第一話 冒険者リリア
ということが二ヶ月前に起こった。
いや、正確には二ヶ月前というのは“あたし”の感覚だ。
この世界で言えば一億年ほど前かもしれないし、昨日かもしれない。
ただ分かるのはあたしは“魔王”と同化をし、この世界へとやってきたということだけ。
そして目の前に置かれたピラフがとっても美味しいということだ。
「腕を上げたじゃない、スーザン」
「ありがとうよ、リリア」
目の前の黒人女性、スーザンにお褒めの言葉を向けると彼女は嬉しそうにお皿を戸棚にしまった。
ここは狭い路地にある小さな食堂、ベイカーズ。
少し手狭で薄暗い店内の中にはあたし一人しかいない。
そして木製のカウンターの上に置かれたピラフはバターの香りがとてもステキで、ふっくらとしてもちもちとしたお米の食感が舌を楽しませる。
プリプリの海老はとてもいい味わいを醸し出し、コーンの甘みも舌を楽しませる。
ああ、幸せ。こんな昼食を食べているあたしは世界一の幸福者だろう。
「さてと……」
口の中に残った油をグラスに入ったオレンジジュースで胃へと流し込む。
一息ついて、席を立つと小さな背負いバッグに腕を通した。
ロープに傷薬、ハンカチにナイフ。必要なものは全部入ってる。準備は万端。
「午後の出勤かい?」
「ええ」
「そうか、いってらっしゃい」
「いってきます」
あたしはスーザンに対して、軽い微笑を浮かべながら木の扉を開けた。
元気な太陽の光を浴びながら大きく深呼吸をする。
今日も暑くなりそうね、眩しさに目を細めながらそんなことを思った。
澄んだ空気はとても爽やか。元いた世界なんて目じゃない。
自動車もバイクも走ってない街道には多くの人たちがたむろしていた。
軒先で果物を売るヒゲの男性、路肩に馬車を止めて荷物を下ろす人々。
お店のカウンターで談笑をしてるオバサンたちに店の奥で物を作ってる職人。
そして腰に剣を差してる剣士にローブに身を包んだ魔術師。
この町の日常風景がどこまでも広がっていた。
ここはガイアと呼ばれる町。首都からほんの少しだけ離れたそこそこ大きい都市である。
石畳の街路を軽く小走りをしながら、街の西側にある冒険者ギルドを目指す。
爽やかな風がピンクのセーラー服をゆする。するとみんながあたしのほうに視線を向けてきた。
「あっ、あの子、可愛い」
どこかの街から来た旅人がそう言ってくれるととっても嬉しかった。
そう、今のあたしは可愛い女の子だ。可愛いの前に自称が付くけど……。
若干赤みのかかったポニーテール。太ももにはホルスターに入った二丁の拳銃。
体付きは……お世辞にしても小学生か! と突っ込まれるくらい貧相でちっちゃい。
でも嫌いじゃない。脂肪にまみれた前世の肉体に比べたらこの身体はかなりお気に入り。
ああ、魔王と同化して良かった。と、本当にそう思ってる。
そして大勢の人がたむろしている大通りを抜けて、三階建ての大きな建物、冒険者ギルドへ入っていった。西部劇にあるようなドアが軋んだ音をさせながらあたしを招き入れる。
「あっ、リリィさん!」
ギルドの扉を開けると受付嬢ことミリィがあたしに声をかけてくる。
長い金髪とあたしにはない大きい胸が特徴的な子でメイド服を思わせる白い大き目のエプロンと黄色の服ががとても似合っている。
あたしがこの町に来る前に行われた“お嫁さんにしたい選挙”で一位を見事に獲得したらしい。
ちなみにあたしよりも一つ年下……と聞いている。
正直にいえばあたしには年齢がない。始めてこの街に来た時、とっさに十六歳と名乗った。
あのときは周りから散々、嘘だの背伸びしてるだの言われたわね。とにかく十六歳だ。
十代にこだわりがあるわけではないけど、精神面から言うと今でも子供っぽいってことかもしれない。
「どう、ミリィ。クエストは入ってる?」
あたしの言葉にミリィは書類に軽く目を通す。眉間にしわを寄せておりどうにも雰囲気がよくない。
身長差があるせいかどうしても見上げる形になり、紙をめくる動作をするたびに目の前で大きなボールが軽く揺れる。
