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第四話 ローラと剣帝と…… その2

 翌日、アカネたちは学校の外の山にいた。

 冒険者の基本、キャンプの授業だった。

 イリアが石で簡単な風除けとかまどを作り上げる。

 一息ついたところで背後から大きな物音が聞こえてきた。


「いよっと、これくらいで良いかな?」

「アカネちゃん、これはいくらなんでも大きすぎるよ……」


 アカネが持ってきたのは巨大な枝、というより丸太であった。

 自分の身体より大きな木の枝を前に、流石のイリアもちょっと苦笑いを浮かべる。


「大丈夫! これは簡単に切れるから!」


 手刀で瞬く間に巨大な枝を薪の大きさに切り分けていく。

 それをイリアが炎の魔法で火をつけてみる。

 

「どう?」

「うーん……ちょっと火が付けづらいかな」


 火には当たっているのが燃え移る様子は見られない。

 中のほうはまだ水を含んでいるらしく、何かが弾ける音を何度もさせている。


「わかった、もうちょっと探してくる」

「急いでね」


 イリアにせかされ、近くの林の中へと入っていく。

 周囲を見渡してみるが手ごろな枝が見当たらない。

 奥のほうを見やると同じように薪を探しているローラの姿を見つけた。


「ローラちゃん! そっちはどう!?」

「うーん、だめね。いい枝ってなかなか見当たらないわ」

「そうなんだ」

「仕方がないわね、上のほうを探してみましょ」

「わかった!」


 二人は林の奥へと進んでいく。

 木々が生い茂る中を捜索するが、手ごろな枝はなかなか見当たらない。

 急勾配の坂が連なる場所でローラが何かを指し示した。 


「あれ、いいんじゃないかしら!?」

「あっ、本当だ!」


 綺麗に折れてはいるが薪としてはちょうど良い大きさだ。

 二人は早速、枝があるほうへ向かう。

 やや高い場所にあるが背伸びをすれば届く場所にあった。


「じゃあ行ってくるね!」

「ちょっと、たまにはあたしにもやらせなさいって」


 ローラが爪先立ちをして枝に手を伸ばす。

 届きそうで届かない。指先には引っかかるのだが落ちてこない。


「あっ!?」

「危ない!」


 急勾配だったのと地面が柔らかいせいでバランスを崩し、足を滑らせた。

 アカネがすぐさまローラの手をとる。

 しかし踏ん張りが利かず、重力にも逆らえなかった。


「きゃああああああああああああああ!」

「うあああああああああああああああ!」


 二人はそのまま坂を滑り落ちていった。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「いたたたた……大丈夫?」

「ええ、まったくひどい目にあったわ」

 

 二人は打った場所をさする。

 頑丈なアカネと違い、ローラは自らに回復魔法をかける。

 ふと上を見上げるとかなり絶壁が立ちはだかっていた。

 登ろうと足をかけてみるがボロボロと土が堕ちる。


「このままじゃ皆の所に戻れないや、どうしよう!?」

「……ごめん、アカネ」

「へ?」

「ちょっと焦ってた」

「ローラちゃん?」

「あんたが思ってる以上に貴族って言うのは堅苦しいの」


 何か思いつめた顔をしているローラに、アカネはわざとらしく明るい声をあげた。


「とにかく! ここにいてもしょうがないよ! 遠回りになると思うけど皆の所に戻ろう!」

「そうね」


 立ち上がると坂がなだらかな所を探し始める。

 しかしお互いに話をせず、沈黙だけが流れた。

 空気を換えようとローラが話題を搾り出す。


「せっかくだから昔の話でもしてよ」

「いいよ! えっと何から話せばいいかな?」

「じゃあ武術について」

「それはまだ秘密!」

「ちぇ、ケチ。じゃあ武術以外のこと!」

「武術以外のこと……うーん……」

「やっぱないか?」

「逆にありすぎて何から話して良いのかわかんない!」

「そうなの?」

「そうなの!」


 強い口調で言い返すアカネに思わず噴出すローラ。


「わかったわよ、じゃあアカネがこれまでであった中で一番強い人の話をしてよ」

「えっと、じゃあ誰のことから話そうかな……」

「そんなにいるの?」

「うん、私より強い人だけでも……」


 指折りで数え始めるアカネ。

 しかし片手を一往復した時点でローラが待ったをかけた。


「そんなに多いなら片っ端から話してみなさいよ」

「うん、そうする」


 

