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心霊写真②

 翌日、鬱木の意趣返しが始まった。お約束の展開に振り回される北斗と常盤。そこに現れたうららは何を思う……?

 その日は順調に仕事をこなし(もちろん囮役は寿命が縮む思いだったが)、今日も出席日数稼ぎの講義を聞き流し、常盤を捕まえて詳しく話を聞き出す事に成功した。

 どうやら鬱木は自分から心霊写真鑑定を宣伝して歩いているらしい。そんな中でつかまった「獲物」の一人が常盤だった。そして相談しているうちに俺を通してうららちゃんに鑑定を――というかお墨付きをもらおうとしたという感じだ。

「危うく利用されるところだったと」

「本当にごめんなさい」

「いや、常盤が謝る事じゃない。鬱木が意外にしたたか者だったってだけだ」

「でね、彼女……色々言いふらしているらしいの」

「……そう来たか……」

 定番の意趣返しだ。子供っぽいやり方だが効果は保証付きなのが問題だが。とにかく鬱木を捕まえて止めないと。

 仲の良い奴らは何を言われても信用するまいが、中途半端な付き合いの奴らは真に受けるだろう。元々付き合いのない奴らは――どう思われてもかまわない。てか、俺が誰なのかも分からないだろうしな。そこは常盤も同じだろうが、やはり見るからに撃たれ弱そうだし、なんと言っても女だ。傷つきやすいだろうしな。

 仲村や宇都宮、それに当事者の常盤と連絡を取りながら鬱木を探してほんの十分ほど。あっさりと足取りが掴めた。良くも悪くも目立つしな、彼女。とにかく一般教育棟から南門に向かって移動しているようだ。

 当然ながら俺達の悪評を撒き散らしながらであろう事は疑いない。あの強烈な喋り方である事無い事言われているのかと思うと、正直ゲンナリだ。率直な話、逃げてしまいたい。関わりたくない。でも乗り掛かった舟だ。それに常盤が気の毒で仕方ない。もちろん女の前でいいところを見せたいという気持ちも否定はしない。というか出来ない。男は辛いもんだ。うん。

 南門に繋がる渡り廊下で遂に見つけた。昨日と同じ服装だから――いや、加えて昨日にも勝る強烈な負のオーラというか雰囲気ですぐに分かった。鬱木だ。通りかかる人に片っ端から大声で訴えている。俺と常盤のゴシップ――と言うよりもただの悪口だ。文字にしたらすぐさま削除されるような内容だと言っておこう。ただ一つだけ救いなのは、訴えかけられた人達が揃いも揃って怯えてしまい、全く聞いていない事だ。

 その内容たるや、とてもじゃないが常盤には聞かせられないな。そう思った時にはもう遅かった。タイミング「悪く」常盤が到着してしまった。最悪だ。

「……鬱木さん……」

 常盤の目には涙が浮かんでいるのだろう。どう言って慰めてやればいいのか。そう考えながら彼女の方を見た時。俺は自分の甘さを思い知った。いや、女性への幻想がただの夢だったと思い知った。

 常盤の目には悲しみの涙ではなく、怒りの炎が燃え盛っていたんだからな。こんな彼女を見たのは初めてである事は言うまでもない。

 猛然とダッシュした常盤が鬱木の胸ぐらをつかんで締めあげた。嘘だろ?

