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二話 初めての異世界 その1

 冒険者という職業は一種の自由業である。

 太陽が昇れば店を開く商人や治安のために年がら年中働く騎士とは違う。

 自由に仕事を請け負い、自由に休んで良い。それが冒険者の特権である。

 もちろん休んでばっかだとお給料は得れないし、仕事はとっても危険。

 まあ、何が言いたいかと言うとだ……。


「で、こんな所に呼び出していったい何の用なのよ?」

「ふっ、それはこれからじっくり話そうじゃないか。そう、あれは――」


 あたしは朝早くから呼び出した本人ことリックに恨みの視線をぶつける。

 当のリックはなにやら身振り手振りで話をしているが耳というか頭に全く入ってこない。

 というかコイツの与太話自体が時間の無駄なんだけど……。だんだんイライラしてきた。


「というわけで姫と俺は別れることになったのさ、分かったかい?」

「全く分からないわよ! あたしが聞いてるのはこんな時間に! こんな場所に! 何の用で呼び出したか、よ!」

「そうだったっけ?」

「そうよ! 朝っぱらからいきなりやってきて! 一緒についてきて欲しいって神妙な顔で言ったのはあんたじゃないの!」

「……そうだなった、スマン!」

「全く、いきなりボケないで欲しいわね」


 朝食前であったせいか若干ダル目の体を前後左右に動かし、軽くほぐす。

 それにしてもアイツがあたしのところに来るなんて珍しいわね。

 手ごわい魔物でもいるのかしら? それともゴブリンや何かの大量発生かしら?

 場合によってはドラゴンとか? それならきちんと準備をしておいた方がいいわね。

 そう思いながらやってきたのはギルドから離れた訓練所だった。

 まさか……ねぇ?

 あたしは思わずリックの方をちらりと見やるが当の本人は涼しい顔をしている。

 多分、依頼人は訓練所のあの人でしょうね。あたしは早速、訓練所の扉を開けて中へと入る。


「おう、誰かと思ったらリックにリリアか」

「お久しぶりです、ヘンダーソンさん」


 目の間にいる人物、訓練所の所長であるヘンダーソンさんに頭を下げるあたし。

 蒼いオーバーオールと白のシャツというラフな格好。

 顔はかなりの強面ではあるが見る人が見れば温厚そうな影がチラッと見え隠れしている。

 年齢は見た所五十才に差し掛かった辺り。

 禿げ上がった頭は年月という名のご愛嬌、といったところかしら?


「おいおい、そんなに畏まらなくて良いぞ。リリア」

「そうだぞ、こんな親父に頭を下げるなんてひたまちゃんらしくないぞ!」

「お前は気安すぎだ!」


 調子の良いことばかり言うリックをヘンダーソンさんが怒鳴りつける。

 こんなことばっかやってるからこの町の名物男と言われるのよ。

 しかめた顔をしているあたしを見かねてヘンダーソンさんが声をかけてきた。


「さて、今回のクエストだが……」

「言わなくても良いわよ。訓練の相手をしてくれ、でしょ?」

「さすがリリアだな、飲み込みが早い」

 

 正直言ってなんとなく見当は付いてた。

 山に行くわけでもなければ森に入るわけでもない。

 それにリックがそんな殊勝な仕事を引き受けるとは到底思えない。

 というかあいつの神妙な顔を信じたあたしが愚かだったのだろう。


「でもこれリックの依頼であってあたしの依頼じゃないでしょ?」

「まぁな、リックの奴。格安で引き受けるっていうんで依頼してみたんだが……案の定な」

「何も言わなくていいわ。それよりも何か食べるもの無いかしら? 朝ごはんを抜いてきてちょっと体力がもたなそうのよ」

「それならパンとコーヒーで良いか?」

「ええ、それで良いわ。ところで、リックは?」


 キョロキョロと辺りを見た渡すとそこには女の子を口説きにかかっているバカがいた。


「ヘイ、彼女! 俺と一緒にリンボーダンスをやらないか? こう見えて俺は王国の記録保持者なんだ、手取り足取り教えてあげるよ!」

「は、はあ……」

「アホかぁ!」


 あたしの蹴りがリックの頭を見事に捕らえるとそのまま大きくひっくり返った。

 女性の方もこの隙を逃さずあっという間にリックから距離をとる。


「訓練所に来て早速それ!? あたしの朝の時間を返しなさいよ!」


 ふっ飛ばして数秒も立たないうちにすっくと立ち上がるリック。


「残念だがリリア、時間はもとに戻らないんだぜ」

「だったら尚更じゃないのよ! こんな無意味なことに時間を使わせて!」

「大丈夫さ、この経験もリリアにとって素敵な経験になる!」

「無責任なことを言うなぁ!」

「いだだだだだだ!」


 あたしは見よう見真似でリックに関節技をかける。

 メリメリやギリギリという音ともにリックの悲鳴が訓練場にこだまするのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 リックをコテンパンに反省させた後、ヘンダーソンさんから与えられたパンとコーヒーを平らげ、ようやく訓練の準備に入る。

