五話 オーダーメイドはとてもリッチに! その3
「やっぱりここね……」
「うむ、俺もここが怪しいと思ってたんだ」
校舎の深いところへやってきた。昨夜と同じ、ジェニファーと出会った所だ。
この辺りにアイリンとフラメウがいるのよね……。
早速、手短な部屋を散策してみる。やはり埃臭く、暗い場所ばかり。
うん? あれは……。あたしは使っていない教室の片隅に埃が無いのを見つけた。
埃がかかってない部分を叩いてみる。空洞があるような軽い音をさせていた。
間違いない、ここに二人は連れて行かれたようだ。
早速、教室をくまなく調べる。何か仕掛けがあるはず……。
と、壁の隅っこにスイッチを発見。早速押してみる。
重苦しい音共に地下への階段が開いた。
「おお、さすが!」
「行くわよ、リック」
嫌な雰囲気の階段を下りて行くあたしたち。
暗いと思われていた階段にはご丁寧にもろうそくが立っている。
これもジェニファーの手なのかしら?
階段の終わりが近付くと共になにやら声が聞こえてきた。
「お皿の洗い方が甘い! これではご主人様が食中毒を起こしますよ!」
「は、はい!」
「お茶の温度がぬるい! これではご主人様がお怒りになられます!」
「は、はい……」
「掃除はきちんとしなさい! ほら、モップの使い方がなってない!」
「も、申し訳ございません!」
洗い物に掃除、お茶汲みと雑務をさせられている二人の姿があった。
かなり手厳しいのか二人の額には汗が浮かんでいる。
「洗ったお皿は戸棚にしまう!」
「はい!」
必死になってお皿を重ねて持っていくアイリン。
だがどうにも足取りが危なっかしい。身体が右に左にと揺れている。
「あっ、あっ、あっ……」
「おそい! お皿をしまうのにいつまで時間がかかってるんですか!?」
「す、すみません」
「私が手本を見せましょう」
ジェニファーが数枚のお皿を手に取る。
「シャアア!」
掛け声と共にお皿をチャクラムの如く飛ばす。
風切りながら回転するお皿がそのままお見事、棚にゴールイン。綺麗に並べられた。
「ふぅ……と、これが一流のメイドです。覚えておきなさい」
「は、はい!?」
「いったいどこにそんなメイドがいるのよ!?」
あまりのことに大声を上げるあたし。
その声につられて三人が一斉にあたしの方を向く。
「リ、リリアさん!」
「アイリン! フラメウ! 大丈夫!?」
「あら、あなたは……」
「昨晩はどうも! エルダーリッチさん」
「なぜ、ここへ?」
「決まってるでしょ? メイドさんが人手不足になってるからその調査よ!」
はっきりと言えばこれはリックのクエストである。
しかしここまできたら、もう後戻りは出来ない。最後までやってやるしかない。
「程度の低いメイドを育ててどうしようというのですか?」
「どうしようも何もこのままだと学校が無くなるって言ってんの!」
お互いに火花を散らすあたしとジェニファー。
色んな仕事を請け負ってきたけど、幽霊と相対したことなんて一度もない。
でも恐ろしいほどの気合が感じる。殺意というか敵意というか……。
そういったものが彼女から湧き上がっている。
「その様なメイドはメイドではありません!」
「それを決めるのは……あんたじゃないわよ!」
モップを構えるジェニファー。それに対し、太ももから拳銃を取り出すあたし。
銃を持つメイドの漫画は山のように見てきたけど、まさか自分がやるとはこれっぽっちも思ってなかったわ。
「無礼者には……鉄槌を!」
「そうは問屋が卸すもんですか!」
言い終えると同時にジェニファーが迫る。目前まで迫るとモップで足元を払われた。
とっさに跳んで避ける。だがすぐさま間合いを詰めてくる。
モップを器用に使い、攻撃をしてくるジェニファー。
動きが速い。高位の魔物だから、ということを差し引いても動きが実に俊敏で優雅。
床の掃除をしながらもこちらには視線を離さない。
このままじゃやられる。彼女の間合いでは隙らしい隙が全く無い。
やむなく、大きく飛び退いて彼女に向かって、銃弾を三発ほど放ってみる。
リッチなんだから物理は通り抜けるでしょ。などと思っていたら……。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
飛んできた銃弾をモップを振り回し、全て叩き落した。
「うっそぉ……」
「リリアさん、燃えないゴミは明後日ですよ」
あえて怒りを抑えるかのように優美に笑うジェニファー。
これもメイドの一環なのかしら?
