第五話 元姫と呪いと…… その2
「暗いですね……」
「そうだな。ちょっと待ってろ、今明かりを」
「大丈夫です!」
すぐさまテオドールが魔法で明かりを作り出そうとする。
だがその前にアカネは両目を手で軽く塞ぎ、精神を集中させた。
そして目から手を離すと赤い瞳となる。
闇の支配する中でも、足が取られること無く進んでいく。
「ほう、“暗視”か!」
「一応、取って置きました!」
テオドールも同じように赤い瞳になる。彼もまた暗視を会得していた。
炎の明かりが全く無い中、洞窟の中を進む二人。
周囲には二人の足音しか聞こえなかった。
岩が立ち並ぶ道がどこまでも広がっており、先が全く見えなかった。
「待て、アカネ」
途中テオドールが足を止めた。それに従うようにアカネも足を止める。
暗い中、自分たち以外に動く物があった。二人はすぐさま近くの岩場へと身を潜める。
動く物の正体はトカゲを模した人型の魔物。リザードマンだった。
手には曲剣と大型の盾。そして自らの心臓を守るための胸当てを身につけている。
暗いこの場所では敏感な肌、触覚を保有するリザードマンは最適であった。
早速二人は相談をする。
「アカネ、どうする?」
「先制攻撃あるのみです!」
言うが早、アカネの拳がリザードマンの顔面を引っ叩いた。
不意を突かれた形となり、顔が横に大きく跳ね上がる。
そのまま防御のする時間を与えず、顔や腹に二発、打撃を与える。
応戦する術もなくリザードマンは倒れ、剣と盾を残し消え去った。
「よし!」
「……ほう、このリザードマンはなかなかだぞ」
テオドールが近くの剣や盾を品定めしている。
「分かるんですか!?」
「ああ、この剣や鎧なんかは魔法がかかっている。切れ味も鋭いし、盾は堅固だ。町で売れば言い値が付くぞ」
「なるほど!」
はっきりいって素手で戦うことが多いアカネにとっては、役に立たない物だった。
それでも言い値が付くという言葉に多少は心が動かされたがやむなく、その場に放置。
「さて、進むぞ」
「はい!」
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こんどはアカネのほうが足を止めた。
「テオドールさん、なんか聞こえません?」
「……ああ、聞こえるな」
アカネは精神を集中させて、耳を済ませてみた。
細心の注意を払い、音の発生源を探す。
「あそこからです!」
指し示した場所は何もない岩壁だった。さらに調べようと壁に手を伸ばす。
壁からは何かの声が聞こえてきた。人の声ではない、動物の鳴き声。
しかも一つではない、複数の声が聞こえてくる。
「……そこだっ!」
思い切って音源がする壁に向かって拳と叩き込む。
岩に亀裂が入ると重い轟音ともに通路が現れた。
「隠し扉ですね」
「ああ……」
早速中に入ってみる。細い通路の先にあるの部屋にたどり着く。
そこには檻がいくつも並んでいた。
檻の中には動物が入っており、犬や猫だけではなく、鳥やウサギ、熊に虎といった凶暴な生き物も中にはいた。
しかし、みんなどこか傷があり、気が立っている様子でアカネたちを見るとしきりに鳴いて威嚇をする。
岩を壊したことよりもっと別の何かに怯えているようであった。
「これは……」
「どうやら実験動物らしいな」
テオドールが檻に近付くと、虎がこちらを威嚇をしてくる。
身体を低くして、今にも襲い掛からんと爪を立てている。
だが襲い掛かってくることは全く無かった。
瞳の奥から感じるのは恐怖の一点のみ。
奥にも部屋があるらしく、アカネは思わず奥をのぞいてみる。
「ひゃぁ!」
「どうした!?」
「テ、テオドールさん!?」
「……なんと、惨いことを」
そこには動物の遺体が山のように置いてあった。
まるでゴミ山のように無造作に積まれている。
食べるために動物を捕まえたりすることもあった。だがそれとはまるっきり違う。
臭いとショックのあまりアカネは思わず口元を押さえ膝を付いた。
テオドールはすぐさまアカネを立たせ、目をほかのほうへ向けさせる。
「大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶです……」
口ではそういうが完全に覇気がなくなってしまった。
「とりあえず檻の鍵は壊しておくぞ、いいな?」
「はい……」
二人は動物たちのいる檻の鍵を破壊すると部屋から出て行った。
この動物たちが逃げ出すことを祈って。
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洞窟は徐々に複雑になっていく。
ヘビがのたうつかのように右に左にと、通路が左右に蛇行している。
入り組んだ通路がどこまでも続いているようにアカネは感じた。
途中、通路が二手に分かれた。
「ほう、二手に分かれているのか……。どうする、アカネ?」
「……こういうときはこうします!」
近くにあったのか、木の棒を通路の分岐点に立てる。
手を離すと同時に木の棒は左の方へと倒れた。
「左ですね!」
「では、右へ行こう」
