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追跡調査①

無念な結果に終わった前回の事件からすぐ、うららは次の依頼を受けた。依頼主はIGHA日本支部(JGHA)。うららは先の件との関りがあるかもしれないと立ち上がる。

 翌日のうららちゃんは事務所の机に突っ伏したままだった。もちろん学校には行っている。「税金で通わせてもらってるんだからさ、病気や怪我でもない限り休むわけにはいかなでしょ。あ、仕事は例外ね」だそうだ。何よりも学校が好き――なように見える。

 とにかく、学校から帰ってきて以来ずっとこの状態らしい。俺が事務所に来てからもだ。返事はするものの、体は微動だにしない。そろそろ今日の営業が始まる時間なんだが……依頼を受けてもいいのかどうか、「所長さん」のご意見を伺うかな。

「うららちゃん、今日は……」

「よし、落ち込み終了!」

 突然うららちゃんが両の頬をパチンと叩いて起き上がった。なんだ? いきなり。

「いつまでも落ち込んでたってなんにもならないでしょ? 仕事にも差し支えるし。だから一通り落ち込んだら終わる事にしてんの」

 強いと言うか逞しいと言うか……見習いたいわぁ……。というか、何かきっかけがあって立ち直るってわけじゃないんだな……。

「さ、今日は電話営業は無し。断りの留守電にしといて。出かけるわよ」

「え、二日続けて……いいのか?」

「もう受けてるの。メールでね」

 Gフォンの画面を見せてくれた。これは……

「IGHA日本支部(IGHA)からの依頼!?」

「そう。最近この辺りで発生している連続集団異常行動の霊査をしてくれって。昨夜の件も関りがあるかもしれない。受ける価値は十分よ、行きましょう」

「オッケイ!」

 手早く準備を済ませ――俺も慣れたもんだ――現場に向かった。


 現場と言っても範囲は広い。このS市だけでなく隣のK市にまでまたがっている。隣接するあたりではあるが、なんにせよ広い。そして現場にIGHAの人が来る予定はない。「全て任せるから事後報告よろしく」というわけだ。信頼されてるんだな。それはいいとして、その場で交通費を払ってもらえないという事とイコールでもある。故に移動は自転車だ。自転車で全ての現場を回るにはちと過酷な距離だ。

 というわけで、まずは最初の事件が起きた場所――市内の中心にある大型ショッピングセンターだ。大型とは言え、出来たのは三十年前。今となっては小さい方に入る。

 そこで先月初めに集団強奪事件が起きた。このS市は治安もいいし、逮捕された人々も極普通の人達だ。そして何よりも強奪した商品をどうするでもなく、ショッピングセンターを出たところで立ち止まり呆然としていたのだ。

 俺はたまたまその現場を通りがかった。大学をサボって(親が泣くな)友人宅に向かう途中だった。黒山の人だかりができていて、適当な野次馬に聞いてみたら「集団で何かやらかしたらしい」と具体性のない答えが返って来て、その時はそれで納得していたが……まさかあんな変な事件だったとは。驚いた記憶がある。

 あんな事件はどう考えても不自然極まりない。何者かに操られていたのではないか――事件直後から囁かれていた噂だ。集団ヒステリー説、集団催眠説、果ては怨霊の呪い説や宇宙人による実験説まで巷間に渦巻いた。

 結局「ここでは」それ以上の事件は起きていない。今のところは。起きたのは他の場所でだ。その時ここで何があったのか。詳細は事前に調べてはいるそうだが、やはり直接話を聞くのが定番であり必須だ。

 店長に聞いてみたが、新しい情報は何も得られなかった。まぁ仕方ないな。当事者の誰一人として身に覚えのない突然の事態だったんだし。店長立ち合いのもとで霊査をしてみても何も得られなかった。

