六話 未踏のダンジョンに夢を馳せて…… その1
暑い……。
南の島とは違った夏の太陽の日差しを受けながらいつも通り、あたしはギルドへとやってきた。
正直、クーラーが効いた部屋で過ごしていたいがそうも言ってられない。
なぜなら……手持ちのお金が無くなりそうだからだ!
世知辛いがこれも生きていくために必要な行為。頑張らないと……!
「おはよう!」
「おはようございます、リリアさん」
いつもの通り、ミリィに挨拶をし、クエスト掲示板を見やるが……。
「なによ、これ?」
ひときわ目立つクエスト用紙が貼られている。
色も金色で大きいのもさることながら紙の質もなんか違う。
俗に言えば触ると切れる紙っぽい。
金ピカのそれはあたしを含めた冒険者たちの視線を一点に集めている。
「知らないんですか? 新しいダンジョンが見つかったんです!」
「へぇ……そうなんだ」
心を揺さぶられることは正直なかった。
というのもダンジョンにはいい思い出がない。
スケベゴブリンの巣穴とか……。メイド学園の地下とか……。
おまけに冒険者学校のあの子やダンジョンみたいな場所に住んでるアイツの記憶もあたしの中にある。
そしてあたしの気持ちと同じようにこのギルドの連中は全くと言っていいほど色めきだってない。
普段通りというか、欲がないというか……。
「それにしてもギルド的には一大事なのにみんな相変わらずって感じねぇ」
「ふっ、当然さ。この手のダンジョンは高ランクの冒険者の仕事だからな」
あたしの言葉を聞いたか聞かないかリックの奴がそう言ってきた。
なるほど。美味しい仕事かもしれないけどリスクもバカに高いってことね。
誰も知らないダンジョン。普通に考えたら自分の命と釣り合わないかもしれない。
力がない奴が入っても深いところの宝は取れないってことでしょうねぇ。
だから高ランクの冒険者が入るってことなんでしょうけど。
あたしは金ピカの紙をじっくりと眺めてみる。
急募! ダンジョン支援人募集!
ダンジョンの支援をしてくれる人を募集しています。
仕事はとっても簡単、高ランクの冒険者に生活用品を届けるだけ!
行きも帰りも安全を保障します! ぜひご参加ください!
いつも思うのだがこういう怪しげな紹介文はいったい誰が書いてるのかしら?
それに危険がないというが別の意味で危なそうに見える。
罠とか……。魔物とか……。場合によっては人間同士のいざこざとか。
それにしても――。
「高ランクの冒険者ってどんな感じなのかしら?」
「それならもうすぐやってくるはずさ」
「もうすぐって……」
いつよ、と言いかけた瞬間。ギルドの扉が開いた。
現れた冒険者の一団にみんな道を譲る。思わずあたしも目を奪われた。
煌びやか、という言葉がすごく似合う。
まず着ている鎧やローブはやや薄汚れていて年季が入ったものだった。
しかしそれが却って味になり、決して気品を損なわれるものではない。
顔つきも全く違う。厳しさの中にある種の余裕が見える。
怖い顔をイメージしていたが、その中にしなやかさが見えた。
低ランクはお遊びと言わんばかりの雰囲気を出している。
冒険者の一団が受付まで来た。緊張した面持ちでミリィが口を開く。
「あ、あなた方が依頼をお出しした高ランク冒険者さんですか?」
「ああ!そうだ」
いつも笑顔のミリィがやや強張った顔をしている。
額にはちょっと冷や汗をかいており、緊張のせいかちょっと声が上ずっていた。
「ふーん、見たところは地味っぽいわね」
挑発っぽく三流の冒険者みたいなことを言うあたし。
相手に飲まれないための軽口を言うなんてかなり気が動転しているようだ。
しかしそんなあたしに対し、冒険者たちは軽く笑う。
「おやおや、俺たちを知らないなんて……よっぽど田舎から来たんだな」
「ごめんなさいねぇ、不勉強なもので」
別にケンカを売ってるつもりはないがどうにもトゲトゲしい言葉が出てくる。
あたしより立場が上だから? それともミーハー的にお近づきになりたいのかしら?
自分でもわけのわからない気分になりながら冒険者たちを見やる。
一方の冒険者たちはそれならばと高らかに大声を上げ始めた。
「ふっ、それなら何も知らない田舎娘に自己紹介をしておこう! 俺は全長三メートルを超え大剣を引きずる剣士! ゴリゴリのマリオ! 俺の獲物の武器は建物に入らないから置いてきたぜ!」
窓の外を見ると確かに大きめの刃物が横たわっていた。
おまけによく見ると道路にきれいな一文字がついている。おそらく引きずったせいでできたものだろう。
後できちんと修理をしておいて欲しいわね。
「私は盗賊のベルネ! またの名前を奇術のベルネ! 詐欺と逃げ足だけは誰にも負けないよ! 特技はお釣りのごまかしさ!」
正直もうちょっとかっこいい物が欲しかった。
しかもお釣りのごまかしと詐欺……これは犯罪者ってやつじゃないかしら?
