倒れた国王の謎。
俺達は王城に着くなり、アイリスに話を付けてもらって玉座の間に向かった。
「ソウタ殿。今回は迷惑をかけてすまなかった。王女殿下を救っていただいたのに近衛兵の勘違いで剣を向けてしまった。国王に変わって私が謝ろう」
「いえ、それほどの問題はございません。むしろ、勘違いされるような行動をとってしまい申し訳ないくらいだ」
俺は謁見という体で話をさせてもらっているため、周りには多くの王城関係者やすぐに集まることが出来た貴族がいる。
しかし、相手はなぜかアイリスの父親である国王ではなく、宰相であった。
「無礼を分かった上でお聞きいたしますが、なぜ国王陛下はこの場に居らぬのですか?」
「ああ。それは殿下が外へ出た理由とも関係がある。ソウタ殿には話しておこう」
宰相の隣の椅子にはアイリスが座っている。
少し暗い顔をしているあたり、国王に何かあったのだろう。
「国王陛下はいま急病で倒れられている。国中の医者達を集めても治せないレベルの病気。なんの前触れもなく陛下は意識すら保てなくなってしまった」
「それで?」
「今日の夜中が峠と言われたのだ。殿下はそれを耳にして、魔物の森の最深部にある『生命の泉』と呼ばれるものを取りに行こうとしたのだ」
『生命の泉』か。
名前からして、どんな病気でも治す、的ななにかだろう。
「しかし、途中で魔物に襲われ、ソウタ殿に助けられた、という訳だ」
「それでは、俺が国王の病気を見ようか?」
「ソウタ殿、相当強力な魔法使いだったと近衛に聞いたが、回復魔法まで使えるのか?」
「少しな。役に立てるかもしれない」
といっても、どこの馬の骨かも分からぬ子どもに倒れている国王のところへ通すほど馬鹿ではあるまい。
「そういえば、アイリス、お前はたしか膝を怪我していたな。まだ痛むか?」
「い、いえ。これくらいなんてことありません。お父様の病気に比べれば...」
「ふむ。では一瞬で治して見せよう」
「そんな、一流の医者でも、回復力を上げ、時間をかけた上で治すのだ。そんな一瞬でなんてできるはずが無いだろう」
宰相は信じていない様子か。
百聞は一見に如かず、というしな。
見せればよいのだろう。
——〈解析〉——
——〈鎮痛〉——
——〈治癒〉——
「どうだ?見てみろ」
「そんな!さっきまであんなに痛かったのに...」
「痛かったのではないか」
無理をしてもよいことは無い。
それとも、自分のことなど考えていないのか。
「宰相殿、どうでしょうか。一度俺に国王の病状を見せていただきたい。治すことを約束しよう」
「うむ...ここまで完璧な治癒は見たことが無い。王女殿下、陛下を救えるかもしれません。判断は殿下がするのが正しいでしょう」
「ザックさん...ありがとうございます。ソウタさん、お父様の部屋へ案内します。付いて来てください」
「ああ。分かった」
俺はアイリスと共に玉座の間を出ていこうとしたその時、どこからか舌打ちが聞こえた。
この中には国王が回復することを素直に喜べない連中がいるのだろう。
どこの国にも国の頭に対抗する者はいるのが当然だ。
しかし、念のため覚えておこう。
「ソウタさん、ここです」
国王の部屋は王城最上階の一番奥の部屋だった。
俺が扉を開けると、ベットに横たわっている国王、それから妻らしき人物と1人の医者、そして護衛らしき剣を持つ女性がいた。
「アイリス!戻っていたのね。その話はまたあとでするとして...そのお方は?」
「はい、お母様。魔物の森で襲われていた私を助けてくださった、ソウタさんです」
「なぜ彼をここへ連れてきたの?今お父さんがどういう状況か分かっているのでしょう?」
「ソウタさんなら、お父様の病気も治せるかもしれないんです!」
王妃は驚いた様子で俺を見るが、医者の方は違う心持ちで俺を見る。
「王女殿下、それはあり得ません。この国で一番の医者である私からみても、今日を乗り越える事はとても難しい状況。そのような子どもに出来ることはありませぬ。家に帰らせた方がよいと思いますが」
「ふむ。解析が終わった」
「何を。ここは子どもの来る場所じゃない。殿下、藁にもすがりたいそのお気持ちは分かります。しかし...」
「ソウタさん!お父様の状態は?」
アイリスは医者の言葉を無視して俺に尋ねる。
「そこまで問題があるわけではない。麻痺系の魔法で全身に対して強力な麻痺がかかっている」
「はぁ。ソウタとやら。国王陛下の状態が見えていないのか?麻痺系の魔法なら内臓の動きは止まらぬ。そんな簡単なことすら分からないのか?」
「問題はそこだ。麻痺が強力すぎる。脳、肺、心臓にすらその影響がうかがえる。内臓の働きが弱まっているため、今日の夜には心臓が完全に停止してしまうだろう」
「ソウタさん、どうにかできますか?」
「簡単なことだ。麻痺を解除さえすれば、体は元通り動くようになる」
——〈解毒魔法〉——
これはこの世界にある〈解毒〉の効果を魔法による麻痺や毒も治せるようにした俺のアレンジ魔法だ。
魔法創造はそうとう便利だ。魔法の効果をはっきり思い浮かべないとできない事と、大量の魔力を消費する事に目をつぶれば、この世界にこれ以上の魔法はないだろう。
「お前の眼が節穴でない限り、分かるはずだ。医者。国王の体を見てみろ」
「そんな...私でも手が出せなかった病気を一瞬で治すなんて...ありえない...」
「先ほども言ったが、今のは病気ではない。魔法による攻撃だ。もちろん事件性があるだろうな」
さきほど謁見の際にいた人間だろうか。