「仕方ないわね。時間が経ち過ぎてるし、毎日大勢が行き交うんだもの、残留思念も霊気も上書きされてる。何の痕跡も残ってないわ」

「そういう物なのか……」

「何かを想うだけでも微弱な念は発生するし、生物がいるだけで霊気は生まれるものなの。事件が起きた時に霊査してれば好かったんだけど……」

「その時の担当は?」

「これから聞いてみる」

 Gフォンでの短いやり取りの間にみるみる顔色が変わってきた。「どういう事?」

「本当に?」

「何やってんのよ!」

 最後は怒声だ。隣にいた店長もビックリしていた。こりゃ相当な事件かもな……覚悟を決めないと。

「信じられないわね」

 迂闊な事を言わず続きを待つ事にした。うららちゃんが一つ深呼吸してこっちに向き直った。どうやら正解だったようだ。我ながらいい勘だ。

「霊査の内容と担当者が記録から消されてる」

「どういう事だ!?」

「そういう事よ!」

「いやそうじゃなくて!」

「じゃどういう事よ!」

「もう止めよう……」

 不毛な争いは何にもならないからな。とにかくハッキングか何かされたって事だ。IGHAのセキュリティは世界でもトップクラスだと聞いている。それでもやられたって事か。

「問い合わせてもらったら、警察の方のデータも同様だって。書類の類もね……」

「おいおい……」

 言葉を失ってしまった。どうやったらそんな事が出来るんだ? 一体誰がそんな事を? 

「ここで考え込んでいても仕方ないわ。次に行きましょう」

 店長にお礼を述べて店を辞した俺たちは、一連の中で最も新しい事件が起きた場所へと向かった。隣のK市に程近い山の麓にある神社だ。自転車なら一時間弱といったところか。

 二人で自転車を漕いでいると、事態の深刻さを忘れてしまいそうになる。不謹慎だとは思うが仕方ないじゃないか。年頃の男女が並んで自転車でっていうシチュエーションだぞ。しかも春のいい天気で、桜もまだ残っている。憧れないか? こういうの。

 そう思ってニヤケていると、うららちゃんはどんどんペースを上げていく。気を抜いたら置いて行かれそうだ。

「ちょっ……そんなに急がなくても!」

「何言ってんの! 急ぐわよ!」

 ああ、ついに立ち漕ぎだ。デート気分は無慈悲に終わりを告げた。


 着いたのは有名な縁結びの神社だ。霊験あらたかで、特に女子からの人気が強い。そんな神域で事件が起きたのは先週の事だ。縁結びのお守りを求めて並んでいた女の子達が突然乱闘を始めたのだ。

 それまで皆キャッキャ言っていたのが突然怒声と共に取っ組み合い、引っ掻き合い、カバンの中から(学校帰りの女子がほとんどだったらしい)シャーペンやハサミを取り出して凶器に使ったと報道されている。なんとも凄惨な事件だ。境内に所々残っている濃い染みは血の跡なのかも知れない。

 事件の影響だろうか、それとも夕暮れが近いからか、境内に人影はない。掃除をしているので巫女さんに話を聞いた。うららちゃんのの顔を見ると表情に光が射し、縋るように話し始めた。有名人は話が早くていい。

「本当になんの前触れもなく乱闘が始まったんです。トラブルらしい声もなくて……本当に何がなんだか……」

「乱闘の寸前に何かなかった? 本当に些細な事でいいの。鳥の鳴き声が止まったとか、一瞬日が陰ったとかでいいから。何か思い出せない?」

「う~ん……どうかな……」

 巫女服姿で考え込む女性は何処となく色っぽい感じがする。いや、別にフェチってわけじゃなくてもだ。

「……たぶんだけど……」

「それでいいわ。何があったの?」

「乱闘前に少しだけ……一瞬だけど……皆の声が止まった気がするの。気がする程度で申し訳ないんだけど……」

「いえ、十分よ。あんな事があったんですもの、ハッキリ覚えている方がおかしいのよ。ありがとう」

 境内の中央で両腕を広げて深呼吸を繰り返すと、うららちゃんの体が黄金色に包まれた。さっきのショッピングセンターでは見えなかったが、今は見える! 巫女さんも感嘆の声をあげた。彼女も見えてるのか。