せめて冒険に役に立つことをアピールしなさいよ……。
「ミーは魔導士のフランシス! 何の差し当たりもないただの魔導士ザンス!」
見るからに大嘘である。出っ歯と赤い鼻。そして甲高い金切り声。
口調から言って、切れたら危ないタイプなのは明白。
あの色付きサングラスは何のためにかけてるのかしら?
「あっしは騎士のガンドフ! 通称花柄のガンドフとはあっしのことでさ!」
モヒカンと大柄な肉体に不釣り合いな花柄の鎧を着てる。
恐ろしいのがその鎧から花の香りが優しく漂ってくることだ。
顔もどことなく素朴というか……米粒みたいなつぶらな瞳がなんとも愛らしい。
「そして我らがリーダーキャプテン・サントス! 海千山千の連中を従えてる最強の男よ!」
「よろしく! ガイアの町の冒険者たち!」
歯を光らせるとあたしたちにウインクをする。
パッと見、赤い鉢巻をした自称ヒーローといった風貌だった。
それでもリーダーである以上なんらかの個性を持っていそうね。
「一通り紹介を終えたが……わかってもらえたかな? おチビさん」
「ええ、とってもわかり易かったわ」
はっきりと言おう、どいつもこいつも癖が強すぎる。
普通じゃない性格の人たちばっか。
普通じゃないから高ランクになれたと言われればそれまでだが……。
「で、この人たちにダンジョンに潜ってもらうの?」
「そうですよ!」
「あのダンジョンは未踏のダンジョン。何が起こるかわからないからね」
「ドラゴンの巣穴だったりしたら非常に危ないザンス!」
「まあ俺たちに任せてくれ! ドラゴンの十匹ぐらいなら軽く倒せるさ!」
なかなかの自信。さわやかに言っているが正直不安である。
……本当に大丈夫なのかしら?
「そうなの、じゃあ頑張ってね」
彼らに手を振るとあたしは早速ランク3のクエストを探し始める。
「ああ、そんなつれない態度!」
「ひどい! わたしたちは自己紹介をしたのに!」
「あっしは泣けてきまさぁ! 不人情に育てられたおぜうさんに!」
文句を言う高ランク冒険者たちにあたしはかっとなって言い返す。
「誰が不人情ですって!?」
「だったらお嬢さん、あなたの名前を!」
「リリアだけど……っていうか低ランクの冒険者に名前を聞いてどうするのよ?」
「決まっているザンス! ミーの恨み辛み悲しみ旨味ノートに書きこんでおくザンス!」
「なんでそんなにみみっちぃのよ……」
「大手を振って復讐したら足がつくザンスじゃないですかぁ」
「堂々と復讐相手に復讐するって言ってどうするのよ……」
「俺たちはお天道様の下を歩けないような非道な行いはしない!」
「ああ! 復讐はせこければせこいほど! 本人にダメージが行く!」
「……どんな理屈なのよ……」
「とにかく、リリア! 君の名前は覚えた! 我々の復讐を楽しみにしてろよ! はっはっはっ!」
高笑いとともにギルドを後にするサントス達。
あたしは思わず呆然とするしかなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ダンジョンが発見されて、一週間後経った。
あたしはいつも通りにギルドへやってくる。
おとといのゴブリン退治の報酬をもらうためだ。
「おはよう」
「あっ、リリアさん! 大変です」
青ざめた顔のミリィがいた。ギルドの中も普段とは違い、騒然としている。
いったい何があったんだろうか?
「いったい何があったの?」
「高ランクの冒険者さんたちが行方不明になりました!」
「なんですって!?」
あたしの頭に浮かんだのはあいつらは結局詐欺師の類だった、ということ。
サントスとかいう男……本当に高ランクだったのかしら?
しかしそれに対してミリィはノーと言ってくる。
「新しく見つかったダンジョンに入ってもらったんです。けど、時間になっても帰ってこないんです。内部が不明なので定期的に帰還して貰っているんですけど……昨日から連絡が取れなくて……」
「なるほど……」
「どうします?」
どうするもこうするもない。あたしは覚悟を決めた。
「仕方がないわね! ミリィ、ギルドマスターに報告! あたしはダンジョンに潜ってみるわ」
「リリアさん!」
「さすがに深いところまではいけないと思うけど……。行けるところまで行ってみるつもりよ」
「お願いします」
久々にシリアスな感じにあたしは体をほぐす。
さてやってみるとしますか。未踏のダンジョン攻略!