はたまたこの前の盗賊団の件の裏にいた連中だろうか。
これは後で調べる必要があるな。
「.....あぁ...レティナ...アイリス.....」
「あなた!!」
「お父様!!」
「一体何があったんだ....アイリスのお披露目会の際に倒れて...その後は...」
「そのままお父様、倒れたままで...このままだったら...ぐすん、お父様...目を覚ますこともなく...ぐすん」
「そなたか?私を治してくれたのは」
「...いえ...不甲斐ないことに、国中の医者は、私を含めて誰も治すことはもちろん、延命の治療さえできず...本当に申し訳ございませんでした」
「では、誰が私を?」
「ソウタさんです。魔物の森で魔物に襲われていた私と、お父様の病気を治してくれた、二人の命の恩人です」
「そんなたいそうな者ではない。ただ救える命を救っただけの事。礼はいらぬぞ、国王」
もともと俺はこの世界を救いに来たのだ。
人を一人二人救えない者が世界を救えるとは思っていない。
それに、ジェネシスが俺に与えた力もこうやって使ってやらねば、後から何を言ってくるか分かったものではない。
「それは本当にありがたい。しかし、こちらは国王としての面子がある。相応の礼はするつもりだ」
「まぁ、国王がそういうなら、受け取らない訳にもいくまい」
「おお、そういえば名乗っていなかったな。私はアムネジア・グレイシア。こちらは妻のレティナ・グレイシアだ」
「ソウタ様、この度は国王である夫、そして娘までの命を救っていただきありがとうございます。一族の恩人として、私からもお礼申し上げます」
「様付けはやめてくれ。王妃。呼ばれなれていないんだ。むず痒い」
「そうでしたか。ではソウタさん、で」
それでも王妃にさん付けされるのはどうかと思う。
「あ、あの!」
「ん、いたのか、メイシュ。どうした?」
「いたのかって...冗談じゃないですよ、心配しましたのに...ゴホン、私は宮廷魔導士団団長、メイシュ・グラナイト。まず、今回の件に関しては私からも礼を言いたい。当時陛下のすぐそばに居たにもかかわらず、私は守ることさえできなかった。ありがとう」
宮廷魔導士団、か。
そういえばセリシアから話を聞いたことがあったな。
「気にするな。して、本題はなんだ?」
「ええ。さっきソウタ殿は、陛下に何者かが麻痺の魔法を使ったという趣旨の話をしていたが、間違いはないか?」
「ああ。100%保証しよう。あれは外からの干渉が無ければありえない」
「はぁ。そうか。ソウタ殿なら分かると思うのだが、今後これが明るみに出れば、真っ先に私が疑われるだろう」
「ふむ。分からんが?」
「わ...分からないのですか...つまり、国王陛下に重傷を負わせた魔法使いがいる。周りにバレずに強力な魔法を使えるものとしたら、真っ先に私を疑うでしょう」
「それがどうかしたのか?」
「いや、それが大問題ですよ...つまり、私や宮廷魔導士団が疑われる前に犯人を捜したいので、手伝ってもらえないかという打診だ」
メイシュの言う事には一理あるな。
もっと言えば、真犯人がメイシュを犯人に仕立てようと暗躍するだろう。
「いいだろう。しかし、王都中の人間の中から探すのは無理だぞ?」
「ええ。しかし、国王が倒れた時にその場にいた人間に絞れるのでは?」
「あ、はい!それは私が知っています」
「アイリスのお披露目、というのはどういうことだ?」
「この国の貴族は成人、つまり16歳を迎えるとお披露目のパーティーを開くんです。王族がいたら、その人間を主役に」
つまり、アイリスが主役のパーティーに国王も参加したところ、その場で魔法をかけられたという事か。
しかし、この国では16歳が成人なのか。
前世の俺は21歳で成人していたが、俺は16歳の体にされたが酒は飲めるという事か。
それは良かった。
「陛下、その場に反王族派の貴族はどれほど?」
「ギュルテル派か...そういえばギュルテルの子息も今年で16歳だったな。アイリス、覚えているか?」
「ええ...他にも二人ほど同派閥の子どもが居ましたが...正直言って気持ち悪かったです」
「そうか...では、そこから探りを入れるがよいだろう。いくらギュルテルが候爵とはいえ、私からの直接命令なら聞かざるを得ないだろう」
「しかし、他にもいたというならそやつらも全員まとめて調べたほうが良くないか?俺なら恐らく犯人くらい見れば分かるぞ?」
国王にかけられた魔法はこの世界の標準を見るとかなりレベルが高かった。
犯人は国王が助かるとも思っていないだろう。
「では国王、復帰早々で悪いが、あの場に居た者で国王に仇名す可能性が高い者を至急呼び寄せてくれ」
「うむ。すぐに手配しよう」
「私も手伝おう。陛下、私の部下も使ってくれて構いません」
「分かった。ソウタ殿はこれからどうするのだ?」
「とりあえず現場検証がしたい。パーティーが行われた会場を案内してもらえるか?その場にいた者がいいな。国王が倒れた時の状況も教えてもらいたい」
「そそそそそれなら私!私が行きます!!」
国王の隣にいたアイリスが全力で手を挙げる。
「まあ、この中ではアイリスが適任だろうな。ではよろしく頼む」
「はい!」
俺達はそれぞれのすべきことをするため、解散した。
この後、どんなことになるかも知らずに.....
今回も読んでいただきありがとうございます。
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