 数名の男女があたしの方をじっと見ている。あたしと同い年の奴もいればちょっとばかり大人の人もいた。

 あたしは思わずヘンダーソンさんのほうへ視線を送る。


「さて、どこからレクチャーしたら良いかしら?」

「武器の使い方がなってない奴らだ。同じ武器で叩きのめしてやれば良い」

「叩きのめして……って」


 少し戸惑った顔をするあたしに対し、ヘンダーソンさんは不敵な笑みを浮かべる。

 こういうときに怪我をされても後々寝覚めが悪い。かといって手加減するのも難しい。

 あごに手を当てて考えるあたしに”助け舟”を出してくれる稀有な人物がいた。


「おいおい、こんなガキが冒険者かよ。これなら魔物って奴も実はたいしたこと無いんじゃないか?」


 横から一人の男が軽口を叩いている。それに対しあたしは不機嫌の顔を見せた。

 見るからに軽薄そうな雰囲気。真面目に働くのは嫌です、といった感じの顔。

 もっと分かりやすく言えば……チンピラ風情の男である。

 理不尽かもしれないけど前世の恨みや妬みみたいなものがじりじりと湧き上がってくる。


「いいわ、そんなに言うのならあたしから一本とって見なさい。ただし……」


 手短にあった木の剣を手に取ると軽く振り回し、切っ先を訓練生たちに向ける。


「あたしも……手加減無しよ」


 不敵な笑みとともに訓練が始まった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「剣を闇雲に振るうな! ほら防御がおろそかになってるわよ!」


「槍はペン! 突くだけじゃなくて払いや止めにも気を使いなさい! 次!」


「斧の弱点は振りの大きさ! 一撃にかけるのは良いけど当てることを心がけなさい!」


「弓は身体が一直線になるようにしなさい、そうそう。胸を張って……いいわね」


「鞭は打つ場所をきちんと決めておきなさい! 相手を痺れさせる数少ない武器なんだから!」


「魔法の詠唱は手早く、確実に! 焦っちゃ駄目! 集中力を高めれば多少の略称は可能よ!」


「陣形と自分の役割を把握しなさい! 戦士が前に出なきゃ何も守れないわよ! 魔法使いはサポート! そこ、まごまごしてるとあっという間に全滅よ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「これにて訓練は終了! ご苦労様でした」

「あ、ありがとうございました!」


 あたしが頭を下げ、訓練の終了を宣言すると志望者たちがいっせいに頭を下げた。

 みんな完膚なきまでに叩きのめされ、いっせいに崩れ落ちる。

 あたしに軽口を叩いていた彼も今ですっかり大人しくなってしまった。

 あたしの方もふらついた足取りで椅子に勢いよく座り込み、机の上に屈服する。

 深いため息をつきながらそのまま力なくうなだれ、体を労わる。

 ちょっとはしゃぎ過ぎたかしら……。


「お疲れだ、リリア」

「お疲れ様」

「いやぁ、リリアのおかげで若い世代が大勢入って来てな。こんな小さな女の子ががんばってるんだ、負けられないってな」

「それはどうも」


 どうやらみんなあたしを子供と思っているらしい。

 十六という数字を鯖読みと思われているのは仕方ないけど……。

 もうすこし歳相応の扱いをして欲しいとは思い始めている。


「ところでリリアはどこから来たんだ?」

「遠い所」

「いや、そうじゃなくて……」


 あたしは少しのためと同時にテキトーに作り上げた“設定”を口にしてみる。


「ベツレタス村よ」

「ベツレタス村?」

「ええ、ここから馬とかドラゴンとかそう言った物で何日もかかる所よ」


 キャベツとレタスで作った適当な村。

 そこで何をしてたか? 何てあたしには分からない。そこはまだ“作ってない”のだから。

 もともとこの世界の住人ではないあたしには過去はあるようで無いもの。

 どこで何をしてたか、なんてこれから作っていけば良い。

 でもこの世界で生きていくには過去は必須。仮に記憶喪失の人間であってもだ。

 異世界から転移してきました! なんて言ったら精神病患者だと思われかねないしね。


「そうか……故郷が寂しくなったりしないか?」

「……どうかしらね?」


 ちょっと陰鬱な顔をするあたし。前の世界のことを思い出してちょっと気分が落ち込んでくる。

 故郷が良いモノだと言う記憶があたしにはない。と言うかそもそも良い思い出がない。

 悪い思い出でもないよりはマシと思う人もいるんでしょうけど、あたしにはそうとも思えなかった。

 頭に浮かんでくるのは嫌な記憶ばっか。本当に思い出したくもない。


「嫌なことでもあったのか?」

「まあね、そうじゃなかったらこんな仕事を請けないもの」

「確かにそうだな! はっはっはっ!」


 笑うヘンダーソンさんを見ながら訓練生の様子を眺めていた。

 みんな、額に汗を浮かべて懸命に訓練している。それだけ冒険者って仕事は夢があるのだろう。

 ……そういやリックの奴はどこで何してるんのかしら?


「ひぃぃぃぃぃぃ! ひたまちゃん、助けてくれ!」

「ホラホラ! さっさと磨く! モタモタしてたら日が暮れちまうよ!」


 辺りを見渡してみると一心不乱に武器を磨くリックの姿があった。

 隣にいるいかにもな筋肉質な女戦士がリックの首根っこを掴んで話さないといった雰囲気を出している。

 さらに奥には磨かれてない武器が山のように重なっていた。

 こりゃあ終わるのは夕方以降になりそうねぇ……。ご愁傷様。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「それじゃ、報酬はギルドから受け取ってくれ。今度はリリアに直接依頼をするから安心してくれ」

「了解。それじゃ、あたしはこれで」


 あたしはヘンダーソンさんに頭を下げ、そのままギルドへと向かう。

 夕暮れの町並みを歩く中、初めてこの世界に来た日のことをふと思い出した。

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