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第三話 イリアと密室と…… その1

 花が咲き乱れる平野に小さな一軒家が建っている。

 その家の周りで老婆が花にジョウロで水を振りまいていた。

 花は水を受け、自らの輝きをその体で表している。

 そこへ一人の幼い少女が走りよって来た。


「おばあちゃーん!」

「おやおや、イリア。どうしたんだい?」

「あのね、あのね――。」


 少女、イリアは老婆に抱きつくと顔を赤くして早口で喋り始めた。

 興奮のあまり、身振り手振りの動作をして色んなことを喋る。

 一方の老婆はそんな幼いイリアの話に対し、頷いているだけだった。

 嫌そうな顔を一つもせず、ただひたすら彼女の話に対し、笑顔を咲かせている。


「そうかい、それは良かったね」


 ふと、イリアの髪を見ると小さなてんとう虫が止まっていた。

 イリアは昔から虫が嫌いだったので老婆はそっと風の魔法で虫を飛ばす。

 てんとう虫はそよ風に乗って大空を飛んでいった。


「すごーい!」

「ふふ、これくらいは当たり前だよ」

「私、絶対おばあちゃんみたいな魔術師になる!」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「はっ!?」


 目を覚ますとそこは日の当たる花畑ではなく、薄暗い部屋の中だった。

 狭く、冷たい石の壁が目の前に広がっている。


「ここは?」


 周囲を見渡してみると物がいくつも置いてあるだけの埃っぽい部屋だった。

 横を見ると、呆けた顔をしながらアカネが眠っている。

 しかし、彼女の身体には黒く光る鎖が巻きつけられていた。

 椅子から立ち上がろうとすると、何かが引き止めてくる。


「あっ」


 自分の身体を見やるとこちらは手足にロープを巻きつけられていた。

 なんとか動かそうと手足をこする。

 しかし簡単に外れる様子はなく、かなりきつく締められているようだった。

 仕方が無いとアカネのほうへ声をかけた。


「アカネちゃん! 起きて!」

「うーん、お師匠。それはご無体な……」

「早く起きて! 先生が怒ってるよ!」

「はっ!?」


 イリアの言葉にアカネが目を覚ます。

 突然のことに頭が回ってないのか、瞼が上がったり下がったりしている。


「起きた?」

「う、うん……あれ?」


 大きなあくびとともに目を開いたアカネは、イリアと同じように周囲を見渡してみる。

 自分の身体に巻きつけられた鎖を見るとイリアの方に顔を向けた。


「イリアちゃん、ここどこ? これ何?」

「さあ、私にも分からない。とりあえずちょっと前のこと思い出してみようか」

「うん」


 二人は少し前のことを思い返す。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「いらっしゃーい! いらっしゃーい!」

