第二話 アカネと学園と……その4
「大将! マーガス対ガルマン!」
「頑張れよ、マーガス!」
「けちょんけちょんにしてやれ!」
「おうよ、任せとけって!」
男子の声援を受けて、マーガスが舞台上へと降り立つ。
一方のガルマンはガラにも無く威風堂々と舞台上降り立った。
ガルマンが剣をマーガスへと向ける。が、マーガスはやや怠惰な態度でそっぽを向いていた。
「マーガス、貴様との縁もこれまでだ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、ここで死ぬつもりは毛頭ねぇ」
「いいや、ここが貴様の墓場となるのだ!」
「勝手に殺すな! って言うかここがお前の墓場になるんじゃないか?」
「な、何?」
「ここで死んで学校の七不思議になるんだよ、お前が!」
「だ、だれが! そんな怪しげな物なるものか! 私はここからさらに百年は生きるつもりだ!」
「どれだけ長生きするつもりなんだよ、お前……」
端から見れば漫才のようなやり取りをしていたが、お互いに剣を構えると顔が引き締まった。
どうやらお互いに負けたくないのは本音らしい。
緊張感が高まる。みんな思わず生唾を飲み込む。
「始め!」
「いくぞ! マーガス!」
「とっとと終わらせてやるぜ!」
ガルマンが一気に間合いに入ると鋭い突きを何度も繰り出してくる。
意外にもガルマンの剣術はかなり練度が高い物だった。
闇雲に振るうのではなく、フェイントやダッシュを器用に使い分けている。
そのせいかどうか分からないがマーガスは攻撃をせず、ひたすら回避に専念していた。
右に左にと木の葉が舞うかのようにガルマンの動きを受け流す。
その様子にガルマンは思わず高笑いをし始めた。
「はっはっはっ! どうした、どうした、どうしたぁぁぁ!?」
「わりぃな」
「へ?」
急に屈み込むとそのまま素早く足払いを仕掛ける。
足が宙に舞い、尻餅をつく……かに見えたが何とか踏み止まる。
その隙にとマーガスが剣を振り下ろすがとっさに大きく飛び退いて難を逃れた。
「あーくそ、失敗したか」
「ひ、卑怯だぞ! マーガス! 足払いなどと!」
「何言ってやがる、これも剣術のうちだぜ」
マーガスはそう言ってるものの、蹴りは剣術の試合ではかなり危ないグレーゾーンだった。
先ほどのアカネのように蹴りを使ったことで反則負けという可能性もある。
しかし、その一方で有名な剣士は蹴りを使って生きながらえた、と言う逸話もあった。
結局の所、剣を生かすためのモノかどうかが判定を決め手である。
そのため、マーガスの足払いは減点対象ではあるものの、試合を止めるほどの物ではないと判断された。
「ええい! こしゃくな! それならば!」
ガルマンも負けじと剣を振るい続ける。
マーガスのほうは先ほどと同じように右に左にと避け続けた。
しかし彼は気づいていなかった。攻撃が徐々に単調になっていることに。
闇雲に振ればあとは明白。
「はぁはぁはぁ……お、おのれぇぇ、マーガス! 貴様! セコイ手を使いおって!」
「何言ってやがる、これも作戦のうちだぜ!」
完全に汗だくのガルマン。スタミナを減らす作戦だったようだ。
それが功を制したのか、ガルマンの防御が一瞬遅れた。
その隙を見逃さず、そのままマーガスの剣が頭に直撃する。
「ぐはぁ!」
しかしかなり頑丈なのかか殴られたガルマンは倒れる様子が全く無い。
大地に向かって足へ力を入れ、負けるものかと胸を張っていた。
「まだだ! 私はまだ負けてはいない!」
懐から腰巾着の男が用意した瓶、”小悪魔の瓶”を開け、中の液体を一気飲み干した。
それを見ていたローラとイリアが声を上げる。
「あれは……小悪魔の瓶じゃない!」
「でも、なんか様子がおかしくない?」
彼女の言った通りガルマンの様子がおかしかった。
鼻息も荒く、妙に身体を震わせている。
小悪魔の瓶は本来、飲んだ者の能力を数倍上げるという作用がある。
しかし目の前にいるガルマンは徐々にその姿を変貌させていった。
巨大な闇を思わせる漆黒の巨体。鮮血を思わせる赤い瞳。
魔剣を思わせる鋭い爪と牙。尖った耳と頭に生えて来た角が特徴的であった。
ローラもイリアも御伽噺で良く聞いたことがある存在、”悪魔”にそっくりだった。
「ぐわっはっはっはっ! マーガス! これで貴様も終わりだ!」
「まずい! いったん離れさせろ!」
カレン先生が大声で避難を指示する。
だがその前に巨大な悪魔になったガルマンが腕を振るった。
衝撃と破砕音が周囲に轟き、石で出来た舞台場に巨大なクレーターが作られる。
その衝撃をモロに受けたマーガスは大きく投げ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
舞台場の砕けた破片がクラスのみんなを向かっていき、イリアを初め、多くの者が怪我をした。
「ぐぅぅぅぅ、ちくしょう……!」
「痛い……」
壁に叩きつけられたマーガスは、悔しそうな表情を浮かべたまま力なくを気を失った。
イリアも破片で切ってしまったのか、腕から血を流している。
相手側のほうもこれほどまでとは思ってなかったのか、みんな青ざめた顔をしていた。
ローラは非難の声をあげようとするが声が全く出ない。
恐怖心が彼女の心を支配していた。
それだけガルマンの姿が威圧的であり、身体が自然と震えだしている。
だがそんな最中、自然に前に出る者がいた。
「……私に任せて!」
