六話 未踏のダンジョンに夢を馳せて…… その3
あたしたちはゆっくりと階段を下りていく。
意外にも罠らしい罠は今んとこない。
ナメクジが降ってくるとか、巨大な生物が襲い掛かってくるとか、毒金魚が飛んでくるとか、わけのわからないタコ型の星人忍者が飛び出してくるとか。
そういったものはない。全くない。本当にない。
……それにしても盗賊とリーダーはいったいどこにいるのかしら?
「あら?」
階段を降りた先は謎の遺跡。奇麗な石壁がずらっと並んでいる。
ダンジョンの中はこんなものだったってところかしら?
「雰囲気が変わったな……」
「このダンジョンは構造が変わる高度なダンジョンみたいザンスね」
「魔物も手ごわいのが多いっす! リーダーとベルネはどこにいるんでぇ?」
あたしの方も空気が変わったことに驚く。
ちょっとした肌寒さと見通しが立たない奥深い通路。
その暗い闇から何かの叫び声が聞こえてくる。体がしびれるかのような威圧感はまさに恐怖。
死と隣り合わせというフレーズは決して冗談の類ではないのだ。
だがここで立ち止まってはいられない。
「進みましょう。あんたたちのリーダーは奥に行ったとみた方がいいわね」
あたしの発言に全員が同意する。
ゆっくりとした足取りで奥へと進んでいくあたしたち。
魔物に出会ったときのように銃の場所を確認する。
分かれ道に差し掛かった時、ガンドフが足を止めた。
「どうしたの?」
「……何か聞こえないっすか?」
あたしも耳を澄ませてみる。通路の先で何かが音が聞こえてきた。
もっと耳を澄ませてみるが判別がつかない。しかし隣にいるマリオが叫んだ。
「あの声は……ベルネだ! どこにいるんだ?」
すぐさまD・Eで調べてみる。入り組んではいるがかなり近い場所にいる。
「……あっちよ!」
分かれ道の一つを指し示すとそのまま走って奥へ進んでいく。
こういうときにD・Eの力は便利ね。進むと同時に声がどんどん近くなる。
甲高い魔物の声とともに彼女の悲鳴が入り混じる。
角を曲がると通路の床に跪いているベルネを発見した!
しかし……。
「カネカエセー! コノヤロー!」
「カネカエセー! バカヤロー!」
「あだだだだ! ゆるしてー!」
二体の鳥の魔物に至るところを啄まれている。
ほっぺたにお尻におへそ、と。容赦のないクチバシの連打がベルネを襲っていた。
「あれは……借金トリっす!」
「カネカエセー! カネカエセー!」
「ひぃぃぃぃぃぃ! モルゲンディータでまいたはずの借金トリがぁ!」
借金トリって本当に鳥なんだ……。
赤と青の色鮮やかな二羽の鳥。大きさとしてもそこそこ大きい。
なにより特徴的なのが首のあたりに貯金箱みたいなのをぶら下げてる。
あれで借金を回収するのかしら?
「い、いまは持ち合わせがないんですぅぅぅぅ!」
「バカヤロー! ソンナノシルカー!」
「コノヤロー! ミニツケテルモノハナンダー!」
完全にいびられている彼女を見て、あたしは思わず三人の方に顔を向ける。
「……助けないの?」
「あれはベルネ個人の問題だからなぁ」
「親しき仲間にも礼儀ありでさ! それにベルネに貸して帰ってきたためしがないっす」
「ミーはそもそもベルネが計画を考える頭がないのが問題ザンス!」
なかなか辛辣なコメントだった。
見捨てるという選択肢も考えたが、あたしとしてはそろそろ全員見つけて帰りたくなっていた。
しかたがない。
「こら! 今は仕事中よ! 借金の催促は後にしなさい!」
やむを得ず借金トリたちに向かって数発発砲する。
発砲音に驚いた借金取りたちがベルネから離れた。
そして洞窟の奥深くに逃げていく。
「バカヤロー! カナラズ、トリタテテ、ヤルカラナ!」
「コノヤロー! キゲンマエニ カエセヨー!」
減らず口ならぬ減らず鳴き声を上げると、ベルネに向かって唾を吐くかのような仕草をした。
……今度マキナの町でも覗いてみようかしら?
