第1話:僕と君の初めての事件(前編)
彼との出会いは偶然だったのか、それとも必然だったのか、僕には分からない。だがきっと、僕は彼にとって、良き友人であり、良き相棒だったのではないかと思う。
彼との出会いは僕が弁護士として、初めて仕事をする事になった日だった。
僕が住むこの国、日本では数年前に法律が変わった。それは、弁護士も現場で調査を行う事が出来るというものだ。
何故こうなったのかと言うと、数年前に起きた、とある事件。あの事件で警察は調査を誤り、無実の人間複数人を誤認逮捕してしまったのだ。その時は、謝罪で何とか済ませたものの、結局多くの人々の反感を買い、結果として法律が変わる事になってしまったのである。
僕はある日、殺人事件の容疑者となった人物の弁護をするために、事件が起きた現場に来ていた。
そこには、コートを着た長身の男がおり、何やらあちこち調べていた。
正直、不気味だったが、意を決して声をかける事にした。
「あ、あの!すみません!僕、こういう者なんですけど!」
「ん?何だい?」
「い、いや!ですから名刺見てください!」
「ん……なるほど。守部優、弁護士クンか」
「そうです!あの、今からこの現場の調査をしなくてはならないんで、どいてもらえませんか!」
「うーん……そういう訳にはいかないかな?ボクも頼まれてるからね」
だ、誰にだろうか?まさか……本当の犯人にとか……!?
「あの……誰にですか?」
「うん?味美薫さんからだよ?」
「あ、味美さんからですか?お、おかしいな……僕も弁護を頼まれたんですけど……」
僕は不安になって、メモ帳を捲った。依頼主、合ってるよな……?
「君、もしかしてボクの事、弁護士だと思ってる?」
「あれ?ち、違うんですか?」
「うん。ボクの名前は多逗根多聞。34歳。探偵さ」
「た、探偵さんでしたか……!すみません、てっきり弁護士の方かと……」
「注意深く観察しないと駄目だよ?よく見て御覧。ボク、弁護士バッジ付けてないないだろう?」
い、言われてみれば付けてない。何で気付かなかったんだろう……。
「さて、ここで出会ったのも何かの縁だ。二人でここを調査しようよ」
「え!?二人でですか!?」
「何か不都合があるの?」
「いや、無いですけど……」
「じゃあいいじゃないか。さっ、まずは被害者が倒れた場所だ」
そう言うと多逗根さんは奥へと歩いていった。正直、初めての仕事だった事もあり、僕は手助けしてくれる人物がいる事にホッとした。
僕と多逗根さんは被害者が倒れたとされる場所に来ていた。
「さっ、守部クン。まずは被害者の名前と殺害場所を教えてくれ」
「し、知ってるんですよね?」
「もちろん知ってるさ。でも、情報の整理は必要だろ?」
「わ、分かりました」
僕はノートを開き、読み上げる。
「被害者は政治家の清木清二さん。56歳。レストラン 味美亭で殺されました」
「うん。ボクの記憶と合ってるね。じゃあ次に、死因は分かるかな?ボクはまだ知らないんだ」
「えっとですね……死因は、毒殺ですね」
「なるほど、毒か。料理に盛っていたのかな?」
「えっと、そうみたいですね。提供されたステーキから検出されてます」
「何て名前のやつ?」
「確か、キングコブラが持ってる毒で神経毒みたいです」
「……君、その部分、よく覚えといた方がいいよ?今回の事件の鍵になるかもしれない」
「え?は、はい」
僕はとりあえず、神経毒の部分を赤ペンで囲っておいた。この人は何に気付いたんだろう……?
「さて、とりあえず、ここはこんなもんかな。次行こう」
「え?ちょ、ちょっと待ってください!まだ全然調査して無いじゃないですか!」
「してるさ。君が来る前からね。でも、ほとんど役立ちそうなものは見つからなかったよ」
「み、見落としてるだけかもしれません!ちょっと僕も調査します!」
「いいけど、時間の無駄だよ?」
何なんでしょうかこの人は!探偵がこんな適当でいいんでしょうか!