「無論です」
「!? 人の心を読んだの?」
「いいえ、顔に書いてありましたので……」
「そうですか……」
思わず顔を覆ってしまうあたし。表情でバレバレと言われるのはちょっと恥ずかしい。
しかし……ここまで実力差があるとは……。
仕方が無い。ここに来る前に銀の弾丸を用意しておいて正解だったわ。
死霊や悪霊の類いを張り倒すにはこの手の武器が一番。早速、二発ほど銃に込める。
しかしすぐには撃たない。
今のあたしの実力ではジェニファーに一発叩き込むなんてことは出来ない。
やるとするならモップ攻撃を掻い潜り、至近距離で攻撃をするしかないだろう。
「さて、頑張りますか!」
呼吸を整え、気合を入れなおすと再びジェニファーへと向かっていく。
彼女は自分がメイドと言っていた。つまり……。
「くっ!?」
食器棚近くに彼女を引き寄せると一瞬だが身体をこわばらせた。
やっぱりメイドですもの、物を壊すドジッ子と言うわけじゃない。
その隙を見逃さずあたしはトリガーを引く。
銀色の銃弾は破裂音と共に見事彼女の胴体を貫いた。
しかし……。
「あふぅん❤ なかなかやりますね」
……いま変な声、出さなかった?
あたし聞いた声が正しければこれは快楽の声だ。
良く見ると口元がゆがんでいる。嬉しそうな意味で……。
「流石です、リリアさん。見事としかいえません」
「……あのさ、あんた……」
「しかしこれもメイドの務め。そう簡単にやられません! ご主人様のために!」
そういって背後の何かに視線を送る。
なにやら小さな石像が立っている。あれが主人ってことなのかしら?
しかしあの石像。なんていうか……でっぷりとしててハゲてて……。
あたしの記憶が正しければスケベ親父と言う風貌だった。
あたしは思わず口にする。
「……どうしてそこまで」
「ふふ、リリアさんには分からないでしょう。メイド一筋百年の私の気持ちは!」
「まあ、分からないといえば分からないけど……」
「知ってますか? メイドは誰かに仕える事を喜びとすることを! 労働に汗を流し、金銭を貰うことで、自分が必要とされる喜びが垣間見えるのです」
「垣間見えるって……ちょっとしかないってワケ!?」
「それだけではありません、メイドの本質が私には合っていました」
「メイドの本質?」
「そう、メイドのMはマゾのMです!」
「そんなこと言ったら執事のBはいったいどういう意味になるのよ……」
「ボムのBでどうでしょうか?」
「どうでしょうかって……あたしに聞いてどうするのよ!?」
「……それもそうですね」
お互いにいうことが無くなり、ついに沈黙が辺りを包んだ。
それに耐えられなくなり、頭を抱えて大声を上げるあたし。
「……ぐああああああ、とにかく! あんたを倒す!」
「ならばメイドの勤めを果たさせてもらいます!」
「上等じゃないの! 叩き潰してやるわ」
お互いにグダグダになるのは理解したのか再び、構えを取るあたしたち。
先ほどの緊迫感もどこへやら。
けどその前に倒すとなると銀の弾丸は二発程度じゃ足りないわね……。
などと考えているとジェニファーのほうから動きがあった。
大きくモップで弧を描き、紫色の炎をまとう。なにやらおかしな気配が……。
「メイド流奥義……掃除一千!」
叫びと同時にモップが振り下ろされ、衝撃波が放たれた。
とっさに身を屈ませ、攻撃を避ける。
何が起こったのかを確認するためにゆっくりと振り向いてみる。
すると背後にあった壁がピカピカになっていた。
地下という場所であるくせに、ろうそくの明かりでも十分な光沢を見せている。
どうやら敵を倒すと同時にお掃除をするという荒唐無稽な技である。
「ふふ、いかがですか?」
「いや、いかがですかって……」
確かにすさまじい技だが……これはある意味チャンスなのでは……?
あんな大技、そんなに頻繁に放てるわけじゃない。
それに奥の手っぽいものを出してきたのは追い詰められている証拠!
……と思いたいんだけどあんまり焦ってる様子も無いのよね、彼女。
けど何とか近付いてありったけの火力で叩き込めば、いくらエルダーリッチと言えどひとたまりも無いはず!
それにそっちもその気ならこっちもそれ相応の技を出すのも礼儀だ。
堂々と彼女の前に立ち、銃を彼女に向ける。
この銃の本来の力、魔法の銃の力を見せるときだ。
「観念したんですか?」
「冗談! あんたが技を見せてくれたんだからあたしも技を見せてやろうってわけ!」
銃に真紅の紋様が浮かび上がる。
太陽のようなが炎が周囲に立ち上る。
身体の力を銃に、一点に集中する。
照準がジェニファーを捉えた。
「くらええええええええええええええ!」
彼女に銃を向け、トリガーを引くと炎を纏った赤銀の弾丸が放たれる。
これがあたしのとっておき、魔銃の本当の力!
