第二話 アカネと学園と……その3
「あーあ、おかしなことに巻き込まれちまったなぁ」
「うう、ごめん」
クラスの誰かのボヤキにアカネはただ頭を下げるしかなった。
発言をしたクラスメイトもすぐさま弁解をする。
「いや、わりぃ。そういうつもりで言ったわけじゃなくてだな……。」
「そうそう。こうなったらとことん付き合うわよ、アカネ!」
「それに、あのガルマンには恨みがありますからねぇ」
「何だ、お前もかよ。俺もあいつにはちょっと恨みがあるからなぁ……」
「あたしもー!」
メガネのクラスメイトの発言をきっかけに、みんな次々とガルマンへの不満をぶちまける。
取るに足らない事柄からただの嫉妬まで、挙げれば切が無かった。
それでも話をしているうちにみんな心に一つのことを決める。
あのアホ面に一発ガツンと決めてやる! と。
「もうすぐ一回戦を始めるぞ! 代表を一人決めろ!」
「どうする?」
カレン先生の言葉にみんな、どうするかを相談し始める。
相手が相手であるため、念には念を入れた作戦をみんなで立て始める。
また奴のせいで話がこじれるのも避けたい。
ちなみに試合のルールは次のようになった。
剣を使った勝負であること。
必要以上の攻撃は禁止すること。
降参、及びダウン三回、ノックアウトで試合終了すること。
原則としてこの三つは守れ、とカレン先生から通達があった。
使う剣も非殺傷で斬られても怪我はしないがやっぱり痛い。
話し合い自体はかなり短く終わり、あっさりと代表は決まった。
「という訳でお願いね、アカネ」
「わかった!」
アカネは大きくうなずくとコロシアムへと入っていく。
イリアを始め、みんな観客席で緊張した面持ちになる。
アカネ自身もかかなり顔がこわばっている
「第一試合! アカネ対メルキン!」
アカネがコロシアムの舞台場に立つと、向こうから一人の男子生徒が現れた。
ガルマンがコロシアムの縁に足を乗せ、やや感極まった声で説明をし始める。
「あえて私が紹介してやろう! 彼はメルキン! 我がクラス最強の男だ!」
威風堂々とした振る舞い。鋭い眼光。
制服をきちんと着こなしてることからかなり生真面目でストイックな性格が見て取れる。
腰に携えている剣はかなり使い込まれており、鞘がボロボロだった。
クラス一は伊達ではない、と威圧的な雰囲気を存分に醸し出している。
「始め!」
「女子とはいえ、ここは勝負どころ。不躾ながら全力で相手をさせてもらう!」
「ええっと……構え方ってどうだったっけ?」
メルキンと呼ばれた男が剣を構えると、アカネのほうへ勢いよく向かってきた。
一方のアカネは剣の扱いに慣れてないのか、おかしなポーズばかりとっている。
どうやら構え方を忘れてしまったようだった。
アカネがモタモタしている間に、メルキンが一気に迫る。
「ちぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
雄たけびと共に剣が勢いよく振り下ろされる。
だがアカネは最小限の動作で左に避けるとそのまま自らの拳をメルキンの顔にめり込ませた。
綺麗な左フックが見事に決まり、何かが弾けるかのような快音をコロシアムに響かせる。
「ぐはぁ!」
「こら! 剣の勝負でしょうが! 殴ってどうするのよ!?」
「そうだった!」
メルキンの身体が勢いよく吹き飛ぶと、ローラが思わず声を上げる。
アカネの方もようやく構え方を思い出しのか、両手でグリップを握って基本の構えを取った。
イリアやマーガスを初め、みんな頭を抱えている。
一方、アカネに殴られ、勢いよく吹っ飛んだメルキン。
ダメージはそれほど追っていないのか、すぐさま立ち上がった。
口元をぬぐい、怪我をしてないことを確認すると再びアカネへと視線を向けた。
目からは強敵に出会えたことへの喜び、そして自分の力を試せるという躍動感。
今の彼の状態を表すのなら”滾っている”。
「ふっ、ふふふ、や、やるじゃないか……。だがこの程度で俺は倒れん! いくぞぉぉぉ!」
「ほい!」
再び向かってくるメルキンに先ほどと同じようにアカネの拳がめり込む。
今度は腹。エグい角度でのレバーブローだった。
そのせいで彼の身体がくの字に曲がり、その場に膝を着いた。
「うぐぉぁぁぁぁぁ!」
「こら、剣の勝負だって言ってるでしょうが!」
「だ、だって!」
別段、アカネは反則をするつもりは全くない。
しかし身体は反射的に剣を振るうよりも先に拳が出てしまっている。
なんとか剣で受け止める努力はしているものの、その前に身体が自然に動いていた。
長年培った武術の基礎の発言であり、アカネには制御が出来ずにいた。
「ふ、ふふふふ! 何度やられても立ち上がるのが我が家の家訓!」
剣を杖にして立ち上がるメルキン。
立て付けの悪い椅子のように足はふらついている。
だが顔は不敵な笑みを浮かべていた。ピンチを楽しむ性格のようだった。
あまりの形相にアカネも見ているクラスメイトも少し慄いている。
ヨダレを垂らしながら三度、剣を構えてアカネへと向かって来た。
「もう一度だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うひゃあ!」
「ぐええええええええええええええええええええ!」
