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Recruitment and hostility②

執念でうらら達を追いかけてきたイケメンロン毛。まともにうららと戦っても勝てるとは思えないが……しかし、彼には秘策があった。それは?

 これ幸いと喫茶店を後にして待ち合わせ場所に向かっていると、後ろから大声で呼ばれた。振り向こうとした俺をうららちゃんが止める。

「関わり合いにならない方がいいから」

「ああ……何となく分かった」

 さっきのイケメンロン毛だ。しつこく呼ぶ声で分かった。しかし……本当にしつこいな。絶え間なく呼び続け、もう罵倒になり果てている。しかも主にうららちゃんに対してだ。こんな女の子になんて事を。とてもじゃないが人に言えないぞ。うららちゃんは無表情にしているが、俺の方が切れそうだ。

 ついに彼女の肩に手がかけられた。振り向きざまに拳を振り上げた俺をうららちゃんが制した。

「あ~あ、とうとうやっちゃったわね。これ、暴行罪でしょっぴけるのよ?」

「暴行? どっちがよ!」

 叫ぶイケメンロン毛の顔が痣だらけだ。何カ所か腫れあがっている。さっきの喫茶店での成果(?)だな、気の毒に。正直、少し胸がスッとしたのは内緒だ。

 自業自得とは言え、酷い目に遭ったことは事実だ。イケメンロン毛の目が血走り、異様な光を湛えている。ヤバいな。

「もう許さないわよ…………覚悟しなさい!」

 ポケットから何かを取り出した。青と黒の球体――ピンポン玉サイズだ。曲芸でも披露する――ワケもないな。何をする気だ?

「食らいなさい! 蒼の冷玉ブルーコールド!」

 いきなりの突風。それも身を切るような冷たさだ! なんだこれは!

 しかもこれ、俺だけを狙ってる! うららちゃんには全く当たっていないぞ!

「北斗君、逃げて!」

 叫びながらタックル。

「どぅは!」

 横に吹っ飛ばされた時に変な声が出てしまった。カッコ悪りぃ。

 助かったと思いきや、また俺に冷気が! 何だこれ、狙いを俺に絞ってるのか!?

「くっ! こんのぉぉおおおぉぉ!」

「おわぁぁぁぁあぁぁ!」

 うららちゃんが俺のベルトを掴んで振り回す。マジか!? あの細い身体の何処にこんなパワーが? 火事場の馬鹿力ってやつか。冷気に襲われてるけど。

 そんな事を考えてる場合じゃない、そのままブン投げられた。今度は反対側だ。

「ぐふっ」

 アスファルトに衝突。目の中に星が舞い、肩に痛みが走る。ついでに冷気もだ。しつこいにも程がある。しかし、攻撃と救助の両方でダメージを受けるとはな。

「いい加減にしなさいよ! 狙うんならあたしにしなさい!」

 うららちゃんが怒りに燃えている。それをイケメンロン毛は平然と受け流した。

「お断りよ。あんたが従わない限り、この木偶の棒を攻撃し続けるわ。それが嫌なら言う事を聞きなさい」

 さすがの下衆っぷりだ。

「うららちゃん、こんな奴のいう事なんか聞く必要はないぞ。こんな冷気はどうせ催眠術か何かだ」

「いいえ、本物よ。この蒼の冷玉ブルーコールドはね、私の霊力を直接冷気に帰る事ができるのよ! ハーッホホホホホ!」

 男と女の笑いが混ざってやがる。中途半端な奴だ。しかも自分の力を説明してくれてもいる。これなら対策を――いや待て、うららちゃん、それは――? 

俺とイケメンロン毛の間に立ち塞がっている。まさか盾になるつもりか!?

