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五話 オーダーメイドはとてもリッチに! その1

 ついに見ず知らずの四人目まで現れてしまった。

 最初は制御できていたと思っていた魔王の力。もしかして暴走を始めているのだろうか?

 いや、そうじゃない。マキナはあたしの最も深い心理層を読み取った物だろう。

 ……にしても意外と純な部分があるのね、マキナ(あたし)

 

 そんなことを考えながら、家を後にしてギルドへ向かう。

 まあ何はともあれこっちのあたし(リリア)のやることは変わらない。

 部屋から出てめにする晴れ渡った青一色の空。今日も今日とて冒険日和。

 ……なのだが……。


「ねぇ、このメイド学園って何なの?」

「名前の通りメイドの学園です!」


 ギルドについて早々にあたしはミリィに質問をぶつける。

 ぶつけた方のミリィは、それが当たり前と言わんばかりに元気良く返す。

 頭が悪そうな学園名にめまいを覚えつつ、クエストの内容が書かれた紙をじっくりと眺める。


 募集! メイドさんになりたい人!

 一緒にメイドの道を究めてみませんか!

 笑顔が溢れる明るい職場であなたの力を目いっぱい伸ばしましょう!

 三食付、住み込み寮完備、業界未経験者可。経歴不問。

 御用の方は直接、赴き下さい。


 怪しすぎる……。とくに業界未経験可と経歴不問の部分。

 っていうかただの求人募集じゃないの!

 いったいどんな人物がこんな依頼をしてきたのだろうか?


「ねえ、ミリィ! これどうなってるのよ!?」

「どうって……普通にメイドのクエストですよ」

「なんで冒険者にメイドをやらせるわけ?」

「人手不足だからじゃないでしょうか?」

「人手不足って……」


 あっさりと言い放つミリィにあたしは頭を抱えた。

 一方のミリィはメイドに何かしら良いイメージがあるのか口早にまくし立てる。


「メイドさんって良いですよね。危険な仕事でもないですし、定時で帰れるし、仕事は簡単そうだし、玉の輿も狙えそうだし」

「……どこかの貴族のお手つきになって追い出されるのが末路じゃないの?」


 漫画とかゲームとかのイメージでテキトーなことを言ってみるあたし。

 と言うかそういうイメージしなかった。

 メイドってひどい目に会うのはセオリーというか……。

 一方のミリィがあたしの発言に少しカチンときたのか眉がつりあがる。 


「リリアさん、それはいったいどこの情報なんですか?」

「あたしの勘だけど?」

「勘で物事を言うのは心象が悪いですよ」

「そうは言ってもねぇ……」

「そんなことを言ったら騎士団の人たちも怒りますよ、あの人たち税金泥棒だって思われてるんですから!」

「騎士団……」


 脳裏に浮かぶのはド派手な服装の団長。

 そして屈強な男と神経質そうなの男たちが織り成す裸のハーモニーである。

 スケベゴブリンとの戦いはあたしにとんでもないトラウマを叩き付けたのだった。


「それにお金持ちなんかもメイドさんが欲しがってるんですよ。なり手が少ないって……」

「そういうものかしら?」


 他にも出来そうな仕事を探してみるがこれと言ってない。

 あたしはセルリアとマキナ(あのふたり)みたいに裕福と言うわけではない。 


「しかたがないか……ミリィ、このクエスト受けるわ」

「ありがとうございます! では現地に向かってください」

「了解」


 早速、現地ことメイド学園へと向かってみる。

 ここから街を二つ跨いだ所にあるらしい。

 距離的にはそう遠くは無い。馬車にでも乗ってのんびりとしてれば着くはず。

 あたしは早速手短にある停留所へと向かうのだった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ほへー、すっごいお屋敷」


 セルリアの邸宅とほぼ同じくらいの敷地。

 その敷地の中央にこれまた豪華絢爛な屋敷が立っていた。

 白塗りの壁にはシミ一つ無い。見るからに造りががっしりしてる感じだった。

 綺麗な庭園の中央には例外なく綺麗な噴水が据えられている。

 いったいどんな生徒がいるのやら。

 早速、門からお屋敷……もとい、校舎へと入っていく。

 出入り口にある事務室では事務員が一人、机に向かっていた。


「あのー、すみません。冒険者ギルドのものですが」

「はぁ……」


 小さな窓口から中の事務員に声をかける。

 しかし事務員はこちらに背を向けたままが生返事だけを返してきた。

 動く様子も無ければこちらへ顔を向けようともしない。


「いや、はぁ、ではなくてですね……。クエストをご依頼されましたよね?」

「へぇ……」

「へぇじゃなくてですね……。それで私が来たんですけど……」

「ふぃ……」

「……いい加減にしろ! 生返事ばかりでいったいどうなってるのよ!?」

「申し訳ありませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん! 


