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第三話 イリアと密室と…… その3

 一つの箱が開いたのをきっかけに、二人は一気に謎を解いていく。

 一つが解けたらまた一つ。と部品が次々に手に入っていった。

 気が付けば六つあった箱はあっという間に最後の一つになる。

 しかし最後が厄介であった。


「むむむむむ……」

「どう、アカネちゃん?」

「だめだぁ、無理!」


 アカネはイリアに箱を渡す。

 最後の箱こと何かをはめ込む箱である。

 木の板を箱の上部にはめ込めばいいのだが、パズルになっているので開けるのに四苦八苦していた。


「イリアちゃん、お願い」

「うん、頑張ってみる」


 簡単に解けそうにないパズルなので交代でパズルに挑戦することにした。

 アカネもイリアもかなり憔悴をしていた。

 日は落ちていないが閉じ込められて時間がかなり経過している。

 イリアも何度も挑戦しているがパズルは解けそうにない。

 その内、解くだけはつまらなくなったのか、イリアはふと思ったことを口に出してみる。


「ねえ、アカネちゃん」

「何?」

「アカネちゃんはどうして武道家になろうと思ったの?」

「昔からそうだったからだよ」

「昔から?」

「うん、お姉ちゃんもバッちゃんもみんな武道家って奴だった」

「へぇ、武道家一家だったんだ」

「うん、村ではずっと修行の日々だったからなぁ……。イリアちゃんは?」

「私はおばあちゃんが魔術師だったの」

「いいなぁ、優しい感じで。うちのバッちゃんなんてすぐ怒るんだよ。アカネ、お前はどうして落ち着きがないんだい、とか何とか」

「ふふ、それだけアカネちゃんのことが好きなんだよ」

「そうかなぁ? 掟とかにはやたらと厳しかったし……」

「ローラだって色々アカネちゃんに色々世話を焼いてくるじゃない」

「アレはローラちゃんの趣味じゃなくて?」

「趣味というか……癖というか……。まあローラはそういう性格なんだと思う」

「そうだよねぇ……。それでイリアちゃんの所はどうだったの?」

「私のところは……うん、アカネちゃんが言った通りかもしれない。おばあちゃん、私の話をいっぱい聞いてくれてね……」

「うんうん」

「魔法も凄いって訳じゃなかったけど私にとっては素敵なおばあちゃんだったの。でも、学校に入る前に死んじゃって……」

「そうなんだ……」

「最後におばあちゃん、こう言ったの。イリア、お前は少し臆病な所がある。だからチャンスを逃してしまうことが多いって」

「臆病? イリアちゃんが?」

「うん、故郷にいた頃はどうしても男の子に意地悪されることが多かったから。はっきり言えばいいって皆言うけど私、そういうの苦手で……」

「なんとなく分かるかな、でもそれはイリアちゃんらしさだと思うよ」

「ありがとう、でも自分でも変わらないとだめだって思ってるから……ああっ」


 イリアが手を止めた。何かに気がついたようだった。

 すぐさまアカネのほうを向き強い口調でお願いをしてくる。


「アカネちゃん、手伝って!」

「え? 何をすれば良いの?」

「ここを持ってて!」

「わ、わかった!」


 イリアに言われた通り、箱の持ってじっとしている。

 その間にイリアは両手でパズルをいじりだした。

 木がこすれる音をさせた後、パズルのピースは見事、箱にはまった。

 ふたが開き、箱の中には最後の部品が中に入っていた。


「やった!」

「じゃあ早速、組み立てるね」


 イリアが機械の組み立てを始める。

 六つのパーツを組み合わせるだけの簡単な作業。

 しかし構造が難しいのか少し手間を取っている。

 額に汗を浮かべ、何度も回したりひっくり返したりする。


「だ、大丈夫?」

「うん」


 何も出来ない自分に少し苛立つアカネ。

 慎重にとパーツを組み合わせていく。そして部品が全て型にはまり、一通りの形になる。


「出来た! 完成したよ!」


 早速、メモに書かれた場所へ機械を持っていく。

 カチリと言う乾いた音がすると機械がはまったのか動かなくなった。


「アカネちゃん、最後お願い」

「鍵を差し込んで……っと」


 鍵を回して、レバーを引く。

 するど先ほど溝が入っていた壁が徐々にせり上がって行く。

 遠くから新しい風が吹き込んできた。


「やった! やったよ!」

「早く行こう!」

「うん」


 二人は部屋から外へと飛び出していく。


「出れた!」

「太陽がまぶしいね」


 気が付けば日は完全に傾いていた。よっぽど長い時間閉じ込められていたらしい。

 夕日を浴びながらふと振り返ってみる。

 コケと草にまみれた牢獄のような小屋が寂しげに立っているだけだった。

 一体誰が何のために作ったんだろう? イリアは小屋を見て思った。

 今までのことを思い出すとそう悪い人物の想像は出来ない。

 だが流石に壁の“大爆発”はやりすぎだと思ったが。

 

