第三話 イリアと密室と…… その2
「思い出した。ごめんね、イリアちゃん。こんなことになって」
「ううん、気にしないで。それよりもアカネちゃんは動ける?」
「もちろん! よっと!」
身体に力を込めると鎖が音を立てて砕けた散った。
相変わらず凄い力であることにイリアは感心する。
身体を軽くほぐした後、イリアの縄を解く。
学校ではかなり不器用で通っていたアカネだが、ローブだけは綺麗に解くことが出来た。
「大丈夫? 跡とか残ってない?」
「うん、大丈夫」
縛られた場所を摩りながら二人は再び部屋の中を物色してみる。
石で出来た一面の壁。触ってみるとかなり冷たい。
出入口の類いはどこにもなく、天井には魔法の光だけが光源だった。
棚や箱といったものが置いてあるが、埃を被っている様子は無い。
まるで牢獄みたい。イリアは石の壁を撫でながらあたりの様子を伺った。
「それにしても……ここはどこなんだろ?」
「あそこに窓があるよ! ちょっと覗いてみるね」
アカネがさした所には小さな鉄格子がついた窓があった。
しかし高さがかなりある。二人で肩車をしてもちょっと届かない高さ。
だがアカネは膝に力を入れて大きくジャンプをする。
そのまま窓の縁に手をかけ、外の様子を眺めた。
「どう?」
「なんか町はずれっぽい場所が見えた」
「学校は?」
「ここからじゃ見えないけどは塔は見えたよ」
「塔が見えたってことはそう遠く離れてないってことだね」
塔こと、通称見晴らしの塔。
学校では軍や冒険の訓練の一部としてこういうものを建てられていた。
外側から登る授業で使ったことも記憶に新しい。
また高い位置から物事を見ることで監視の重要性を教えていた。
外は十分堪能したのか、窓枠から手を離し着地をするアカネ。
「よかった、すぐにここを出ようよ! それじゃ一発……」
「待って、これを見て!」
「へ?」
壁に向かって構えを取るアカネにイリアが待ったをかける。
そして壁に書かれた謎の文字を指し示した。
「これ何?」
「魔術文字よ、魔力を込めた文字は魔法の効果が発揮されるの」
「なるほど……で、どんな効果?」
「大爆発」
沈黙が一時的に二人の間に生まれた。
もしもこのまま壁を破壊してしまったら、二人の肉体は完膚なきまでに消し炭となっていただろう。
それだけ彫られた魔術文字は絶対的な力を誇っていた。
「危なかった……ありがとう、イリアちゃん」
「どういたしまして」
一度落ち着くために、二人は椅子に座って今後のことを相談し始める。
「うー、このままじゃお昼休みが終わっちゃうよ」
「ローラは大丈夫かな?」
「大丈夫、ローラちゃんだもの。悪いことにはなってないよ」
「うん、そうだね」
「……でも暇だしなんか探してみようか」
「そうだね」
二人は部屋の中を探し始めた。
壁と床を丹念に調べはじめる。軽く叩いて何か違いがないかを確かめる。
するとイリアは壁の違いに気が付いた。
「アカネちゃん、見て、これ」
「……ここだけちょっと隙間みたいなものがあるね」
「多分、これがドアなんじゃないかな?」
イリアが言った通り、壁の一部にはわずかな空間が存在していた。
軽く触ってみるが少しだけ上下に動く。何かが隠されているようだった。
しかし簡単に開きそうにはない。下手に衝撃を与えては大爆発が巻き起こる可能性もある。
「ドア? ってことは出られるってこと?」
「みたいだね」
「なら鍵とかあるのかな?」
「……どうだろう? 鍵穴は見当たらなかったから仕掛けはあるかも」
「なら、探してみようよ!」
再び部屋の中を探し始める二人。
だがこれと言って仕掛けらしい物は見当たらない。
窓から差し込む光が少し傾いた。時間が少し経過している。
「……ないね」
「そうだね……」
少し疲れたのか、二人はまた椅子へと腰掛ける。
「なんでだろ?」
「多分隠れてるんだと思う。ダンジョンだってそうだったでしょ?」
「うん、そうだったね」
二人は初心者用ダンジョンの経験を思い出してみる。
最後の宝箱を取るときにボタンはあった。
しかし……この部屋にはそれらしいものは見当たらない。
おかしなものがあったらアカネだって気が付く。
「……もう一度探してみようよ、今度は珍しい物があったら見せてね」
「うん!」
再び捜索を始める二人。
これまでにやり方では駄目だと思ったのか、思い切って棚を動かしてみるアカネ。
すると先ほどまで棚のがあった場所に銀色に光る何かを見つけた。
