第1章第2話 ~始まりは目覚めから・・・ 前編~
唐突に目が覚めた。
それはまるで何時の間にか寝落ちした状態から起きた様な、もしくは気絶していた状態から起きた様な、そんな感じだった。
「・・・・・・・・・」
目を見開いた先に会ったのは青々と広がる青空。その中を小さな鳥がチュンチュンと鳴き声を鳴らしながら飛んで行く姿が見えた。
それを目にした後で、どうやら自分が仰向けの状態になっているらしい事に気付いた。
とりあえず起き上がってみようと思い、自身の体を動かしたのだが、その際に一瞬頭痛を感じて反射的に自分の頭を右手で押さえる。
その時だ。自身の右手が何かに包まれている事に気付いたのは。
それは一見すれば刺々しく禍々しいと思える見た目の肘までを覆う手甲であった。全体的に黒を基調とした鱗のようなものでびっしりと覆われており、指先に鋭く尖った銀色の爪が付いている。
また、手の甲部分には紫色の菱形の水晶が付いており、そこから鮮やかに薄く発光する五本の紫色のラインが肘まで伸びているのが視界に入った。
「・・・・・・・・・」
握ったり開いたり、己の意思通りに動く手甲に包まれたその腕を見て―――しかしそこで違和感を覚えた。
自分の手はこんなに小さくはなかったし、手甲なんて無骨な物に包まれている筈がない、と。
だが、どれだけ否定しようとしても現実は変わらない。その禍々しい見た目の手甲に包まれた手が自身のモノである事に変わりはない。
「・・・・・・はぁ」
溜め息を一つ吐きながらゆっくりと立ち上がる。
その後で自身の体を見下ろして、やはりそれにも言葉に出来ない違和感を感じて思わず眉間に皺を寄せた。
体の凹凸具合を見るに、どうやら少女の体であるらしい。大人に成長するその途中だと言えそうな、何処か幼さを感じさせるそれだ。
また、身に着けている装いもえらく独特だと言えた。
まず目に付くのは胸元の鎧だ。形状は胸当て鎧のそれだと思われるが、その中心部分には手甲に付いている物と同じ菱形の紫色の水晶が取り付けられており、そこから鮮やかに薄く発光する五本の紫色のラインが伸びていて、またそのラインの間には三対六枚の羽根を思わせるシンボルマークが描かれている。
鎧の下には背中側が大きく開き、腰辺りまで露出した白いレオタードの様な衣服が密着する様に纏われていた。加えて、首元には銀色に輝く首輪の様なリングも装着されており、レオタードの生地がそのリングと繋がっているらしく、どうやらそれがレオタードを体に固定させているらしかった。
更に言えば、両手足にも似た様な生地の手袋とサイハイソックスを身に着けており、それらもまた二の腕と太股に装着された銀色のリングによって固定されていた。
腰元へと視線を移せば、そこには黒を基調にして鮮やかな紫色に染まっている裾が目立つ、ベルトで固定するタイプのミニスカートが履かれていた。ただし、その形状はサイドスカートに近い形だったが。
さらにその下の両足には膝までを覆う黒い脚甲を履いていた。膝辺りにはフサフサとした銀色の毛皮が付いており、加えて脛の辺りに手甲や胸当て鎧に付いていたのと同じ菱形の紫色の水晶が取り付けられていと、そこから獣染みた鋭利な銀色の爪が付いている足先に向けて鮮やかに薄く発光する五本の紫色のラインが伸びていた。
その姿を総合して評価すると、まるでどこぞの悪役、もしくはラスボスと呼べそうな印象を受けるであろう装いであった
「・・・・・・ん?」
自身が身に着けている物を確認していた時、ふと視界の端で何か細長い物が動いている事に気付いた。
一体何だろうと思いながらそちらに視線を向けてみれば、そこには鋭い刃物のような突起が先に付いた細長い物があった。
所々節目の様な浅い窪みがある黒い装甲のようなモノで覆われたそれは、時々フルフルと左右に揺れたり、グネグネと蛇みたいな動きをしている。
その様がまるで動物の尻尾みたいだと思い、興味本位でその細長い物が何処から伸びているのかと視線を動かしていく。
「・・・・・・はっ?」
そしてそれが自身のお尻の付け根―――所謂仙骨部と呼ばれる部分から伸びていることに気付いた瞬間、思わず呆けた様な声を出してしまった。まさかそれが自分から生えていたモノだとは思ってもみなかったからだ。
しかし、同時に心の何処かでは納得した様な感覚も覚えていた。それが尻尾の様だと思ったのも、なんてことはない。無意識にそれが己の尻尾であるという事を理解していたからだろう。
正直に言えば、尻尾があるだなんてことを認めたくはなかった。それは自分の体に尻尾なんてある筈がないという認識を前提に持っていたからだ。
「何でこんな尻尾が付いているんだか。・・・・・・って、待てよ?尻尾が生えているという事は、もしかして・・・」
そうして冷や汗を流しつつ揺れる尻尾を見ながら呟いていた時だった。ハッとある事に気付いたのは。
その脳裏には幾つかの尻尾のある動物―――代表的なものとして犬や猫―――の姿が思い浮かべられていた。
彼等には尻尾という特徴以外にも、もう一つ特徴があった。それは頭頂部に付いている耳だ。種別や個体によって形は違えど、尻尾のある大抵の動物は頭頂部に耳がある。
・・・まあ、爬虫類系は除くのだが。
「・・・・・・一応確認しておくか」
