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第7話:灼熱のヒーロー その③

 呉乃さんの登場により、裁判所内は混乱に包まれていた。

 当の本人には悪意は無いのかもしれないが、あまりにも天然過ぎる。

「え、えっとぉ……それでは何か気になる事とかは無かったですか?」

 僕が尋ねると広島さんが話し始める。

「気になるもんねぇ……何かあったかの?」

「どうじゃろう……舞台の方は特におかしい所は無かったと思うけど……」

 広島さんも佐伯さんも何もおかしなものは見なかった様だ。

 いったい何が爆発したんだろうか? 火薬の量に問題は無かったみたいだし、他にあの爆発を起こすには何が必要なんだろうか?

「多逗根さん、何か分かりましたか?」

「どうかな。ボクにも今のところ、まだ分からないかな」

 困ったな……あの爆発の要因が分かれば事故か事件か話しやすいんだけど……。

 僕が悩んでいると、琴割検事が裁判長に意見した。

「……裁判長。検察側は、映像記録による検証を要求します」

「映像記録? 記録が残っているのですか?」

「はい。事件当時、観客が撮影していた映像とテレビ局が撮影していた映像の二つがあります」

 そうだ。映像が残されてたんだ! それを確認すれば何か分かるかも!

「宜しい。では係官、準備をお願いします」

 裁判長の指示により、係官達による準備が始まった。


「準備終わりました」

 準備を終えた係官達は元の位置に戻り、裁判は再開された。

「ではまず、テレビ局によって撮影された映像を」

 琴割検事がそう言いながらリモコンを押すと大型テレビに映像が映った。

 その映像は僕がテレビで見たものと同じだった。

 特におかしい所は見られない。

「……何もおかしな所は無かったか? では次に、観客が撮影した映像だ」

 その映像はテレビ局のカメラよりもかなり近くで撮られた映像だった。どうやら最前列で見ていた観客の様だ。

 かなり細かい所も見る事は出来るものの、こちらの映像もおかしい所は無かった。

「……誰も、何も気付かなかったのか?」

 琴割検事は僕達全員に尋ねたものの、誰も何も言えなかった。

 折角重要な証拠になりそうな映像が出てきたのに何も見つけられなかった。どうすればいいんだ……。

 僕が悩んでいると、多逗根さんが話し始めた。

「どっちの映像にもおかしな所は無かったよね。でもそれは、比較する映像が二つしか無いからだよね?」

「……探偵。何が言いたい?」

「ボクとしてはね? この三人から映像を見せてもらった方が良いなと思うんだよね」

 多逗根さんがそう言うと、広島さんがあからさまに動揺し始める。

「な、何じゃアンタ! うううう、ウチら何も撮っとらんぞ!?」

 何だ……何であんなに慌ててるんだ? 別に見られて困るような物でも無いだろうに……。

「お、オイ! 美貨ちゃんも何か言うたれ!」

「え、えっと……ウチらは何も撮っとりません! ホンマなんです!」

「え~~~~~? でもこのみちゃん撮りよったじゃん?」

 呉乃さんの発言を聞き、広島さんの動揺が大きくなる。

「バッ!? と、撮りよらんわ!?」

「うん? でもでも~ウチら、あの子撮りに行ったんよね?」

 何だ? あの子? いったい誰の事だ?

 何を隠しているのかは分からないが、撮影を行っていたのは本当みたいだ。

「広島さん、撮影した映像の提出をお願いします」

「し、知らんわ! 撮っとらん言うとるじゃろ!?」

「広島さん。ボクとしては、提出する事をお勧めするよ? 下手に何か隠すと余計に怪しくなる」

 それを聞いてか、佐伯さんが広島さんの肩に手を置く。

 広島さんはようやく観念したのか、スマートフォンを取り出した。

「これに……入っとる……」

「ありがとうございます。裁判長、弁護側はこの中に入っている映像の検証を要求します」

「宜しい。では係官」

 係官達は再び準備を始めた。

 これには何かが映っている筈だ。

 少なくとも、広島さん達にとっては見られたくない都合の悪いものが……。


 準備が終わり、リモコンが渡される。

「では検証を開始します」

 僕がスイッチを押し、再生を始めると早速違和感があった。

 普通こういうヒーローショーをとる場合、舞台全体か、もしくはヒーローをアップにして映す筈だ。

 それだというのに、この映像は舞台上の蜘蛛型の怪獣を映していた。

 違和感を感じたのは僕だけでは無いようで、多逗根さんも琴割検事も困惑していた。

「あの……あまり詳しくない僕が言うのもなんですけど、おかしいですよねこれ?」

「そうだね。あの悪役も映すんならまだしも、蜘蛛しか映してないからね」

「……証人。説明を頼む」

 琴割検事の言葉を聞き、佐伯さんが話し始める。

「実は……あのぉ……ウチら、ヒーローショーそのものを見に行った訳じゃないんです」

「では、何を?」

「えっと……これって言うてもええんかなぁ……」

 何だろう? 言ったらマズイ事なのか?

