異世界の推理に探偵はいりません。
「ここです」
「想像以上に広いな。一体何人入る会場なんだか」
俺はアイリスに連れられ、王城二階のパーティーホールに来ていた。
「念の為にお母様が片付けをしないように指示していたので、お父様が倒れられた時のままになっています」
「しかし、些細な証拠ならすぐに消せる。今回なんて魔法での犯行だ。そもそも証拠なんて残らない可能性の方が高い」
空間に魔法の痕跡が残ることはあるが、それは攻撃系の魔法のみだ。
麻痺や毒の魔法は対象そのものに作用するため、痕跡は基本残らない。
「国王はどこにいたんだ?」
「お父様はあの真ん中のテーブルの一番奥です。国王という事もあって、特に動いたりはしていませんでしたね。成人を迎えた私たちは周りのテーブルを歩き回って談笑を...といった感じでしたので、子どもでも大人でも、お父様に近づくことは容易かったと思います」
近くにメイシュがいたという事を聞くと一見犯行は難しいものと思っていたが、近づくことは可能だっただ...
ただの魔法や武器での殺害を試みようとすれば、メイシュに一瞬で捕縛されていただろう。
メイシュだって、何も無くして宮廷魔導士団の団長になった訳ではなかろう。魔法なんて、使われる前から分かっているだろう。
「いや、待て。おかしいな。なぜメイシュは国王に魔法を放たれたことに気が付かなかった?」
「さすがのメイシュ団長でも、気づかないことの一つや二つあってもおかしくはないんじゃないですか?」
「いいや、彼女が魔法を見逃すことはあり得ない」
「どうしてそこまで言えるんです?ソウタさん、メイシュ団長と会ったのは初めてじゃないんですか?」
「ああ、初めてだ。さっき国王の麻痺を解除した魔法があっただろう?まぁ俺のアレンジ魔法なんだが」
「え、ソウタさんって魔法創れるんですか!?」
「まあ、多少の制約はあるがな。それで、そこが問題だ」
「どういうことですか?」
俺は確かにあの魔法を作った時、メイシュからの強い視線を感じた。
そして同じくメイシュから魔力も感じた。
俺でも驚くほど研ぎ澄まされた魔力だった。
「おそらく、メイシュはもうあの魔法が使えるぞ」
「え!?で、でもソウタさんが創った魔法なんですよね?」
「ああ。あの時その場で創った魔法だ。それをメイシュは見定め、魔法陣を解析し、瞬時にコピーした。あの時感じた視線と魔力は恐らく魔眼だろう」
魔眼と言えば、この世界の『七つの謎』の一つでもある。
俺は魔眼神の加護を受けて魔眼を持っているが、魔眼を得る方法はそれだけではない。
一番多いのは一族代々受け継がれている場合。これは他に比べて圧倒的に多い。
二番目は魔眼の一族でもない赤子が急に発現する場合。
三番目は俺と同じく魔眼神の加護を受けた場合。これは転生者では無くとも、行いであったり信仰で合ったりで加護を受ける場合がある。
そして一番希少なのが何の前触れもなく突然発現する場合。
魔眼が『七つの謎』に数えられる大きな理由でもある。
自分や家族、恋人や仲間の窮地に発現するという噂があるが、真実は謎に包まれている。
「確かメイシュ団長の家系は魔眼の一族ではなかった気がしますが...」
「魔眼の一族を知っているのか?」
「はい。一応魔眼の情報は国では公開していますよ。グラナイト家は国でも有数の特異魔法を受け継ぐ魔法の一家。しかし、グラナイト家が魔眼の一族であるという情報はありませんよ」
「それでは、他の場合、という事か」
少し興味があるが、今はそんな話をしている場合ではない。
「その魔眼を持っているメイシュが魔法の発動を見逃すとは思えない。ただでさえ魔法が得意な上に観察に特化した魔眼を持っているのに見落とすはずなんてない」
「それでは、犯人がそれほどの手練れで、慎重に発動したという線は考えにくい。とすると、メイシュさんが眼を向けないようなところから魔法を発動した?」
「その通り。それ以外は考えられない」
「ですが、問題はそれをどこから発動したか...ですよね...」
そうだ。
魔眼は俺と同じでオンオフのあるものだとすれば、国王に人間が近づいていない時が一番あり得るか...