「夕暮れ時は誰でも霊的な物が見えやすくなるの。眼が一定の採光状態から移行するから、曖昧な物でも見えやすいのよ。『逢魔が時』なんて言われるのもその手の物が見えやすくなるから……よ」

 ちょっと怖いな……。更に今見えているオーラは比較的見えやすいエーテル体オーラなんだそうだ。これは周囲から取り込まれた自然界のエネルギー(気とかプラーナとか言うアレだ)が細胞を活性化させた後、余剰分がエーテル体から放出されているものらしい。

 エーテル体とはエジプトで「カー」、ドイツで「ドッペルゲンガー」、フランスで「ペスプリ」、インドで「リンガ・サーラ」と呼ばれるもので、「心霊学の基礎」では「生気体」或いは「星気体」と呼ばれている。対外離脱の時に利用される身体だと言えばピンとくるだろう。

 見えにくいもう一つのオーラは「霊的オーラ」と呼ばれ、感情に関係のあるアストラル体、知性に関係のかるメンタル体などから発するオーラで、エーテル体の外側にあり未発達の人でも一メートル、霊能力の発達した人で数メートルから数キロメートルにも及ぶ。嘘か本当か、お釈迦様の霊的オーラは三百キロにも及んでいたんだとか。まぁ確かめようもないけどな……。

「にしてもさ。『霊的オーラ』って……オーラ自体が霊的なもんなんじゃ……?」

「エーテル体オーラはまだ物理的な物に近いって事よ。察しなさい」

「はい……」

 ああ、巫女さんからの冷たい視線が痛い……。

 うららちゃんの集中が高まり、声を出す事さえ憚られる凛とした空気が辺りを包む。確かにこれなら数キロのオーラも納得いく。物理的な圧迫感さえ感じる程だ。

 黄金色のエーテル体オーラが渦を巻き、緩やかに広がっていく。こんな事も出来るのか……。それが上方に立ち昇っていき、拡散してフッと消えていった。

 なんともこう……幻想的な……。

 感心しているとうららちゃんが集中を解いた。

「どうだった?」

「少しだけ……イメージを捉えたわ。何か……何かは断定出来ないけど、上から何かがやって来て……事件が起きたみたい。あたしのサイコメトリー(後知能力)はそこまでじゃないからね、これが限界かな。屍緒里が得意だから連絡しとくわ」

 Gフォンで手早く連絡してこちらを振り向くや、いきなり不機嫌な顔に変わった。なんだ?

「何ニヤケてんの?」

「え? 俺が?」

「他に誰がいんのよ!」

 ああ、隣の巫女さんも汚物を見るような目で……。いやまぁ確かにまたあの和風美人の屍緒里さんに会えるかと思うと少し嬉しかったのは確かだけど……。

「べ、別にニヤケてなんか……」

「いたわよ、たしかに!」

「いや軽く笑顔になってただけだろ。怒る事なんて……」

「要する鼻の下伸ばしてたわけでしょ。まったく男ってすぐこれだから!」

「じゃぁ屍緒里さんが来るって聞いて不機嫌な顔をしてろって?」

「そうじゃないわよ! 普通にしてなさいって事!」

 何なんだ一体……。

「分かった。じゃぁ普通に無表情!」

 何にも考えてない無表情を作ってみせた。うららちゃん達が溜息を吐いて頭を振る。

「もういいわ……」

 正直な話、こういう時女性陣がどんな返事を求めているのか分かる男は相当な女ったらしだろう。いや、何となく想像は出来る。きっと少女漫画のようなセリフを言って欲しいんだろう。でも、だ。あんな歯が浮くような事は言えっこない。しかも人前だぞ? それよりは呆れられた方がまだマシってもんだ。そうだろう?

少し間が空いてしまいましたが、なんとか更新です。またお付き合いいただけたら光栄です。

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