「で、何か見つかった?」
「な、何も無かったです……」
「ほらね?だから言ったんだよ」
「次、行きましょう……」
「うん」
僕は多逗根さんと共に厨房に足を踏み入れた。
「毒を盛るとしたらこの場所ですよね」
「そうとも限らないよ?別の場所でも盛れると思う」
「ど、どこですか?例えば!」
「それは言えないよ。まだ確証が持てない」
僕は調理器具に何かおかしなところはないか調査していた。
すると、多逗根さんが突然僕を呼んだ。
「守部クン!ちょっとこっち来て御覧!」
「な、何ですか!?」
僕が向かった先はトイレだった。一見事件には関係なさそうだったが……。
「ここ、見て御覧」
「……何ですかねこれ?シミ?」
「これも記録しといた方がいいんじゃない?怪しいよこれ?」
「は、はい!」
「それとね、もう一つ大事な事言い忘れてたよ」
「何ですか?」
「そろそろ、第1審が始まるんじゃない?」
「えっ!?」
時計を見てみると、既に10時間近になっていた。まずい!初日に遅刻は信用に関わる!
「わわわっ!すみません!行ってきます!」
「ボクが送っていくよ。ボクも味美さんの弁護をしよう。そのために調査してたんだから」
「た、多逗根さんが?」
「うん。ほら、急いで。裏口に車停めてるから」
僕は多逗根さんの車に飛び乗り、法廷まで連れて行ってもらった。
法廷の控え室に通された僕は心臓が口から飛び出しそうなほど緊張していた。
「初めてだから無理も無いけど、少しは落ち着いたらどうだい?」
「わわわ、分かっています……!」
「分かってないよね?ほら、水でも飲みなよ」
「ありっ、ありがとうございます!」
僕は渡されたペットボトルに口をつけ、一気に中身を体に流し込んだ。
それと同時ぐらいか、係官から声がかかり、法廷に入場する事になった。
「よし、行くよ守部クン。君の初舞台だ」
多逗根さんに背中を押され、僕は法廷へと入っていった。
裁判長の厳粛な声で裁判が開廷される。
「ではこれより、政治家、清木清二氏殺害事件の裁判を行う。弁護側、準備は出来ていますか?」
「はははい!出来ておりますっ!」
「……検察側、準備出来ていますか?」
「問題ありません」
検察側にいるのは琴割定検事。かなりの強敵らしい。今まで何人もの新人弁護士が彼に潰されてきたとか。よりにもよって最初の相手がそんな人物だなんて……ついてない……。
「ところで多逗根殿。今回もいらしているのですな」
「ええ。調度彼と依頼主が被っちゃったみたいで。今回はボクはサポートという形で参加させていただきます」
どうやら多逗根さんは裁判長とは顔馴染みらしい。それだけで有利じゃないか……?
「新人。楽しよう等と考えるなよ?」
ギクッ!琴割検事にばれてた……?
「それでは被告人。入廷してください」
裁判長からの指示により、今回の容疑者、味美さんが入廷してきた。
「どうも、お願いします……」
「ではまず最初に、名前と職業を」
「はい……味美薫……24歳……料理人、してます」
げ、元気が無いな……。
「それではあなたの証言を聞かせてください」
「は、はい。えっと……事件が起こったのは11月2日でした。あの日私はいつもの様に厨房で料理を作ってました。それで、あの清木さんにお料理をお出ししまして……。そしたら、しばらくした後に客席の方が騒がしくなって……行ってみたら、清木さんがテーブルに突っ伏すようにして倒れてて……あ、あたし怖くなって……警察に通報したら、その後……こうなってしまって……」
彼女の証言におかしなところは見られない。法廷記録にもそう書かれている。
「何もおかしくないね。事実を言ってるって感じだ」
「やっぱり多逗根さんもそう思いますよね?」
「検察側、何か異論は?」
「いえ、特にはありませんね」
良かった。検察側も異論は無いみたいだ!