「あーあ、結局授業、サボっちゃったね」

「まあ、先生に事情を話せば許してくれると思うよ」

「そうかなぁ?」

「アカネー! イリアー!」


 町のほうへ歩いていく二人に呼びかける者がいた。

 ローラだった。息を切らせて二人の元へ走ってくる。


「ローラ!」

「良かった! 無事だったわね?」

「うん、でもお昼休みも過ぎて午後の授業サボっちゃったね」

「大丈夫、先生に言って探してもらったから。クラス総出でね」

「ありがとう!」

「本当は皆、授業をサボりたかったんじゃ……」

「そんなことは……ないと言いきれないところがうちのクラスらしいけど……とにかく皆心配してるわよ!」


 気を取り直し、三人は学校へ向かう。

 その間にアカネとイリアはこれまでのことをローラに話した。

 話を聞いたローラは腕を組んで何やら考え始める。


「それにしても一体誰があんたたちを?」

「誰って……」

「イリアの話を聞く限り、アカネに鎖を使うなんて学校の奴しかいないじゃないの」

「学校の……?」


 二人の頭にガルマンの顔が思い浮かぶ。が、それをローラが否定をした。


「ありえないわね、あいつはああ見えてこんな姑息なことはしないわ」

「そうなの?」

「その証拠にさっきマーガスに決闘を申し込んでたもの」

「決闘って……」

「まあマーガスは適当にあしらってたけどね」

「でも学校以外で私たちに恨みを持つ人なんているのかな?」

「それは……」


 イリアの発言にローラも流石に戸惑いの声をあげる。

 しかしアカネは別のことを考えてるようだった。


「アカネちゃん?」

「ううん、なんでもないよ! それよりも先に学校に戻ってて」

「いいけど……」

「じゃあ私用事があるから!」

「あっ、アカネ!」


 アカネは再びサーカスのところへやってきた。

 彼女の頭には自分が閉じ込められたきっかけ、ピエロの男を捜している。


「……ちがう、あの人じゃない……この人も違う……」


 遠目から一人一人の挙動を観察していた。

 その瞳はどこか獲物を探すかのように鋭く、注意深い。

 一人の男に目をつけた。ピエロでもなんでもないがサーカスの片づけを手伝っている。

 しかし動きがどことなくぎこちない。

 まるで早くここを離れたいと言わんばかりに必死になって働いていた。


「お前だ!」

「!?」


 一気に距離を詰めるとそのまま腕をひねってその場に拘束をする。


「な、なにを……?」

「ふふん、私だって観察力って奴はあるんだから!」

「おい、これは一体どういうことだ!?」

「声もやっぱり似てる! あなたが私たちを閉じ込めた人ね!」

「あだだだだだだだ!」


 再び腕を締め上げる。男の方がさらに痛みの声をあげ、足をばたつかせた。

 後ろからローラとイリアも遅れてやってくる。


「こんなことだろうと思ったわよ」

「ローラちゃん、イリアちゃん」

「そいつが二人を陥れた奴なの?」

「うん」

「しらんしらん! 俺はお前なんか知らん!」

「うん、この人で間違いない……かな?」

「ホラ! イリアちゃんも間違いないって!」

「まあ、当事者二人がこういうんだからあんた以外ないでしょ?」


 ローラは男の顔をじっくりと見る。

 男の方はそっぽを向いて顔をあわせようともしない。


「それで、誰に頼まれたの?」

「へっへっへっ、さてね。あんたの裸でもみりゃあ思い出すかもしれないねぇ」


 男は答えない。

 逆に挑発するかのように、じっくりと眺めているだけだった。

 ねちっこい視線が身体に絡みついたのを感じたのかローラは思わず背中を震わせた。