「た、助かった!」
「ベルネ、リーダーはいずこザンス!?」
「リーダーは大広間にいるラスボスっぽい魔物と戦ってるよ!」
「ラスボスって……どんな奴なのよ!?」
「なんかでかいやつさ!」
「……そう」
ベルネを加えて五人。パーティーらしくなってきたわね。
そして最後の一人、サントスを見つけるためにあたしたちは通路の奥深くへ進んでいく。
見るからに重圧な扉。ダンジョンの主がいますよ、と教えてくるようだった。
軋んだ音をさせて扉を開けた瞬間、あたしは思わず口が半開きになる。
本当にラスボスだからだ。
鋭い爪に牙、反響効果のせいか地鳴りのような唸り声をあげるそいつ。
巨大シリーズ最後の相手は真っ黒で巨大なドラゴンだった。
【警告:あなたの攻撃は全く通用しません】
そんなの見ればわかる。マリオぐらいの武器があれば話は別だがそうも言ってられない。
ドラゴンの大きさはだいたい三階建ての一軒家ぐらいの大きさ。
まあ見上げることには変わりないがそれでも十分でかい。
「あれ? リーダーはどこなのかしら?」
ベルネの話ではドラゴンと戦っているらしいが、周囲にはサントスと思わしき男はいない。
「……もしかして、逃げちゃった?」
「えええええええええええ!?」
ベルネの発言にあたしたちは思わず叫ぶ。
そんな大声を出したせいで当然のようにドラゴンがこちらを向いた。
鼻息も荒いし、きつめの金色の瞳がこちらに向けられる。
まずい……。
「逃げるわよ!」
「おお!」
あたしたちは大広間を背に一目散に逃げていく。
部屋から飛び出ると扉にロープを縛り付け簡単に出られないようにしておく。
再び大広間を背にダッシュ。後ろから重い打撃音が聞こえてくるがあえて耳を塞ぐ。というか聞きたくない。
しばらくすると音が小さくなった……。
と思いきや、突然の破砕音。ついに扉を壊してしまった。
ひたすら走っていくあたしたち。壁の崩れる音を聞きながら今来た道を走っていく。
ふと振り向くとすでにドラゴンの首がちょっと見え隠れしている。
巨体に似合わず、洞窟内をすさまじいスピードで追いかけてくる。
意外と早いわね、あのドラゴン!
「仕方がないわ、全員散開!」
「了解!」
あたしの掛け声とともに一人、また一人と分かれ道へ入っていく。
しかし……一方のドラゴンはあたしの方ばかり追いかけてくる。
っていうかなんであたしの方ばっか来るのよ!?
一番弱いから!? それとも目立つから!?
必死になって逃げるものの、徐々にドラゴンに距離を詰められる。
このままじゃ……追いつかれる!
そんなとき、横から何かが飛び出してきた。
「あ、あんたは!?」
フランシスに対峙してた巨大カマキリだった。
カマキリはシャドーボクシングをしながらドラゴンと対峙をする。
お互いの視線が交錯し、お互いのプライドがぶつかり合う。
しかし……相手が悪すぎた。
プチッという悲しい音ともにドラゴンにあっさりと踏みつぶされてしまった。
諸行無常もここまでくると悲しい物があった。
さようなら、巨大カマキリ。あなたの雄姿は忘れないわ。
右に行ったか左に行ったか分からないまま走った先はついに行き止まり。
どうする? どうするのあたし!?
背後からはドラゴンが迫る! まずい! 周囲を見渡すと小さな横穴が!
とっさの横っ飛びで事なきを得る。危機を回避したことに一息をついた。
にしても結構広い穴ね、いったいだれが……。
奥へ進んでいくと鉢巻をした男がいた。見つけた、サントスだ。
あたしはそのままの勢いでサントスに飛びつき、胸倉をつかむ。
「ちょっと、いったいどういうことよ!? 説明しなさい!」
「落ち着いてくれ、おチビさん。私もこういうことになるとは思わなかったんだ」
「ほほう……じゃあどういうことか説明しなさいよ!」
「まず、このダンジョンはかなり特殊だ」
「特殊って未踏のダンジョンなんだから当然でしょうが!」
「違う、ダンジョンだから特殊ということではない。おかしなダンジョンだということだ」
「普通のダンジョンとは違うってこと!?」
「ああ、そうだ! ここは俺たちが苦手とするものが多く出没する!」
「そうなの?」
「そうなの!」
頭が痛くなってきた……。しかしサントスが言う通り苦手なものが多数現れている。
マリオはナメクジ、ベルネは借金取り。フランシスとガンドフは……あれが苦手なのかしら?