「お待たせしました!お呼びの皆様をお連れ致しました!」
俺が悩んでいるところで、ホールの入り口から声が上がった。
よく見ると、メイシュが胸につけていたものと同じバッジをつけた男が、数人の貴族やその息子、護衛から料理人までを連れてきていた。
後ろから遅れて国王、王妃、メイシュと宰相が入ってきた。
「これはこれは麗しゅうアイリス姫。この度は再び王城に呼んでいただき誠に光栄でございます。用件が済みましたらお茶でもどうでしょうか、二人っきりで」
「あら、ギュルテル卿、一時的とは言え国王が倒れていたというのに、相変わらず冗談がお上手な方ですね」
「いえいえ、私も報告を聞いた時は心配いたしました。姫に涙を流すまいと向かおうとしました時にはもう既に回復されていましたので。もし陛下の身になにかあれば、私を呼んでくださいませ」
アイリス渾身の皮肉をいとも簡単に躱すとは、そうとうの手練れだな。
それに、アイリスが気持ち悪いと言っていたのも分かる気がする。
「へへ、陛下、一体我々を呼び出して何をなさるおつもりなんですか!?た、体調は良くなったと聞きましたが、一体どうやって...」
「ふむ、ギュルテル、どうして私が生きているのか、と言いたげな顔だな?おかしなことでもあったか?たかが病気を治しただけだが?」
「い、いいいいえ、そんなことはございませんよ!むしろ、ご無事で安心しておりますよ」
ギュルテル侯爵と呼ばれたその狸腹の男は、国王の言葉に過剰に反応している。
というか気づいてくれと言わんばかりの大根芝居だ。
「ソウタ殿、分かりそうか?」
「ああ、もう少しだ。雑談でもして待っていてくれ」
「そうか。ならそうしよう」
「あの、陛下、その子どもは?パーティーの席では見かけませんでしたが、どこの貴族の子でしょうか?」
「ソウタ殿だ。貴族ではないぞ」
「き、貴族でもないただの子どもがなぜこんな場所に!?何をお考えになられているのですか、陛下」
「はぁ。少しは学べ、ギュルテル。私が彼に敬称を付けたのが聞こえなかったのか?」
国王は彼らに手厳しい。
普段からあからさまな敵対をされているが、それは目に見えないいやがらせに過ぎない。
なので、そういうものは直接手を出さない限り裁けないのがこの国のルール。
つまり、国王にとってもこの機会はチャンスという事だ。
「他の二人も、ここに呼ばれた理由くらい分かっておるんだろう?」
「い...いえ....そんな、私たちは何も....」
「そそ、そうですよ....いくら派閥が違うと言いましても、証拠もなしにそんな...」
「よし、準備ができたぞ」
「本当ですか!?ソウタさん」
正直なところ、犯人は見た瞬間に分かった。
しかし、問題はそこではない。
「まず、前提から説明していこう。
条件一・国王は病気ではなく魔法による麻痺にて命の危機にあった
条件二・その場にいたメイシュが気づかなかった、つまり外的な魔道具や魔法ではない
条件三・二日で死に至るほどの強力な麻痺。つまり強力な魔法
条件四・犯人はパーティー会場内にいて、国王を殺害することで利益を得る人物
こんなところだろう。まず、貴様等がここに集められたのは条件四に当てはまる人間だったからだ。少なからず自覚はあるだろう?」
「む...むぅ.....」
「そして、条件三から、実行犯はそうとうな手練れだ。貴様等三人の中に実行犯がいることはあり得ない」
「そそそそうだ。陛下に魔法を向けるなんてあり得ないぞ!」
「第一にそれほど強力な魔法は使えない。そうだ。それなら陛下の護衛の中におあつらえ向きで魔法が得意な者が一人いるでは無いか」