そう呟きつつ、おそらく自身の頭頂部にあるであろう獣耳に向けて確認の為に両手を伸ばしていく。
「・・・・・・ん?何だこれ?」
そして触れたのは予想通りのモノ―――ではなく、何か固い突起物であった。
触ってみるとどうやら外れるようであったので、取り外して目の前に持ってくる。
それは猫の耳を模したような内側が空洞になっている突起物が付いたヘッドセットの様な、もしくは太めのカチューシャに近い形状の頭飾りであった。向こう側が薄らと透けて見える生地で作られた紫色のベールのような物も縫い付けられており、鮮やかさも感じられる一品だ。
「ん~・・・・・・とりあえず、これは一度置いておこう」
その頭飾りをある程度見回した後、一度それを地面に置き、当初の目的であった獣耳の確認をしようと再度己の頭頂部へ向けて両手を伸ばす。
予想が間違っていてほしいと内心思いながらも、しかし現実は予想通りであった。
フサフサの毛で覆われた獣耳。それが自身の頭の上にあったのだ。
「やっぱり・・・」
思わずと言った感じに呟く。
人撫でするだけでも触り心地のいい毛並み。思わず癖になりそうな感触だ。しばらく夢心地な気分になりながら自身の獣耳を触っていたが、その途中でハッ!?と正気に戻った。
「しまった・・・こんなことをしている場合ではないのに、つい・・・!?」
半ば我を忘れて触ってしまっていた状態であった事に気付き、自身の頭頂部に生えている獣耳から両手を離す。
「・・・・・・ふむ」
獣耳から手を離した後で、今度は周囲の状況を確認してみようと辺りを見回す。
近くにはそこそこの大きさの池があり、その周囲は数多くの木々が立ち並んでいて、その枝葉は横合いから吹く風によってザワザワと揺れているのが見える。
また、その奥には切り立ったような崖が存在しているのが見え、その高さは十数mくらいありそうであった。
どうやら自分はどこかの森の中、その中にあるどこか開けた広場のような場所で寝ていたらしい。・・・だが、どうして自分がこんな場所に寝ていたのかについては皆目見当もつかなかった。
そもそもどうやって此処に来たのだろうか?と思いつつ、この状況に至るまでの自身の記憶を順序立てて思い出そうとして、だがしかしそこでまさかの躓きをした。
「・・・・・・?」
「(何、だ・・・?何も、思い出せない・・・?)」
まずは自分の名前から思い出そうとしたのだが、しかし何故だか分からないが、それを思い出す事が出来なかった。それどころか他の事に関する記憶もだ。
唯一思い出せたのはある一つの名前だが、しかしそれは自分の本来の名前ではない事は、なんとなくだが分かっていた。
「うーん・・・・・・とりあえず、覚えている名前だけでも口にしてみるか」
だがしかし、他に思い出せる名前を自身の記憶の中から掘り起こす事が出来ない。
故に、内心では仕方がないと思いつつも唯一思い出せる名前を口にしてみる事にした。一度その名前を声に出して言えば何かしら他の事も思い出せるようになるかもしれないと考えたからだ。
「『フェルヌス・クディア』」
そしてその選択はある意味正解であり、自身の状況を一変させる切っ掛けとなった。
「・・・っ!?」
記憶にある名前を口にした瞬間、自分の―――『フェルヌス・クディア』の頭の中に、ありとあらゆる情報が物凄い勢いで浮かび上がり、駆け巡って行った。
それは記憶と言うよりも、どちらかと言えば記録というモノに近かったのだが、しかしそのおかげで、自分が何者でどういう存在なのかという事を思い出す事が出来た。
『フェルヌス・クディア』。
それは『カオスゲート・オンライン』というゲームで彼女が使用していたプレイヤーキャラの名前であり、そして自分はそのキャラを操作していたプレイヤーであった筈だと。
その事を思い出した私は、そこから芋づる式に次々と色々な事を思い出して行った。
二〇XX年。VR技術が確立し、進歩して、今ではその技術は様々な分野へと応用され、科学研究や医療、日常生活にあって当然の物となった時代。
そんな現代社会の日本の中で、あるゲームが多くの人々の間で人気を博していた。
それは『カオスゲート・オンライン』と言い、『アンリミト』という世界を舞台に冒険をするフルダイブ型MMORPGだった。
人気を博した理由は繊細かつ美麗なグラフィックや豊富かつ細かい作り込みが可能なキャラクリエイトもそうだったが、その他にもキャラの強さを表す”レベル”という概念を敢えて廃し、種族や職業に関係なく自分が作ったキャラでトレーニングを行ったり、覚えたスキルや各種技を鍛える事によって成長していくという仕様にしたことだ。
育成の仕方によっては自身が理想とする能力構成でのロールプレイを行えることが出来、それがまた人気を上げる要因となっていた。
加えて、『カオスゲート・オンライン』の作られたコンセプトもまた、プレイヤーをのめり込ませるもう一つの要因となっていた。
それはプレイヤーの好きな遊び方で楽しむといったものであった。
ストーリーの基本骨子となるものは存在するが、プレイヤーは必ずしもそれに沿ってプレイする必要などなく、冒険者としての活躍したり、農業を行う農民や、人類の敵対者として世界の征服を目指す等、様々な自由度の高いプレイを行うことが出来た。