 佐伯さんが悩んでいると、突然花柳さんが声を上げる。

「You!! 何を悩んでるんだ! その事なら心配ナッシングだよ!」

 花柳さんも知ってる? という事は、舞台裏に関する事なのか?

 花柳さんからOKサインが出たからか、佐伯さんは続きを話し始めた。

「えっと……OKが出たんで言いますけど……実はあの蜘蛛、特撮で使われる糸を使ってるんです。機械で操縦とかじゃのうて、人の手で動かしとるんです」

 僕もいつだったかテレビで見た事がある。あれは本当に凄い技術だ。ただ、誤魔化しの利きにくいショーでそれをやるのはちょっと危険じゃないだろうか?

「そうなのサ! 実際に人の手で動かす! それがボクらのコダワリなんだよね!」

「それで、あの……その動かしとる人が知り合いでして……」

 なるほど。それで蜘蛛の方を撮ってたって訳か。しかし、何で隠してたんだろうか? そんなに問題は無い気がするけど。

 琴割検事が尋ねる。

「証人。何故それを隠していた? 隠すような事でも無いだろう?」

「あー……そのぉ……その人凄い恥ずかしがりやで……撮影しとった事がバレたら怒るんですよ」

 何かおかしいな……その人は同年代の人なのか?

「佐伯さん。その人は、同年代の方なんですか?」

「えっ!? いや……それは……」

 この反応は図星だな。

 しかし、この子達と同年代の子がヒーローショーの手伝いをしているのか? その子は何故手伝いをしている?

「裁判長。この件に関して花柳さんに証言させる必要があると弁護側は考えます!」

「分かりました。では被告人。証言台へ」

「はいはい。ボクから説明するよー」

 花柳さんは証言台へと移動し、広島さん達は控えの席へと移動した。


 証言台へ移動した花柳さんはサングラスを直す。

「えーっとだね? まず彼女達が言ってる人物についてなんだけど、その才能を見込んでボクが直接交渉したんだ」

「少しいいですか? その人は何歳ですか?」

「14歳だよ?」

 これには驚いた。まさか、あの三人よりも年下だとは……。

 しかし、評価されて直接交渉されるって事は相当な実力なんだろう。

「いやぁ他にも探したんだけどね? いい人材が見つからなくてサ。そこに来て彼女という訳だよ」

 彼女……女性なんだな。

「どのようにしてその人の存在を知ったのですか?」

「動画サイトだよ。自作の人形劇を投稿してたんだ。それを見てボクはピーーンと来た訳だよ! 彼女の実力はまさにチョベリグって感じだったね!」

 ふと横を見ると多逗根さんはタブレットでその動画を検索していた。

 動画の事は彼に任せ、僕は前を向く。

「どのような契約ですか?」

「そんなに難しい契約じゃないよ。必要な時だけ仕事を依頼して、働いてもらった分お金を払う。それだけサ」

「金額はどれほどですか?」

「そうだねぇ……場合によるけど、多い時は一回10万かな?」

 じゅ、10万!? 正気かこの人……? それは払い過ぎじゃ……。

「それは、払い過ぎでは?」

「そうかな? 有能な人材にはそれ相応の対価を支払う。当たり前じゃないかい? あっ、言っとくけど、他のスタッフにもちゃんとした量の給料は払ってるよ?」

 うーん……どうかな……ま、まあこの件は後にしとくか。

 僕達が話し終えると多逗根さんが裁判長に意見した。

「裁判長。現在議題に挙がっている少女を証人にしたいのですが宜しいですか?」

「ふむ、いいでしょう。すぐに着くのでしょうか?」

「そうですね。あの現場に居たスタッフなのであれば、すぐに来ると思います。今から呼びますから、一旦休憩にしませんか?」

「分かりました。では証人が到着するまで、一旦休廷とします」

 裁判長の発言によって裁判は休廷となった。

 これはチャンスでもある。一度考えや資料をまとめる必要がある。

 今回は、結構長引きそうだ。

 僕は多逗根さん達と共に控え室へと戻っていった。

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