魔物の森の美女?
この前の事件の後、代表してリグル達が王城へ報告に行った。
何せ、マークしていた情報が洩れ、盗賊団のほぼ全員を取り逃がしたのだ。
その上、現状では対抗できそうな人間が俺しかいないであろう魔道具が発見されたのだ。
今頃王城では大規模な会議が行われていることだろう。
俺の方だが、無事Sランク昇格を果たした。
セリシアはあまり驚いていなかったようだが、代わりに事件の話を聞いて大きなため息をついていた。
すぐにSSランク昇格試験が受けられるものと思っていたが、そうでもないらしい。
Sランクでギルドに一定の信頼を得てから、という事らしい。
これについては、セリシアの一存では決められない。
「さて、今日はどれにするか...」
この間、俺は特に王城からお呼びにかかってないため、普通にギルドの依頼をこなしていた。
受付がいつも同じ人間とは限らないので、未だにギルドカードを見せると驚かれる。
「魔物の森、か。『森の主の討伐で金貨100枚』か。大盤振る舞いだな。Sランク限定になるほどの強さか。興味があるな」
俺はいつも通り依頼の張り紙を取り、受付に渡す。
「魔物の森の主の依頼ですか...ソウタさんなら問題ないと思いますが、一応気を付けてくださいね」
「そこまで危険なのか?」
「はい。最初はBランク依頼にしていたのですが、Bランクパーティーがほぼ壊滅しまして...」
「それで?」
「Aランク以上に設定したのですが、冒険者さんは何日経っても戻ってこず、やむを得なくSランクに上げたんです。凶暴さは今出されている依頼の中では断トツです」
「そうか。情報提供助かった」
「はい。お気をつけて」
最初はBランク、という事はそこまで警戒されていなかったのだろう。
セリシアが統制するギルドが、モンスターの査定を誤るとは思えない。
「当初とは違う魔物が主となっている、という線か」
そんなことを考えながら道を歩いていると、何やら大きな声が聞こえてきた。
「探せ!何としてでも探せ!」
「南方向、いませんでした!」
「なんだと!?北、西、東はもういなかったのだぞ!?」
「分かりません...もしかしたら王都の外へ出てしまっているのかもしれません...」
「そんな...」
最初はペット探しかと思ったが、そういう規模ではないようだ。
「ふむ。気には留めておこう」
魔物の森というのはこの前行った西の湖とは真反対にある森だ。
古くから魔物が湧きやすい場所として冒険者の間では有名である。
しかし、その魔物の多さから、森の主となる魔物は他の場所の魔物とは比較できないレベルに強い。
魔物の森と王都の東門の間には、王宮魔導士団が造り上げた結界がある。
それが無ければ、王都に絶大な数の魔物が入り込んでしまうだろう。
人間には作用しないのだから、器用なものだ。
「さて、どうやって探すものか」
主、と言われても、その魔物の姿形が分からない以上、強そうな魔物を片っ端から倒していけばいいことだ。
「早速寄って来たな」
俺が森に入ってほんの数十秒。
周りには六体のウサギのような魔物が俺を取り囲んでいた。
奴らはタイミングを合わせ、俺に飛びかかってきた。
「上手く統制されているな。主の知能はかなり高いようだ」
因みに、周りは森のため、火が付けば大きな火事になることもある。
なので、出来るだけ火の魔法は避けるように言われている。
——〈範囲雷撃〉——
「ふむ。少し焼けているが、素材としては使えそうだ。持ち帰っておこう」
常にギルドが設けている魔物討伐の依頼には、提出箇所がある。
しかし、魔物をあまり傷つけずに討伐できれば、素材として買い取ってくれる。
もちろんその方が報酬は良い。
魔物から寄ってきてくれるなら、かなり儲かりそうだ。
俺は次の魔物に狙いを定め、木々の間を抜けていった。
「っはぁ...っはぁ...っはぁ...」
その少女は追われていた。
見るからに小どもで年は16くらいであろうか。
明らかに身長が三倍はあるその魔物に目を付けられ、もう何分も逃げ回っている。
普段運動することがあまりなかった少女の体力は今にも尽きかけようとしていた。