とにかく言ってることは何となく正しいと思っている。
「それで、これではだめだと思い、脱出をしようとしたのだが恐ろしいことに出口がないんだ」
「うそでしょ? 昨日まで脱出できてるって話じゃないの!」
「何? もうそんなに時間が経っているのか……! このままでは二次三次の被害が……!」
「二次三次の被害って……つまりあたしのことね」
「ウーム、なんと恐ろしいんだ」
お互いに気がそがれたのか、いろいろ聞いてみることにした。
「ところであんた、ブラックドラゴンと戦ってたんじゃないの?」
「はっはっはっ、さすがに私一人であいつを戦うのは無理に決まってるじゃないか!」
「笑いながら言うことか!」
「みんなと一緒ならば戦えるがさすがに私一人であれを相手にするのは分が悪すぎてな! なのでこっそりと扉を閉めて出口を探したというわけだ」
こ、こいつは……。
殴りたい気持ちを抑えつつ、今は脱出することが優先だ。
こっそりD・Eで確認を取ってみる。
「DE、出口の場所は?」
【ブラックドラゴンの中です】
……。へ?
予想外の言葉にあたしの頭がフリーズする、
そんなあたしの頭のことなど全く気にせず、続きを表示するD・E。
【ドラゴンの中にある食道が異空間転移によって脱出できるようになってます】
信じられない真実を口にするD・Eにあたしはいまだにフリーズから立ち直ってない。
「DE、ほかに出口は?」
【存在しません】
そうですか。
それにしてもあのドラゴンを手持ちの武器で倒せなんて無茶もいいところである。
しかも食道がつながってるというのだからそのまま食われろと言われるのもアレだ。
下手に命を奪って脱出不可能というのもあたしはごめんだ。
……いや、D・Eの力を使えば簡単に脱出は出来る。
しかし……。他人を放置して脱出というのも寝覚めが悪い。
「DE、あいつを眠らせることは?」
【可能です、次の手順を守れば】
表示された手順をじっくり眺める。
…………。アイテム作成はD・Eに頼んだ方が良さそうね。
「了解」
ディスプレイをいったん閉じてサントスの方へ向き直る。
「サントス! あんたたちにも協力してもらうわよ!」
「おっ、なんだ元気が出てきたのか?」
「ええ、このまま突っ立ってても状況は変わらないってこと!」
「さすがは冒険者だ。みんなを探そう」
「ええ、そうしましょう!」
調子のいいリーダーにあたしの気合も戻ってきた。
腹をくくって生きてるんだからそれくらいは当然か。
とにかく、こんなところには一秒たりともいるのはごめん。
パパっと脱出して元の生活に戻ってやる!
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やってきました大広間! 一度逃げ帰ったが今回は……。
「よし、皆行くぞ!」
「おお!」
それぞれがポジションに散っていく。
後はドラゴンが来るのを待つだけね。
あたしが立てた大まかな作戦はこうだ。
まずは足元に身動きを取れなくなるトラップを仕掛ける。
そして眠らせてそのままドラゴンの口の中に入って脱出!
いたってシンプルな作戦だ。問題はドラゴンは魔法系の技が効きにくいらしい。
ここをどう攻略するかがカギね。
サントス達曰く、身動きを取れなくする程度なら私達でもできる。らしいけど……。
……地響きのような足音が聞こえてきた……。
しばらくするとへとへとのドラゴンが帰ってきた。
ここがゆっくり休める場所ってことなんでしょうねぇ……。
さて、作戦開始! と二人に向かって大きく手を振った。
早速マリオとフランシスの二人がドラゴンの前に出てきた。
一体どんなトラップを仕掛けるのかしら?