止めとばかりにアカネのハイキックがメルキンの頭を揺さぶった。
そのままメルキンは身体を二転三転と回転させ、そのまま動かなくなる。
あまりのことに肩で息をするアカネ。目にはちょっと涙が浮かんでいた。
イリアがこの光景を見て戸惑ったような声を上げる。
「え? えっと」
「アカネの反則負けね……」
「そうだよなぁ……」
ローラとマーガスのつぶやきに生徒全員がうなずくのだった。
勝負に勝って試合に負けたのだった。
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「中堅! ローラ対エリシャ!」
「頑張ってね、ローラ」
「負けんじゃねぇぞ!」
メルキンの身体をガルマンのクラスメイトが運び出すと二戦目の準備となった。
みんなの応援に応えながら、ローラが舞台場へと降り立つ。
対面からやってきたのは性格が悪そうな女子生徒だった。
カレン先生と似ているが全く違う、見下すかのような視線。
私のほうが強いと言わんとばかりに鼻息も荒い。
制服もかなり改造が施されていた。流行の物なのかベルトの小物がやたらと多い。
剣を適当に振り回す当たり、態度も悪かった。
「ずいぶんと余裕なのね、私はメルキンとは違うわ」
「ふん、そっちこそお約束な台詞を吐くわね。これで負けたら笑いものだわ」
戦う前から火花を散らす両者。
特に因縁があるわけではないがローラは直感的に理解した。
この子、性格が悪い。と。
「始め!」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
開始の合図と共に二人は一気に駆け出した。
そのまま剣がお互いにぶつかり合う。
鉄と鉄とが激しい火花と轟音を飛び散らせ、交錯する。
アカネのときとは違い、舞台場で争う二人は見る者を興奮させた。
「頑張って! ローラ!」
「後れを取るな! エリシャ!」
怒声交じりの応援がお互いのクラスから飛び交う。
そして二人の戦い方もまた、お互いに対照的だった。
丁寧に防御を固めながら隙を突こうとするローラ。
それに対し防御を捨てて一方的に攻撃をするエリシャ。
何度も激しい攻撃を浴びせるエリシャに対しローラは余裕を持っていなしていく。
一進一退の攻防。
みんな固唾を呑んで見守っていた。しかし……。
「ローラちゃんの方が分が悪い……」
「え? そうなの?」
アカネの呟きに対し、イリアは思わず首をかしげた。
魔術師であるイリアには何が起こっているのか分からない。
しかしアカネは感覚的に察したのか、少し困った顔をしていた。
アカネの言葉通り、ローラの顔には苦悶の表情が浮かんでいた。
眉間にしわを寄せて、額には汗をかいている。
先ほどまではカウンターを仕掛けていたが今は攻撃を必死に防ぐだけだった。
無数の攻撃をかわし、受け流し、時に牽制を行い、ひたすら辛抱を重ねるローラ。
剣が壊されるんじゃないか、と思わせるほどの激しい金属音を何度もさせる。
そんな彼女を応援するしかないイリアとアカネたち。
そして……ついに防御が崩された。
「きゃぁ!」
エリシャの剣がローラの胸元スレスレを通り過ぎる。
尻餅が付かなかったが完全に体勢は崩れてしまった。
この光景に観客席の二人だけではなくクラスのみんなも青ざめる。
このままでは負ける。と直感的に感じ取った。
「このままじゃローラが……」
「うううう……」
何も出来ない自分たちが腹立たしいのか地団太を踏むアカネ。
口元に手を当てて成り行きを見守るイリア。
一方のエリシャは勝利を確信したのか嫌らしい笑みを浮かべる。
「貰った!」
「それは……こっちの台詞よ!」
エリシャの鋭い突きに対し、一気に間合いを詰めるローラ。
剣がわき腹を掠めるがむしろ懐へと飛び込んだ形になる。
そして待ってましたと言わんばかりに下から大きく弧を描き、剣を振り上げた。
乾いた金属の音が響くとエリシャの手には既に剣の存在は消えていた。
仕上げにローラは切っ先をエリシャのほうへ向ける。
「ま、まいったわ……」
搾り出すかのように言うエリシャ。
それに対し笑みを浮かべるローラ。
決着は付いたのだった。
「勝者、ローラ!」
カレン先生の宣言でみんな湧き上がる。
「やったね、ローラ!」
「よくやったぞ!」
「流石! ローラちゃん!」
「当たり前じゃない! あたしを誰だと思ってるのよ!」
ローラの勝利にクラスのみんなが沸く。
アカネやイリアに至っては思わず抱きつくくらいだった。
一方のガルマンはこの結果に頭をかきむしっている。
「あああああああああ……! おのれぇぇぇぇぇぇ!!」
「ガルマンさま、落ち着いてくだせぇ」
「そうですよ、まだ勝負が決まってないんですから」
「そんなことは分かってる!」
腰巾着の二人にツバを飛ばすぐらい大声を張り上げるガルマン。
二人は気にせず揉み手と腰を低くすることを忘れない。
「むしろ、これはガルマン様への演出!」
「ピンチからの逆転! そして勝利!」
「う、うむ!」
「……場合によってはこちらをお使いください」
「くくく、小悪魔の瓶か。貴様も悪よのぉ」
腰巾着の男は赤黒い液体が入った瓶を懐に忍ばせた。
それ見ながらガルマンは不気味な笑みを浮かべるのだった。