……女としての嫉妬と男としての性欲が少し入り混じる。
「えっと……今日はリリィさんが受けられるクエストは今のところありませんね」
「そうなの……」
これは仕方が無い。というのもあたしのランクが低いからだ。
ランクって言うのは冒険者ギルドの階級を表すもので、十段階に分けられている。
ランクが上であるほど政府規模の任務や最上級の魔物の討伐などを行う。
そして当然のように支払われる報酬もかなり大きい。場合によっては貴族の地位を与えられたものもいる。
しかしランクが低いと選べる仕事もかなり限られてしまい、報酬も低いのだ。
ちなみにあたしのランクは3。冒険者としては一端の地位を得ている。
もっと高いランクの依頼を受ければ良いのに。実力はあるんだから。
みんなそう言ってくれるけど下手にランクを上げると忙しくなるのは明白。
それに目立つのはどうしても受け付けない自分がいる。
ネットゲームでもソロでプレイをしてたし、一人の方が身軽って言うのが理由だった。
気も使わなくて良いしね。……間違ってもコミュ障ではないはず。
それなら仕方が無い、と待機のために詰所に行こうと足を向けると背後から誰かが声をかけてきた。
「おっ、火玉ちゃん!」
「だれが火玉だ!」
思わず反応をしてしまう。背後にいたのは色黒の男だった。
腰のベルトには小道具がジャラジャラと身についている。
頭にバンダナなんか巻いていかにも盗賊ですって感じの奴。
コイツはリック。あたしの天敵である。
「筒から火の玉を噴出すからひたまちゃんだと呼んだのだ、それが何が悪い!」
こいつの言っていること、筒から火の玉をだすとは銃の事を指すんだけど……
この世界には拳銃はそんなに普及してない。というかこの町ではあたししか使ってない。
そのため見ず知らずの人から見れば火の玉を撃ってるように見えるらしい。
それよりも……。
「あたしにはリリアって言う名前があるわよ! 普通にリリアって呼びなさい」
「フッ、分かった、リリィ」
「急になれなれしくするな! それに肩に手を回すんじゃない!」
肩に乗った手を払いながらリックを怒鳴りつける。
初めて会ったときもそうだけど、この馴れ馴れしい態度はどうにかならないのかしら?
悪い奴じゃないってことは、あたしもこのギルドにいる人間ならみんな知ってる。
でもねぇ……このふざけた態度はもうちょっと何とかならないのかしら?
「なぁに、俺とリリィとの仲じゃないか。」
「あたしはあんたと親しいつもりはない!」
「……わかった、親しくないのならこれから親しくなろう、さあ!」
「服を脱ぐな!」
「あう!」
ゲシィ! と、あたしの蹴りを受けてその場に倒れこんだ。
全く、何を考えてるか分からない男だわ!
「酷いな、俺はコミュニケーションを取ろうとしただけなのに」
「それのどこがコミュニケーションよ!」
「スキンシップはいいモノなんだぜ、リリまちゃん」
「あだ名を混ぜるな! っていうかいったい何なのよ、あんた!?」
「何なのよ、と申されても……ただの冒険者だが?」
……頭が痛くなってきた。そんな時、扉が勢いよく開く。
緑の服を着た女性が息を切らせていた。年齢的に二十代か三十代前半って所ね。
「あ、あの……」
「どうかしましたか、マドモアゼル? 魚屋の特売は来週からですぜ?」
再びアホな一言を言うリックを思い切り蹴り飛ばした。今度は当たった場所が酷かったのかその場に悶絶している。
「バカ! 何言ってるのよ! ミリィ、お水!」
「はい!」
そういうとグラスに入った水を女性の前に差し出す。
「どうぞ、これでも飲んで落ち着いて」
「は、はい……」
水を口に含むと徐々に落ち着きを取り戻していく。荒かった息が徐々に整っていた。
「それでご用件は何でしょうか?」
一息ついた所ですぐさま用件へと入る。急いで駆け込んできた辺り、緊急の用事なのは明白。
でもこの手の女性がいったい何のようなのかしら?