「ええと、これとこれください!」

「まいど!」


 露店で売られている食べ物を両手いっぱいにしながらアカネは進んでいく。

 その様子にローラもイリアも少し呆れ気味だった。


 今日は珍しくサーカスがこの町にやってきたのだった。

 そのため数多くの出店が出ており、学生たちが遊んでいる。

 ごった返した人ごみの中を、ぶつからないようにゆっくりと進んでいく三人。


「そんなに食べすぎると、午後の授業が大変になるわよ」

「大丈夫だって!」


 そう言うと両手に持った食べ物は瞬く間に消えていった。

 少し前に昼食を取ったのだがそれでもアカネには足りなかったらしい。


「でもサーカスなんて本当に久しぶり、ローラは?」

「あたしもサーカスは本当に久々。というかみんな来てるんじゃないの?」

「ねぇねぇ、変なのがいるよ!」


 アカネの指し示した場所には仮面を被った道化師がいた。

 自分の身丈よりも大きな玉の上で器用にジャグリングをしている。

 ときどき転びそうな動きをするが、その度に持ち直し観客のため息を誘っている。


「変なのって……ただのピエロじゃない!」

「いってみよう!」

「あっ、待ちなさい! アカネ!」


 アカネはピエロがいる方へ真っ直ぐ走っていってしまった。

 イリアは思わず隣にいるローラに視線を移す。


「……どうする、ローラ」

「どうするもこうするもないでしょ、追いかけるわよ」

「うん!」


 二人はすぐさまアカネを追いかける。

 人ごみに揉まれながら何とか後ろ姿は捉えることが出来た。


「さあ、次はだれが挑戦するのかな?」

「はいはいはい! 挑戦します!」


 アカネが元気良く、というよりやや押し付けがましく手を上げる。

 ピエロもアカネの元気な姿が気に入ったのか、手を差し出した。


「おっ、そこの元気なお嬢ちゃん! やってみるかい?」

「はい!」

 

 そのままピエロの手を取り、ステージに上がるアカネ。

 ローラとイリアがステージの前に着く頃にはアカネは既に準備へと入っていた。

 二人はふと横の看板を見やる。看板にはこう書いてあった。

 玉乗り挑戦! 成功したら金一封!

 だがアカネの目からは金一封より好奇心があふれ出ていた。


「さあ、スタートだ!」 


 ピエロたちに支えられながら玉の上に乗ると、スタートのドラムが大きく響く。

 観客たちはすぐに転ぶ、どうせ出来っこないと話す中、ピエロの手が離れた。

 ゆっくりと玉を回し始めるアカネ。

 脚の動きが徐々に速くなると玉の回転も上がっていく。

 しかしアカネは足を滑らせる事無く、見事玉を乗りこなしていた。

 鍛えられた体幹とバランス感覚は玉の上でも様変わりはせず、安定した動きを見せている。

 その様子にみんな拍手をし始めた。


「おお!」

「すごーい!」

「いいぞ! お嬢ちゃん!」


 喝采を受けて調子に乗り始めてたのか、玉の上でジャンプをし、そのまま逆立ちで玉を回し始める。

 その様子に観客がまた拍手をする。アカネは完全に得意げな顔をしている。

 そして存分に楽しんだのか、玉の上からすべり、見事に地面に着地をした。

 満面の笑みのアカネに喝采を送る人々。それに手を上げて応えるアカネ。

 先ほどのピエロが封筒を手に、やってきた。


「おめでとうございます! 賞金です!」

「ありがとう!」

「アカネー!」

「アカネちゃん、こっちこっち!」


 観客たちを何とか押し退け、ローラとイリアがアカネの腕を掴む。

 そしてすぐさま通りの隅に引き込んだ。

 そのまま無造作においてある木箱に座らせる。所謂お説教モードだ。


「もう! 勝手な行動をしないの!」

「えへへ、ごめんね」


 怒るローラだが視線はアカネが持っている封筒に行ってしまう。

 金一封がどうしても気になるらしい。

 イリアは苦笑しながら話題を変える。


「それにしてもいくら入ってるんだろうね?」

「そうね、ちょっと見せてみなさい」

「開けてみようよ!」


 早速封筒を開けてみる。中からは金貨が1枚だけ出てきた。

 もっと出るはずだろうと逆さにしてみるが何も出てこない。

 このことに三人は少し落胆をする。


「これだけ!? てっきりもうちょっとは言ってると思ったのに!」

「まあ流石に大金って訳にはいかないよね」


 怒りに燃えているローラをイリアが嗜める。

 それと同時に鐘が鳴り響いた。授業の予鈴ならぬサーカス開幕の予鈴だった。


「まずい! そろそろサーカスが始まるわよ!」

「ええ!? もう!?」

「早く行かないと座席が埋まっちゃうよ! 急いで!」

「わかった!」


 三人は大急ぎで路地を走る。途中、道に置かれている箱や樽にぶつかったが気にしない。

 そして滑り込むかのようにテントの前までたどり着く。

 テントの前は既に行列が出来ていた。三人はすぐさま並び、モギリにチケットを渡す。

 薄暗い中、奥へと進んでいくと指定された座席へと座った。


「ふぅ、間に合ったね」


 イリアがため息をつく。始まる前の騒がしさがイリアには心地よかった。

 一方のアカネはサーカスは初めてなのか落ち着きがなく、キョロキョロとしていた。

 

