プロローグ
唐突だが俺は死んだ。死因は急性心不全。死んだ日時は18日の午後9時。
別に持病があったわけでもなかった。少し肥満体だと言われたが不健康な生活はしていない。
だが運命という奴は唐突に俺の命を奪いに来た。それに対してなんら不満はない。
元々、生きてて良かったとも思えなかった。
家に居ても家族との関係は上手く行かない。
学生時代ば常にうざったい奴がからかいに来たり、嫌がらせをしてくる。
面接に行けばやる気が無いだの、空白期間があるだの、説教を喰らって不採用。
友達も恋人なんていなかった。近所の子供たちからは犯罪者扱いまでされたな。
「……本当に死んだんだな」
俺は醜い顔をして死んでいる自分の肉体を見ながら、深くため息をついた。
一人暮らしのアパートで無職の男が心不全で死んでいる。
ニュースになったりしたら大家さんには迷惑をかけてしまう。
まあこれで終わりなんだ。大家さんには悪いが諦めて貰おう。
……これで終わり、そう思ったら怒りが徐々にこみ上げてきた。
人をからかってたくせにこっちが怒ると茶化されて全く反省しないアイツ。
見た目で判断をし、人の発言を全く聞いてくれない両親、教師、面接官。
そして一皮向けば弱い者いじめがまかり通るこの世界。
「くそ!」
思わず声が出た。
悔しかった。あいつらを見返すことも出来ないまま、この世界を去ることに。
悲しかった。頼ろうとすると甘えだとと言われ、苦しみを飲み込むしかないことに。
許せなかった。他人を傷つけても平気な奴が生きている世界に。
「くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそ! くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
だったら生きてるうちにやり返せば良い、って誰かが言った。
でもお前たちは人の影に隠れたり、俺しか非難しないだろうが!
だがそれは所詮、負け犬の遠吠えだ。死んだ以上あいつらにやり返すことは出来ない。
「ちくしょう……」
「そこまでにしておけ」
突然、後ろから声をかけられた。振り向くと黒いモヤみたいなものが俺を包んでいた。
「な、何だ!? お前は誰だ?」
「私は魔王! 神の理に反するモノだ!」
「魔王だと……」
俺だってゲームをやったりする。だがこのモヤが魔王だなんて信じられなかった。
一般的な魔王といえばドラゴンや悪魔的なものイメージする。
だがこいつは違う。ただの黒いモヤ。それが魔王だなんて俺には信じられない。
「貴様の声を聞いてな、つい慈悲を出してしまった」
「慈悲?」
「そうだ、貴様のあの叫び。あれこそ我を呼ぶ声」
「お前を……で、何の用なんだよ……」
「……ふふふ、貴様には資格があるのだ。この私と同化する資格が」
「同化……」
「そうだ」
「同化したら……あいつらにやり返すことが出来るのか?」
「それは出来ない。この世界は最も神聖な世界。私の力は及ばない」
「じゃあ、何なんだよ!? 同化してもいい事なんて……」
「ある! 私と同化し、この世界ではない別の世界を蹂躙するのだ!」
「……なんだよ、それ」
「あえて聞こう、この世界は好きか?」
「嫌いだ」
「この世界にいたいという理由は?」
「ない!」
「それなら異世界へ行っても良かろう」
「だが……あいつらに仕返しできないままあっちへ行くのは……。」
「……安心しろ、世界というのはそう簡単なものではない」
「え?」
「異世界で起こったことは何らかの過程を得て、こちら側の世界に影響を与える」
「ほ、本当か!」
「ああ、我々の力がこの世界に直接猛威を振るうことは出来ないが、世界の鎖は波になってこの世界にやってくる。つまり……」
「直接的じゃないにしてもあいつらに復讐は出来る、というわけか……」
「どうだ?」
なんと魅力的になってきた。俺の心が徐々に躍りだした。
「……だが条件がある」
「条件?」
「この姿を変えたい」
俺の一言にモヤこと魔王は笑みを浮かべた。顔が無いので正確には分からないが俺には笑ったように感じる。
「ふふ、いいだろう。全てはお前が望むままに!」
そういうと黒いモヤが俺の身体を身を包んでいく。
痛みも苦しみも恐ろしさもない。あるのは安らぎだけだった。
こうして俺は魔王となった。
弱肉強食の神が支配するとってもステキな世界から脱出をし、新しい世界で生きることにしたのだった。