「おいコラ鬱木ぃぃぃ! いつ私が南野と○○○を×××したっつんじゃぁぁぁ! 言うてみんかいやコラァァァァ!」

 いや嘘だろ? なんかもうそれしか言えない。ああ、鬱木の爪先が地面から離れてる。怒りのパワーなのか? 女は――とにかく常盤だけは怒らせないようにしよう。そう決めた。

 落ち着け、今俺がすべき事はなんだ? そう、常盤を止める事だ。できるだけ穏便に。

 あ……ああ常盤……さん。あのホラ、それ以上は鬱木が死んでしまうから……。そ、そう、殺人はいけない……よな?」

 こんなので聞いてくれるのか? 自信は無かったが、意外にも我に返ってくれた。鬱木の体をグラグラと揺らしまくって気が済んだのかも知れない。

「あ、あらやだ。私ったら……」

 今更テヘペロしたって無駄というか余計に怖いというか。これが女という生き物なのか……。様々な思いが俺の脳内を駆け巡った。

 鬱木がゼイゼイと息を弾ませながら立ち上がった。その凄まじい目つきが俺の意識を現実世界へと引き戻した。普通なら背筋が凍り付くような視線だ。なのに「警戒態勢」で済んだのは、それまで意識が「非現実」の世界にいたからだろう。怪我の功名とはこの事だ。

 でも……このボサボサ髪の間からのぞく強烈な視線は……今まで遭遇したGHOST達よりも怖いのは何故だ?

 異様に吊り上がった目と口元。その目は充血どころか真っ赤に染まり赤光を放っているようにさえ見える。瞬きもせずにこちらを見つめる――いや睨みつける形相は歪みきって非現実的に見えた。人間がこんな顔になるのか?

「とにかく……ほら、落ち着いて。まずさ、専門家の意見を聞こう。それから……」

「専門家?」

「そう専門家」

 鬱木の顔が下がり――再び持ち上がった。カッと見開かれた両目が俺を貫いた。視線だけで殺されるかと思ったのは初めてだ。

「あぁぁあぁんたぁぁあぁ! あんの小娘を使ってえぇぇぇぇぇ! あたしを陥れるつもりなぁんでしょおぉぉっぉぉ!」

「いやそんな事しないって! 落ち着いてくれ!」

 鬱木の肩を掴んで繰り返した。ヨレヨレの生地が伝えるパサついた感触も気にならない。いや気にしている場合じゃない。周囲の視線もだ。

 何かぼそぼそと声が聞こえる。女の声だ。微かで俺のすぐそば。下からだ。そこにいるのは――鬱木だ。

「そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ない」

「おい……」

「そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事ないそんな事そんな事ないそんな事ない」

「ちょ……」

 俺の顔を睨みつけたまま、瞬きもせず表情も変えずひたすらに同じ言葉を繰り返すその異様さ。生きてる人間の方が怖いんじゃないか? GHOST達は目に見えない分だけマシに思えてきた。

 狂気の威圧感に押されて思わず後ずさってしまった。視界に入った常盤達も気圧されて動けないようだ。そりゃそうだろう。

 でもどうすればいいんだこの状況。まだ「そんな事ない」を繰り返しながら迫って来る、このGHOST以上にヤバい女を止める手立てが俺にあるのか?

 耳に入って来る周囲のざわめきがどよめきに変わった。鬱木が放つ狂気が広まったのか?

 いや違う。何か暖かいものが狂気に覆いつくされた空気をかき消していく。どよめきと暖かい「何か」の方を振り向いた。その時の俺は間違いなく救いを求めて視線を投げていた。

 その願いは叶えられた。俺の視界の中央に映ったのは――大股に歩み来るうららちゃんの姿だった。

 制服姿で現れたうららちゃんは俺の方にはため息交じりとしか思えない視線を、鬱木には――見た事も無い程に厳しい視線を投げていた。

 よく見れば後ろに何人か同級生らしい同じ制服の男女がついて来ている。

「うららちゃん……助かった! 後ろの皆は?」

「見ての通り同級生。今日はこの近くの神社で実習があったのよ。自分のお金で来れるわけ無いじゃん。自慢じゃないけど。で、嫌な予感がしたから先生に言って抜けて来たの。そしたら……何人か連れ行けって」

