転生します。
「はぁ....」
いつも通り起きて、いつも通り支度をして、いつも通り大学へ行き、いつも通り講義を受ける。
気づけば今日のように電車のホームに並んでいる。
そんな当たり前すぎる毎日に、俺は特に何を感じたわけでもない。
むしろ、何も感じないからこそ、ため息がこぼれたのだろう。
かの自称ベテラン教師はこう言った。
『そんな当たり前の日常を過ごせることにも感謝しなさい。当たり前に過ごせない人も世の中に入るんだ』
俺からしたら、そんな事は知ったことではない。何故当たり前に感謝をせねばならないのか。自分とは何のかかわりもない人間の事を想わなければならないのか。
しかし、人間は変化を恐れる。変化を求めながらも、それに恐怖を抱いている。
仮に、自分の眼の前に神が現れたとしよう。
神は自分に二つの選択肢を与えた。
一つ目は、この世界での穏やかな暮らしを約束すること。
二つ目は、命の保証はしないが、こことは違う、別世界に転生させること。
後から話せば、面白そうだ、とでも言って自分は二つ目を選ぶと笑い飛ばすだろう。
しかし、実際にその場で冷静でなければ、間違いなく人間は一つ目を選ぶだろう。
その原因が、変化への恐怖だろう。
そして、その範疇に入ってしまっている俺自身へも、嫌気がさしてしまう。
「!?」
俺は突然後ろから強い衝撃を受けた。
もちろん知っていて準備をいていたわけではないので、体勢が整っていない。
身長は170あるにもかかわらず体重が50㎏程度のひょろひょろな体に耐えられる衝撃ではなかった。
俺の意識はそうもたず、相手の顔を確認するまでもなく、落ちた。
気づけばもう、
死んでいた
「目覚めましたか」
眩い光が段々とおさまっていき、目の前には純白のベールをかぶった女性が立っていた。
「俺は...電車に轢かれて...そのあとは...」
「死にましたね」
あっさり言われた。
「ではここは?」
「ふむふむ...あなたの世界の言葉を借りるなら、『天界』というのですかね。天上の神々がいる世界の一部屋ですね」
「なぜ俺がここにいる?」
「攻め続けるのがお好きですか...嫌いじゃないですけどね」
早くも神々しさが見えなくなってきた。
「あなたは死んだ。そしてここは選択の間。あなたの世界の生命循環にのせて新たに生を受けるか、他の世界に転生し、『神々の試練』を受けるか。あなたの今後がこの時に決まるのですよ」
前者は聞いたことがある。神々は死者の魂を生命の循環に戻す力を持つと。しかし、後者の話は全く分からない。
「その『神々の試練』とういうのは?」
「そうですね...簡単に言えば、新たな神となるための人事面接というのが分かりやすいかと」
この神、ぶっ飛んでいるどころではない。
俺のようなただの一般人に神になるかだって?
やはりここが天界というのは嘘で、あのあと誘拐でもされたのだろうか。
宗教だろうか。やはりり宗教の人だろうか。
「そいういうものは興味が無い。もう帰っていいか?」
「無論、生命循環に戻るのは結構ですけど、死者は生き返らない。それがあの世界のルールです。あなたとして戻るのは無理ですよ」
そういうと、彼女は空中に映像を浮かび上がらせた。
「これは...」
映像の中で、俺の母親が病院で泣いていた。
母親が泣くところを見るのは初めてかもしれない。
この人は、本当に神様なのかもしれない。
実際のところ、俺は今生きているという実感がない。ふわふわ浮いているような感覚だ。
「お分かりでしょう?あなたには二つの選択肢しかない。正直に言えば、『神々の試練』を受けてくれればうれしいですね。最近は戦争とかも無くなって、あなたの世界からは質のいい死者が来てくれないんですよ。まぁ、平和に越したことは無いですけど、私たちは私たちで事情がありましてね。数少ないチャンスなんですよ」
まぁ、分からなくもない。
世界大戦等が行われていた時は多くの若い人間が死んでいたのだろうが、平和な近年は、俺のように若くして死ぬ人間は少ない。
しかし、だからと言って協力してやる理由もない。
「それで、俺に何の得が?」
「むぅ~...神になることを得と捉えないのなら...異世界での優位権、あと、試験を突破できれば、実技演習で世界一個もらえるとかですかね」
「世界一つ.....」
世界一つもらえるという事は、自分の好きな方向に世界を進められるという事。それは.....
