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第9話:灼熱のヒーロー その⑤

 証言台に立った近松さんから更なる証言を引き出すため、僕は再び尋問を開始する。

「近松さん。あなたは、本当に花柳さんが犯人だと思っているのですか?」

「『当たり前だろ! あの爆発が起こった時、一番近くに居た人間! それが花柳のおっさんだ!』」

 確かにそれはそうかもしれない。だが、今の時代、離れた所から爆発を起こす位は簡単だ。別に花柳さんじゃなくても出来る。

「今の時代なら遠隔操作での起爆も可能です。舞台で働いているあなたなら分かる筈です」

「『でも他に考えられないよ! 誰がやったって言うの?』」

 彼女の言う通り、現段階では犯人の特定が出来ていない。もし、何か新しい証拠でも見つかれば、少しは進展するんだろうけど……。

 僕は現場写真に目を通す。

 やはり客席側から見て右側から爆発が起きた様に見える。だとしたら、ここに何があったのか? 爆発するような物って何だろう?

 写真を見ていた僕は、ふとある物が目に留まった。

 これは何だろうか……? 白い破片? 何に使われていたものだ?

 僕は琴割検事に尋ねる。

「琴割検事。ちょっと宜しいですか?」

「……何だ?」

「この写真、そちらにも配られてますよね? ちょっと見て欲しいんですが」

 琴割検事は写真を見始める。

「この爆発が起きたと思われる場所。少し見にくいんですが、何か破片が落ちてませんか?」

「……これなら既に調査済みだ。それは、ここにあったトイレの破片だ」

 トイレ? ここにトイレがあったのか……爆発に巻き込まれて粉々になったって事か?

 すると突然、多逗根さんが会話に入ってきた。

「琴割クンが言った通り、それはトイレの破片だよ。そして、今回の事件で恐らく最も重要な証拠品だ」

 最も重要? という事は、もしかしてトイレから爆発が起きたって事か? 確かにトイレは何か隠すには絶好の場所だ。でも、それで警察が気付かないものか?

「……探偵。確かにお前の言う通り、これはこちら側も重要な証拠として見ている。だが、被告人の無実を証明するものではない」

「それはどうかな? トイレから爆発が起こった。そこは正しいと思うよ。でも、本当にそれだけかな? 裏に何かないかい?」

 トイレから爆発が起こった……もしも何か爆発物を置いていたとしたら、捜査ですぐにばれる筈だ。その裏……裏か……。

 ここで僕の頭にふとある事が浮かぶ。

 もしかしたら、これかもしれない。

「近松さん。少しいいですか?」

「『おう、何だよ!』」

「……ここのステージがどれ位前に作られたか知っていますか?」

「『あん? そうだなぁ……このチビと一緒に居るようになった時からあったから、大体5年前か?』」

 やはり彼女は知らないんだな……無理もないが。

「あのステージはもう20年も前に造られました」

「『へぇ~! 歴史のあるステージなんだね!』」

 相変わらず近松さんは人形越しに喋ってくる。

「……近松さん。もう止めましょうよ。いい加減自分の言葉で喋ってください」

 僕がそう言うと、近松さんの目が少し動く。

「『問題ねぇだろ! オレ達はダチなんだ! こいつの言いたい事位、オレ達が代わりに……!』」

「そうはいきません。近松さん、あなた……誰かを庇っていませんか?」

 その言葉を聞いた瞬間、近松さんが咳き込む。

 その様子を見てか、証人席に座っていた広島さんが声を上げる。

「おい! 紋沙ちゃんは喋り慣れとらんのじゃ! 止めたれや!」

 分かっている。彼女は、心を閉ざしてしまっている。

 だが、このままじゃいけない。花柳さんの無罪を勝ち取るためにも聞きださなくてはいけない。それに、このまま変わらなければ、彼女はこの先ずっと自分を偽って生きていく事になる。

 僕は広島さんの声を無視し、話を続ける。

「近松さん。答えてください。あなたは何を見たんですか……?」

「『お、おいチビ。言わなくていいんだぜ?』」

「『そ、そうだよ! 代わりに僕らが言うから!』」

 近松さんの額には大量の汗が光る。

 静まった法廷内には彼女の荒い呼吸音だけが響いている。

「う……あっ……はぁ……はぁ……」

「『おい! 止めろ! 無理するな!』」

「『大丈夫だから! ね!?』」

 僕には彼女が喋ってくれる事を祈るしかない。僕がカウンセラーだったら、もっと上手くやれたのかもしれないが、今の僕にはこうするしかない。

 近松さんは体を震わせながら手に付けていた人形を外す。

 顔は青ざめ、元々色白だった彼女の顔はまるで死人の様になっていた。

「み、見た……の……トイレ…………詰めてて……」

 出た! この証言だ! 間違いない!

 僕は裁判長の方に向く。

「裁判長! 今の発言、記録しておいて下さい!」

「分かりました。重要な証言として記録しておきます」

 僕は近松さんの方に向き直り、続きを促す。

「続けてください。何を詰めてたんですか?」

「わか、分かんない……でも、でも……あの人が…………不二咲ふじさきさ、さっ、ん……が、あ……っ!」

 その瞬間、彼女の体はまるで糸が切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。

「か、係官! すぐに医務室へ!」

 裁判長の呼び掛けによって、近松さんは係官に医務室へと運ばれていった。


 裁判中に人が倒れるという事態を目の当たりにしてか、傍聴人席はどよめいていた。

「静粛に! 静粛に! ……さて、とんでもない事になりましたが、弁護側、何か分かりましたか?」

「はい。先程の証言で発言された不二咲さんに尋問するべきかと」

 とは言ったものの、不二咲という人物には心当たりが無かった。いったい誰だったか……。

 僕が悩んでいると、琴割検事が口を開く。

「……新人のために補足すると、不二咲というのはあのステージで火薬の担当をしていた人物です。こちらで調べておきました。裁判長が宜しければ、召喚させますが」

「分かりました。では、召喚して下さい」

 火薬担当……僕も会ったあの強面こわもての人だ。確かあの人は、火薬の量には間違いは無かったって言っていた。

 火薬の管理を全てあの人が行っていたのなら、火薬を好きな時に好きなだけ使えたという事になる。

 もう既に僕の頭の中ではある程度答えが出ていた。

 その答えを確かなものとするため、僕達は不二咲さんの到着を待つ事にした。

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