さらにそれだけでなく、『カオスゲート・オンライン』を運営していた会社は、自分たちが展開していた他のゲームとの連携・行き来すらも可能にさせるといった事をした。
設定や仕様こそ個々のゲームに沿ったものを基準にしてはいたが、ロボットや宇宙船などのSF系や幽霊等が出て来るホラー系、FPS等の銃撃アクション系等のアイテムやモンスターをファンタジーな世界にぶち込んだり、またはその逆も行ったりなど、ある意味暴挙とも言えるその所業が、『カオスゲート・オンライン』をその名に恥じない混沌としたゲームへと変貌させた。
それにより、どんどんとのめり込んでいくプレイヤーが続出していったが、同時にそのせいで敬遠し、やめてしまうプレイヤーもまた多くいた。
そして、『フェルヌス・クディア』というキャラを使って『カオスゲート・オンライン』をプレイしていたプレイヤーは前者の方であり、ゲームにのめり込み、楽しんでいた側の人間であった。
次々と溢れるようにして自身の頭の中に浮かび上がってくる多くの情報に思わず眩暈を感じた私は、自身の頭を片手で押さえながらフルフルと横に振った。
「思い出した情報を元に考えると・・・つまりは信じがたいことに私は、自分がプレイしていた『カオスゲート・オンライン』のキャラであるフェルヌスになっているということか・・・」
ゲームのキャラに何の因果か自分が成っている。なぜそうなっているのかまでは分からないがしかし、どれだけ否定しようとも現実として今の私は『フェルヌス・クディア』となっているのだ。近くにあった池を覗いて自身の容姿を確認したのだから間違いない。
池の水の表面に映し出されたのは、日に焼けた様な褐色の肌を持ち、肩に掛かる程度の長さの銀髪と、少し吊り上った形をしている目元に納められた紫色の瞳が特徴的な、美しいよりも可愛らしいと言える容姿の十代前半くらいの少女であり、それはまさしく自分が設定し、作り上げた『フェルヌス・クディア』というキャラそのものであった。
加えて、どうやら今自分がいるこの世界は『カオスゲート・オンライン』ではなさそうだとも私は感じていた。肌に当たる風の感覚や匂い、触れている地面の感触がリアルと同じようにはっきりと分かるからだ。
ゲームである『カオスゲート・オンライン』では此処までリアルに感じられる程、五感をトレースさせることが出来ない。五感を完全にトレースした状態でゲームを行い、その最中に怪我等をした場合、それが現実の肉体にまで影響が及んでしまう可能性も考えられた為、法律によって禁止されていたからだ。
ハッキング等を行えば、今自分が感じているような五感の完全なトレースを行う事は可能だろうと考えられるが、しかし私はそのような技能を持ち合わせていない。一般的な操作は出来るが、それだけだ。
「まるで一昔前に流行ったライトノベルに出てくるような状況だな。・・・まあ、普通ならそんな状況に陥れば、厄介なことになったと頭を悩ませるところなんだろうが、だけど私にはそれと同じくらいに厄介だと思える事がある」
いや、正確には『ある事に気付いた』とでも言うべきか。色々な事を思い出したことでその問題が顕著になったのだ。
その問題というのは、自分自身に関する記憶を全て思い出す事が出来なかった事だ。
確かに一般常識や多くの知識、『カオスゲート・オンライン』に関する情報など様々な事を思い出す事は出来た。・・・だが、その中で自分に関する記憶―――現実の自分の本名やどんな人生を送って来たのか等を思い出す事がどうしても出来なかったのだ。まるでその部分だけ抜け落ちて空白となっているかのように。
「クソッ・・・!?」
自分自身に関する記憶を思い出す事が出来なくて苛立った私は思わず悪態を吐く。
その後で何か他に思い出せることはないかと自分が持つ記憶を掘り起こしていき、そこである一つの記憶を私は思い出した。
それは私がこの場所にやってくる直前の記憶だった。
『カオスゲート・オンライン』に存在するファンタジーな雰囲気を感じさせるとある街。数多くのプレイヤーやNPC―――ノンプレイヤーキャラの略称―――が行き交うその街中で、突如として上空に巨大なヒラヒラとした白いドレスを身に纏った女性のシルエットが出現したのだ。
『数多存在する英雄英傑の皆様にお願い申し上げます。どうか私の世界をお救いください』
現れた時と同じように唐突に語り始めた彼女の表情は目深に被った頭のベールによって隠されていて分からなかったが、それでもどこか悲しげで、それでいて必死さが伺えるものがあった。
最初それを見た私は、何かのイベントが始まったのだろうか?と思った。何故そう思ったのかと言えば、過去にも似た様な形でイベントが起こった事があったからだ。
だが、実際にはそうではなかったらしい。まあ、その時点で気付いたところで既に手遅れだったのだろうが。
なにせその言葉の後、女性の体から周りの風景が真っ白になる程の眩い光が発せられ、気が付けば森の中に一人で寝転がっていたのだから。
「チッ・・・まあ、なってしまったモノは仕方がない、か」
その時の記憶を思い出した私は内心苛立ち、舌打ちをする。
だがすぐに気持ちを切り替えて、現状の把握と今後の事を考える事にした。
「何かしらの行動を始める為にも、まず自分の事をちゃんと把握する必要があるな。記憶の件もあるし、この体に不具合があるかどうかの確認もしておかないと」