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「それで、そのときに岩がこうバキバキって音をさせて砕けたんだよ」

「そうなの」


 まるでおもちゃの話をする小学生のように話をするアカネ。

 それに対し、興味があるのかないのか分からないがひたすら相槌を打つローラ。

 その様子に何かを察したのか、アカネはローラの方に話題を振ってみる。


「……私ばっかり話してて疲れたから今度はローラちゃんも話をしてよ」

「あたし!? そうねぇ、何から話せばいいのやら」

「じゃあさ、ローラちゃんは何になりたいの?」

「へ? 何にって……なんだろ?」

「私はこの学校で修行してお師匠と一緒にまた旅をするの」

「そっか……イリアも学校を出たらもっと魔法を覚えて故郷に帰るらしいわね」


 ローラは小さく呟いた。

 何かを思い悩んでいるのか、眉間にしわを寄せている。

 そして観念したかのように言葉がこぼれた。


「私、なりたいものが無いんだ」

「何で? 槍の練習とかいっぱいしてるのに?」

「それとこれとは関係ないわよ。アレは日課だもの」

「日課なんだ……」

「さっきも言ったでしょ、貴族っていうのは思った以上に堅苦しいって」

「そうなの?」

「そうなの! で、このままじゃダメだーって思ってこの学校に飛び込んだの。そしたら両親はカンカン、勘当同然というか家出感覚で飛び出してきちゃった」

「何でダメだと思ったの?」

「自由がないから、かな」

「自由?」

「そう、自由がないの。自由になるためには色々力が必要よ、アカネ」

「よくわかんない……」

「アカネは何でお師匠って人と旅をしてるの?」


 今度はアカネが沈黙をしてしまった。

 深く思い悩んでいるのか、うなり声を上げて腕を組んでいる。


「アカネ?」

「ごめん、これ言っちゃって良いのかな? 私は……お姉ちゃんを取り返したいの」

「え?」

「相手は凄く強いの、たぶん……皆が想像してる感じじゃなくて」

「どれくらい強いの?」

「テオドールさんと同じか……それ以上かな」

「……化け物ってことじゃないの」

「とにかく、それくらい強い。そういう人と私は戦わなくちゃダメなの」

「……そうなんだ」


 ローラもアカネの方を見る。

 お互いに知らないことを頭に入れたせいか、近親間が沸いた。

 しかしそんな最中、ローラが足を止める。


「ストップ!」

「どうしたの?」

「あれ!」


 大柄な熊がうつろな目をして徘徊していた。

 ケイブベア。魔物ではないもののかなり凶暴な肉食獣である。

 かなり空腹なのか、よだれを垂らして周囲に殺気を撒き散らしていた。

 すかさずアカネが構えを取る。


「よし、ここは一発……」

「倒すのは良いけど獲物は持って帰れないわよ。それにあいつの爪、鋭いわよ」

「そっか、じゃあ……」

「とりあえず……睡眠!」


 ローラが呪文を唱えるとケイブベアは静かに倒れた。

 アカネが少し突付いてみる。簡単に起きる様子は無い。


「さあ、いくわよ」

「うん」


 眠っている熊の腋を通り過ぎ、二人は再び進んでいく。

 すると開けた場所に出たが目の前には大きな裂け目、谷がかかっていた。

 谷底をそっと見やるとかなり高い。落ちたら下流まで止まることはないだろう。

 