しかし……あたしの銃弾はジェニファーではなく、背後にある石像に当たった。
赤と黒の爆発が巻き起こり、石像は木っ端微塵に粉砕。
ぱらぱらと石の破片が周囲に撒き散らされたのであった。
渾身の必殺技をあたしはミスったのだった。
「あっ……ご、ごめんね……?」
思わずジェニファーの方に視線を向ける。敵だというのについ謝ってしまった。
彼女はうつむき、身体を震わせていた。
「よくも……よくもよくもよくもよくもよくもよくもぉぉぉぉぉ!」
顔を上げた彼女は……まさにリッチ。どくろだが……憤怒の形相だった。
あまりのことにあたしも思わずあとずさりをする。
身体がざわざわする。これはヤバイ。
「どうやら……リリアさんにもお仕置きが必要のようねぇ!」
「へ? いや、その……」
まずい! だがチャンスでもある……!
すぐさま近くのリックに視線を送る。
「リック! 二人を連れて外に……っていない」
二人の姿はいない。リックの姿もない。
どうやら二人してあっさりと脱出してしまったようだ。
闘いに夢中になってる間に連れ出すとはやるじゃないの!
何でこういうときに限って置いていくのかしら!?
と言う二つの気持ちが湧き上がってきた。
しかし……それよりもこの状況だ。なんとかしなくては!
「かああああああああああああああああああ!」
「うわわわわわわわわわ!」
骸骨の姿になったジェニファーがあたしに襲い掛かる。
腕を振るって食器棚や戸棚を破壊しまくる。もはや制御が出来ない状況だ。
声もおどろおどろしい。はっきり言ってめちゃくちゃ怖い!
すぐさま階段を駆け上がり、教室を飛び出す。
背後のジェニファーを何とか振り切ろうとするがスピードが全く落ちはしない。
ひたすら廊下を全力疾走する。
なにか……何か無いの!?
せめてもの希望を求め、とっさに事務室へ飛び込む。
事務室はいつも通りカカシの事務員しかいなかった。
(カカシはメイドさんの守護神です)
与太話を信じるつもりは無いが思わずカカシを手に取る。
「ぐああああああああああああああああああああ!!」
事務室に飛び込んできジェニファーに突きつける。
「あああああああああああああああああああああああああ!」
「ヘッ!?」
「それは……カカシ! メイドさんの守護神!」
カカシを見たジェニファーは突然苦しみだした。
メイドさんにとってとても神聖な物らしい、カカシが。
「そうよ! ジェニファー! メイドなら分かるはずよ! なぜメイドの守護神がカカシなのかを!」
完全にテキトーな発言だった。なぜメイドの守護神なのかはあたしは全く分からない。
しかしあのエルダーリッチとなったメイドにはこれ以上の無い効果があったようだ。
憤怒の骸骨が元のメイドさんへと戻っていく。そしてそのままカカシへとひざまづいた。
「ああ……すみません。私はなんて罪深いことを……」
「そうよ! だからカカシと一緒に天へと帰りなさい」
「……そうですね、そうします」
ジェニファーが涙を流しながら空へと帰っていく。
それを見ながらあたしはその場にへたり込むのだった。
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結局、クエストの失敗と共に帰路に着いたあたし。
当たり前の話だけど本来の仕事はメイドのお仕事をすることであって、ジェニファーを倒すことでない。
それでもリックから多少のおごりをぶん取り、マイナス分は多少は軽くなった。
ため息と共に空を見上げる。もうすぐ夏となる。
そんな季節が移り変わろうとする夜はなんとも言えない雰囲気を出していた。
背後から誰かがつけている。いや……”誰か”じゃない。
現れた人物につい怒りをぶつける”あたし”。
「……いるんでしょ?」
「あら、気づいてたのね?」
「あんたはあたしでしょ? 自分のことに気が付かないってどれだけ間抜けなのよ、あたしは」
「そう、私はあなた。あなたの知らないあなた」
「……人の領分に入ってくるなんていい度胸じゃない」
「あら、ごめんなさいね。生まれたばかりだからつい……」
「それで? いったい何のようなの?」
「別に、特にないわね。でも面白いのね、冒険者って言うのも」
”あたし”はあたしに背を向ける。去り際に不敵な笑みを浮かべた。
「それじゃ……」
ついに五人目が登場か……。




