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心霊写真①

GHOSTHUNTER(の助手)としての仕事を始めた北斗の周りに怪異が起きないはずもない。人の運命は連鎖するものなのだ。

今回の怪異は……?

 都立王星学園はその名の示す通り学力旺盛な高校だ。平均偏差値でもほぼ70、さらに特進コースや国際コース、スポーツ特進コースまである。国際コースは1年の一学期で1か月留学を経験する。ただし、その時点で英検一級が最低条件らしい。他のコースも推して知るべしなんだろう。

 そこに5年前に設立されたのが霊能コースだ。卒業までにB級試験に合格できなければ退学という厳しいカリキュラムになっている。もちろん学力試験もバッチリで、偏差値67らしい。曰く「霊性と知性は不可分」だからなんだとか。たしかに徳の高い坊さんや神父さんを見れば納得もいく。

 で、そこに特待生として入学したのがうららちゃんだ。もちろん学力試験も合格している。何よりも「学費一切免除」が決め手になったらしい。これも納得だ。

「まぁ高校ぐらいは出ておかないとね。プロフィールが見栄え悪いじゃない」

 なんだとさ。そういうわけで三流大学生の俺としては、色んな意味で頭が上がらない。絶対に今の俺よりも彼女の方が頭がいいだろうしな……。

「そういえばさ、北斗君ってどこ大学に通ってんの?」

「……何処園どこぞの大学です……」

「……聞いた事ないわね」

「そりゃまぁ……うららちゃん達が視野に入れるような所じゃないから……」

「ああ……うん……」

 と、聞かれた時には気まずい空気になってしまった事実もある。そのぐらい差がある。神様って不公平だよな。いや、借金が無いだけマシなのかも知れない。そう考えると、神様は公平に意地悪なんだろうか。

 それでも霊能力が公式に認められているこの社会では、そういった能力がある事は十分なステータスだ。IGHA公式の認定試験に合格すれば「信頼できる能力者」として高額の報酬(もちろん規定がある)を得る事が出来る。

 そんな世の中には当然だが「モグリ」の霊能者が跋扈するのもやむを得ない流れになる。社会人ならそんなのに引っ掛かる奴はよほどの奴だが、学生にはどうしても多くなる。学生には報酬を払える奴なんか少ないし、そうなるとどうしても格安で見てくれる「自称霊能者」が救いの神に見えるもんだ。

 そんな奴がうちの学校にも何人もいる。その中でも最近話題になっているのが心霊写真の鑑定を得意としている鬱木神奈うつきかんなだ。五千円で心霊写真を鑑定してくれるらしい。除霊はプラス一万円なんだとか。本当にそんな金額で出来るもんなんだろうか。俺が体験したあの除霊はとてもそんなんじゃ割に合わない。いや、それがあの金額だからなのか……。

「インチキに決まってんじゃん」

「即断だな……」

 うららちゃんにピシャリと言われてしまった。それも呆れ顔で。事務所はまだ電話受け付け前ののんびりした空気が漂っている。そこにたゆたうのは薄~いお茶の香りだ。何回淹れなおしたお茶っ葉なんだろう。

「いい? カメラにはね、霊なんか写らないの。覚えておきなさい」

「いやでも……昔から心霊写真ってあるじゃん?」

「それはみんな……トリックや操作ミスなの」

 薄~いお茶を大事そうにすすって俺をキッと見た。そういう顔はやっぱり可愛いだけじゃない。凛としたものがある。俺とは大違いだ。

「写真はね、可視光線しか写らないようになってるの。だから肉眼で見たのと同じ光景が写るのよ。分かる?」

「ああ……そうなの?」

「そう。昔のフィルムならそういう作りになってるし、デジカメなら赤外線や紫外線とか、可視光線以外をカットするフィルターが何枚も入ってるの。だから特殊な能力でしか見えない霊は写り得ない」

「もしもそのフィルターがミスで入ってなかったら? 写り得るんじゃないか?」

 食い下がるわけじゃないが、ちょっと聞いてみたい素朴な疑問だ。

「その場合はね、全体の色合いが変わるからすぐに分かるの。例えば天体写真用にフィルターを改造したカメラでそこらへんの街角を写したら、全体が赤みがかって変になるから」

「へぇ……」

「だからね、写真に写るなら誰にでも見えなきゃおかしいし、霊能者にしか見えないなら写真には写らない。故に心霊写真はあり得ない」

 うららちゃんが湯呑を置いて真剣な表情になった。正直、ちょっとドキッとする。

「とにかく! その人にはすぐに止めさせなさい。取り返しのつかない事になるかもしれないから」

 取り返しのつかない事……気になる。非常に気になる。どんな事を想定しているのか聞こうとした時、仕事の電話がけたたましく呼び出し始めた。スリルとビッグマネーと借金返済の時間が始まり、俺は応対にかかりっきりになり、鬱気の事は頭の片隅に追いやられた。



 その夜の仕事は比較的(前回に比べてだが)安全に終わり、一千二百万円が振り込まれ――翌日一番乗りで引き出せた千八百二十五円を別のバッグに入れ、大学に向かった。

 単位取得のために外せない講義を聞き流し、連れの宇都宮達と合流して食堂で昼飯を食っていると、俺のバイトの話になった。

「お前さ女子高生と二人っきりなんだろ? あの冴月うららと。いいよなぁ……めっちゃかわいいじゃん、あの子」

「まぁその点は同意するんだが。でもな、当分はタダ働きだし、やる事は電話番と荷物持ちと……」

「代われ、俺と!」

「悪霊をおびき出す囮だな」

「やっぱりいい」

 当然の反応が返ってきた。まぁそんなもんだろう。これだけGHOST HUNTERの存在が浸透しているという事は、その仕事の危険性も浸透しているという事だ。なのに――