「来い! ドラゴン!」
「ミーたちの踊りを見てその場に立ち尽くすザンス!」
突然、二人は踊りだした。情熱的なカルメン。動きはとてもキレッキレだった。
伴奏も何もない、しかし実に情熱的だ。身動きもしなやかで、荒ぶっている。
一方のあたしもドラゴンも突然のことに呆然となった。
なぜカルメンなのか、なぜ男二人なのか、誰にもわからない。
しかし情熱的なカルメンは確実にドラゴンとあたしの身動きをちゃんと止めたのだった。
「オーレ!」
声とともにいきなり閃光と爆発が起こった。……爆発が本命だったのね。
爆発のクレーターと痺れる効果のある針のせいでその場に横たわるドラゴン。
さて、あとは身動きが取れなくなったドラゴンを眠らせるんだけど……。
担当のベルネとガンドフの二人は……。
「そりゃそりゃそりゃぁ!」
「うりゃうりゃうりゃぁ!」
二人はドラゴンの背中を一気に駆け上るとドラゴンの鼻へと到達をした。
そのまま相手を眠らせる眠り香をかがせる。
だがドラゴンは眠る気配はない。目をギラギラ輝かせてあたしたちをにらみつけている。
「効果がうすい……」
あたしはいざという時のために、麻酔弾をドラゴンに向ける。
……鱗を貫通するかどうかわからないけど、一発撃ってみますか。
照準をドラゴンの頭部に向けるが……。
ブッシュ! と何とも気の抜けたくしゃみをドラゴンがする。
その拍子にベルネが大きく弾きとばされた。
まずい! が、その前にサントスが動いていた。
そのまま器用にベルネをキャッチ。岩陰に隠れた。
さすがはリーダー。頭部に残っているのはガンドフのみ。
ドラゴンが大きく体を起こしてガンドフを突き放そうとする。
「離さないっす!」
情熱的なハグ、それを取ろうと首や体を左右に振るがガンドフは全く離れようとはしない。
今度は上下に、再び左右に振り回しても、洞窟の壁に叩きつけても、ガンドフは離れようとはしなかった。
さすがは前衛職の騎士。頑丈さはお墨付きってわけね。
それにしてもドラゴンの様子がおかしい。何やら顔をしかめている。
「ガンドフの香りはダメージを受けるほど濃くなるのさ!」
いまさらな設定というかスキルである。
ちょっと嗅いでみると匂いがこちらまで伝わってくる。
あまりの臭いにドラゴンが左右に体ねじるが離れることができない。
悲痛な叫び声をあげるドラゴン。なんだかかわいそうになってきたわね。
そろそろ終わらせたいがために、あたしはドラゴンの眉間に照準を合わせる。
「お疲れさまでした!」
別れの言葉とともに眉間に麻酔弾を撃ち込んだのだった。
ドラゴンが悲痛な雄たけびを上げながらついに倒れる。
長い死闘を制し、肩で息をするあたしたち。
「いよっし! みんな! ドラゴンの中に入りなさい!」
突然の発言にみんなが一斉に嫌な顔をする。
そういや何でドラゴンを眠らせるか説明してなかったわね……。
「な、なんでドラゴンの中に!?」
「あのドラゴンの中に出口があるのよ!」
「ええ!? 本当にド、ドラゴンの中にあるザンスか!」
「ほらほら、とっと入る入る!」
あたしは嫌がるパーティーの面々に縄をくくりつけると、そのままドラゴンの口の中へと入ってく。
みっちりとした肉の圧力を感じながら奥へ奥へと進んでいく。
そして……。DEが言った通り外に出たのだった。
真夏の太陽、さわやかな夏風、そして緑あふれる大地。
ゴツゴツしたダンジョンから脱出できたことにあたしもほっとする。
「お、おお!」
「青い空、かぐわしい空気!」
「ああ、生きてる!」
「いやぁ、一時はどうなることかと思ったよ」
「ふぅ、これでクエストは完了ってところかしら……?」
「ああ、そうだな!」
「ありがとう、リリア!」
「ふん、お礼は後でたっぷりしてもらうわよ!」
喜び合うサントス達とともにあたしはガイアの町に戻るのだった。
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後日、プレゼントが届いた。サントス達からだった。
何でも復讐のプレゼント、らしい。開けてみると中身はチョコレートだった。
「すげぇ……!」
「美味そうだ……」
みんな目を輝かせるがあたしはちょっと不安になる。
復讐のプレゼントらしいけど大丈夫なのかしら?
不安に思いつつチョコを一つ頬張る。うん、おいしい。
甘くてトロリと溶ける。間違いない高級なチョコレートの味だ。
「よかったですね、リリアさん」
「良かったと言えばよかったけど二度と入りたくないダンジョンだったわ」
あの後、あのダンジョンの立ち入りは禁じられた。
高ランクの冒険者が苦戦をするダンジョンである以上、よほどのことがない限り探索するのは危険と判断されたのだ。
もちろん、あの五人は先日の時点で町を離れた。
クエスト失敗と思いきや、あのダンジョンの中で結構な宝を回収して相殺という形にいなったらしい。
うーん、実にたくましい奴らね。それが高ランクの冒険者ってことなんでしょうけど。
「それにしてもダンジョンの深部にはいったい何があるんでしょうか?」
「さあ? あたしとしては奥にすごいお宝があったとしてもコリゴリね」
出口があのドラゴンの食道というのだから。
さて、もう一個食べてみようかしら?
と思ったらチョコはどこにもなかった。
「え? え?」
「美味い、うまいな」
「おいしー! アリガトウ、リリア!」
「さすがは高ランクの冒険者、素晴らしいお菓子を知っているな」
そこには冒険者たちがあたしのお菓子を一つずつ食べていた。
「あ、あ、あ、あんたたちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
こうしてギルドの中で発砲音が響き渡るのだった。




