第五話 元姫と呪いと…… その3
通路をひたすら進む中、小さな小部屋を見つける。
早速、中に入ってみるとそこは誰かがいるのか。机や棚が備え付けられていた。
水晶でできたドクロ、瓶に入った怪しげな液体。なにかの紋章をかたどった旗。
怪しげな道具とさまざまな本が並んでいた。
「なんでしょう、ここ?」
「ふむ……どうやら研究室らしいな」
書物タイトルを眺めながら研究内容を探ろうとする。
その中でひときわ目をひくものがあった。
テオドールは思わずその本を手にとって見る。
「魔道禁誌ではないか……」
「なんですか、それ?」
「邪法や呪術、外法。まあ簡単に言えば禁止されている魔法のやり方を記録してあるものだ」
「じゃあ、この洞窟にいる人は……」
「憑り付かれたのかも知れぬなぁ、この禁書に」
「……じゃああの女の人、ただのとばっちりってことですか?」
「恐らく……」
テオドールは大きな“闇”、宮廷内の争いじゃないことに安堵したのか深いため息をついた。
もっとも隣にいるアカネには何のことか分からなかったらしく、気の抜けた顔をしていた。
さらに部屋を散策すると奥に重厚な扉が立っていた。
「……ようやく諸悪の根源にたどり着いたな」
「はい!」
重苦しい扉を開けるとその奥にはまがまがしい魔方陣があった。
思わず二人は“暗視”を解除してしまう。それだけ光に溢れていた。
ただし、紫や緑、深い赤。といった。この世の物とは思えない光だったが。
「テオドールさん! あれが呪いの根源です!」
「本当か!?」
「はい、間違いありません!」
「なら手早く片付けてしまおう、頼んだぞ!」
「はい!」
アカネは精神を集中させると呪文を唱え始めた。
「天に雷、地に竜脈、流るるは星の命なり! 今こそ我が一撃を持って万物を流転し、正しき流れとせん!」
腕から激しい閃光が放たれると同時に大きく跳躍、そのまま鉄拳を魔法陣に叩きつける。
大地に亀裂が走り、岩が砕ける轟音とともに魔法陣が崩壊した。
砕いた反動を器用に使い、そのまま地面へと着地をする。
「よし!」
「これで姫の呪いは解けたな」
一安心と思ったのもつかの間、奥から一人の男が現れた。
藍色のローブを羽織った男は左右に揺らめきながらこちらへと向かってくる。
顔を確かめようとするがフード隠れていて、正体が掴めなかった。
「テ、テオドールさん!」
「むっ!?」
ローブに身を包んだ男は物々しい雰囲気を醸し出している。
フードで隠れた顔は怒りを感じることはない。
「ほほう、貴様が親玉か? できれば手荒なまねはしたくない。大人しく降参してくれると嬉しいのだがな」
「……断る」
「ではせめて質問に答えてくれると嬉しい、なぜあの女性に呪いをかけた? 本棚に魔道禁誌を見つけた。アレはどこから手に入れた?」
問いかけには答えない。男は口を開けたまま、ただ呆然としていた。
「質問も答えんということか……」
「じゃあ捕まえて色々調べましょう!」
アカネが駆け出すと次の瞬間、男が動いた。
「え?」
気が付けばアカネの身体が大きく宙を跳んでいた。
そのまま地面に着地をする。
何が起こったのか分からないのか、眼をぱちくりさせている。
「大丈夫か、アカネ」
「はい! でも……あの人普通の人間じゃありません!」
普通の人間じゃない。という言葉にテオドールもまた驚きを隠せない。
アカネの身体を見てみるがどこか強い衝撃を受けた様子は見受けられなかった。
再び男の方に視線を向けると男の姿が目の前にまで迫っていた。
「むっ!?」
隼のような素早い拳が目の前に突きつけられるが、とっさに攻撃を剣で受ける。
金属が打ち合う音ともに剣が大きくしなる。
速い攻撃であったがやや苦労することなく打ち返し、攻撃をいなしていく。
「はっ!」
攻撃の合間の隙を付いて男のローブを切り裂く。
藍色のローブがボロキレとなり、宙を舞う。
ローブの中身、そこには鍛え抜かれた身体があった。
イリアを初めとする魔術師のように華奢な感じはしない。
むしろ細身ではあったが骨太な印象を受ける。
「ほう、鍛錬でもしてたのかな?」
テオドールは挑発するが男は全く話をしようとはしない。
が、何かを小さく呟いている。アカネは男の言葉を耳するとすぐさま叫んだ。
「テオドールさん、危ない!」
すぐさま駆け出し、勢いの乗った蹴りで男を大きく吹き飛ばす。
そのまま壁に叩きつけられ、衝撃で壁にひびが入る。
だが蹴られた男は全くの無傷であった。
「アカネ? 一体今のはなんだ?」
「呪いです! あの人、テオドールさんに呪いをかけようとしてました」
「何!?」
信じられんといった顔で男を見る。顔を良く見ると正気沙汰とは思えない。
まるで顔からは生気が全くなかった。
目はうつろ、口からはだらしなく泡とよだれが垂れている。
「いったいどういうことなんだ?」
「多分……呪いっていうか怨念というかそういうものに浴びすぎておかしくなったんだと思います」
「なるほど」
口では理解しているものの目の前の光景を受け入れられない。
再び男が動いた。
「くるぞ!」
先ほどよりかなり早さが増した。
だが、アカネのほうも調子が出てきたのか負けてはいない。
「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃあ!」
先んじて懐へ飛び込むと一気に攻撃を仕掛けるアカネ。