まず私は自身が使っていた『フェルヌス・クディア』というキャラがどういう存在だったのかを思い出していく。
『フェルヌス・クディア』というキャラは『獣魔族』と呼ばれる種族の、身長一五一cmの小柄で、スリーサイズもその身長に合わせた平均的な体型の女性だ。
『獣魔族』とは二つの種族の間に生まれる混血の存在の事であり、『混血種』とも呼ばれている。
この混血種という種族はそれぞれ元となった両親の種族によってステータス構成や成長速度、能力が決まるという特殊性を持っており、同時に二つの種族のメリットとデメリットを引き継ぐという特徴を持っている。
が、しかし混血種の特徴はそれだけではない。この種族は受け継いだ片親のデメリット分をもう片方の親の能力が上回っていれば、そのデメリット分を上書きするといった特徴があるのだ。
つまり混血種とは、両親の種族が持つ能力の良いとこ取りをすることが出来る種族という事だ。
・・・まあ、上書きできなかったデメリット分はそのまま引き継ぐことになるので、完全にとまではいかないのだが。
また、それぞれの種族で習得する事が出来る固有のスキルを習得できない、もしくは劣化してしまうというのも混血種の特徴というかデメリットであり、その仕様のせいで『カオスゲート・オンライン』ではあらゆる種族から半端物として扱われ、嫌われているという設定もあったりする。
ちなみに、『フェルヌス・クディア』というキャラが何と何の混血なのかと言えば、それは『獣武種』の『虎王族』と、『魔導種』の『邪龍族』だ。
まず『獣武種』についてだが、彼等は獣耳や尻尾、爪、牙といった動物的特徴を持ち、その特徴ごとに部族が存在している種族だ。高い身体能力とそれを生かした近接戦闘を得意としているが、しかしその反面魔法関係を苦手としていて、状態異常の耐性も低いというデメリットがある。
その部族の一つである『虎王族』は、他の獣武種の部族よりも力や耐久性、素早さと言った身体能力の成長性が一際高く設定されており、別名『獣武種の王族』とも呼ばれている存在である。
続いて『魔導種』についてだが、彼等は部族や個体によって多種多様の姿と能力を持っているのが特徴の種族だ。主に魔法を扱う事を得意としており、特に得意とする属性に関しては威力と効果が二倍になるという能力を持っている。ただしその反面、弱点となる属性によって受けるダメージや効果も二倍になるというデメリットもあるが。
その部族の一つである『邪龍族』は、姿形は龍に近いが総じて奇形的な容姿をしていて、魔法系全般を得意とする魔導種の中でも特に強力な魔法を放つことが出来る。特に闇属性の技や魔法が得意なのだが、それに比例する様に光属性の技と魔法が使えず、さらに光属性の攻撃を受けた場合はそのダメージや効果が二倍になるというデメリットがあり、その点から別名『闇龍』とも呼ばれていたりする。
つまりこれ等の情報をまとめると、『フェルヌス・クディア』というキャラは高い身体能力を持ち、魔法行使も得意としているが、状態異常に罹りやすく、光属性の技と回復系の魔法は使用出来ず、また自身への光属性ダメージと効果は二倍になるという特徴を持っている存在だという事だ。
「端から見ると、色々と設定盛りすぎだとツッコまれそうな内容だよな。・・・まあ、例え言われたとしても、それがどうしたと開き直るが」
『フェルヌス・クディア』というキャラについての考察をした私はそう独り言ちる。
「『メニューウィンドウ』は・・・・・・良かったどうやらコイツは問題なく使えるようだな。ステータスや装備も・・・・・・記憶にあるのと変わりない、か」
自身の状態を確認をもっと詳しく確認しようと思い至った私は、人差し指と中指を立て、虚空に這わせながら横に滑らせるという動作をする。
すると、目の前に宙に浮かぶ半透明の板が現れた。
その半透明の板は『カオスゲート・オンライン』内では『メニューウィンドウ』と呼ばれるモノであり、ゲームをプレイする上で絶対に欠かすことの出来ない基本システムの一つだ。
それが現れた事に、私は無意識にホッと胸を撫で下ろした。
なにせ今自分がいるこの世界は、ゲームである『カオスゲート・オンライン』ではない別の世界だと思われるのだ。そんな世界でゲームシステムが使用できるとは確信を持っては言えない。例え今の自分の体がゲームのキャラのそれであったとしてもだ。
だから最初は『メニューウィンドウ』を開く事が出来ないかもしれないとも考えていたのだが、、どうやらそれは杞憂―――と言うのもおかしいかもしれないが、実際の心情としてはそう―――であったらしい。
「右も左も分からない場所で自分の知るものがあるというのは、ある程度の安心感を得ることが出来るんだな」
ちなみに『メニューウィンドウ』は左右で表示が異なる本に似たような形状をしており、画面左側はプレイヤーキャラの名前から始まって、『アイテムボックス』、『装備品』、『フレンド』、『所持スキル』、『ヘルプ機能』、『オプション』の七つの項目が縦に並ぶように表示されている。
なお、現在の自分のステータス及び装備は以下の通りである。
種族名:【混血種:獣魔族】
名前:【フェルヌス・クディア】
性別:女性
称号:大魔王、殺戮する者、蹂躙する者、撃滅する者、強奪する者、破壊魔、
年齢:25歳
状態:通常