「だからさ、あの……非公認の連中がな……どうにも……」

「許せんか」

「いやそうじゃない。なんか危なっかしくてな……」

 うららちゃんから聞いた話を伝えた。インチキとまでは言わない。勘違い、未熟さから来る間違い、思い込み。そんな感じでだ。

「ふ~ん、確かに道理が通ってるな。納得だわ」

「あ、いたいた、南野君」

 やって来たのは同じゼミの常盤凛と他数名の女子達だ。常盤は長い黒髪が印象的な清楚系の女子で人付き合いもいい。俺も何度か飲み会でご一緒した事がある。

「GHOST HUNTERの事務所でバイトしてるんでしょ? 時間があったらでいいからさ、この写真を鑑定して欲しいんだけど……」

 差し出された一葉の写真は、何人かの男女が水着姿で写っている記念写真だ。青い空と海を背景に笑顔で並んでいる。絵に描いたような夏の一コマ。自分に何もなかったら羨ましくてたまらないだろうな。

「これが? どうかしたのか?」

「うん……ほら、ここ。なんか……変な光が写ってるじゃない?」

 指差したのは写真の左下から右へとカーブしている赤い光だ。良く見ると縁に少し緑もあるような……。

「う~ん……いやさ、うちの雇い主の方針でさ、一千万円以上の仕事しか受け付けてないんだよ。払える――ワケないわな、うん」

 常盤が目を丸くして繰り返し頷く。まるで機械仕掛けの動きだ。このままサヨナラじゃ幾らなんでも気まずい。うららちゃんから聞いた話を伝えて心配ないんじゃないかと言った瞬間。

「そぉんな事なぁぁいわよぉぉぉぉおぉぉおぉ!」

 ヒステリックな絶叫が鼓膜を突き刺した。常盤の後から出てきた陰気な女が俺を指差して甲高い不快な声で糾弾してくる。その指は小さく震えているじゃないか。

「ぁあんたぁ! 有名なGHOST HUNTERんトコでぇぇ! 働いてるからってぇぇぇ! ぃいい気になってんじゃぁねぇわよぉぉぉおぉぉ!」

 なんだこいつは。ボサボサで手入れもろくにされていない長い黒髪が顔の半分を覆い隠していて、その間から見える目はカッと見開かれて血走って――瞬きもしてないぞ。服もヨレっとした古いワンピース――しかも醤油で煮込んだような色になってる――だし、靴もくたびれきったローファー。なんか……いや、間違いなくヤバい。

 周りも漏れなくドン引きだ。当然だろう。コレはヤバい。なんかヤバい。関わらない方がいい。てか、何で常盤はこんな奴と――

「ちょっと……鬱木さん、落ち着いて! 南野君に鑑定を頼んで貰おうって言ったのは自分じゃない!」

「だぁからこそよおぉぉぉぉ! っこぉんなぁぁあぁぁ! なぁんの能力もない奴にぃぃぃぃいぃ! んなぁにが分かるってぇんのよぉぉおおぉぉ!」

 ああそういう展開だったわけね。OK分かった。つまり単なる災難だったわけだ。有名人のところでアルバイトしてるってだけでこうなるわけか……まさか俺まで有名税を払う羽目になろうとはな。

 いや、落ち着いてる場合じゃない。うららちゃんに言われた通り、非公認で鑑定してるんだったら止めさせ……られる状態でもなさそうだ。常盤にまで食ってかかっている。どうやら俺と常盤がグルになってこの鬱木とやらを陥れようとしたって話になって来てる。被害妄想が暴走してるぞ。

「ちょっと待つんだ……鬱木――さんだったな? 今までの話だと自分で俺に――」

「だぁからぁ! そう言わせたのよこのクソアバズレ女がぁぁあぁぁ! ぅあたしのぉ! 能力にぃぃぃ! 嫉ぃっ妬してぇぇぇええぇえぇ!」

 おいおい。幾らなんでも言っていい事と悪い事があるだろう。さすがにムッとして反論――する暇も与えず、俺と常盤をあらん限りの語彙で罵り倒してノッシノッシと床を踏み鳴らして立ち去って行った。

 まさに嵐の様な出来事に一同は唖然と見送るだけだった。


「――で。何も出来なかったと。そういう事?」

「出来るワケないだろう! あんなイカレた奴相手に!」

「あのね……あんたがこれから相手にするのはそれ以上にヤバい連中なんだからさ。生きてる奴ぐらいあしらえなきゃやってらんないのよ。分かる?」

「そりゃまぁ……そうだけど……」

 確かに生きてる奴らの方が話が通じそうなもんだ。が、強硬手段に出られないって縛りがあるのも生者の方でもある。どっちの相手がマシなんだか分からんな。

 だけど、この世界に入った以上、あの鬱木を放っておく事も出来ない。GHOSTの危険性、それを思い込みや名誉欲で扱う事の危うさ。それを肌で感じ始めた身としては止めておかないといけない。

 決意を胸に刻んだ俺は、うららちゃんの視線に気付かなかった。



週一ペースの更新ですが、お付き合いいただけたら幸いです。

次回もよろしくお願いします。

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