何度も拳を繰り出し、相手を押し込める。
男の方も攻撃を仕掛けるがアカネには当たらない。
強い動きに見えるが実質攻撃の仕方は単調であった。
そのため、攻撃を全て読みきり、かわしながら攻撃を続ける。
「だりゃあああああ!」
最後の止めとアッパーがアゴに綺麗に決まった。
男は後ろに大きく吹き飛び、地面に転がる。
急所に当たったのか、ピクリとも動こうとはしない
「かったぁ!」
「流石だ、アカネ」
「ありがとうございます!」
褒め称えるテオドールに、少し照れながら喜ぶアカネ。
しかし男から目を離した瞬間、男の身体が見る見るうちに変わっていく。
「え? 何?」
肌が紫色一色となる。手足が巨木の如く太くなる。
おかしなオーラや吐き気のする匂いがあたりに漂う。
そして立ち上がったときに見えた顔は、異形であった。
ヘビの様に目は大きく、口は蛙のように歯が無い上に耳の近くまで達している。
もはや人間とは呼べなかった。
そんな男を見てテオドールが呟いた。
「どうやら……ルーンが体内に組み込まれていたようだな」
「ルーンって……身体の中に刻み込まれるものなんですか?」
「普通は違う、だからこそ外法、禁術と呼ばれているのだ」
男が動く。人間としての動きではないく、怪物として。
足に力を込めて跳ぶ。二人の上を大きく飛び越し、その背後に降り立った。
腕が振るわれるとその腕から衝撃波が放たれた。
「うわわわわわ!」
「まさか……あのような変貌をするとはな」
「ど、どうしよう!?」
「なに、慌てることはないだろう。聞いたぞ、ゴーレムやガルマンを叩きのめした話をな。あれと同じ要領でやってやればいい!」
「……はい!」
「元気でよろしい! せっかくだ、アカネ。お前にコイツを譲ってやる。ありったけの力でコイツを叩きのめせ!」
「わっかりました!」
再び男、いや怪物へと向かっていく。
軽くステップを踏んで自分の状態を確かめる。
体力を使ったがどこかが痛いということは無いことを確認する。
だが向こうは待ってくれないのか口から謎の粘液を吐き出した。
「うひゃあ!?」
思わず飛んできた粘液をしゃがんで避ける。
粘液はそのまま壁に当たると、煙と泡を吹き出しながらそのまま溶け出した。
流石のアカネもこれには焦りの色が浮かぶ。
「どうする? アカネ?」
「こうします!」
地面を大きく蹴り飛ばし、一種の煙幕を作り出す。
その隙に一気に近付くと腹部に思い切り一撃を叩き込んだ。
そのまま足を払い、崩れた所に右のストレートが入る。
相手はまだアカネを捉えることが出来ないのか腕を振るう。
だが、その前にアカネはしゃがみこんだ。
「スワローテールだ!」
冒険者学校で教わった剣術の技、下から上へと剣を振り上げる、通称ツバメ返し。
アカネはそれを基に、バク転をしながら下から上へと大きく蹴り上げる。
そのままクラウチングスタートのような形となり、大きく地面を蹴る。
それと同時に彼女の膝が怪物の頭を叩き潰したのだった。
かつて、男だったものはそのまま消え去えう
彼はもう人間ではなく、魔物になった証だった。
「や、やった!」
「良く頑張ったな、アカネ」
「はい! ありがとうございます、テオドールさん」
「はは、私はお前の手助けをしただけに過ぎんよ」
「でもこの男の人……いったいどうして……」
「せっかくだ、その辺りもついでに探してみよう」
周囲を捜索する二人。そして一冊の手帳を見つけた。
「テオドールさん!」
「……なるほどなぁ」
テオドールが手にとって中身を見ると、アカネも脇からそれをのぞくのだった。
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事件のあらましは取るに足らないことだった。
一人の男が村で生活するエリーゼ姫に恋をした。
男は姫に告白するが会えなく玉砕。
諦めることもできず悶々とする日々。そんな時、旅人を救った。
旅人はお礼にと本を一冊渡してくれた。
その本を読んでいると自分に自信が湧いてきた。そして……。
後の部分はアカネたちが知ってる話だった。
テオドールは男の想いを理解しつつも、事態の重さに呆れるしかなかった。
旅人から渡された本の正体は魔道禁誌。
書かれている内容から言って気軽に渡してしまったのだろう。
「テオドール様! ありがとうございます!」
村に帰るとアカネは大量の野菜を貰った。
とうもろこしをはじめ、ジャガイモにタマネギ、ニンジンにセロリ。
アカネには両手でもてないくらいだった。
「わわ!?」
「こりゃあ村の特産物だな」
「こんなに貰っていいの!?」
「役得だな、アカネ」
「はい!」
「さて、帰ることにしようか」
こうしてアカネは無事帰路に付くのだった。
そんな最中、アカネがふとテオドールに小さく漏らした。
「ねえ、テオドールさん」
「なんだ?」
「私、お師匠に近づけたんでしょうか?」
「さあな……少なくとも多少は近づけたといったところか」
「多少ですか……」
テオドールの言葉に肩を落とすアカネ。
「そんな顔をするな! よし、それなら私から一つ課題を出してやろう」
「課題ですか?」
「ああ、簡単な課題だ。アカネ、今度の武術トーナメントで優勝してみろ」
「優勝ですか?」
「ああ、全力で戦えばいいところへいけるはずだ、それでお前の師匠に報告してやる」
「本当ですか! 分かりました、やってみます!」