「おお、これがサーカス」

「へぇ、なかなか凝ってるじゃないの」

「何かドキドキしてきた」


 魔法の光がスポットライトのように中央にいる団長へ当たる。

 ヒゲを蓄えてはいるが見た目は思ったほど若く見えた。

 彼が登場するとすぐさま会場が静寂に包まれる。


「皆様、我がサーカスへようこそ。暫くの間、幻想の世界へ皆様をご案内させていただきます! それではオープニングセレモニーをどうぞ!」


 そういって現れたのは一人のマジシャン。

 手に持っていたトランプを自らの頭上へと大きく投げた。

 トランプは紙ふぶきの様に静かに落ちてくるとマジシャンの姿を包む。

 だがトランプに包まれたマジシャンの姿はどこにもなかった。

 あるのはただのトランプの山のみ。


「え? どういうこと!?」

「すごい……魔法とは違ったテクニックよ」


 すぐさま近くにいるピエロたちはトランプを集めて再び上へと投げる。

 再びトランプが宙を舞うと今度はその中からマジシャンが姿を現したのだった。

 観客たちは拍手をする。無論、アカネやローラたちも。


「すごーい!」

「うん、あんなこと出来るんだ!」


 イリアも思わず声を出してうなずく。

 セレモニーが終わり、サーカスは続いていく。

 空中ブランコに火吹き芸。玉乗りジャグリングに猛獣芸。

 何かが起こるたびにアカネを初め、みんな歓声を上げる。

 先ほどアカネに玉乗りをさせてくれたピエロも現れ、会場を興奮の渦に巻き込んだ。

 楽しい時間があっという間に過ぎ去り、気が付けばアカネたちは帰路についていた。、


「すごかったねぇ……」

「そうだね」


 アカネとイリアは先ほどの興奮から抜け出せていなかった。

 アカネの手にはサーカスの最中に食べた空の容器を持っている。

 サーカスを見ながらも食べることもやめなかったのだった。


「あっ、私これ捨ててくる」

「もう、早くしなさいよ」

「分かってる!」


 すぐさま奥の路地にあるゴミ捨て場へと走る。

 ローラがため息を着きながら隣のイリアを見やる。

 なにやらもじもじとしていた。


「あの、ローラ私も……」

「ああ、いってらっしゃい」

「ごめんね」


 ローラのほうは何かを察したのかイリアにも許可を出す。

 イリアも同じように奥の路地へと入っていった。

 路地の奥の化粧室で事を致すとローラのとこへ戻ろうとする。

 だがその前にアカネがなにやら困っているようだった。


「どうしたの、アカネちゃん」

「あれ」


 見たことの無いピエロが千鳥足で歩いていた。

 どうにもおぼつかない様子で左右にフラフラと揺れ動いている。


「アカネちゃん、ローラのところ戻らないと」

「でも気になるよ!」


 二人が話してる最中にピエロが大きくすっ転んだ。

 路肩においてある物を勢いよく弾き飛ばしその場に倒れこんだ。

 アカネは見るに見かねたのかピエロの方へ近付いていく。

 それに次いでイリアも追いかける。


「あのー、大丈夫ですか!?」

「い、いや……ちょっとね」

「顔が真っ青、お医者さんを呼びますか?」

「アカネちゃん、それは顔を青く塗ってあるだけだよ」

「そうなの?」

「とにかく、人を呼んできますね」

「ああ、それには及ばないよ……」

「へ!?」


 突如ピエロから立ち上がる煙にアカネとイリアは戸惑う。

 すぐさまこの場を離れようとするがその前に二人の意識は途切れたのだった。

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