「ダメだ、そんな事しちゃいけない!」

「大丈夫よ、こんなの私には効かないから」

「でも!」

 女の子を盾になんか出来ない。感覚が無くなってきた手足を無理やり動かして立ち上がった。うららちゃんを下がらせようとした時、イケメンロン毛がもう一つの球体をかざした。嫌な予感しかしない。

「噂通りの化け物娘ね……じゃぁこれならどう? 玄の凍玉ブラックフリーズ!」

 周囲が薄暗くなった。同時に冷気が凍気に変わった。足元のアスファルトや横のガードレールや街路樹がみるみるうちに凍てついていく! これは幾らうららちゃんでもヤバいだろ! 実際に両腕でガードしてるし! 拙いぞ、このままじゃ……。それに俺はただのお荷物じゃないか。何とかしないと……。

「さすがの冴月うららも手も足も出ないみたいね! 今のうちに降伏したらどう? 土下座して謝るなら許してやらない事もないわよ? ハーッホホホホブッ!」

 勝ち誇るイケメンロン毛の側頭部に飛び膝蹴りが入った。膝の主は艶やかな水色の和服をまとった美女だった。

 和服の美女は鮮やかに着地を決めると、イケメンロン毛に紫色の棒を突き付けてこちらを――正確にはうららちゃんを見た。

「遅いで、うららちゃん。いつもピッタリ三分遅れでくるのにえらく遅いし……妙な胸騒ぎがするから来てみれば、こんな雑魚になにしてはるん?」

「雑魚は雑魚でも卑怯な雑魚なのよ! いくら雑魚でも卑怯な真似をされたら厄介な雑魚になるでしょ!」

「あんた達……黙って聞いてれば雑魚雑魚と……人を何だと思ってんのよ!」

「雑魚でしょ」

「雑魚どすなぁ」

 二人が異口同音に答えた。なんか連携が取れてるな。あの和服美女が待ち合わせの相手で間違いなさそうだ。うららちゃんの表情も何か安堵した風だ。信頼してるみたいだな。

「こんのぉ……言わせておけばぁぁぁあああぁ!」

 イケメンロン毛が振り上げた手が止まった。驚いて必死にもがいているがびくともしない。よく見れば和服美女が紫色の棒で固定された腕を指している。そのせいか?

 そして棒を右にスライドさせると、イケメンロン毛がそちらへ引きずられていく。

「なっ……なぁぁぁぁああああぁ!」

 よく見るとイケメンロン毛の腕の周りに陽炎のような物がまとわりついている。これが……?

「分かった? 彼女は世界でも有数の死霊使い(ネクロマンサー)なのよ。そっちに関しちゃあたしでも敵わないわ」

「ネクロマンサー……じゃ、あの陽炎は……」

「そう、結構な数の死霊の群れ。見えない方が幸せなヤツ」

「あ、見えなくていい」

 うららちゃんが頷いた。そしてイケメンロン毛はそのまま横の川に放り込まれた。ドボンと派手な音と共に。哀れな……。

「さて、うらら。あいつはなんですの? 説明してくれはる?」

 和服美女が腕を組んでうららちゃんを見た。首を傾げ、軽く膝を曲げた姿勢が美しい。普段は「美しい」だなんて言葉は使わない俺だが、そうとしか言いようがない。

 白皙の美貌に映える唇の紅。深みのある色がまた美しい。ロングストレートの黒髪もまた艶やかだ。正に正統派和風美人。

 ぼうっと見とれていると――尻に激しい痛みが走った。

「痛ってぇぇぇえ!」

「何やらしい目で見てんのよ!」

「な、なんにもやらしくなんか無いぞ!」

 和風美人がクスクスと笑ってる。口元に添えられた手がまた品が良くて――

「痛いっての!」

「まったく! 男ってすぐこれなんだから!」

「まったく……仲がええ事ですなぁ、ほんまに」

 しゃべり方も穏やかで……普段接する女性陣とはえらい違いだ。「えらく違う誰かさん」に抓られる前に「誰かさん」の気を逸らせておこう。

「で、この美……この人が待ち合わせの相手なのか?」

「そう。ちょっと気になる部分があったけど許してあげる。彼女がGGのGHOST HUNTERにして世界有数のネクロマンサー、烏丸からすま 屍緒里しおりよ。親の事業の関係でね、小さい頃からの付き合いなの」

「そう。よろしくお願いします、南野はん」

「あ、こ、こちらこそよろしく……って俺のこと知ってんですか?」

「はい、うららちゃんから聞いとります」

 へぇ、さすがは古い付き合いだけある。どんな事を言われているのかは気にしない事にした。何しろ世界有数の才女達だ。凡人としては何を言われても仕方ないからな。ちなみにGG(ダブルG)のGHOST HUNTERは世界に十人ちょっとしかいないらしい。十分過ぎる程の天才なわけだ。

「うららちゃんがおもろい人が来てくれたって喜んでますのん。私はもうそれが嬉しゅうて嬉しゅうて」

「ちょ、何言ってんのよ!」

 ムキになるうららちゃんの頭を抱えてシャカシャカと撫でくり回している。うららちゃんも怒った顔をしてはいるが抵抗はしていない。ふむ、なるほど。そういう関係か。ちょっと安心した……かな?