「アカネ!?」
悪魔のような風貌となったガルマンの前にアカネが立ちはだかった。
その顔はいつものより凛々しく、そしてどこか切なげであった。
自分の手を見つめて大きく握り拳を作る。それを大きく天に向かって突き上げた。
「天啓を義にして悪霊を絶つ!」
そのまま拳を前にガルマンのほうへ突き出した。
「我、天雷となりて! 一筋の雷光として、邪なる者を、討つ!」
「訳が分からんことを言うな! 野猿がぁぁぁぁ!」
彼女をめがけて腕を振るうガルマン。
さらに力を増した腕がコロシアム全体を大きく揺さぶる。
舞台上は完全に破壊され、大きなクレーターを残すのみだった。
しかしアカネの姿は無い。ガルマンの手の中にも、そしてクレーターの中にも。
「こっちこっち」
アカネの声が聞こえる。みんな。アカネを姿を求め、周囲を見渡す。
そして発見をした。
「な、なに!?」
「な、なんで!?」
「うっそぉ!?」
ローラも、イリアも、ガルマンも、みんな目を丸くする。
アカネがいた場所、それはガルマンの頭の上だった。
まるで手品かのように誰もがアカネの姿を捉えることが出来なかった。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
頭の上のアカネを掴もうとするが今度はそのままムーンサルトを決めて着地をする。
再びアカネを潰そうと腕を振るうが、ガルマンは全く捕らえられない。
何度も何度も振るうがただひたすら空を切るばかりだった。
まさに雷光、イリアに至っては分身しているように見えている。
「おりゃあああああああああああああああああああ!」
雄たけびと共にガルマンの身体を思い切り殴り始める。
天へ向かってのアッパーがガルマンのアゴを捉えた。
攻撃が通じなさそうな悪魔の身体が大きく揺さぶられる。
「ば、ばかな! 何故!?」
「もう……一撃ィィィィィィ!」
今度は大きくジャンプをし、そのまま隕石の如く、急降下。
ガルマンの頭をそのまま踏んづけ、そのまま地面とキスをさせる。
クレーターがさらに深くなり、ガルマンの顔が地面へと埋まりかける。
が、すぐさま立ち上がりアカネへと向き直る。が、目の前にまで彼女が迫っている。
「おのれぇぇぇぇぇぇぇ!」
「これで……止めだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
マシンガンのような高速の左。それが悪魔の腕を弾き飛ばす。
ガードが崩れた所を大砲のような右の拳。それが悪魔の身体を悶えさせる。
相手が大きく仰け反った所を見逃さず、大きく上へと蹴り上げた。
漆黒の巨体が宙を舞う中、そのまま相手の腰を掴み、錐揉み回転をかける。
「グランドスラム・スープレックスだ!」
悪魔の巨体が地面と衝突をすると、コロシアム自体が破壊されかねない激しい衝撃が走る。
天にも達しそうな土埃が辺りを包み、辺りは静寂に包まれた。
煙が晴れるとそこは地面が大きく抉られていた。
中心部には倒れているガルマンと堂々と立っているアカネの姿があった。
アカネが大きく手を上げる。全てが終わったことを告げるために。
「これが聖技だ!」
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時は流れ、時間は夜。空は真っ暗になっていた。
寮の屋上でアカネが寝そべっている。
誰もいない屋上は静かであり、周囲は闇に包まれている。
ふと、重い屋上の扉が開く音が聞こえてきた。
入ってきたのはローラだった。
「アカネ」
「あっ、ローラちゃん! イリアちゃんの怪我とか大丈夫だった?」
「回復魔法のおかげで傷跡すらないって」
「よかった!」
結果的にガルマンは軽い脳震盪と診断された。
あれだけのひどい衝撃を受けたのに五体は満足、骨折はおろか肉離れすらなってなかった。
しかし暫くの間安静と言う発表にみんな胸をなでおろす。
ローラもイリアも死という最悪の結果だけは免れたことに安堵した。
学校もあれだけのことがあったのに、その後も平穏そのものだった。
ここが冒険者の学校というせいもあるのか、今日の出来事も普段の話題として消費された。
当然のようにガルマンの腰巾着たちはカレン先生にみっちりと絞られることになった。
ローラは前から気になっていたアカネのことを、思い切って聞いてみることにした。
「ねえ、あの技って何なの?」
「あの技?」
「この前のフラッシュ何とかとか、グランド何とか……」
アカネが特殊な武術を身につけているのは前から知っていた。
そのおかげでゴーレムを一撃で倒したり、悪魔をも倒せたのも理解できる。
しかしだからと言ってやること為すことが規格外すぎた。
アカネの秘密、それをローラは知りたいと思い始めている。
「ああ、あれはね……ひ・み・つ!」
「もう、何よそれ!」
「あははは……ごめん、お師匠とお姉ちゃんとの約束だから」
「ちぇ」
笑うアカネに対し、ローラはただ残念がる。
それでもローラはアカネの言葉尻を見逃さなかった。
師と姉との約束。それが何を意味するのカローラには分からない。
だが話す事を禁じられている辺り、アカネの力には秘密があることは理解した。
「でもいつか話せると思う。ううん、絶対に話してあげるから」
「わかったわ、そのときを楽しみにしてるわね」
「うん!」
二人は再び空を見上げる。そこには無数の星が輝いていた。