「先生が?」

「そう。何かの経験になるだろうからって」

「色々と納得だな……」

 先生達よりも遥かに上の実力だし、自費で来れる経済的余裕はないし。確かな説得力だ。

 いや落ち着いている場合じゃない。現にすぐ隣で鬱木が――表情を目まぐるしく入れ替えている。憧れの人物に出会えた歓喜と恍惚の顔。そして視線で焼き尽くすような嫉妬と憎悪の顔がくるくると主導権を争っている。一つの顔で。なんなんだ……。

「あんたが北斗君が言ってた人ね」

「だ……だったら……なんなの……」

 なんだ、急に大人しくなったな。やっぱり相手によるのか? もしも怒りを抑えてるなら……爆発しそうになったら止めないと。男なんだからそのぐらいはしないとな。

「…………」

 うららちゃんが鬱木の顔をじっとのぞき込んでいる。無言でだ。何気にプレッシャーが凄い。なにしろこういう時は雰囲気というかオーラが圧倒的になるのだ。

「あんた……GHOST HUNTERの真似事は止めときなさい」

「な……なぁぁぁ!」

 鬱木が血相を変えて雄叫びをあげた。ヤバい、止めないと。二人の間に入ろうとした俺をうららちゃんが制止した。

「あんた、本当は自分でも分かってるんでしょ? ……自分に霊能力は無いって」

「んなっ……なん……」

 じゃぁアレか? 鬱木はずっと能力者のフリをして金を取ってたってのか?

「何を……証拠に……」

「霊能者は特有のオーラがあるの。でもあんたにはそれが無い。残念だけど、私には丸分かり。試験を受けに行っても入場ゲートではじかれるわね」

「そんな事……ない……」

「じゃぁなんで試験を受けに行かないの?」

 鬱木が言葉に詰まった。どうやら図星みたいだ。俺も聞いた事がある。GHOST HUNTER試験の会場には霊能者特有のオーラパターンを検出するゲートがあって、非能力者はそこで除外されるって。俺でも知ってるんだから、鬱木が知らない筈はない。

「煩い……煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い! あぁんたぁ! ぅあたしと勝負しなさいよおぉぉおぉぉ! そうよ、除霊で勝負よぉぉぉ! んでぇぇぇえ! あたしが勝ったらぁ! ぁあたしがGGGよぉぉおぉ!」

 無茶言うなよ……そんな事を勝手に出来るわけが――。

「いいわよ」

「はぁ?」

 俺と鬱木が異口同音に言ってしまった。マジか?

「じゃ。やりましょうか」

 手首を軽く伸ばしながらうららちゃんが、これまた軽く言い放った。いいのかよそんな……。

「な……そ、そぉよぉぉおぉ、あ、悪霊はどぉすんのよぉぉおぉ。あんた、呼んでみなさいよぉぉぉおぉ! それとも……でぇきなぁいのおぉぉぉ?」

 妙に勝ち誇った声で言う。正気かこいつ? うららちゃんは本物中の本物なんだぞ? ヤケクソなのか引っ込みがつかないのか。もしかしたら両方なのかも知れない。

「呼ぶ必要なんかないわよ」

「?」

「だって……分かんない? あんたの後ろにぞろぞろいるじゃん」

「ひいぃぃっぃぃぃぃ!?」

 後ろを振り向くと同時にへたり込み、そのままズザザザっとうららちゃんの後ろに回り込んだ。そしてうららちゃんのしなやかな脚に縋り付いている。都合のいい奴だ。

「どうしたの? 除霊するんでしょ? 早くやんなさいな」

「いっ……いぃぃぃやぁぁぁぁ……」

 さっきまでの威勢は何処へやら。情けない程にブルブルと震えている。

「逃げても無駄よ。あんたが心を入れ替えない限り、祓っても祓っても次から次へとそいつ等はやって来るんだから」

「ぅ煩い! さっさと助けなさいよぉぉぉおぉぉ!」 

 パシンと乾いた音が響いた。同時に鬱木の口が止まり、ボサボサの髪で隠され気味の頬が赤く染まった。震える左手が頬を押さえ、激情を失った目がうららちゃんを空しく見つめている。