「じゃあ私の出番だね!」

「頼んだわよ」


 手頃な木に拳を突きつける。外さないように何度も振りををする。

 そして一呼吸をおくと一気に拳を振るった。


「うおおおおおりゃあああああああ!」


 声と共に木が大きく揺れる。根元に亀裂が入り、音を立てて倒れた。 

 谷の向こう側までかかるのを確認すると二人は幹の上に登る。


「さあ、いこう!」

「ええ!」


 そして最後の関門が目の前に立ちはだかった。


「……やっぱりすんなりとは行かないわねぇ……」

 

 ローラは思わず顔を上げる。

 見事な崖が目の前に立ちはだかった。ここを超えれば皆の所へ戻れる。

 アカネが崖に足をかける。


「どう?」

「大丈夫、さっきのところ違って十分登れるよ!」

「それじゃ、崖のぼり開始!」


 二人は崖を登り始める。

 学校では登ることを教えていたが、実際に登るのはローラには初めてのこと。


「ローラちゃん、大丈夫?」

「気にしなくて良いわよ!」


 口ではそういうがアカネの速さに追い付けていないローラ。

 まるで猿の如く、素早い速度で登っていく。

 しかし、途中でアカネの動きが止まった。


「アカネ、なんで止まるのよ!?」

「いや、ここからちょっと難易度が高いかな、と」

「難易度が高いって……」


 わけが分からないアカネの発言に苛立ちつつもローラもまた同じように止まる。

 こういうときのアカネの勘はとても当たるのだ。

 しかしこのままでは埒が明かない、覚悟を決めて石に手を伸ばす。

 だが突如掴んでいた場所がもろかったのか石を掴んだ手が崖から離れた。


「あっ……」


 このまま落下、とはいかず宙をぶら下がる。

 寸でのところでアカネがローラの服の襟首を噛んでいた。


「フギギギギギ……」

「アカネ!」


 そのまま近くの石に手をかけ、事なきを得る。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……びっくりした」

「あ、ありがとう……」

「お礼は後! 頑張って登ろう!」

「そうね」


 二人は再び崖を登っていく。

 先ほどよりは速度は落ちたが、今度はじっくりと石を見分けようとする。

 徐々にだがどの石が危険か、ローラは見極められるようになった。

 危ない石に手を伸ばそうとするアカネに思わず声をかける。


「アカネ、それはやめときなさい! 崩れるわよ」


 掴んだ瞬間、石が見事に崖から離れた。


「あ、ありがとう!」

「どういたしまして」


 お互いに調子が出てきたのか、気が付けばあっという間に登りきってしまった。


「はぁぁ……ドロだらけになったね」

「本当だわ」


 服についた土埃を手で払いながら一息をつく。


「そういえば薪集めはどうしよう」

「どうしようって……ねぇ?」


 悩む二人が周囲を見ると巻きにちょうど良い木々が散乱していた。

 あまりのことに力が抜ける二人。


「何だ、こんな所にあったんじゃないの……」

「奥に行かずもっと近場を探した方が良かったね」


 二人は薪を小脇に抱えると皆の所へと戻る。

 両膝を抱えて座っていたイリアが二人の存在に気が付く。

 ドロだらけの二人をみて思わず驚きの声をあげた。


「あっ、アカネちゃん! ローラ! 一体どうしたの? 何か時間がかかってたみたいだけど」

「ああ、これ? ちょっと手間取っちゃって……ね、アカネ?」

「うん!」

「もう! こっちは来なくて本当に心配だったんだから……」

「ごめんごめん」

「でも無事でよかった。もし何かあったら私……どうしようと思っちゃった」

「イリア……ありがとう」

「それよりもこの薪を使ってよ、せっかく持ってきたんだからさ」

「うん、そうするね」


 イリアはアカネたちが持ってきた枝を折り、火をつける。

 綺麗なオレンジ色の火に当たりながら、ローラはこれまでのことを思い出す。

 姉を助け出す。というフレーズが心の奥に残っていた。

 でもそれならこんな所にいないで、強い師匠と旅をした方が効率的なんじゃ……。

 深く立ち入れる立場でないことは理解している。

 それでもローラはアカネに何かをしてやりたいと思い始めていた。


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