『HP』:634791/634791
『MP』:370634/370634
『SP』:496840/496840
『STR』:49021(99999)
『VIT』:45921(99999)
『AGI』:58941(99999)
『INT』:53293(99999)
『MND』:51875(99999)
『DEX』:49288
『LUK』:12947(99999)
【メインウェポン】:『パニッシュメント・ハルバード』
幅広の斧と柄が『グラビティメタル』と呼ばれるオリハルコンより硬く、とてつもなく重い鉱石によって作られた基本的にただ頑丈なだけの斧槍であり、その反対にある石突き部分は魔法行使の触媒として使われるミスリル石をオリハルコンでコーティングした物が付けられている。
また、この斧槍には様々な仕掛けが施されており、柄を捻ると分離して柄の内部に納められていた『トランスメタル』と呼ばれる記憶させた形状に形を変える事が出来る鉱石が鎖へと形を変え、鎖鎌や三節根のような形となる。
【サブウェポン】:『なし』
【ヘッド】:『呪われし魔王の兜 (カスタムエディション)』
地獄に住まう悪魔王『サタン』の装備していた兜。兜より放たれる恐るべき波動は、『悪魔』と呼ばれる存在を強制的に絶対服従させる。闇属性耐性が最大値まで上がり、ステータスの『INT』が最大値まで上昇する効果を持つが、現在は呪いにより効果が反転している。
また手が加えられたことにより、デザインが猫の耳を模したような内側が空洞になっている突起物が付いたヘッドセットの様な、もしくは太めのカチューシャに近い形状をしている。それに加えて、『ブラッドライン』と呼ばれる機構が取り付けられた薄らと向こう側が透けて見える生地で作られた紫色のベールのような物も縫い付けられている。
【アウタ―】:『呪われし戦女神の胸当て鎧』(カスタムエディション)
戦女神『ワルキューレ』の装備していた胸当て鎧。その白き鎧は邪悪なる意思を弾き、味方するモノに雄々しき光を見せる。光属性耐性、回復効果量が最大値まで上がり、ステータスの『VIT』も最大値まで上昇するが、現在は呪いにより効果が反転している。
また、手が加えられたことにより全体の色が白から黒へ、そして鎧表面には五本の鮮やかに薄く発光する紫色のラインが走る『ブラッドライン』と呼ばれる機構が取り付けられている。
【インナー】:『呪われし一角獣の白布』(カスタムエディション)
神聖且つ癒しの獣と称される一角獣『ユニコーン』の皮から作られたレオタード。その衣装を身に纏ったモノには他者を癒す能力を得ると言われている。ステータスの『MND』が最大値まで上昇し、『MP』と『SP』の自動回復量が十倍に上昇するが、現在は呪いにより効果が反転し、自動回復量も本来の十分の一にまで下がってしまっている。
また、手が加えられたことにより首元のリングが元の金色から銀色に変わり、二の腕まで覆う手袋と太ももまで覆うサイハイソックスとそれを止める銀色のリングが追加されている。
【アーム】:『呪われし龍王の手甲』(カスタムエディション)
龍族の皇『バハムート』の鱗と皮と爪から作られた手甲。その鱗はあらゆる攻撃を防ぎ、その爪は敵対するモノすべてを切り裂く刃となる。火・風属性耐性が最大値まで上がり、ステータスの『STR』が最大値まで上昇するが、現在は呪いにより効果が反転している。
また、手が加えられたことにより元は青かった色が黒くなり、その表面には五本の鮮やかに薄く発光する紫色のラインが走る『ブラッドライン』と呼ばれる機構が取り付けられている。
【レッグ】:『呪われし氷雷虎の脚甲』(カスタムエディション)
呪われし極寒の地に生息する『氷虎』の毛皮と爪、稲妻走る天空の地に生息する『雷装虎』の装甲から作られた脚甲。身に着けた物には稲妻の如き速さと、触れた対象を凍らせる力を宿らせる。水、雷属性耐性が最大値まで上がり、ステータスの『AGI』が最大値まで上昇するが、現在は呪いにより効果が反転している。
また、手が加えられたことにより元は白かった色が黒くなり、その表面には五本の鮮やかに薄く発光する紫色のラインが走る『ブラッドライン』と呼ばれる機構が取り付けられている。
【アクセサリーⅠ】:『反転の首飾り』
フェルヌスが作成した特別な首飾りで菱形をしており、中央には反転の効果を持つ紫色の宝石が取り付けられている。また、首飾りの中央以外にも他の宝石を嵌めることが出来、嵌められた宝石に付与されているスキルに応じた効果を反転させる。現在は光属性、デバフ、呪いが付与された宝石が取り付けられている。
【アクセサリーⅡ】:『呪われし巨神の指輪』
太古に存在していた巨神の骨から作り出された白い指輪。状態異常耐性五十%上昇と『LUK』が最大値まで上昇するが、現在は呪いにより効果が反転している。
各種ステータスはそれぞれ―――
生命力を表す『HP』。
魔法を使用した際に消費する魔力を表す『MP』。
走ったり回避したり、技などを使用した際に消費するスタミナを表す『SP』。
力の強さを表し、物理攻撃力に影響を与える『STR』。
体の頑丈さを表し、物理防御力に影響を与える『VIT』。
敏捷性を表し、走る速度や回避率に影響を与える『AGI』。
