死にたい
8時
「あ〜全然宿題が終わらない…」
ぼくは漢字ドリルに追われていた。
金土日と宿題をする時間はあっても、日曜の夜までやる気がでない。
しかも3日分の宿題だ。
「お父さん手伝ってよ〜」
「もう飲んじまったから無理」
既に空の缶ビールが2つ…これはお父さんに頼るのは無理そうだ。
宿題できてなかったら…先生に怒られるだろうな。
「ああ…もういっそ死にたい…」
ぼくがそう呟くと
「こら、死にたいとか簡単に言うな」
お父さんが静かにそう言った。
表情がない…初めて見るような顔だった。
「いや、本気じゃないし…みんなよく言うじゃん」
お父さんの顔が怖くて、目をそらしながらそう答える。
すると、お父さんはため息をつきながら答えた。
「本気なこともある…よし、1つ昔話をしてやろう。あれはお父さんが高校生の時___」
今日も、お父さんの怖い話が始まる
「死にたい」
誰でも一度は口にしたことがあるよな。
でもこの言葉を使うときは、大抵本気で死にたいとは思っていない。
日常のふとした瞬間に使ってしまうのだ。
「うわ、今日当番じゃん…死にてえ」
ある日、クラスメイトの1人が何気なくこう呟いた。
普段なら誰も特に気に留めないこの一言。
しかし、この日は違った。
「じゃあ死ね」
どこからか、声が聞こえた。
その瞬間、当番の男の子は気が狂ったように叫び出し、筆箱に入っていたハサミを自分の喉元目がけて刺した。
教室は一気に大パニック。
叫ぶ女子、止める男子、慌てて先生を呼びに行く。
なんとか一命を取り留めることはできたが、ムードメーカーだった彼は、まるで抜け殻のように何も話さなくなってしまった。
その時はまだ、誰も彼がおかしくなった理由が分からなかった。
だから、事件はまた起きた。
「先輩に振られた…もう死にたい…」
何気ない女子同士の会話。
その瞬間、またあの声が聞こえた。
「じゃあ死ね」
その瞬間、あの男の子と同じように彼女は発狂し、二階の窓から飛び降りた。
2度も立て続けに起きた事件。
学校では「死にたい」という言葉が禁止になった。
しかし、事件は終わらない。
当時いじめられていた男の子。
彼はいじめっこたちに無理やりその言葉を言わされた。
その直後、彼は自分で自分の首を締めた。
またある時、女子の1人がブログで「死にたい」と書いた。
本当に悩んで書いたのではない。
『先生に怒られたぁ٩(๑´0`๑)۶まじ死にたい笑笑』
たったこれだけのこと。
このブログが投稿された直後、彼女は自室で首を吊っていた。
彼女のブログのコメント欄には
『じゃあ死ね』
この1言だけが書かれていた。
これらの事件があってから、「死にたい」と軽々しく口にする者はいなくなった。
あの声の正体は未だに分からない。
だけどな、決して悪いやつではないと思う。
ある日のこと、病気であまり学校に来れてないやつがいたんだ。
その日も1週間ぶりかに来たかな。
俺は隣の席ってもあって、何も考えずに話しかけた。
「よ!元気か?」
だが、この言葉はよくなかった。
こいつの身体はかなり悪くなっていたらしい。
「元気なんかじゃない…!僕はみんなみたいに元気じゃない!!」
相当溜め込んでたみたいでさ、涙で顔がぐちゃぐちゃになっていたよ。
突然怒り出して戸惑う俺に、そいつは続けて言う。
「いつ死ぬか分からない…でも、学校に、来たかった!死にたくない…死にたくない!僕は生きたいんだ!」
教室が静かになる中、1つだけ声が聞こえた。
「じゃあ生きろ」
それからさ、そいつ医者もびっくりするくらい健康になったんだよ。
本当にいつ死んでもおかしくないような状態だったのに。
だから俺はすぐに「死にたい」って思わないようにしてる。
「生きたい」って気持ちがあれば、見えない何かが守ってくれる気がするんだ。