「実はうちの子が迷子になりまして……」
「ほう、それは大変でしょうに。それならばお役人にでも…」
「いえ、別れた場所が……西のセドリックの森でして……」
「なぬ!?」
リックの顔が少し歪む。ミリィも眉間にしわを寄せている。
どうやらよっぽど行きたくない場所らしい。
せっかくなのであたしはミリィにセドリックの森について聞いてみることにした。
「ねえ、ミリィ。セドリックの森って何?」
「知らないんですか? セドリックの森、通称、【闇夜の森】と言いましてこの街、最大の難所と呼ばれている所です」
「難所って……そんな所に行く方がおかしいってことになるわよ」
「確かに森の奥は危険ですけど手前には美味しい木の実や薪になる太い枝がいくつもあるんです」
「いわば生活の基盤となる森でもあるわけだ、勉強になったか、ひたまちゃん」
「誰がひたまだ!」
したり顔で説明をするコイツに腹が立ってつい、言い返してしまった。
一方のミリィは少し苦い顔をしながら手に持った待機リストと睨めっこをしている。
そして弱弱しい声で小さく呟いた。
「そうですね、確かに市井のことではないからお役人には頼れませんね……」
「うーん、あいつらはあいつらで頑張ってるんだがなぁ」
「お願いです! どうか子供を! 子供を助けてください!」
「場所も場所ですし、高ランクの冒険者は出払ってしまってますし……」
懇願する母親に対して二人とも腕でをうーん、と組んで考え始めた。
どうやら危険な場所なので行きたくないらしい。
それに危ない所に未熟な冒険者を放り込んでも死体が増えるのは明白。
……仕方が無い。
「いいわ、あたしが何とかしてあげる」
「本当ですか?」
「でもお駄賃は弾んでもらうけどね」
あたしの言葉に女性、もとい母親の顔が明るくなる。誰も行きたくないのならあたしがいくしかない。
義、勇無きなり。困った人を救わないのはあたしの沽券に関わる。
「ふっ、それで水あめやお煎餅を買うんだな……」
「誰が買うか!」
ゴスっとリックのお尻を思い切り蹴飛ばす。リックの奴は痛みのあまり、そのまま小さくジャンプをしている。ふん、いい気味よ!
ふと、母親の方に視線を送るとそんな光景を見て不安そうな顔をしている母親がいた。
こんなばかげた漫才見てたら不安になるのは当然よね……。仮にも子供の命がかかってるんですもの。
軽く咳払いをし、あたしはたしなめる様に言い聞かせる。
「ご安心を、任せて置いてください」
「お願いします……」
深々と頭を下げる母親を背に冒険者ギルドを後にした。
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そして町から徒歩にして三十分程度のところにあるセドリックの森へとたどり着いた。
木々が立ち並ぶ森の入り口から、草が生えてない部分がどこまでもまっすぐに伸びている。
地面を良く見ると真新しい車輪の跡が存在していた。恐らく馬車か何かが通ったのだろう。
生活の基盤ってことだから、ここで木を斬って町へと運ぶってことでしょうね。
「さてと、いったいどこにいるのやら」
そんなことを口にしながら奥へ、奥へと入っていく。
周りには大きな木々と草の緑、それが目の前いっぱいに広がっている。
子供の声が聞こえないか、と耳を済ませてみるけど、聞こえてくるのは鳥の声のみだった。
時おり、風で木が揺れ、街のざわめきとは違った優しくも騒がしい音をさせている。
これならピクニックにでも行きたい気分だわ。
でもここに来たのは仕事、冒険者としての依頼を果たさないとね。
「……せっかくだからちょっとやってみますか」
あたしは手短な木を足をつけるとそのまま大きく蹴り、斜め上へと跳んでいく。
別の木が目の前に迫ると再び大きく蹴り、同じ様に斜め上へと跳ぶ
アクションゲームでよくある壁走りだ。こういうのは高い所から探すに限る。
「近くにいるなら音に気がつけばいいんだけど……」
そしてある程度の高さまで来ると枝元に立ち、カバンから双眼鏡を取り出した。
どこかに子供がいる……。らしいんだけど……。
双眼鏡を覗き込むがそこに映るのは先ほどと同じ、木々の緑一色しかなかった。
時おり動くものがあるが所詮は鳥か小さな動物のみ。子供どころか人らしいものは何も見えない。
それでも、とじっくりと何度も見渡してみるが……全く見当たらない。
仕方が無いので別の樹に移動をし、再び双眼鏡で子供を捜す。
だが……見えるのは決まった光景だけ。間違い探しやなんとかを探せ! が苦手なあたしには苦行であった。
そして三本目の木に移動をし、空振った頃。
「あーもう! どこに居るのかしら!?」
ついに短気を起こし始めたあたし。“設定”上、この手の我慢がどうにもできないのだ。
「しかたがない、D・Eシステム起動」