 窓口から手を伸ばし、事務員に食って掛かろうとするあたし。

 しかし何者か――メイドが待ったをかけてくる。

 息を切らせ、すがるかのような仕草であたしを見てきた。


「その事務員は……カカシなんです!」


 よく見ると顔の辺りには白い布。木の棒を適当に組んだだけのカカシだった。

 はあ、だのへぇ、だの返事をしたのは足元においてある魔法の石版。

 あれが声に反応をするだけだった。


 自分の目の節穴ッぷりに憤慨しつつ、八つ当たり気味にやってきたメイドさんに怒りをぶつける。


「何でカカシを事務員にするのよ!?」

「ご存じないのですか? カカシは古来よりメイドの守護神なのです!」

「メイドとカカシの関連性が見出せないわよ!」

「ではお話をしましょう……。その昔、ご主人様がいないさびしいメイドがたむろしていた時代……」

「いったいどういう時代なのよ……ただの不景気じゃないの!?」

「食べるのに困ったメイドは天に祈りを捧げたのです、神よ! とりあえず他の奴らはどうでもいいので私を助けてください! と」

「完全に自分本位じゃないのよ……」

「まあそれからいくつもの年月が流れ、メイドの守護神になったのです、おしまい」

「前後が完全に途切れてるじゃないの! しかも全然関係が無い! こうなったらこのカカシを遠くに放り投げてやるわ!」

「ああ、それはご無体な!」


 外に投げ捨てようとするとメイドが必死に止めようとしてくる。

 しかしそれを力任せで振り払おうとする。だがメイドの方が腕力が強い。


「離しなさいよ!」

「離しません! どうか、どうか!」


 結局、彼女の懸命な“説得”により、カカシの事務員は元の場所へ戻されたのだった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 とりあえず冷静さを取り戻したあたしは脇にある更衣室で着替えをしていた。

 クエストを受けるのでしたらそれを着てください。といわれ、渡された物は……。

 

「こんな派手なメイド服、始めて着たわ」

 

 メイド服といえば白を基調とし、袖やスカートの色として紺とか黒が基本だ。

 だがあたしが着てるのは赤いメイド服だった。通称いちごカラー。

 服のポイントはこれ見よがしに短いスカート。ふざけてるのかしら?

 鏡の前でキャハっとポーズをとってみる。

 ……気恥ずかしさと自己嫌悪が湧き上がってくる。なんでこんなことをしたのかしら?

 とにかく着替えを終えると指定された講堂へと入る。

 教会とラウンジをあわせた可能な広い場所だった。

 無数の机と椅子がいくつも並んでいる。ここで講習会でもやるのだろうか?

 ここにいる人はメイドと言ってもあたしと同じかそれ以上の人が集まっていた。

 皆メイドになりたいのかしら?

 手短な席に座ると講師がやってきた。


「初めまして、講師のリックと言います。以後、お見知りを!」


 あたりのことにあたしは思わずひっくり返った。

 すかざず席から大きく跳躍し、そのままリックの襟首を掴み、思い切り締め上げる。


「しばらく見ないと思ったら……。あんたここで何をしてるのよ!?」

「ひ、ひたまちゃん! そういうひたまちゃんこそ……そうか、ついに身売りに出されたんだな」

「誰が身売りだ! あたしはここでクエストを受けに来たのよ!」

「ほう、クエストを……」


 クエストと言う言葉にリックがニヤリと不気味に笑う。


「なによ、そんな変な顔をして……」

「いや、リリアの思いやりにちょっと胸が熱くなってな……」

「どういうことよ?」

「メイドの心とは奉仕の精神。思いやりが無い奴がメイドになったら世の中は真っ暗さ」

「……はぁ」

「そしてここには最強のメイド育成のスペシャリスト。マダムエックスがいるんだ。頑張ってくれよ!」

「マダムエックス!? って誰よそれ?」

「知らんのか?」

「ええ、ぜひ教えて欲しいわね」

「残念だ、俺の口からはとても……」

「実は知らないってわけじゃないでしょうね?」


 あたしの言葉にリックがそっぽを向く。しかも口笛まで吹いて。


「知らないなら素直に知らないって言いなさいよ!」

「あだだだだだ!」


 結局デマかせをかますリックに、あたしの関節技が決まったのだった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「よっと……」

 