「うう!? くっ……そんなこと言って良いのかしら? 素直に白状しないと骨がバキバキになるわよ!」


 アカネが腕に力を込める。

 男の方も危険を察知したのかどんどん顔色が悪くなっていった。


「お、俺はただ頼まれただけだ!」

「誰によ?」


 ローラの質問に男は答えない。顔色がますます悪くなっていく。

 アカネの力よりももっと別のものを恐れているらしい。


「よーし、それなら……」

「え? 私?」


 ローラはイリアに視線を向けると鼻息を荒くしてあごで指示をする。


「当然じゃない! アカネだとひどいことになりそうだし、当事者じゃないあたしがやっちゃうのも筋違いって奴でしょ?」

「頑張って、イリアちゃん」

「いや、頑張るとか違うと思うけど……」


 イリアがまごまごしているうちに男はアカネの手を振りほどいて一気に走り出した。


「あっ!」

「イリア! お願い!」

「しょうがない……ヘルズ……フレイム」


 普通の魔法とは違った黒い炎が男の背中に当たった。

 炎は一気に火柱となり、男の身体を瞬く間に包む。


「あちちちちちちち!」


 しかし見た目の派手さに反し、威力は全くといって言い程なかった。

 男はまるで顔をすすだらけにしてその場にひっくり返った。


「おお! イリアちゃん、あの魔法って何!?」

「お祖母ちゃんから習ったお遊び魔法。意味もないけどこういうのも悪くないと思って……」

「あはははは! いいじゃない! 悪党には相応しい罰よ!」


 手短にあったロープで男を縛り上げる。


「さて、とりあえず役人に突き出すわよ、いいわね?」

「うん」


  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌日。なぜか学長室に呼ばれていた。


「来たか……」

「校長先生、私何かしましたか?」

「いや、そうじゃない。というか流石に私じきじきに怒るようなことはないな」


 校長の言葉に胸をなでおろすアカネ。


「話と言うのはほかでもない。アカネくん、君はラゴウという言葉を知っているか?」

「知ってます、お姉ちゃんを連れ去った悪の組織です」


 アカネはそのまま言葉を言う。

 頭の悪い発言であったが彼女にとってはそういう認識であった。

 姉を連れ去ってから早数年。いまだに師匠と共に姉の行方を捜し求めている。


「あの、それが何か?」

「君が捕まえたあの男だが……牢獄で死んでいた」

「え?」

「最後にこう呟いたんだ。ラゴウのいうことなんて聞くんじゃなかったとな」


 アカネの顔が少しゆがむ。

 ラゴウの掟、それは敗北者と裏切り者には死を与える。

 何度も見てきたはずだがアカネには受け入れられなかった。


「この町でこんな血生臭いことは起きないと思っていたが、そうも言ってられんようだ」


 深いため息をつく校長。

 軍事学校という場所ではあるが流石に街で人が死ぬのは避けたかったようだ。

 一つ起こればいつかは二つ起こる。そうアカネも教わった。

 そんな気持ちを察してか校長はなだめるかのように優しく言葉をつむぐ。


「安心したまえ、我々も全力をつくす。君はこの学校で力を蓄えておくんだ。テオドールの奴もそれを望んでいる」

「はい! んじゃ、失礼します」

「ああ、気をつけるんだよ」


 アカネは校長室から出て行った。

 その姿を見送ると校長は小さく呟く。


「ラゴウ……か。またうちの生徒に手を出さなければ良いのだがな……」

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