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君の名はアリス  作者: 雅
3/3

小さな彼女

どのぐらい歩き続けたのか分からないが、脹脛(ふくらはぎ)が少し張ってきたぐらいは歩き続けた。

白ウサギが起こした強風により靄は晴れ、太陽が明るく見えるお陰で辺り一面見渡せられるようになった。

ただ、この太陽は一向に動く事なく、ずっとわたしの真上を照らし続けている。

日が傾く事なく、雲がかかる事なく。

少し淀んだ水色の空に丸い照明を吊るしているような、そんな作り物に思えた。

自分の影の傾きで少しは時間の流れが把握できるかと思って居たが、溜息を吐いて歩きだしたのはつい先程の出来事である。


「道はこの一本しかないし、信じて歩き続けるしかないよね・・・」


白ウサギが消えてから現れたこの一本道。

他の選択肢が無い以上、真っ直ぐ突き進むしかない。

自分の居た世界に帰るためにも、本当の名前を思い出さなければ。


「貴女が新しいアリスなのね」


不本意ながらアリスの名前に反応をしてしまい、足を止める。

散々白ウサギにアリスと呼ばれたせいでもあるし、今この場にわたし以外の人物は居ない事から足を止めただけであって。


「わたしはアリスじゃない」


「いいえ。あの白ウサギがアリスと認めたのよ。だから貴女がアリスで間違いないわ!

 お会い出来てうれしいわ、私たちの可愛いアリス」


穏やかで丁寧な言葉遣いだが幼さを感じる声は、そっと優しくわたしを包み込んだ。

白ウサギとの会話で心を乱された為、この優しい声色に涙腺が少し緩くなってしまいそうだ。

でも、どれだけ迎え入れてもアリスではないと否定し続けないといけない。

何もない、空っぽな自分を唯一存在意義できる方法だとわたしは思うからだ。


制服の袖で微量に濡れた睫毛を拭い、声の主を探してみるが見当たらない。

白ウサギと同様の奇妙な姿をしていると身構えるが、見渡しても一本道を挟むように青々とした木々しか目に映らなかった。

すぐ近くで声が聞こえたのは間違いないが、もう少し先にいるのかと思い、右足を一歩前へ踏み出す。

と、優しい声とは打って変わって「きゃあっ!」と悲鳴が聞こえた。

その声に体をびくつかせると「お願い動かないで!」切羽詰まらせながらも更に声が続いた。


「下を見て頂戴!」


「し、下って・・・きゃああああっ!」


悲鳴をあげてよろめいた途端に尻もちをついた。

彼女の指示通り下を見ると、居たのは青いイモムシ。

ただ虫が居ただけなら悲鳴まではあげない。尻もちもつかない。


その青イモムシの顔は人だった。今度は人間の、幼女の顔だった。

体は幼虫の様に丸くなっており、色はアクリル絵の具の青をそのままべた塗した様な真っ青で、足付近に小さな黄色い丸が均一に並んでいる。

一番苦手とする足の部分だが、手の様に見える前列数本を除いて後列はサーモンピンク色のバレーシューズを履いている為気持ち悪さは半減したが、不気味さは極み経った。


「驚いてるところ悪いのだけれど、手を貸して頂けないかしら?」


「え、手を貸すって」


「恥ずかしながら自分の力だけじゃ時間掛かっちゃうの。ね、お願いアリス」


顔をこちらに向けながら懸命に起き上がろうとするような動きをしているが、わたしには幼虫がただ蠢いているだけにしか見えず目を逸らしたくなった。

だけども顔が人間、更には幼い子供となると話は別となり、情が移って手を貸す事にした。

片膝をつき両手で彼女の青い体をすくい上げる。

体は虫そのものなので何とも言い難い感触が手のひらに伝わり、ぞわぞわっと鳥肌が立った。

手のひらから「あの葉っぱの上でおろして頂戴」と指示を受けるも、彼女の姿は直視できず素早くそして丁寧にゴール地点へ運んであげた。

おろしてあげたあと、彼女にバレない様にささっとスカートの裾で手のひらを拭った。


「ありがとうアリス!とても助かったわ」


「そ、そう・・・それはよかった」


「あら?ちょっと顔色が悪い様に見えるけど、大丈夫?」


「大丈夫大丈夫!なんともないから!」


苦手な虫に触ってしまったから気分が悪い。

なんて言葉はもちろん言えないので、元気いっぱいである証拠を見せるため両手を全力で左右に振った。

白ウサギの様に表情が読めなかったら気遣いなんてしなくても良いのだけれど、幼い子供の表情だと無下に出来ない。

短い深呼吸をしてから、彼女の顔だけを見るようにして話しかけた。

どうしても見えてしまう本体は、そう。

青いワンピースを着ていると思い込もう。


「この一本道の先って、何があるの?」


「この先に行くと小屋があるだけよ」


「・・・小屋だけ・・・なの?」


「ええそうよ。道は小屋に続いているだけで、その先は何も無いし、それ以外の建物はないわ」


小屋だけか、とまたポツリと漏らす。

意味深に思えた一本道の先にあるのが、たったの小屋だけ。

いやきっとそこに何かあるはず。

小屋だけを建てた理由がきっとそこにあるはずだ。

自分の中で気合を奮い立させるも、目の前の小さな彼女には落胆する様子が移ったらしい。


「ねぇアリス。ここで出会えたのも何かの縁よ。ご一緒にお茶会でもいかがかしら」


「お茶会って、ここで?」


「いいえ、この道の先の小屋でするの。とっても楽しいと思うわ!」


数本ある小さな紅葉の手を合わせ、優しく微笑む彼女は素直に可愛らしかった。

幼さが残る可愛らしい声色に乗せて品のあるどこかの国の姫君と思わせるような喋り方、そして体は見るに堪えない青イモムシ。

本当にこれが全てわたしの夢の産物なのであれば、自分の心理状態を詳細に分析したところだ。

だけど得体のしれない彼女と出会って数分しか経っていないが、容姿を除けば彼女と仲良くなっておきたいと思い始めていた。

彼女はアリスであるわたしを慕ってくれていると分かっていても、それを利用してでも少しだけ心休まる一時が必要だった。

それに仲良くなって置くことで彼女の知恵や手助けを得られるかもしれない。

利己的な考えだけども、これも自分の世界へ帰るためだ。


「わたしもお茶会がしたい」


たった一言で彼女はより一層表情を明るくした。

その顔に誰かの面影を感じたが、一瞬で消え去った。

今はその一瞬の思い出よりも大事な事があったからだ。


「その・・・運ぶ時は乗っている葉っぱごとで良いかな・・・」


少し間を置いて彼女は姫君と思わせるお上品な笑い声をあげてくれた。


あのぞわぞわ感をまた味わうのは、考えただけでぞわぞわしそうになった。

苦手なものは夢であっても、別世界であったも苦手なものだ。


第2の登場人物です。

作者も虫が大の苦手なので、頑張って描写を書きました。

読んでる方も想像してぞわぞわして頂ければ頑張った甲斐があります。

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