魔法の強さを表し、魔法攻撃力に影響を与える『INT』。
魔法の抵抗値を表し魔法防御力に影響を与える『MND』。
器用さを表し、遠距離武器の命中率や物造りの完成度に影響を与える『DEX』。
幸運度を表し、状態異常に罹る確率やレアアイテム獲得確率等に影響を与える『LUK』。
―――といった感じであり、これ等を上昇させて強くなっていくのが『カオスゲート・オンライン』の仕様であった。
ちなみに、ステータス数値の横に表示されているカッコ内の数値は、武器や防具等を装備した際の数値を表したモノだ。装備している最中はカッコ内の方の数値が身体能力に反映されるようになっている。また、元のステータス値よりも上昇するのであれば数字だけが、下降するのであれば数字の横にマイナスの表記が付く仕様にもなっていたりする。
続いて装備品についてだが、『カオスゲート・オンライン』で装備できる武器防具はそれぞれ、『メインウェポン』、『サブウェポン』『ヘッド』、『アウタ―』、『インナー』、『アーム』、『レッグ』、『アクセサリーⅠ』、『アクセサリーⅡ』の合計九つとなっている。
また、武器防具の説明覧を見ればすぐに分かると思うが、私が身に着けている装備品はそのほとんどが呪われている。
”呪い”が付与された武器や防具は『カオスゲート・オンライン』では『カースドシリーズ』と総称して呼ばれており、運営側の趣味なのかと思える程にマイナス面にブッ飛んだ性能を発揮する物が大半で、その効果によっては「装備する意味なんてないじゃん!?」とプレイヤーの多くが文句を言う代物ばかりであった。
なお、どうしてそんな欠陥品を私が装備しているのかと言うと、実はこの『カースドシリーズ』はある特定の条件を満たすと、持っている効果やステータスの上昇量が桁違いと呼べる程に良くなる装備品に変貌するのだ。
その条件とは【反転】というスキルを使用する事。その名の通り様々な効果を反転させる効果があるものであり、それによって”呪い”の効果を反転させる事で強力な武器防具として使えるようになるのである。
その事に気付いた私は、試行錯誤の末に”呪い”の効果を反転させるアクセサリーを作り出し、また専用の”カースドシリーズ”も用意したのである。
また、この『カースドシリーズ』の使用に関しては、多くのプレイヤーから「バグではないのか?」という疑問の声が数多く出されており、実際一部のプレイヤーが運営に問い合わせたことがあったが・・・まあ、その時の返答は「仕様上は何も問題はない」というものであった。
そんな、ある意味壊れ武器とも呼べるであろう『カースドシリーズ』だが、それ程の強力な武器であれば多くのプレイヤーが求めるのは当然であり、一大ブームとなってもおかしくはない筈だったのだが・・・・・・残念ながら実際にはそんな事が起こることはなかった。
その理由としては二つあり、一つはコストの問題で”呪い”の効果を反転させる装備を作るのに相当な技量とゲーム内通貨が必要であった事だ。
金銭的な問題については方法次第でどうにでもすることは出来たろうが、一番の問題は技量であり、一定以上の腕がないと成功率がゼロ%になるという鬼畜仕様であったのだ。
その為、まともにそれらの装備品を作れる生産系プレイヤーは極僅かであり、その時点で半分以上のプレイヤーが諦めた。
そしてもう一つが上位の悪逆系の称号―――最低でも『魔王』クラスのモノ―――を保有していなければいけない事だ。
例え【反転】のスキル効果のある装備を身に着けていたとしても、それら悪逆系の称号を保有していなければ”呪い”の効果を完全に反転させることが出来ず、既存の装備品と同様の性能までしか発揮できない仕様となっていたのだ。
これらがトドメとなり、『カースドシリーズ』を求めるプレイヤーは私を含めて十数人程度しか存在しなくなり、また装備できる者もたった数人しかいないという事で、『カースドシリーズ』はかなりドマイナーな装備品として有名になったのである。
「さて、次は所持品の確認だな。これに中身が入っているかどうかで、今後の行動方針を考えないとな。さてさて、『アイテムボックス』の中身は・・・・・・どうやらこの世界に来る前と変わりないようだな。倉庫にもアクセス出来るみたいだから、少なくとも持ち物で困ることはないみたいだな。後はここからアイテムを出せるかだが・・・」
ステータスや装備品の確認を終えた私は、続いて『アイテムボックス』の確認を行った。
中身に関してはこの世界に来る前と変わりがなかったので、あとはアイテムの出し入れができるがどうがだが、どうやらそちらは変わらない部分と変わった部分があるようだった。
基本的に『カオスゲート・オンライン』でのアイテムの出し入れの工程は、プレイヤーの周囲に現れる黒い穴に手を突っ込んだり、物を放り込んだりするといった事でできたのだが、この世界に来た影響で機能が拡張されたのか、『メニューウィンドウ』を操作しなくてもアイテムボックスの入り口をイメージすれば黒い穴が現れ、手を入れて取り出したい物を思い浮かべると、そのアイテムが手に握られているようになったのだ。
一々操作する必要性が無いという事を考えると便利と言えば便利なのだが、どうしてそうなったのかについては現状では満足な答えが出せそうになかったので、とりあえずその件は脇に置いておくことにした。