「いい加減にしなさい! 年上のくせに甘えてんじゃないわよ!」

 うららちゃんが声を荒げた。こんなの初めて見たぞ……。

「あ……あぁまえてなんか無いわよおぉぉぉおぉおぉ! だいたい……あぁんたさえ居なけりゃぁぁあぁ! あ、あたしがぁぁぁあぁ! そぉのポジションにぃいたのにぃぃぃぃぃいぃぃぃ!」

 いや霊能力なさげなあんたが何言ってんだ? もう理屈じゃないんだろうな、きっと。

「じゃぁなれば?」

「は?」

 俺と鬱木と常盤達が同時にアホ面になってしまった。今度はうららちゃんが何言ってんだ?

「ちゃんと正規の試験を受けて正式にGHOST HUNTERになればいいのよ。女子大生GHOST HUNTER。いいじゃない、注目される事間違いなし!」

 鬱木がオドオドしてる。そりゃそうだろうな。口だけの奴はいざやれと言われたら大抵こうなる。だからこそ口だけで満足してるんだ。

 うららちゃんが鬱木の肩を掴んで揺さぶった。

「しっかりしなさい! GHOST HUNTERになりたいなら努力しなさい! 人前でいいカッコしたいだけならせめてお金を取るのは止めなさい! じゃないと……ますます霊格が落ちるだけよ。あんた、自分の霊格が分からないの? 下手な悪霊以下なの。鼠色に焦げ茶色を混ぜたような悲惨なオーラ……。北斗君以下なのよ?」

「なんでそこで俺が出てくる!」

 正当な抗議は華麗にスルーされた。なんてこった、くそ。

「人を羨んで。自分を誤魔化して。無関係な人を騙して。それがあんたの人生? そうじゃないでしょ! あんたが本当にやりたい事はなに? 理想の自分に近付きたくないの? 待ってても誰もあんたを変えちゃくれない! 自分で変わるしかないの!」

「あんたに……あぁんたにぃぃ! あたしの何が分かるってぇのよぉぉぉおぉぉ!」

「分かるわけないでしょ!」

 ピシャリと言い切った。ここまで来ると気持ちいいな。男が言ったら大問題なんだろうけど。

「だから自分で変わらなきゃいけないの。知らないの? 待ってるだけのお姫様は……誰にも気付いてもらえないのよ」

「…………」

「白馬の王子様は自分で捕まえなきゃいけない。下手をすると自分で育てなきゃいけないかも知れない。それが現実。夢も理想も同じ。自分で捕まえるの」

 仁王立ち&腕組みで語る時のうららちゃんは妙に風格がある。少々の年齢差なんか軽くひっくり返してしまうな。

「あんた……今まで何やってきたのよ……」

「ちょっと苦労しただけよ。色々とね」

 どうやら借金の苦労だけじゃなさそうだな。興味は尽きないが、さすがに立ち入るわけにはいかない。

「で、どうすんの? 弟子入りしてGHOST HUNTERになりたいなら……」

「で、弟子に……してくれぇんのぉおぉぉ?」

「知り合いを紹介したげる」

「はぁ?」

「ちょ……うららちゃん、ここはそういう流れじゃ……」

 キッと睨まれた。本気で怖い目つきだ。比喩じゃなく胆が冷える。

「あたしは弟子なんか取ってる場合じゃないの! そんな時間も無い! 分かってんでしょ!」

「はい! 所長!」

「よろしい!」

 一つ咳払いして鬱木に向き直った。

「いい? 本気で変わりたいなら――本当にGHOST HUNTERになりたいなら、北斗君を通してでいいから連絡して来なさい。師匠にいい人を知ってるから頼んだげる。ちゃんと今まで嘘を吐いてきた人達に謝って、お金も返してからね。過去を清算してカルマを解消しないと霊格はなかなか上がんないから。やり難い事こそ大事なの。分かる?」