「きゃっ!!」
足場の悪い森の中、蔦に足を取られて転んでしまった。
膝からは赤黒い血が流れる。
無理やり立ち上がろうとするも、痛みに耐えられずその場に倒れてしまう。
「どうして.....こんな...」
目の前の魔物の大きな手が少女の小さな体を包み込む。
逃げようとしても、その強靭な握力の前ではただ無力でしかない。
「誰か.....うっ...たす...け...て.....」
ゆっくりゆっくりと魔物は左腕を口へと動かしていく。
もうダメだと諦め、天を仰いだ少女に、一点の希望の光が差した。
真上に人間がいるのである。
「グギギギギアアアアァァァァァ!!!!!!!!!!!」
少女を掴んでいた魔物はうめき声をあげ、その無駄に大きい頭の上に一人の人間が立っていた。
「お前、冒険者ではないな?なぜこんな場所にいる?」
俺は少女にそう声をかけるが、彼女はまだ状況が理解できていないようだ。
「すこし力を抜いておけ」
魔物の頭に差していた剣を引き抜き、眼にも止まらぬ速さで彼女を掴んだままだった腕を文字通り微塵切りにした。
少女は突然宙に放り出されたことに驚くが、地面で俺がキャッチする。
「なぜここにいる?魔物の森だという事は知らなかったか?」
「あ...え...いえ...その...」
服装を見る限りただの町民ではあるまい。
どこかしらの貴族の娘だろうが、間一髪だった。
俺が気づくのにあと数秒遅れていたら、あの魔物に喰われていた。
「しかし、運が悪い。こいつはこの森の主。Sランクでも手に余る魔物だ。統制の仕方を見ると、自分から狩をするようには見えないしな」
「あ、あの...あなた様は?」
「俺か?ソウタ・ミカヅキ。ただのSランク冒険者だ。お前こそ誰だ?」
「わ、私はアイリス・グレイシア」
「アイリスだな。俺はこれからこの魔物をギルドに届けなければならない。お前はどうする?」
アイリスはきょとんとした顔をする。
「私、名乗りましたよね?」
「ああ。名乗ったな。それがどうかしたか?」
はて、有名な貴族だったか。俺はそこまでこの世界の貴族事情に詳しくない。
グレイシア、か。まあ聞いたことがないな。
いや、聞いたことがあるか?
まあ、俺の記憶能力なんてあてにしても仕方がない。
「それで、アイリスはどこへ向かうんだ?」
「・・・では、とりあえず王都まで」
「分かった。ちょっと待ってくれ」
俺は頭を剣でぶち抜き、左腕が粉々になっている魔物を見る。
これでは素材にはならないか...とも思いながら、収納空間に収めていった。
「収納魔法...魔道具なしで使える人は初めて見ました」
「そうか?まあ、魔道具があれば問題ないと考えるのが主流だろうな」
「そうなんですかね...」
しまい終えると、俺は先ほどの様にいわゆる『お姫様抱っこ』と呼ばれる形でアイリスを持ち上げた。
「な、なななななんですか!?」
「ああ、アイリス、高いところは苦手か?」
「...いえ、そうでもないですけれど...ソウタさんは何を」
「行くぞっ」
「ええ!?」
俺はアイリスを持ちながら、全力でジャンプをした。
すると、俺達の高さは森の木々を余裕で越え、王都の壁よりも高くなった。
「あははっ!気持ちいいです!お家が見えます!」
「そうだろ?これで東門の内側まで一っ飛びだ」
俺だけなら勢いのまま着地できるが、今はアイリスもいる。
速度を緩和させるため、風の魔法でゆっくりと降下していった。
「ふむ。行きの時にも騒いでいたが、まだあの兵士たちは探し回っているのか。一体何を探しているんだか」
「...あ、あの、」
「なんだ?」
「多分私だと思います」
.....マジか。
「おい!王女殿下を発見したぞ!」
「一人の男に捕まっている状態だ!取り囲め!」
「奴が誘拐犯だ!殺さず捕縛しろ!」
俺達が着地すると、もう兵士たちに囲まれていた。
「王女とは、アイリスの事か?」
「私、自己紹介しましたよ?アイリス・グレイシアって」
「グレイシア、そうか。どこかで聞いたかと思ったが、この国の名前か」
「国の名前忘れることってあります!?」