あたしの声とともに周囲は白と黒とのモノトーンとなり、先ほどまで聞こえてきた鳥の声も、木々のざわめきも聞こえない。暑さも寒さも感じない、空虚な世界になった。
空間が隔離された証拠である。そして目の前にはSF的な立体ディプレイが表示された。
【ご用件をどうぞ】
「要請、ヒント。子供の居場所」
形式的な文章に対し、あたしは言葉をつむぐ、するとこの森の地図が目の前に広がり、現在地が赤い点で示された。
そして地図の上に黄色の矢印のマーカーが表示される。
森の奥、距離にして……北西にちょっとの距離。うん、すこし遠いわね。
「あそこか……。引き続き、マップをアクティブままに。ディスプレイは脇に固定」
隔離された空間が森の中へと戻り、左手首の辺りにディスプレイが乗っかっている。
これがあたしの力、もとい魔王の力だ。
といってももっと凄いことが出来るのだが、そこまでする度胸があたしにはない。
下手を打って宇宙が消滅なんてことになったら洒落にならないからだ。
全能な力を持っていても全知というわけではないのが少しもどかしい。
いや、知ろうと思えば古代文明の誕生から遥か未来の黙示録の日まで知ることが出来る。
ただし、そんなことをすればあたしの頭が一秒でパンクするだろうけど。
とにかく今ははマーカーに示された場所、子供がいる方向へといかないと。
木の上を飛び移りながら迷子の元へと向かっていく。こういうときにマーカーが見えると便利ね。矢印の方向に進むだけでいいんだから。
「これはもう楽勝ね」
と、余裕ぶっていたら頭の中にエマージェンシー・コールが響く。
いったい何が? すぐさまディスプレイの確認をするとそこには巨大なモンスターの影が見えていた。
全身や正体は画面からじゃよくわからない。
でもかなりまずい! 徐々に子供との距離を縮めている。軽くディスプレイを叩いて閉じると子供の方へ足を向ける。
“加速!”
青白い光に包まれるとそのまま木々のの合間を突っ切った。レーザービームのように一直線、子供の元へと飛んでいく。
これはあたしが習得した冒険者特有の“スキル“だ。この世界の人間なら誰でも取得できる能力。これを持ってないと冒険者とは呼べない。
突風を顔に浴びながら子供の無事をひたすら祈った。
そして木々の合間に小さな影を発見する。見つけた!
半べそをかきながら森の中をうろついている。
しかし、子供は背後のモンスターに気が付かない。
魔物の方も狡猾で息を殺して、今か今かとゆっくりと距離を詰めていく。
子供が木々が生えてない広い場所に出た。開けた場所に出たことで安心する子供。
だが、それは魔物に狙われるのも確実だった。もはや遮る物は何一つないのだから。
狙いを済ましたかのように仕留められる間合いに一気に距離を詰め、うなぎ声を上げて
子供を食べようとする。
「あ、あああああああああああ!」
子供は気がつくが恐怖でその場に座り込んでしまった。まずい!
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
速度を維持したままドロップキックをモンスターに叩き込む。足に鈍い感触と重い打撃音が響き、モンスターが土煙を巻き起こしながら勢い良く地面を転がった。
そしてキックの衝撃を殺しつつ、バック宙をしながら見事に着地。すぐさま子供の下へと駆け寄った。
「大丈夫?」
「う、うん」
茫然自失な子供をじっくりと観察する。
顔立ちとかはどうにも似てないものの髪の毛の色は母親に似ている。
白い服と茶色のズボンは泥でまみれており、森の中をさまよってのか小さな枝葉が付いていた。
良く見ると膝の辺りが少し赤くなってる。もしかして怪我をしたのかしら?
他にも探してみるとひじの辺りにも軽い擦り傷があった。
あとで傷薬でも塗っておいた方が良さそうだわ。
「ちょっと待ってて、すぐに片付けるから」
あたしは子供にそう言い聞かせ、子供との距離を取る。
モンスターのほうは蹴られた顔を抑えながら怒りの視線をこちらに向けていた。
まあ、あたしの体重は軽いから、キック一発で倒すことは出来ないのは当然よね。
軽いため息とともに太ももにしまっておいた銃を取り出す。
弾丸は既に入っている、体もほぐれてる。戦闘準備は完了していた。
モンスターとあたしの視線が交錯する。ピリピリとした空気が辺りを包んだ。
相手はレッサーデーモン。この世界に生息する大型の魔獣だ。
黒い体毛と大型肉食獣を思わせる爪と牙、二メートル超える大型の体躯、そして知能は低いが簡単な炎の魔法を操る。新人の冒険者なら簡単に食い殺されてしまうだろう。
なるほど、危険って言うのはよく分かるわ。こんなのがいたら森の奥へは入っていけないもの。
私だって油断をしてたらあっさりやられてしまうかもしれない。
でも――。
「ぐぅああああああああああああああああ!」
唸り声を上げてあたしへと向かってくる。結構早い。一般道を走る車の程度、ってところかしら?