「うぅん・・・半ば予想していたけど、『フレンド』の項目は全部灰色。あの現象が起こった時にフレンド登録しているプレイヤーがログインしていなかったか、それとも確認できる範囲にいないから灰色のままなのか。またはそれ以外の理由があるのか・・・・・・まあ、名前が確認できるだけでも良しとするか」
続いて『フレンド』の項目を確認した私は、そこに表示されたフレンドリストの状態を見て残念そうに溜め息を吐いた。
『メニューウィンドウ』に表示されているフレンドリストには、私が『カオスゲート・オンライン』にて知り合った人物や、クエストを受ける際によくパーティーを組んでいた人物達、生産関係での付き合いがある者達等の名前が表示されていたのだが、しかしその全てが選択不能を表す薄透明の灰色表記となってしまっていた。
こうなってしまうとどれだけ選択しようが、うんともすんとも言わなくなってしまうのだ。
登録している名前がすべて消えてしまっていたかもしれない事に比べればまだマシかと思った私は、それ以上の操作を一旦諦めることにした。
「次は『スキル』だが、これは・・・・・・取得しているスキルは使用不能を示す灰色表記になっていないし、覚えている戦技や魔技、特技も消えているという事もない。後でちゃんと使えるかどうか試してみる必要があるだろうが・・・・・・それよりも気になるのが『特殊スキル』に新しく追加されていたこの二つのスキルだ。いったい何時の間にこんなスキルを取得したんだ・・・?」
今度は現在自身が取得している『スキル』の確認をする。
『スキル』とは『カオスゲート・オンライン』をプレイする上で欠かすことのできない、所謂技能や能力に相当するモノだ。これがあるかないかで、戦闘関係なら戦闘効率や生存性が、生産関係であれば、作業効率や作品の出来が左右されるようになっている。
スキルを取得できる数には上限が存在せず、取得しようと思えばいくらでも手に入れる事が可能であり、その数も確認できるだけで千種類近くという膨大な数が存在している。
また、スキルには熟練度レベルというものも存在していて、基本的に全てのスキルは最大で『LV10』まで上昇させることが可能であり、熟練度レベルが上がればその分だけ様々な技を習得できたり、技の威力や効果が上がったりなどしたりする。
だがしかし、スキルの中には種族固有のモノや特殊条件を達成しなければ覚えられないモノ、加えて種族によって熟練度レベルの制限が掛けられているモノも存在している為、全てのスキルを覚えて限界まで上昇させるというのは、一部の例外を除いて不可能な仕様となっている。
スキルには大別して四つの種類に分けられており、それぞれ『戦闘スキル』、『魔法スキル』、『技術スキル』、『特殊スキル』がある。
まず一つ目の『戦闘スキル』は、主に武器防具や徒手空拳等の攻撃力や扱いの得手不得手、防御力やダメージ軽減率などが影響を受ける仕様となっている、名前の通り戦闘に関係したスキルの総称だ。基本的に戦闘スキルは熟練度レベルを上げていくことで、『戦技』と呼ばれる『SP』を消費して発動する技を習得することができたりする。
二つ目の『魔法スキル』もまた、名前の通り魔法を扱えるようになるスキルの総称であり、こちらも熟練度レベルを上げていくことで『魔技』と呼ばれる『MP』を消費して発動する技を習得することができたりする。こちらに関しては熟練度レベルが上げていくほどに魔技の威力や効果、範囲や速度といったものも上昇し、加えて『MP』の消費量も少なくなっていくという仕様となっている。
三つ目の『技能スキル』は、主に鍛冶や料理などの生産に関係するものや、その他にも『戦闘スキル』と『魔法スキル』に該当しないスキルをまとめたものの総称であり、熟練度レベルを上げていくことで『特技』と呼ばれる多種多様な技を習得することができるようになったりする。大半の『特技』は、戦技や魔技の様に『SP』や『MP』消費して発動することはないが、発動する為にはそれぞれの技に応じた固有のモーションか、もしくは詠唱を行う必要があり、また一度発動した技は一定時間の冷却時間を必要とするといった仕様となっている。
そして最後の『特殊スキル』は、これまで説明してきた三種のスキルとは違い、通常では取得することができない、特定の条件を達成することで取得することが出来るスキルの総称だ。その効果はどれもこれも強力なものばかりであり、『カオスゲート・オンライン』をプレイしていたプレイヤー達にとって『特殊スキル』を持っているというのは、所謂”強者の証”を持っているというのと同義。モノによってはある種の”切り札”として扱われていた部分もあった。
そして、数多存在しているスキル群の内、これまで自身が取得し、成長させてきたスキルがこれだ。
・戦闘スキル
片手剣LV10、大剣LV10、短剣LV10、刀LV10、斧LV10、槍LV10、鎌LV10、鈍器LV10、鞭LV10、杖LV10、魔道書LV10、徒手空拳LV10、棍LV10、暗器LV10、銃器LV10、弓LV5、盾LV10、大盾LV10、鎧LV10、銃器LV10
・魔法スキル