 その時だ、水音が響いたのは。

「なるほどね……化け物娘と死霊娘ってわけね……よっこらせと……」

 イケメンロン毛が川から上がってきた。すっかり忘れてたよ。あ、頭や肩に水草が乗っかってる。

「烏丸 屍緒里……その紫水晶の横笛アメジストのフルートで思い出すべきだったわ」

 屍緒里さんが冷たい眼になった。右手で紫水晶の横笛をクルリと回して逆手に持った。よく見れば確かに鮮やかな紫色だが、吸い込まれるような透明感がある。けど、フルートという割には金属部品も無く、シンプルな和風の横笛だ。横笛もフルートの仲間と言いたいんだろう。いかにも高価な感じだし。

 女性陣は揃ってムッとした顔だ。

「散々な言われ方ね」

「まったくやわ。いけ好かん殿方やなぁ」

 その瞬間、右上から炎が降ってきた! 冷気の次は火炎攻撃か!?

 気を取られたその隙にイケメンロン毛が猛然とダッシュした――反転してだ。

「次は手加減無しよ。覚悟しなさい」

 お決まりの捨て台詞を撒き散らしながら走り去っていった。さんざん騒がせといてこれか。

「なっっっさけ無いわね。手加減無しとか言っといて」

「放っときぃな、あんなんは。手加減なんかする余裕の無い奴ほど、ああ言うもんや」

 イケメンロン毛を追いかける気は全くないようだ。でもいいのか? 増援の火炎攻撃をしてきた奴もいるのに。

「どっちも大した事ないわよ」

「そう、あの程度ならちょっと気を張れば防げるさかいになぁ」

「はぁ?」

 マジかよ……じゃぁ火傷とかもしないのか?

「そういうワケじゃないのよ。物理攻撃を防げるわけじゃないの。何というか……あれってヤツが言ってたように自分の霊力を変換してるだけじゃない? だからその攻撃の本質も霊力なの。だから、こっちの霊力が圧倒的に上だから弾けるってだけなのよ。あいつは多分S級くらいね」

「じゃぁあの攻撃で被害を受けるのは……」

「そう、自分の零体だけなんやわ。そやさかい、南野君は気ぃつけはりぃな」

「はい……」

 結局は霊力次第なのか……。

「それだけやない、霊質や霊格も大事やで。そもそも霊的な格が高くないとな。いわゆる低級霊がどんなに霊力を増しても大したもんにはなれへん。雑魚の大軍みたいなもんや。力の密度が低いイメージかなぁ。霊質が反対なら攻撃の効果が高いしな。色々とあるんよ」

 単純な力比べとは違うみたいだな。その辺りはおいおい教えてもらうとしよう。

 道すがらあのイケメンロン毛についてうららちゃんが説明した。

「黄金の夕日教団……縁起の悪そうな名前に憶えがあるなぁ。確か『黄金の夜明けゴールデンドーン』から分かれた連中と『星の智慧派教会』の過激派が組んで出来た言う話やわ」

 黄金の夜明け団とは、世界一有名な(?)秘密結社「フリーメイソン」出身の三名で創設された。特にマグレガー・メイザースは知られている。二十世紀最後の年に分裂し、このマグレガー・メイザースに従った一派はA∴O∴(アルファオメガ)と名乗ったという。元々黄金の夜明け団では内部が三つのオーダーに分かれていて、第一団が基礎教義を学ぶ「黄金の夜明け」、」次が幹部専用で高度な魔術の実践を行う「紅薔薇黄金十字」、第三団が「秘密の首領シークレット・チーフ」が在籍する霊的な団体なんだとか。これらの総称が「黄金の夜明け団」とされる。

