第五話 元姫と呪いと…… その1
「じゃあ、みんないってくるね!」
「気をつけてね、アカネちゃん」
「お土産、期待してるからね!」
「うん」
ローラやイリアたちに手を振りながら、アカネとテオドールは学校を背に出発をする。
今日は休みの日だがアカネはテオドールとともにある村へ向かうことになった。
「でもテオドールさんが私に頼み事をするなんて珍しいですね」
「うん? そうか?」
「はい、いつもなら一人で戦えると思ってました」
「ははは、それは流石に買いかぶりすぎだ」
そんなやり取りをしながら山道を歩いていく二人。
晴れわたった日であることもあり、完全にピクニック気分のアカネ。
それに対し、テオドールはやや険しい顔をしている。
事の発端は先日のテオドールが来校した日より始まっていた。
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「何? 姫が呪いに!?」
「ああ、そうだ……」
校長室の中、重い沈黙に包まれる。
事態の重さに校長ことジョーニアスも何も言えなくなってしまった。
かつてとある王国で事件があった。
彼らは王家からの解放を要求し、多くの人々がいる教会を占拠。
姫ことエリーゼ姫殿下が人質にされてしまい、王宮は騒然となった。
しかしテオドールを初めとする勇士の活躍により、救出。事件は見事、解決された。
その際、エリーゼ姫は王位継承権を捨てることを決意。
現在、彼女は王宮から離れ、今は農村でつつましく暮らしている。
ジョーニアスは深いため息とともにテオドールに状況を聞く。
「相手は? 城内か? それとも……」
「わからん、だが少なくともこの手の呪いをかけられる人物はかなり限られている」
呪い、呪術の類いは魔法とは違い、かなりの練度、そして専門の知識を必要とする。
特に特定の人物に呪いをかけるのは、ただの魔法使いでは到底出来はしない。
しかし高度な呪術を使う者が、わざわざ家督争いから離脱をしたエリーゼ姫を狙う。
このことがどうしても分からなかった。犯人の目的がテオドールにもジョーニアスにもわからない。
八方塞気味の状況にジョーニアスは重い口を開く。
「……どうするつもりだ? 解呪の術士をつれてくるのか?」
「……いや、もっとお手軽な手段を使おう」
「何?」
「お前の所の生徒、ちょっと貸してくれ」
そういうとテオドールは不敵に笑うのだった。
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山道を歩くこと一時間。
「ついたぞ」
「ここかぁ……」
到着した場所は静かな村。アカネが見た限り、穏やかな農村だった。
畑を耕す者、草取りをしてる者、牛の体をマッサージする者もいる。
皆のんびりと農業にいそしんでいる。
とても何かが起こったようには見えなかった。
「テオドールさん、私は何をしたらいいんですか?」
「ああ、それはだな……」
そのままテオドールの後についていき、村はずれの一軒家へたどり着く。
扉を開けた先にはベッドに眠る女性とその片割り携わる男性がいた。
「テオドール様!」
テオドールの顔を見た男性はすぐさま、すがり付くかのように跪いた。
「もう大丈夫だ」
テオドールが微笑みながら男性の肩に手を置く。
彼は涙を流しながら俯くのだった。
「この人は?」
「私が世話になった人、とでも言っておこうか。それよりもアカネ、この女性を見てくれ」
テオドールに促されるかのように視線をベッドの方へ移す。
アカネから見て最初の印象は綺麗な女性だった。年齢はアカネより年上に見える。
透き通った長い金髪。少女と大人の間にあるようだが美しい顔立ち。
農村と言う場所でありながら、手は荒れた様子は無く細く繊細。
簡素な服とベッドがとてもじゃないが似つかわしくない雰囲気だった。
まるで死んだように眠る姿からお姫様のような印象を受けた。
しかし……アカネには何か違和感を感じ取ったのか眉間にしわを寄せている。
じっくりと顔や身体を見定めるとテオドールの方に向き直った。
「テオドールさん、これ……呪いなんですか?」
「ほう、見ただけで分かるのか?」
「うん、この辺りに悪い気がすっごく溜まってるから」
彼女が指し示した胸の辺り。そこからなぞるかのように指を滑らせる。
テオドールが男性に目配せをすると彼は女性の服をほんの少し服をずらした。
そこには禍々しい紋様が腹部に刻まれていた。
まるでなにかの爪あとのように真っ黒で歪でおぞましい力を出している。
「破壊は出来るか?」
「うん、これくらいなら」
「そうか、では頼むぞ」
「了解!」
軽く身体をほぐすために準備運動をする。
大きく背伸びをし左右に動かす。足を伸ばし、どこにも異常がないことを確認する。
その様子を見ながら男性はテオドールの方を見やった。
「あ、あのこれから一体何が…?」
「まあ見てなさい」
そして呼吸を整えると彼女の前に立つ。
「ちぇえええええええええやあああああああああああああ!」
掛け声とともに紋様をめがけ、拳を振り下ろす。
何かが砕ける音ともに一陣の風が吹きつける。
衝撃でベッドが大きく揺れ、壁全体が軽く震えた。
突然のことに外から見ていた村人が家の方を向き、男性の方ははその場にへたり込む。
隣にいるテオドールが口を開いた。
「どうだ?」
「ごめん、失敗しちゃった」
「ええ!? そ、そんな!?」
アカネの言葉に男は思わずうろたえる。
一方のテオドールは焦ることなくアカネに理由を問いただす。
「どういうことだ?」
「たぶん……大元がまただ生き残ってるんじゃないかな?」
大元、呪いをかけた人物がまだ生きており、そこから力を与えていると言う意味だった。
例えアカネが先ほどのように呪いを解除しても大元が残っている以上根治にはならない。
「なるほど。フレッド、心当たりはあるか?」
「心当たり……確か、この近くに古い洞窟があったはずです」
男性、フレッドは近くの机に地図を広げると指で場所を指し示す。
方角は南西、距離にしては遠くないものの、やや奥まった場所にそれはあった。
「そこだな。いってみよう、アカネ」
「はい!」
「お願いします」
何度も頭を下げる男に対し、任せておけ、と言わんばかりに頷く二人だった。
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村の外に出ると南西の方角に進んでいく。
村に向かう山道より険しくなっている。徐々に道らしい道も無くなっていく。
巨大な岩が立ち塞がっているが二人は苦も無く大きく跳躍し、飛び越えて行く。
そんな道中の最中、アカネはつい、こんなことを漏らした。
「テオドールさんはいつもこういうことをしてるんですか?」
「こういうこと?」
「えっと、ああいう村の人を助けたりするの……」
「はは、いつもということは無いな。ときどきはするがな」
「じゃあ初めて会った時はときどきだったんですか!?」
「まあな、はっきりと言えば助けたりもするし助けなかったりもする」
「ど、どうしてですか?」
「理由といっても大したことは無い、おおよその問題はその土地に住むものが解決することだ。私はその手助けをしているだけに過ぎん。お前もお前の師匠もそうだろう?」
「そうですけど……」
「はは、大丈夫だ! お前が思ってるようなことはしないさ。人を見捨てるなんていうのは私の沽券に関わるからな。勝負を挑まれれば受けるし、助けを求められれば手だって差し出すぞ」
「テオドールさん……」
「だからアカネ、お前も気にせず人助けをするといい。もちろん闇雲に助けるのは勧めんがな」
そうこうしている間にも洞窟が見えてきた。
草や岩でやや分かりづらい場所にはあるが、深い大きな穴はそこに開いている。
「ここかぁ……」
「いくぞ、アカネ!」
「はい!」
二人は暗闇の支配する洞窟の奥へ入っていった。