「おい、俺よりも記憶能力が低いのか?条件四にメイシュは当てはまらん。第一に、犯人はすぐに分かる。この目をよく見て答えろ」
俺は目を青色に変え、貴族たち三人を見つめた。
「答えろ。貴様等は今回の事件に関与している。〇か✖か」
「決まっているだろう!もちろん関わっていない!子ども風情が調子に乗るな!」
「こちらも同じだ。それに、こんな口約束なんて意味を成さないぞ?」
「私も同じだ。まったく、呼び寄せてまでして証拠ではなく言葉での解決を求むか。脳の無い平民の考えることだな」
それぞれの子どもたちはあまり状況が理解できていないようだ。
「アイリス姫っ、もしよろしければこの問、私も答えてよろしいですか?」
「なぜ私に聞くのです?聞くならソウタさんに聞いてください」
「いいえ!私はアイリス姫に約束しましょう!私及び父ギュルテル侯爵は、この件に一切の関わりが無い事を、ここで宣言いたします!」
しかし、意外な結果だな。
俺の予想とは少し違ったようだ。
まあ関係ないのだが。
「結果発表だ。この中に、嘘をついた者が2人いる」
「何を。〈契約〉の魔法すら使わずに嘘を見抜くなど、出来るはずが無かろう」
「ギュルテル、ソウタ殿の眼が見えないのか?」
「眼...だと?」
俺が現在所持している魔眼は二つ。
一つはこの嘘発見器、『真実の魔眼』。
そしてまだ使ったことのない『破壊の魔眼』。
俺の元々の眼は茶色っけのない漆黒。
そこで『真実の魔眼』を使うと、青くなる。そして微小な魔力のオーラを放つ。
しかし、常に相手の眼を観察している者などそう居ない。
「まさか...魔眼持ちだったのか...」
「まぁな。では、さっき俺が言った二人というのも、どういうことか分かるよな?」
「な、ななんな...なぜこんなことに...」
「なんだ?俺はまだ誰かとは言っていないぞ?では、ヒントをやろう。嘘をついたのは...そうだな。ある、貴族二人だな」
そういうと、俺は腰に提げていた剣をギュルテルに向けて抜く。
「ひぇっ!!」
「父上!」
腰を抜かしたギュルテルに息子が寄っていく。
俺は構わず彼らの方へゆっくりゆっくりと歩みを進める。
「ソウタさん.....」
「ソウタ殿、もう犯人は分かったのだろう?ならばそこまでする必要はあるまい。手を出すというなら、いくらソウタ殿でも法は適用され...」
「動くな」
俺は全方向に殺気を放ち、またゆっくりとギュルテルに近づいていく。
「お、おい、ガキ!この国の法を知らぬわけではあるまい!」
「ああ、人殺しは禁固20年以上。人数が多かったり殺害方法が残虐だった場合は死刑判決もありうる。俺でもそれくらいは記憶している」
「そそ、そうだろう?だからここは一度剣を収めてはどうだ?」
「ああ。しかしだな.....相手が人では無ければ殺しても問題ないんだよな?」
「........そんな」
「父上...」
「そのまましゃがんでおけよ。少しずれてしまうかもしれないからな」
俺は大きな剣を無造作に構えた。
「ソウタさん・・・止めて・・・・・・もうやめて!!!!!!!」
俺の手元が一瞬ぶれた。
皆が眼を開けたその時には、俺の大剣の下に二つの首が転がっていた。
「ふぅ。これが、今回の事件における、俺の真の目的という事だ」
皆がその状況を見て、『驚愕』という二文字にその場は支配された。
今回も読んでいただきありがとうございます。
そろそろ本章はクライマックスかも!?
本当にソウタはギュルテル父子を殺してしまったのか!?
明日のお楽しみですね。
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