「では被告人。一旦席へついて下さい。では次の証人。前へ」
「はいっ!!文屋が証言いたしますっ!!」
うっ……!やけに大きい声だ……。
「名前と職業を」
「はい!文屋千尋!志乃山高校で新聞部に入っております!!」
「なるほど。元気があって大変宜しい。それでは、事件当日のことについて証言してください」
「はいっ!文屋におまかせを!!」
今、カメラで撮らなかったか……?
「あの日文屋は味美亭に取材に行っていたのです!若手の天才美人料理人の開いたレストラン!いいネタになると思ったのです!文屋が店に入ったのはまだ9時頃でした!仕込みの段階から見ておきたかったもので!文屋は味美さんに色々取材をしながら写真を撮ったりしていました!そして昼時、お客さんが次々と店内に入って参りました!味美さんが忙しくなった様なので、文屋はなるべく邪魔にならないように端っこの方にいました!」
厨房を出るという選択肢は無かったのか……。
「すると!突然!客席が騒がしくなったのです!文屋はすぐにピーンときました!これはスクープだと!すわと現場に駆けつけると、なな何と!御仁が倒れているではありませんか!文屋は急いで写真に収め、こうして証拠として提出したわけであります!!以上です!」
「ありがとうございます。弁護側、何かありますか?」
僕を資料に目を通す。なるほど。確かに写真が証拠として上がっている。
「守部クン。ボクからの意見なんだけどね。その写真多分何の意味もないよ」
「な、何でですか?立派な証拠じゃないですか」
「だっていらないじゃないか。警察も現場の写真位は撮ってるよ」
「でも、犯人とかが警察が来るまでの間に何か証拠を隠したりしたかもしれないじゃないですか」
「良い考え方だね。でもさ、別に証拠の隠滅を必ずしも行う必要は無いんじゃない?むしろその逆で、証拠をワザと残す可能性も考えられるよね?」
この人はいったい何を言ってるんだ……?ワザと残す?
「まあいずれにせよ、その写真は今は意味を成さないよ」
「わ、分かりました。では尋問を行います!」
「宜しい。始めてください」
僕は文屋さんの方へ向き、尋問を開始する。
「文屋さん。清木さんが亡くなられた時、何かおかしな物は見ませんでしたか?」
「おかしな物?」
「例えば、誰かが料理に何かしてるところを見たとか」
「いいえ?料理は普通に出されたはずですし、それに客席の方は分かりません!あの時、文屋、厨房にいたので!」
文屋さんは厨房にいた。確かにそうだ。そう証言していた。しかし、誰も料理に何もしていない?
「文屋さん。清木さんが食べたステーキからは神経毒が検出されています。誰かが入れたものだと弁護側は考えているのですが?」
「むむむ……それは文屋もさっき知りました。正直、不覚です!この文屋の目をもってしても毒を盛るところを捉えられなかった……!猛省するばかりです!」
あり得ない。誰かがあそこで毒を盛った筈だ。あそこには文屋さんの他にも味美さんがいた。どちらも毒が盛られる瞬間を見ていないという事は……あの厨房に誰もいない時間があった?
「弁護側、他に何かありますか?」
「守部クン。彼女から聞き出せる事は聞いたと思うよ。少なくとも、今はね」
「どういう事ですか?」
「ボクとしては、毒の出所が重要だと思うんだよね」
そうだ!毒の出所!確かあれはキングコブラから採れる神経毒だった。そんなに簡単に手に入れられるものじゃない。これの出所が分かれば……!
