謎の武器屋がありました。
次の日、俺はギルド長のセリシアに呼ばれた通りギルドに顔を出した。
昨日俺が破壊してしまった扉は何事もなかったかのように修復されていた。
驚くべき速度だ。
「なにやら視線を感じるな」
噂は光の速度を超えるとか言っている人間もいたか。
まあ、これから気を付ければいいこと。いつか消えるだろう。
「あ、ソウタさん。ギルド長がお待ちです。奥の部屋へどうぞ」
なぜ受付嬢が名前を知っているのか、と思ったが、ステータスの名前とギルドランクは持ち主の許可なく見れるのだったな。忘れていた。
俺が受付嬢に名前を呼ばれた上、ギルド長が俺を待っているということを聞き、周りのざわざわ感がさっきより増している。
ギルド長と話すことは珍しい事なのだろうか。それとも俺の名前がこの世界風に合ってなかったのだろうか。
「こんにちは。来てくれてありがとうございます」
「特に用があったわけでもない。かしこまらないでくれ」
セリシアは昨日と同じ椅子に座ると、机に一枚の紙を広げた。
そこには、sランク昇格試験依頼の文字と、国王の印があった。
「ソウタさんには今日、sランク昇格に必要な試験依頼をこなしてもらいます」
「内容はどのような物なんだ?」
「簡単に言えば、盗賊の捕縛または討伐ですね。sランク昇格には対人戦闘が出来なければいけません。超重要人物の護衛などの依頼もありますからね」
ふむ。理にかなっているな。
しかし、捕縛または討伐とは、殺してしまっても構わない、という事か。
よっぽどの盗賊なのだな。
「時間は今から5時間後の14時。場所は王都西の門。依頼は他のsランク冒険者の方と合同で行います。ソウタさんは、彼らの補助をお願いします。昇格の判断も彼らが行いますので、集合場所で声をかけてください」
「了解した。しかし、なぜ午後に行くのだ?今すぐでもいいだろうに」
「ああ、多分国の方に説明した時、まだ王都に来たばかりだと説明したら、防具等の準備時間をとるって言ってましたね。私はソウタさんに防具なんて要らないと思うのですが、それは国として問題があるようで...」
「そういう事か。しかし、あいにく俺は金をそこまで大金を持ち合わせていないのだが」
転生前にジェネシスに初日宿泊分をもらっただけだったので、昨日で既に使い切っていた。
「大丈夫です。資金はこちらで用意させていただきましたので、存分に使用してください。依頼料の差し引きもございませんので」
「ほう。それは助かる。もし知って入れば良い武器屋があれば教えてほしいのだが」
「武器屋でしたら、大通りをもう少し王城側に歩けばいいお店がありますよ。ソウタさんは魔法使いなので、魔力波長の合う杖などがあればいいと思います」
魔法使いを自称したつもりは無いが、周りから見ればそう見えるのだろう。
何せ魔法しか使っていないからな。ただ武器が無かっただけの事なのだが。
剣には興味がある。使い勝手がいいし、せっかく剣神の加護をもらっていることだしな。
「では、さっそく行ってくることにする」
「はい。ソウタさんでも今回の依頼はツラいかもしれません。どうかお気をつけて」
「ああ。帰ってくるまでにssランク推薦の紙でも書いて待っていてくれ」
大通りはそこまで混んではいなかった。
王都の商業者が多い。次いで冒険者だろうか。観光客のような人はあまり見かけない。
そういった世の中なのだろうか。
「ん?ここは...」
まだ武器屋にはついていない。
そこは怪しげな雰囲気を放つ裏路地。この道に進む人は今のところ全くいない。
しかし、俺は何故だかその道に吸い込まれるように入っていった。
奥に進んでいくと、一軒の古びた店があった。
ここだけOPENと書いてあるが、周りに人の気配は全くない。
「いらっしゃい。お客さんとは珍しいのぅ」
キーっと音を鳴らしながらドアと開けると、白いひげを生やした老人が店の奥に座っていた。
「なぜこんなところに店を構えているのだ?客はそう来ないだろう」
「ふぉっふぉっふぉ、今こうしてお前さんが来ているではないか」
「俺だって来ようと思って来たわけではない。人間を吸い寄せる魔道具でもあるのか?」
あれは間違いなく自分の意志ではなかった。何か俺に作用するものが無くてはおかしい。
「なに、強い者が吸い寄せられるだけ。わしの意図ではなく、お前さんの強さがここに反応してるのじゃよ」
「ふむ。にわかに信じがたいが、嘘はついていないな」
「ほう。魔眼か。久しぶりにみたのぅ」
俺がもらった加護の一つ、魔眼神の『真実の魔眼』。
これは常時発動しているわけではないが、自分の知りたいことがある時は便利だ。
発動時に眼が青色に光るのが難点だが。
「ほれ、武器を買おうとしていたのじゃろう?筋力レベルはいくつじゃ?」
「10だ」
「10か...うむ、剣の経験は?」
「.....Lv.10に驚かないのだな」
昨日のセリシアの反応を見る限り、Lv.10の話はしない方がいいと思っていたのだが、どうとも思っていないようだ。
この老人、何者なのだろうか。
