよ」
「上等だ、倒しがいがあるやつが多いほど俺も燃えるってもんだ」
「それではブレイクにお嬢さん、それではまた後で」
「はい!」
アカネが頭を下げると彼は手を振りながらその場を離れた
「アカネ、今のアインはお前が思っている以上に強いかもしれねぇ。搦め手のアインの異名は伊達じゃねぇんだ」
アインの異名、搦め手のアイン。
名前の通り、正攻法で戦うことは一切ない戦士だった。
相手の弱点を分析し、徹底的に多彩な技を駆使してそこを突く。ある意味最も合理的な戦いだった。
今のところ彼と戦って打ち勝ったのはブレイクのみ。
それもほとんど一か八かの捨て身の攻撃での勝利であった。
「それでも勝ちます! 私、これに優勝してお師匠に報告に行きたいんです!」
「へぇ、なら俺も本気でぶつかるぜ」
「望むところです!」
笑顔でお互いに拳を突き合わせて約束をする。
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ブレイクとそんなやり取りをするほんの数十分ほど前。
「参加者募集中でーす!」
学校の職員が街行く冒険者たちにビラを配っていた。
かなり枚数があるのか、紙自体を背負ってばら撒いている。
飛び入り参加者大募集中!
あなたもオプティムの期末試験に参加してみませんか!?
優勝者には金一封! さらに豪華お食事券付き!
参加条件は特になし! ぜひご参加ください。
宙を舞うビラを一人の冒険者が手に取る。
全身を覆うローブのせいで顔は見えなかったが、銀色の髪の毛が少し見えた。
ビラに書かれている文字を目で追うとばら巻いている職員に声をかけた。
「おい、こいつは飛び入り参加ができんのか?」
「ええ、どなたでも参加できますよ」
「そうか……」
「ご参加するならコロシアムでお願いしまーす!」
「わかった」
コロシアムの前に立つと苦虫をかみつぶしたかのように軽く舌打ちをする。
いらだちが長られないのか、思わず近くの壁を殴る。
激しい音とともに、拳の形の跡が壁につけられた。
受付までくると怒りをぶつけるかのように荒い口調で受付を呼び出す。
「登録!」
「はい?」
「飛び入りの登録。まだできんだろ!?」
「は、はい!」
冒険者の圧に押され、上ずった声で引き受ける職員。
恐る恐る差し出した登録用紙をひったくるかのように受け取ると名前を書く。
しかし……文字の形が独特なのか、受け付けは思わず冒険者の顔を見る。
「ええっと……なんて読むのでしょうか?」
「グレン」
「なるほど、ではグレン選手と登録しますね」
「ああ」
「それでは時間が来るまでお待ちください。番号は五十一です」
「わかった」
冒険者は受付に背を向けるとそのまま立ち去った。
「アカネ……首洗って待ってろよ」
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コロシアムは大勢の人間が詰めかけていた。
大勢の人を収容できるように設計をされているが、ここまで人がいるのは期末試験だけである。
この試験は半分ほど見世物だった。その証拠に売り子をしている生徒や教員がちらほらいた。
「皆さん、お待たせいたしました! この期末試験も何度行われたかわかりません!しかし、そのたびに我々を厚く盛り上げてくれました!」
魔法を使った拡声器に少し唾を飛ばしながら大声でしゃべる司会。
隣にいるゲストたちもやや落ち着きがない様子でこれから始まることを心待ちにしていた。
「それでは選手の入場です」
ぞろぞろと選手が入場してくる。
巨人をも思わせる大きな体をした者もいれば、小人かと思うくらい小さい者もいた。
男もいれば女もいる。十人十色の戦士たちが入ってきた。
「がんばれー! ブレイクー!」
「アイン! 今年こそ優勝だ!」
「シルヴィア! 女の意地を見せてやりなさい!」
思い思いの選手に声をかける観客。どうやら一部の選手にはファンがいるようだった。
司会が隣にいるゲストたちに声をかける。
「今年は素晴らしい戦いになりそうですね」
「ええ、特にブレイク選手。三連覇をねらうかもしれません」
彫りの深い老人はブレイクに対し熱烈なアピールをしている。
「新進気鋭の生徒も多いですよ、私が注目してるのはアカネ選手。一撃必殺で多くの魔物を葬ってきたと聞いてます」
「そしてダークホース。アイン選手。ブレイク選手に次いで二番人気の選手ですよ」
「それに外部の人間を招いていますからね、誰が勝つかわかりませんよ!」
冒険者学校では冒険者の練度を高めるために、冒険者登録された者をこうやってトーナメントに呼ぶこともあった。
「これより、学園トーナメントを始める! 一番と二番、試合を始めるので武舞台へ!」
アカネはさっそくトーナメント表を見る。
どこかにある自分の名前を探すと指でなぞって優勝の文字にたどり着く。
優勝するためには五回勝たなくてはいけない。
「最初の相手は……」
「私だ、アカネ!」
突然現れた男に目を白黒させるアカネ。
自分の名前を知っているということはあったことがあるのだがアカネにはそれが思い出せない。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「私は貴様にKOさせられた男! メルキン!」
「ああ、あの人か……」
ガルマンとのクラス対抗戦でアカネと戦った男子生徒だった。
今日は普段の制服とは違い鎖帷子を着ている。
「あの後、私は血がにじむような特訓を重ね見事新必殺技を会得したのだ!」
「おお!」
「さらに! 今回は特別に私の秘蔵の剣を持ち出した! 覚悟するがいい!」
「じゃあ今日はよろしくお願いしますね!!」
「ふふ、その余裕の顔を引きつらせてやる!」
あかねは自分の番が来るまで露店で軽く腹ごしらえをする。
「番号二十五番と二十六番の選手は闘技場にお越しください」
時間になったので早速コロシアムの上へ行く。
始まりのゴングの前に軽く身体をほぐすアカネ。
どこにも痛みがないことを確認するといつもの構えをとる。
ゴングが鳴り、試合が始まった。
「いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉ! 我が太刀を受けてみよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
向かってくるメルキン。特訓を積んだという言葉に偽りはなく、激しい斬撃がアカネを襲う。
すぐさまそれを左に右にと避けていく。空を切る音が耳元に残るだけだった。
鋭い鉄の刃が身体を引き裂こうとするが、恐怖で動きを止めることない。
接近と離脱を何度も繰り返し、間合いを何度も取り直す。
そのうちアカネも手の内が見えてきたのか、メルキンの斬撃を避けると同時にしゃがみ込む。
「ほいっと!」
一閃、アカネの足払いが綺麗に決まった。下段が崩されたことで体が宙を浮く。
その隙を突かれ、渾身の拳がメルキンの顔をを捉えた。
太鼓のような快音を響かせ、彼ははそのままひっくり返る。
手足をピクピクと痙攣させ、そのまま倒れたのだった。
「勝負あり! 勝者、アカネ選手!」
「やったぁ!」
はしゃぐアカネに対し、メルキンは剣を杖代わりにして立ち上がる。
「うぐぐぐ……剣だけでは足りなかったか……次の試合も頑張ってくれ」
「ありがとう!」
不思議とお互いに握手を交わすと会場の声援に応えるのだった。