王女とは純白のドレスを着ているものと思っていたが。
まあ、当たり前か。シンデレラも常にドレスを着ていたわけではあるまい。
ともかく、この兵士たちの誤解を解かねば。
「おい!俺は誘拐犯でもなんでもない。王女はそちらに引き渡す。武装を解除してくれ」
「皆!惑わされるな!俺達が武装を解除したところで攻撃してくるに違いない!」
「先ほど壁の上を越えて来たぞ!恐らく強力な風魔法使いだ!」
いや、壁を越えたのは単なる筋力だ。
「しかし、困ったものだ。アイリス、どうにかできないか?」
「...それなら、とりあえず降ろしてもらった方が...」
そういえば俺はアイリスを抱えたままだった。
「それはすまなかった」
「べ、別にそのままでのいいんですけどね」
「お姫様抱っこされたいぐらいなら後からもできよう。今は彼らを説得してくれ」
「されたいわけじゃないです!!そ、そそそれにお姫様抱っこって言いうんですか、あれは」
「もういい。さっさと説得してくれ。話は後だ」
「分かりました」
つくづく王女感のない王女だな。
「皆さん!彼は誘拐犯ではありません!魔物の森で私を助けてくださった冒険者様です!」
「な...なんですと!?」
はぁ。これで落ち着くだろう。
「王女殿下はあの男に洗脳されている!捕縛では足りぬ!全員で殺しにかかれ!」
「なんと卑劣な男...あんな純粋な王女様を洗脳して自分のものにしようとするなんて...」
「お前ら!刺し違えてでも殺すぞ!!」
「おい、アイリス。悪化してないか?」
「き、気のせいですよ。ほら、皆さん道を開けて...」
彼らはアイリスの言葉など気にも留めず俺に剣や槍を向けて突撃しにくる。
「そそそそソウタさん!どうしましょう」
「どうするもこうするも、一旦王城まで行けばいいんじゃないか?」
「この包囲網を抜けられるんですか?」
「実力行使なら得意な方だ」
俺は瞬時に魔導書を出し、彼らの攻撃を防御する。
「なに!?防御魔法だと?」
「くそっ!この領域に入れもしない!」
「一体どんな魔法を...」
「なに、ただの〈絶対防御領域〉だ」
絶対防御領域というのは、内外共に干渉することが出来なくなる領域の壁。
内側からも攻撃できないのが難点だが、ただ防御目的ならば最上級の防御となる。
「んな、怯むな!防御が解除された瞬間を狙え!」
「そうだ!ここまで完璧な防御を保つには大量の魔力が必要!」
「取り囲んで魔力切れを待て!」
そのとおり。
防御魔法は魔力が限定されていない。
つまり、魔力を使えば使うほどより強度な壁となる。
今俺はアイリスを含んだ領域を作っているため、少し広めの完全防御をしている。
人間の魔力量ではそう持ちはしない。
だが、それは普通の人間だった時の場合。
「アイリス、もう一回お姫様抱っこだ」
「え?どうして?」
「できるだけ範囲を狭めておきたいからな」
「い、いいいいいですよ???」
「助かる」
俺はアイリスを軽々持ち上げると、領域を限りなく狭めた。
「よし!魔力が尽きそうなんだ!」
「みんな!準備をしろ!王女殿下に当たらないように攻撃しろよ!」
「ソウタさん、大丈夫なんですか?」
「ああ。問題ない。それに、これは魔力切れのためではない」
「そうなんですか?でも普通に考えればそろそろ限界では...」
「俺に常識を当てはめるな」
俺は真っすぐ目の前を向く。
俺の視線の先には、王都のど真ん中にそびえたつ王城があった。
「まさか...ソウタさん、このまま突っ込む気ですか!?」
「しっかり掴まっておけ」
「えええ!?」
全速力で走りだす。
領域が展開されているため、全く風は来ない。
「な...何だとおおおおぉぉぉぉ!!!」
「お、追えー!!」
さすがに俺の速度についてくる者はいなかった。
俺たちは笑いながらも、王城へ真っすぐ向かっていった。
読んでいただきありがとうございます!
王女様出てきましたね。
そして相変わらずのチートぶり....
兵士たちまでかませでしたね。
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