「さっきも言ったじゃろう?ここには強い者が来る。能力レベル10くらいいじゃ驚かんさ。筋力Lv.10という事は、筋力神の加護もあるのじゃろう?」
「よくわかったな」
「Lv.10なんてもんは神様の力無くしちゃ基本無理じゃかなぅ。それで、剣の経験は?」
「全くないぞ」
「なら大剣じゃな。それだけの筋力があれば、大剣なら振り回すだけで攻撃になる」
「大剣か。使い方が分からないのだが、確か斬るのではなく叩く剣だったか?」
前世でそれなりの知識はある方だった。
ものが作られた要因と使用方法は調べることが理系学生として気になって仕方がない時期があったのだ。
結果的に大量の理論を頭に入れ、それ以外の知識が全然頭に入らなくなってしまったほどだ。
「その通り。剣のが分からねば石を持てとよく言うじゃろう?」
聞いたことが無い。この世界のことわざだろうか。
「では、大剣を一つもらおう。あまり高くないものにしてくれ。あまり財布に余裕が無くてな」
「うむ。出世払いで良いものにするという手もあるが?どうする?」
「いいや、普通のものでいい。まだ今後の身の振り方も考えてないものでな。とりあえず武器が欲しかっただけなんだ。それに魔法が使える。そこまで問題は無いだろう」
「分かった。今用意するからな」
そういうと老人は大剣が十数本入っている箱を物色しだした。
中に入っているのはどれも一級品だ。
「おい、俺は安いものでいいと言ったのだが?」
「なに、問題ない。安くすればよいのだろう?それに、見る限りお前さんは反魔法を知らないみたいだいのぅ」
「反魔法?」
「ああ。魔法を無効化、または妨害する魔法の事じゃ。反魔法が使えなくとも、相手が反魔法の魔道具を持っている可能性は高いじゃろう?高火力で押し切れるじゃろうが、周りにも被害が及ぶ。配慮しながら反魔法を相手にするのはいくらお前さんでも厄介じゃと思うぞ」
「そんなものが存在するのか...迷惑をかけてすまないな」
「なに、気にするな。どこから来たかは分からんが、この世界にとってのお客さんなのじゃろう?」
そんなことまで分かるのか。
ますますこの老人は何者なのだろうか。
「俺の事を知っているのか?」
「いいや、今日初めて会ったさ。しかし、分かるというよりかは『感じる』という方が正しい。お前さんが本当にこの世の者なら、とっくにこの国のトップになっているじゃろうしな」
「ふん。あいにく政治には興味が無くてな」
「ふぉっふぉっふぉ。やろうと思えばできるという事か。やはりお前さんは面白い。いいだろう。今日の会計はわしが持とう。代わりに、武器が必要になればここへ来い。いいな?」
「約束しよう」
「よし、これじゃ。持ってみろ」
俺が渡されたのは、刀身の横幅が全力で開いた手よりも長い剣。
日本刀とは違い、剣の両側が使えるようになっている。要は西洋剣だ。
「たしか魔法を使う杖に魔力波長というのがあると聞いたが、剣にはあるのか?」
「おう!よく知っているではないか。実はな、この剣は魔法が使える人間用に作られた剣なのじゃ。お前さんに合うと思ってな」
「ほう。魔力を流し込めるのか」
「剣を媒介に魔法を使うことが出来る。しかし、魔力の流し過ぎは厳禁じゃ。特にお前さんのような魔力量お化けはそうじゃ。剣の方が耐えきれん」
「上限はどれくらいなのだ?」
「確か、この剣は3000マナじゃったかな。これでも多い方じゃよ?」
俺の魔力の10分の1は入れられるのか。それなら大体のことは出来よう。
「試してみな」
俺は魔力量を調整して、だいたい100マナを剣に流した。
「その剣の特性は、魔法変換していないマナを入れると剣自身が強化されることじゃ。100マナも入れればそうとうなことが無ければ折れることはないぞ?」
「それは便利な機能だな。しかし、それだけだと剣を媒介にして魔法を打つ利益が見えてこないぞ?上限も鑑みればそのまま使った方がよくないか?」
「ふぉっふぉ、そう思うじゃろ?そこで子も剣の二つ目の特性じゃ。この剣を媒介にすれば、一定時間剣がその魔法を記憶して、超微小な魔力だけで発動できる上、魔力操作を緻密にすれば、相手に剣が当たった瞬間に魔法が発動させることもできるのじゃ!」
つまり、爆破魔法を剣を媒介に使えば、剣を当てただけで爆発させられるという事か。一見使用が困難に見えるが、俺がそれを成しえると分かって説明したのだろう。
「ちなみに、その記憶時間と必要魔力量は持ち主と魔力波長がどれくらい合うかによる。わしの見立てじゃと、80%くらいかのぅ。良い方じゃぞ」
「では、この剣にしようか」
「うむ。わしもいいと思うぞ」
老人に渡された鞘に剣をしまい、腰にかけた。
「そういえば、名乗っていなかったな。俺はソウタ・ミカヅキだ。あんたの名は?」
「アインザム・カイト。アインズとでも呼んでくれ」
「分かった。アインズ、世話になったな。また用があったら来よう」
「おう。待っとるよ」
アインズとの会話を終え、店を出た俺は、集合場所の西門へと歩き出した。
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