「星の智慧派教会」は更に謎に包まれている。古くから名前が出たり消えたりしている上に、実際に団体としても出来たり消滅したりを繰り返しているからだ。最も有名なのは十七世紀中頃にアメリカのロードアイランド州プロヴィデンスに創設されたものだ。イノック・ボウアン博士によってエジプトから謎のアーティファクト「輝くトラペゾヘドロン」がもたらされた。これによって様々な秘儀が執り行われ、幾つかの奇跡を起こしたとも伝えられている。

 聞くからにヤバそうな連中の更にヤバい奴らが組んだのか。その【成果】の一つがあのイケメンロン毛の持つ球体だとしたら……?

「確かにね。「アレ」だけで終わりって事もあらへんやろうし。そもそも彼が最高幹部とも思えへんし、警戒は必要やろうな」

「誰が来たって返り討ちにしてやるだけよ」

 待ち合わせ場所だったカフェでお勧めの水出しコーヒーをいただきながら、ここまで説明してもらった。が、よく分からないのが「秘密の首領シークレット・チーフ」とかいう輩だ。如何にも悪の秘密結社のボスって感じだが……。

「そらまぁ、秘密ってぐらいやさかい明かしてはあらへんのやけどなぁ。一説には既に人間を超えた進化を果たした超人やら。或いはこの世界(物質界)より高次元な星幽界(アストラル界)の住人やら言われてるわ」

 そんな奴らが居たんじゃ、幾ら彼女達でも……。

「真に受けてんじゃないわよ。こんなのは大抵が『言ったモン勝ち』の世界よ。もし本当にそんな奴がいて導いてるんなら、組織が分裂したりするもんですか」

 そりゃそうだ。しかし、そんな奴らがこのタイミングで接触してきた。オマケに攻撃まで。偶然の一致と言えるんだろうか。

「明らかに何か関連してるわよね」

「本気で偶然思うほど目出度うはあらへんどすえ」

 はんなりとキツイ事を言ってくれる。仕方ないとは言え、刺さるなぁ。

 とにかく、タクシーを拾って昨日の藤平家に向かった。目的は――決まってる。霊査だ。

 到着するなり捜査中の警官に許可を取って始まった。屍緒里さんが紫水晶の横笛を艶やかな唇に当て、聞いた事も無い音色を奏でた。どう言えばいいのか、透き通った音とでも言えばいいのだろうか。頭の芯まで沁み込んでくるような、そんな音だ。笛の材質のせいなのか、それとも奏者の実力なのか。俺には分からなかった。

 音色が響きだしてから三十秒もたたず、その効果は顕われた。目の前に「透明な何か」が出現したのだ。その数は四体。恐らく――

審神者さにわはあたしがやるわ」

「おおきに。頼むわ」

 笛の音が止まり、うららちゃんが透明な何かに向かって仁王立ちで問う。

「冴月うららの名に於いて聞きます。貴方達は藤平紗弥香の家族と山城遥の魂か?」

『そう……だ……』

 おお! 答えた! これが霊査ってやつなのか……というか、俺にも聞こえた! 彼女達の能力のおかげなのか?

「では問います。貴方達は何故自殺したの?」

『それ……は……こ……の世界……に……絶……』

「嘘! それは嘘よ! 悪魔の分体を倒した直後にそんな事あり得ない!」

『わた……しは……この……救いの……無い……世……界に……』

 何度問い直しても同じ答えしか返ってこない。同じページを繰り返し読んでいるような気分だ。素人の俺だって不自然さしか感じないぞ、こんなの。

「うららちゃん、もうええ。これ以上やっても無駄やで。ハッキリ分かった。こら相当に深いレベルで記憶――精神を制御されてるわ」

「思いの外に手練れが居たってわけ……」

 屍緒里さんの手がうららちゃんの肩に置かれた。ショートカットの髪が彼女の表情を隠した。悔しいだろうな。悲しいだろうな。握りしめた小さな拳が震えていた。




今回はやや長めの内容です。

来週の更新が怪しいからというわけではありません。来週の更新が飛んだら、それは全くの偶然です。はい。


では次回もお付き合いください。

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