慌てる事無く膝に向かって二発ほど弾丸を叩き込む。掌か伝わる衝撃と火薬の匂いともに放たれる音速の弾丸がモンスターの肉を貫いた。
命中した場所から鮮血が噴出すが止まる様子はない。
やっぱ、この程度じゃ止まらないか。
勢いに乗ったまま、目の前まで近づかれると大きな腕が振り下ろされた。
「ちぃ!」
舌打ちをしながら相手の股ぐらに飛び込み通り抜ける。吹き抜ける砂埃の中を一気に突っ切った。
それと共に身体が死を感じ取り、腕のあたりが軽く強張る。
そのまま背後を取ると振り向きざまにお尻へ二発、銃弾を叩き込んだ。
「があああああああああ!」
多少はひるんでくれたようだ。でもこれで倒れない、それならもっと味合わせてやるだけだ。
腕がガムシャラに振るわれ、砂煙が巻き起こる。丁寧にそれ避け、あたしは距離を取り直す。
腕の動きが鈍った所でレッサーデーモンを再び正面から見据えた。
今度はちゃんと狙って撃った方が良さそうね。照準を足から上の方、目の辺りに狙いをつける。
レッサーデーモンもあたしが強い奴だと思ったのか、口の周りが少し揺らめく。
あれは……まずい、炎の魔法だ!
「ぐああああああああああああ!」
口から炎の玉が勢いよく飛んでくる。
すぐに側転、バック転、バック宙とどこかの体操選手のように華麗にかわすあたし。
そのまま捻りを加えてレッサーデーモンの顔に銃弾を数発叩き込む。
流石に場所が場所なので鮮血が勢いよく吹き出る。視界も失ったのか手を闇雲に振るうだけだった。
その様子を見ながら軽く銃を回しながら、ゆっくりと近づいていく。
クルクルと勢い良く回る感触から言って……残り六発か、ありったけを食らわせてやるしかない。
近付くあたしの足音に気がついたのか、再び向かってきた。だが……。
「遅い!」
あたしの銃が打ち上げ花火のよう何回も破裂音をさせる。
火花と熱気、硝煙の匂いが辺りに広まると同時に、レッサーデーモンはあっけなく倒れた。
そして肉体は静かに霧散し宝石の塊へと変貌する。これがこの世界の魔物である。
こうやって冒険者は今日の糧を得ているのだ。
あたしは宝石の塊をすぐさまを手に取り、鞄の中へと入れ、一息を付く。
そういえばあの子はどこか汚してないかしら? すぐさま子供の方へ振り向く。
目の前で起こったことが理解できないのか目をぱちくりさせている。
小走りで近づくと怪我をした場所に傷薬と包帯を軽く巻いておく。
これでよしっと!
「さあ、帰りましょう。お母さんが待ってるわ」
「うん!」
あたしは子供の手をつなぐとそのまま帰路へと付いたのだった。
「ママ!」
「良かった……本当に……」
ギルドの中で涙を流しながら抱き合う親子。これで一件落着って所ね。
「ありがとうございます、冒険者さん」
「ありがとう、お姉ちゃん」
手を振って去っていく親子にミリィと二人で同じように手を振る。
やっぱりこういうのは気持ちがいいわね。
「ご苦労様です、リリアさん。今回の報酬です。緊急のクエストでしたのでギルドから奨励金も付いてますよ」
「え? 本当!?」
本来は受けることがなかったクエストだったのでボーナスが付いてる。
レッサーデーモンと報奨金で懐が一気に暖かくなった。
こういうところがあるから冒険者を辞められないのかもしれない。
満足げなあたしに対し、リックが横から口を出してきた。
「フッ、さすがだぜ。ひたまちゃん。でもこれも俺のおかげだということ忘れないでくれよ」
「あんたは何もしてないでしょうが!」
「したさ」
「何をよ?」
「ひたまちゃんが怪我をしないように神様に祈っておいたぜ!」
「それを世間一般では何もしてないって言うのよ!」
サムズアップとドヤ顔をするリックの顔面にあたしの蹴りが叩き込まれたのであった……。
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「じゃあ、あたしはこれで……」
「お疲れ様でした」
あたしはミリィに挨拶をするとギルドを後にした。
結局、あのクエスト以外に受けられる依頼はなかった。冒険者家業をしてればこういう日もまたある。
……少しの時間だけ働いただけなのに空は完全に夕暮れ時。道行く人たちも店じまいを始めている。
それと同時にお腹の虫も鳴き声をあげてきた。
「……お腹空いたわね」
お腹に手を当てながらあたしはベイカーズへと向かった。
今日の夕飯はいったい何なのかしらねぇ……。とそんなことを思いながら。