魅力的だ。
「よし、少し話を聞かせてもらおうか」
「妥協点そこなんですね...」
少々呆れられながらも、彼女は話し始めた。
「私は全世界の創造の秩序を司る神、創造神ジェネシス。神々のなかではベテランの方です!」
胸を張ってジェネシスが言う。
全世界の創造神、というと、そうとう偉いのだろう。その偉い役職に就いているのが、たまに神々しさが消えるような神でいいのだろうか。
「『神々の試練』の内容は、破壊に向かっている世界に転生して、それを阻止すること。それは天界の神々ものぞくことが出来て、あなたに合った秩序を授けて神とする。簡単でしょう?」
「じゃあ、さっき言っていた異世界での優位権というのは?」
「チート」
ほう。
「分かりやすくてありがたい。それはジェネシスが俺にくれるのか?」
「まぁ、間接的に他の神からも祝福を受けることになります。直接は私が渡すのですがね」
神の祝福と言えば、ライトノベルやゲーム内で聞く、神から与えられる力のことで間違いないだろう。
あまりゲーム等をしない人生だったので、あまり詳しくはないのだが。
「俺が行く世界の事を教えてくれ」
「はい。あなたの担当は『クオリア』と呼ばれる世界。あなたの世界ほど人間の感情等が難しくありません。逆に言えば、酷い人は際限なく酷いということですね。あと、文明も未発達でして、科学というものが存在しません」
科学が存在しないとなると、人類はどういった文明を築いているのだろうか。
俺の世界では、世界の背景には必ずと言っていいほど科学が絡んでいた。
その科学が無いとすると、火の発見も謎だ。
「簡単に言えば、魔法が発達しているためですね。そのせいで科学の必要性は皆無だと思われているのでしょう。転生すれば、あなたも亜神程度には使えるようになりますよ」
「神々の祝福とやらの効果か。にしても、亜神言えば、下位神では?」
「いえ、違いますよ。亜神は神のなり損ない。下位神とは比べ物になりませんね」
どうやら亜神と神々には一線が引かれているようだ。それにしても、神のなり損ないということは、俺も一歩間違えれば亜神になってしまうのだろうか。
「いえ、転生者が亜神になるのではなく、また別ルートですね。あなたの世界の伝承とは違って、神でも子どもを産むんですよ」
「その神の子が勘当されたもの、ということか?」
「そうですね。基本的には神の秩序に逆らったりしたものが亜神となります」
それなら一安心だ。しかし、亜神レベルの力を持たせるという事は、そういう事だろう。
「亜神が相手になるかもしれないということだな」
「その通り。高確率で亜神と交戦するでしょうね」
「それで勝った上で世界の破壊を阻止する。そうとう忙しいスケジュールだな」
「とは言えど、しっかり力は渡すんです。ただの人間では敵いませんからね。それに、亜神くらい倒せないと神には到底なれません」
神は基本的に争いをしない。自分の秩序を守るだけなのだから。しかし、亜神のように神に抵抗する者がいる世界もあり、その程度の者には負けてはならないのだ。
「ふむ。大体わかった。俺は『神々の試練』を受けることをここで宣言しよう」
「おー!ありがとうございます。では神々の祝福を差し上げましょう。それによって、魔法神、魔眼神、剣神、筋力神、生命神の秩序の一部が使えます。そして、それぞれの案内神、つまり私の祝福ですね。創造神の祝福を差し上げます。最後に...」
「最後に?」
「これはおまけです。あなたが欲しいものを一つ差し上げましょう。『クオリア』で使えるお金でもいいし、転生する国の国王とのコネでも、なんでもいいですよ」
ふむ。これは悩みどころだ。ここで何を選ぶかによって破壊阻止にかかる時間が大幅に変わるだろう。
俺はさっさと終わらせて世界を貰いたい。
しかし、せっかくの異世界を楽しむのも一つだろう。
「よし。俺は記憶が得意じゃない。魔法は覚えきれまい。記録できる魔導書をくれ」
「おお、あなたって意外と頭いいんですかね。分かりました。授けましょう」
彼女が右手を前に出し、手のひらを上に向けると、光を放ちながら一冊の本がゆっくりと降りてきた。
創造神の秩序の力だろうか。
「こちらをどうぞ。保存できる魔法に限りは無く、あなた以外に使用権限はありません」
黄色のオーラを放っているが、どこか古びた魔導書。
ここで友人の漫画語りを聞いた成果がでるとは。
「あと、表紙の黒いダイヤ模様には魔力をためられます。そうそうないと思いますが、魔力が枯渇した時用などに役立ててください」
「了解だ。して、俺が『クオリア』に行った後に、ジェネシスと連絡は取れるのか?」
「え!?連絡先を聞かれてる...?」
「ふざけずに答えてくれ」
「へいへい。『クオリア』各地にある教会に行けば、意識だけこの天界に来ることが出来ます」
「そうか。それならいい」
時間が惜しい。やるなら全力でやる。それが一番なのだから、全力で楽しんで一瞬で攻略して見せよう。
「さちなみに、破壊の阻止の最高タイムは何日だ?」
「ふふふ。それは天界での機密事項なので教えることはできませんねぇ」
「ふむ。それだけ早いという事か。望むところだな。最高タイムを俺が出してしまおう」
「それはそれは。せいぜい頑張ってくださいね」
「ああ。では早速行かせてもらいたいのだが...このままでは問題があるだろう?」
俺は私服のまま。おそらく『クオリア』とマッチしていないだろう。
「大丈夫です。転生の際に容姿、服装共にイジっておきますから」
「ふざけた格好にしたら承知しないからな」
「安心してください。私のタイプにしておきますから」
「神の仕事中に私情を挟むな。ジェネシス、お前はそれでも創造神か」
考察するまでもなくジェネシスは駄女神だろう。
「まぁ、文句は行ってからにしてください。丘の上に飛ばすので、すぐ下の街で情報集め等してくださいね」
「ああ。分かった。では頼む」
「それでは、いってらっしゃ~い」
「遊園地のスタッフk...」
俺のツッコミが終わる前に、俺の体は天界から消えていた。
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