 額に浮かぶ汗を拭いながら一息をつく。

 あたしは今、モップを片手にメイドの基本、掃除をしている。

 汚れた床は良い感じに黒ずんでおり、モップのかけがいもあった。


「ふう、これでひと段落ね」


 綺麗になった廊下を見ながら仕事の終わりを確信する。

 だが……それに待ったをかけるかのように水がはじける音が聞こえた。


「ごっめーん! うっかり蹴飛ばしちゃったぁ! でもこんなところにあるバケツが悪いのよー! ねー?」


 いかにもなことするメイド服の女性。

 いちごカラーのあたしとは違い、彼女はブルーベリーを思わせる青紫色のメイド服を着ている。

 そんな彼女にずんずんと近付いて、腕を一ひねり。

 簡単なアームロック。やられる方は凄く痛い。

 その証拠に彼女が絶叫する。


「あだだだだだだ! ギブ! ギブです!」

「全くなんでこんなことをするのよ!?」

「だって、これ当番ですし……」

「どういう当番なのよ?」

「メイドさんはいじめられるのが仕事! なのでちょっといびってやろうかなと」

「どういう倫理よ!? そんな仕事は一度も聞いた事はないわよ!」

「で、でもいじめられることに快楽を得ないとメイドとしては二流で終わるって……」

「いったい誰がそんなことを言ったのよ?」

「……ジェニファー先生です」

「ジェニファー先生? 誰よそれ?」

「このメイド学校の黒幕で、別名マダムエックス!」

「マ、マダムエックス……」

「とにかくマダムを怒らせたら大変なことになります!」


 リックのホラ話とおもいきや意外と浸透しているマダムエックス。

 ……っていうかジェニファー先生って誰よ?

 このメイド学園であった人を思い出すが、ジェニファー先生という人物に会った覚えは無い。


「……分かったわ、行って頂戴」

「ありがとうございます」


 腕をひねるのを辞めると頭を下げて足早に立ち去った。本質的には生真面目な人らしい。

 それにしても……。マダムエックスか……。

 この黒幕を張り倒さないとメイドさんの人手不足は解消されそうには無さそうだ。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 次の書庫の整理だ。図書館ほどじゃないけど無数の本が山のように平積みにされている。

 あたしも前世ではゲームソフトや攻略本をこうやって積んでたわね……。

 とにかく片づけを開始するあたし。

 本棚を見てると綺麗に分別されているのが分かる。

 それぞれの本棚にはそれぞれ種類で分け、そこからタイトルの順に並べられている。

 それにしても色んな本があるわね……。

 本棚のタイトルを眺めながらつい好奇心が湧き出してくる。

 目に付いたのは一冊の本。タイトルは世界の貴族名鑑。ちょっと見てみるか。

 本を開いてみるとそこには貴族の顔が書かれた絵とそれに連なるプロフィールやエピソードが書いてあった。

 そういや、アルダートっていったわね。セルリアの父親。

 早速、ページをめくって探してみる。……おっ、意外と爵位は高いわね。

 アルタード侯爵……侯爵なんてよっぽどなことが無い限り貰えない。

 となるとセルリアは侯爵の娘と言うことになる。だからああまで守られているのか。


「リリアさん!」


 背後からの超えに思わずビクッとするあたし。

 振り向くとそこにはあたしと同じカラーのメイド服を着た二人の女の子たちがいた。

 たしかリックが去った後、自己紹介をしたのよね。

 たしか……アイリンとフラメウだったかしら?

 背が小さく元気そうなのがアイリン。背が高くちょっとクールな感じがするのがフラメウだ。


「いけないんだー 本を読んで時間を潰すなんて」

「しょうがないじゃないの、こんなに本があって興味を持つなって言う方がおかしいわよ」

「そうだよね、で、何か珍しい本見つけた?」

「いいえ、とくには」

 

 といいつつも貴族名鑑から手を離すことはしなかった。

 やっぱ最後まで読んでみたいのよねぇ……。


「まあその前に仕事をしちゃいましょう。リリアの身長だと高い所に手が届かないでしょうし」

「そうね」


 フラメウの言葉にあたしが頷くと持っていた本を棚へと戻す。

 セルリアの父親がどんな人物なのか? は、また後のお楽しみとしましょう。

 平済みの本を手に取り、あった場所へと戻していく。

 その際、あたしを含めた三人はお互いに口を開くことは無く、もくもくと作業をしていく

 黙っているのも辛くなってきたので思い切って聞いてみることにした。


「ねえ、セルリアって名前に聞き覚えは無い?」

「っと……聞いた事はあります! アルダート様の娘さんですよね」

「ええ、そうよ」

「いいですよね、あの地方。冒険者の間では魅惑の街って言われてるんですから」

「魅惑の街ねぇ……」

「街に来るとキラキラした物がいっぱい! デパート、タワーに遊園地! あそこでメイドをしてる人からとても良い所って聞いてます」

「そうなんだ……」


 目を輝かせているアイリンに対し、今度はフラメウが口を挟む。


「私がまだ二十(はたち)の頃、出会った地方貴族のお嬢様よ。幼いながらも気品があって……とても十二歳とは思えなかったわ」

「へぇ、そうなんだ」

「ところでなんであなたがそれを聞くの?」

「えっと……」

「まさか、知り合いとか?」

「そんなようなものね」


 まさかそれは本人です、などというわけには行かない。

 アイリンは目を輝かせ、フラメウは遠い目をして感慨にふけっている。

 二人ともあの街に思い入れがあるみたいね。

 それにしても……ちゃんと名前が通ってるんだ、あいつ。ちょっと嬉しい。


「と、雑談はここまで。仕事を再開しましょ!」

「ええ」

「はい!」


 二人が元気よく返事をすると再び書庫の整理に戻るのだった。


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