無属性魔法LV10、火属性魔法LV10、水属性魔法LV10、風属性魔法LV10、土属性魔法LV10、雷属性魔法LV10、木属性LV10、闇属性魔法LV10、死属性魔法LV10、強化魔法LV10、弱体魔法LV10、幻影魔法LV10、呪術LV10、契約魔法LV10、召喚魔法Lv10、錬金魔法Lv10、隷属魔法Lv10、
・技能スキル
鍛冶LV10、裁縫LV10、料理LV10、建築LV10、掃除LV10、調合LV10、格闘(豪)LV10、格闘(柔)LV10、二刀流LV10、投擲LV8、多重詠唱LV10、並列詠唱LV10、無詠唱LV10、毒LV5、麻痺LV5、睡眠LV5、石化LV5、魅了LV5、魔力操作LV10、索敵LV5、危険感知LV10、気配探知LV10、看破LV10、直感LV8、連撃LV10、回避LV10、踊りLV10、歌唱LV6、交渉術LV3、商売LV5、詐欺術LV3、歩行術LV10、防御術LV10、物理耐性LV10、魔法耐性LV10、鑑定LV6、隠密LV5、状態異常耐性LV5(種族的最大値)、千里眼LV4、騎乗LV6
・特殊スキル
混血LV―、大魔王LV―、王族LV―、獣王化(劣)LV―、形体・形質変化(劣)LV―、武芸百般LV―、一騎当千LV―、将軍LV―、殺戮者LV―、蹂躙者LV―、撃滅者LV―、強奪者LV―、破壊魔LV―、神に導かれし者LV―(NEW)、運命に引き寄せられし者LV―(NEW)、
自身が取得しているスキルを確認し、何かしら異常がないかを調べていた私は、そこで取得した記憶のないスキルを二つ見つけ、スゥ・・・と目を細めた。
【神に導かれし者】と【運命に引き寄せられし者】。名称からしておそらく『称号系』のスキルだと思われるが、しかしそれ等のスキルをいったい何時、何処で手に入れたのか思い出せない私は首を傾げるしかない。
「その他に新しく追加されたスキルは無し、か。・・・うーん、名称からしてこの二つのスキルは私がこの世界に来た原因に関係しているのかもしれないと思うんだが・・・・・・ダメだ、何度押してもうんともすんとも言わない・・・!」
一応この二つのスキル以外にも新しく追加されたモノはないかと見直してみたが、どうやらそれはないらしい。それを確認した私は、新しく追加されていた【神に導かれし者】と【運命に引き寄せられし者】の効果を確認しようと、項目欄に表示されている名前の部分を指で押すのだが、しかし何度押してもスキルの詳細な内容が表示されない。
灰色表記にはなっていないので使用不可能というわけではなさそうだが、しかし何の反応も示さないのは明らかにおかしかった。おかしかったがしかし、結局スキルの詳細な内容が見れないという事態に溜め息を吐いた私は、しょうがないと思いながら次を見る事にした。
「はぁ、しょうがない。これに関しては一旦置いておくことにするか。あとは『ヘルプ機能』と『オプション』だが・・・・・・ヘルプの内容は変わったり消えているモノはなし。モンスター図鑑とアイテム図鑑は過去記載した内容がきちんと載ったままだ。・・・っで、最後のオプションだが、こっちは・・・駄目か。灰色表記になってしまっているな」
最後に私が確認したのは、『ヘルプ機能』と『オプション』だ。
『ヘルプ機能』は、主に『カオスゲート・オンライン』をプレイするために必要な情報やサポート機能、他にも各種注意事項などが入っている項目だ。加えて、ゲーム内でプレイヤーが取得した情報や会話ログを記録する機能も存在している為、プレイヤー間の話しの確認や情報交換などを行う際にもよく活用されていた。
まあ、これに関しては特段変わりがない様子であったので安堵したが、問題は『オプション』の方であった。
『オプション』とは、主に各種環境設定やログイン、ログアウトが行える項目だったのだが、しかしその部分は選択不能を表す灰色表記となってしまっていた。
その項目を選択できないという事は、つまりログアウトができないという事を意味しており、その事を察した私は、軽く溜め息を吐いた。
「つまり、元の世界に戻ることはできない、ということか。・・・・・・なんだかなぁ」
結局のところ調べた結果としては、現在の私の状態はオプション機能が使用不能となっている事以外は、全て『カオスゲート・オンライン』をプレイしていた当時のままだという事が分かった。
「さてと、これからどうするべきかな・・・」
私はやれやれと再び溜め息を吐きながら、これからどうするべきかと頭を悩ませる。
正直に言えば、今自分が陥っている状況は分からない事だらけのままであったが、しかしだからと言って何も行動を起こさないままでは何も変化は起きないという事も分かっていた。
「とりあえず今の自分の状態は確認できたし、まずは何かしらの行動を・・・そうだな、近くに人かそれに関係する建造物でもないか探してみるとするか。ええと・・・確か山や森の中で遭難した時は川等の水辺を探して、そこから流れに沿って下流側へと向かえば良いんだっけか・・・?」
とりあえず人がいそうな場所を探す事を目標に動く事にした私は、まずは今いるこの森の中から脱出しようと考えた。
丁度近くには池があるので、此処から流れていく水の流れを辿って行けばいつかは人里に出られるかもしれない。そう考えた私は草木が生い茂る森の中へと一歩踏み出そうとして―――
「・・・・・・ん?」
―――その瞬間、どこからかガサリという草が擦れるような音が聞こえた気がした。