「えええええええ!? こういうときは左じゃないですか!?」
「まあみてなさいって……」
アカネは仕方なくテオドールの後へ付いていく。
その背後から猛スピードで迫る物がいた。
鋭い爪の魔物、シャドウストーカーだった。
シャドウストーカーは通路にある木の棒を見つけると左へと進んでいく。
しばらくすると左側の通路から激しい炎が噴出してきた。
その衝撃で洞窟が激しく揺れる。
「うわわ、なんでしょうか!?」
「はは、きっとどこかの魔物が罠に引っかかったのだろう」
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開けた場所に出てきた。
決闘場を思わせる広い空間の中には巨大な魔物が鎮座している。
牛の頭を持つその魔物は鼻息を荒くして二人を睨みつけていた。
「ほう、ミノタウロスか」
「牛の人ですね」
「せっかくだ、ここは私が引き受けよう」
テオドールがミノタウロスの前に出る。するとミノタウロスも立ち上がった。
黒い体毛と黄金の鎧が対峙するとミノタウロスの方が先に動いた。
丸太をも思わせる力強い腕が振り下ろされる。
洞窟内が大きく揺れ、地面に大きなクレーターが作られる。
しかしその前にテオドールはミノタウロスの懐に入り込んでいた。
「やれやれ、力任せでは行かんぞ。牛の人」
そのまま切っ先をミノタウロスののど元に突きつける。
だがミノタウロスはその意味を理解していないのか、今度はテオドールを蹴り飛ばそうとする。
巨大な足が目の前に迫る中、テオドールが動いた。
「ブレイズ・ソード!」
赤熱の剣がミノタウロスの身体を引き裂く。
首、両腕、両足、そして胴体をあっという間に七等分にする。
綺麗に切り分けられると切り口から灼熱の炎が吹き上げ、跡形も無く消え去った。
「と、こんなものか」
「流石です、テオドールさん!」
全てが終わったのを見届けるとアカネが近寄ってきた。
「みんな、炎の剣って皆やりたがってるんですけどなんかコツとかあるんですか?」
「そうだな……まずは剣自体をちゃんとしないといかんな。生半可な剣だと剣自体が壊れてしまうからな。それにコツを掴むまでが一番大変でな、鉄の剣程度では剣の方が耐えられんのだ」
「なるほど!」
「帰ったらお前の学校の奴らにちゃんと教えてやる、だから今は目の前のことに集中しろ」
「はい!」
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進み続けていくほどの時間が経ったか分からない。
だが岩場から今度は石を積み立てた綺麗なブロック壁へと変わった。
洞窟の深部へと到達したのだ。
「ここからが本番だぞ、アカネ」
「はい!」
奥へと進んでいく二人。
ブロックの壁が洞窟の頃に比べ、徐々に狭くなっていく。
途中アカネは足を止めた。
「……テオドールさん、あれ!」
「ほう、レッサードラゴンか。なかなかいい趣味をしている」
レッサードラゴン。名前の通りドラゴンの最下種である。
鋭い牙と爪、緑色をした鱗。しかし飛行に全く適さない羽を備えていた。
ドラゴンのなりそこない、と言われているが戦えば下手な兵士なら一発で骨が折られる力を持っている。
さらに炎を吐き、強靭な鱗は簡単には攻撃を通さない。
また通常のドラゴンに比べ、かなり小さい。それでも人間よりもやや大きいが。
そんなドラゴンが通路上に居座っていた。
居座るというより腹を空かせて、歩き回っているというほうが正しい。
「さてと……ここは……」
「私が行きます! ドラゴン用の技を開発したんです!」
「そうか、それなら見せてくれ」
「それじゃ、行きます!」
言うが早、リザードマンを倒したときと同じように拳を振るう。
だが相手はリザードマンではなく、ドラゴン。
強靭な鱗はアカネの拳に負けず、勢い良く弾く。しかしこれはアカネも承知済み。
肩を大きく回すと技の準備をする。そしてドラゴンの腰の辺りに拳ではなく手のひらを叩きつけた。
「アークウェーブ・アタック!」
叫びとともに手のひらから閃光が放たれる。
しかしドラゴンはダメージを負った様子は無い。
しばらくするとドラゴンの口から泡を吹き出した。
動くことが出来ないのがその場でぐったりとしている。
「それはお前の師匠の技、“龍放震激拳”ではないか」
「はい! でもその技はお師匠なら内部から破壊しますけど、私のは相手をしびれさせる技です!」
「だがそれではこいつを倒せんぞ」
「だから鱗の上から殴る!」
体がしびれ、身動きが取れないドラゴンをひたすら一方的に殴りつけた。
ちょうど回数が百発に達した頃、レッサードラゴンは消え去った。
「やったぁ!」
「……うーん、もう少し修行が必要だな、アカネ」
喜ぶアカネに対し、テオドールは流石に苦笑いを浮べる。
「そうですか?」
「結局最後は力に頼っただろう、それはお前の師匠が望むことではあるまい」
「そうですね! すみませんでした」
「うむ、さて……通路の先には一体何があるのやら……」
二人はさらに奥へと進んでいった。