思わず手にとってみる。
「鍵だ……」
「でも扉には鍵はなかったよね」
「うん、イリアちゃんは?」
「メモと、ボールと……あと棒」
「棒?」
「うん、メモに書いてあったの。棒みたいなものを差し込んで動かすみたい」
「そうなの?」
アカネもメモを見てみる。何かがおかしいことに気が付く。
メモの中身は部屋の間取り図のようだが隅の方におかしな機械が置かれていた。
大きさとしてはそれほどではないものの、なにやら怪しい形をしている。
「こんな機械、部屋にあったっけ?」
「無かったよ。だから組み立てるんだと思う」
「組み立てる……」
アカネの顔が少し俯き気味になる。というのも工作はとことん苦手であった。
テントの建て方を実習したときも。どうしても見栄えが良くなかった。
そんなアカネを元気付けるかのように、明るい口調でイリアが声をかける。
「大丈夫、組み立てるのは私に任せて」
「うん、お願いね!」
「あとこのボールを見て」
アカネは差し出されたボールを見る。
やや大きめのゴムボールのようであった。
淡い緑色の球体の中には何かが入っているようだった。
目を凝らしてみてみるが全く分からない。
「何か入ってるね」
「うん、たぶん機械の部品だと思うの」
「小さいけど……はずす?」
「それよりも珍しい物を探した方が先決だと思うの」
「そうだね! 探してみよう!」
二人は三度目の部屋を捜索する。今度はかなり慎重気味に探し始める。
見えなかったものが見えてきたのかおかしな物が次々と見つかった。
怪しい物は全部手に取ってみる。数にして六つ。
「やった、これで全部かな?」
「多分……」
数字がついた怪しい箱。
パズルかなにかのように玉の中に入った部品。
いかにも大事に封印されているようなネジが付いた箱。
赤、青、黄、緑に彩られた四色のボタンがついた箱。
何かをはめ込む箱。
そして先ほどイリアが見つけたボールであった。
「これで全部かな?」
「たぶん……」
「それじゃ開けてみようよ!」
「どうやって?」
「へ?」
イリアの発言にアカネは思わず呆気に取られる。
一方のイリアは集めた箱たちを困り顔でじっと見つめた。
「さっきのメモはたぶん部屋から出る方法だと思うけど……」
「けど?」
「箱の開け方がどこにも書いてないの、どうしよう」
「ええええええええええええええええ!?」
あまりの事に肩を落として落胆するアカネ。
しかしすぐさま気を取り直すと再び部屋の中を探し回る。
棚や他の物を壊しかねない勢いで部屋の物をひっくり返す。
「無駄だよ、私も部屋の中を探したけど全く見つからなかったんだから」
「そんなことない! まだ探してない場所があるはず!」
必死になって探すアカネに対し、イリアは椅子に座り込んでしまう。
「……強いね、アカネちゃん。私なんてもうめげちゃいそう」
「そんなことないよ、ただお師匠から言われたんだから! 諦めるのはもうちょっと待てって!」
「お師匠から?」
「うん! 今とは状況は違うけど似た様なことはいっぱいあったから!」
ひたすら探し回るアカネを見やりながらイリアの頭にふと祖母との思い出が蘇る。
そう言えばお祖母ちゃんも言ってたな。
イリア。行き詰ったときは今までの事をじっくり思い返してみなさい。
焦る必要なんてないよ、ゆっくりと歩くような速さでね。
そのままこの部屋で怒ったことをゆっくりと思い出す。
調べていない場所……? まさか……。
自分が今まで縛られていたロープをふと見てみる。すると――。
「……あった、あったよ!」
「へ?」
「箱の開け方! 一つだけだけど……」
「本当!?」
「うん、試してみるね!」
イリアは縛られていたロープを椅子へと巻きつけてみた。
するとロープから文字が現れた。
「すごい! でもなんで縛られてるときは気が付かなかったんだろ?」
「たぶん、ロープを反対側に巻いたからだと思う」
「なるほど……」
「それよりも箱を開けよう」
「どの箱!?」
「えっと、まずは色のついた箱からだよ」
早速色のついた箱を手にとって見る。ロープに書かれていた文字はGBRY。
緑、青、赤、黄の順に推していく。すると箱がカチリと言う音をさせて開いた。
「や、やったよ、イリアちゃん!」
「やったね、アカネちゃん」
手を取って喜ぶ二人。
箱の中から現れたのは部品の一つと新しいメモだった。
また出口に一歩近付いた証拠である。
「頑張って脱出しよう!」
「うん!」