「はい……」

 おお、鬱木が素直だ。大したもんだな、俺の雇用主は。その雇用主は微笑んで鬱木の肩をポンと叩いた。

「やらない理由よりもやる理由を探す。それが自分を変える秘訣よ」

 バッチンとウィンクを決めて踵を返した。

「さぁ皆、戻りましょ」

「GHOST HUNTINGじゃなかったみたいだが」

「こういう事もあるって話なんじゃない?」

「厄介な仕事ね、私達が目指してるのは」

 歩き出すと空気が緩み、日常が帰って来た。途端に周囲で事を眺めていた連中がうららちゃん目がけて殺到してきた! 俺でも一目で分かる。これは――サイン攻めだ! ついでに写メ攻めもだ!

「ヒィ!」

 意外にも情けない――いや、女の子らしい悲鳴を上げてこっちに逃げてきた。連れていた仲間も同様だ。

「うららちゃん、こっちだ!」

 細い手首を握り南門に向けて走りだした。そういえばうららちゃんに触れたのは……初めてだな。思ってたよりも華奢な……いや、そんな場合じゃない! 

 南門まで半分も行かないうちに異変に気付いた。行く先から野次馬が湧き出てくる。これは――間違いない、誰かがスマホで情報を流してやがるな。それも複数人。

 後は当然ながら黒山の人だかりだ。もう正面突破しかない。

「うららちゃん、ごめん。少し我慢して!」

「ちょ……あわわわ!」

 お腹に腕を回して細い体を横抱きに抱えた。ついて来ている高校生達に遅れないように言って加速する。高校時代の遺産に物を言わせて力の限りに走った。

 屍肉に群がるハイエナのような(ハイエナが怒るか?)人の群れを右に左に躱し、息があがるのも構わず走り続け――やっと南門を抜けた時にはもう、俺の体力は限界を突破していた。ここまで来ればもう無茶な騒ぎは出来まい。世間の目があるからな。

 うららちゃんをそっと下ろした途端に緊張感が途切れ、その場にへたり込んでしまった。

 空を仰いでゼイゼイ言ってる俺の耳元で柔らかい声が囁いた。

「……ありがと。今までで一番頼もしかった」

 うららちゃんがしゃがみこんで謝意を伝えてくれていた。表情は見えなかったけど……いいもんだな。こういうの。

 カッコいいセリフを返したかったけど、呼吸が戻らないんじゃ少し笑って頷くしか出来ない。締まらないもんだ。もっと鍛えなくちゃな。

「じゃ、戻らないといけないから。また後でね」

 同級生達を連れて歩み去るうららちゃんに頷いて呼吸を整える。やっと動けそうだ。

 立ち上がって伸びをすると、南門の中でブツブツ言ってる連中が俺を睨んでいた。何か文句を言ってるみたいだが、気にもならなかった。そいつらの真ん中を突っ切って戻り、常盤たちと合流した。

「まぁさ、その気があるなら……いつでも言ってくれ。うららちゃんに伝えるから」

「分かった……」

 鬱木がしおらしく頷いた。相当な薬になったみたいだな。もう心配ないだろう。もう一つ講義を受けなきゃならない俺は彼女達と別れた。後は彼女達自身の問題だ。話し合って納得いくようにしてくれればいい。


 大学が終わり事務所に行くと、うららちゃんがお茶を淹れてくれた。そのお茶は昨日よりもずっと濃く、新しい茶葉を使った事が一口で分かった。

「どう?」

「ああ、美味しい」

 破顔するうららちゃんの後ろで電話の呼び出し音が響いた。けたたましい音と共に、スリルとビッグマネーと借金返済の時間が始まる。

  


次回から本格的なGHOST HUNTINGが始まります。またお付き合いいただけたら幸いです。

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