「検察側に質問します!毒の出所は分かっていますか?」
「……お答えしよう。現在調査中だ。キングコブラから採れる神経毒という事以外分かっていない」
どうやら、まだ検察側も分かってないみたいだ。
「守部クン。どうにもボクはあの文屋さんが怪しいと思うね」
「な、何故ですか?」
「うーん。何かねぇ、あの写真を出したところが怪しいんだよね」
「さっきそれ意味無いって言ってたじゃないですか!」
「うん。言ったよ。でもそれはこの裁判での物的証拠としてはって意味だよ。おかしいとは思わないかい?彼女は新聞部だ。それにあの性格。スクープネタを撮ったとあれば、誰にも渡さないで新聞の記事にすると思うんだ」
言いたい事は分かる。でも、それはただの憶測だ。彼女の本当の性格なんて分かる訳がない。
そう考えていると、突然多逗根さんが声を上げた。
「裁判長!少し宜しいですか?」
「何でしょうか?」
「弁護側は新たな証人の召喚をするべきだと考えます!」
「いいでしょう。して、その証人とは?」
「いるんでしょう!?化生さん!!」
多逗根さんが叫ぶと、傍聴席にいた人物が一人立ち上がった。すると、その人物は係官に連れられ、証人席へ移動してきた。
「多逗根殿、この方は?」
「はい。志乃山高校3年生。科学部部長、化生明子さんです!」
「ど、どうも……よろしくおねがいします……」
志乃山高校?確か、文屋さんも同じ学校だった様な……。
「証人。名前と職業を」
「は、はい。志乃山高校3年、化生明子です。科学部の部長……やってます」
「では証言を開始してください」
「は、はい。実はその……事件とは関係ないかもしれないんですが……うちの研究室にあったキングコブラの毒の標本が開けられた形跡がありまして……」
何!?じゃ、じゃあまさか……この事件で使われたのは……。
「証人。検察側から一ついいかな?」
「な、何でしょう?」
「その毒が入っていた瓶。今持ってるか?」
「は、はい!ここに!」
随分と用意がいいな。
「多逗根さん。あの子準備が良すぎませんか?」
「ボクの方から声かけといたんだよ。関係者の調査をしてたら彼女に刺し当たったんだ」
「あの二人は知り合いなんですかね?」
「そうみたいだよ」
意外な展開だ。毒の持ち主が見つかるとは。
化生さんの登場によって、凶器の身元が判明した。これは大きいぞ。
「弁護側、何かありますか?」
「は、はい!弁護側は尋問を行いたいと考えております!」
「宜しい。では尋問を開始してください」
「化生さん、毒の瓶が開けられてるのに気付いたのは、いつ頃ですか?」
「10月の28日位です……いつ開けられたのかは正確には分かりませんが、毎日チェックしてるので多分、その日に盗まれたんだと思います」
「ではその事を法廷記録に入れておこう。感謝する」
「分かりました。毒物の盗まれた日を法廷記録に追加しておきます」
「守部クン。もうすぐ犯人が割り出せそうだね」
「そうですね。あの瓶から指紋が検出されれば……」
「今回の犯人、そんなヘマをする奴だと思うかい?」
「思わ……ないです」
「それにもし仮に指紋が出ても、犯人は言い訳出来るんだ。偶然触ったんだとね」
確かに言い訳しようと思えば出来る……ん?待てよ、それって……!
「ようやく気付いたかい?」
「え、ええ。まだ確信は持てませんけど。でも、だとしたらいったい何故……?」
「そこまではボクにも分からないな。もうちょっと聞いてみたら分かるんじゃない?」
「はい」
僕は自分の中に生まれた疑惑を解明するために化生さんにある質問を行った。多分これで、犯人が割り出せる筈だ。
「化生さん。毒が盗まれたと気付いたその日、誰か来訪者はいましたか?」
「ど、どういうことでしょう?」
「もし、その日研究室に来た人がいるなら、その人物が清木さん殺害の犯人である可能性があります!」
すると突然、琴割検事が割って入ってきた。
「待った。……新人。まさかお前はそんな当たり前のことをわざわざ質問するのか?そんな事は火を見るよりも明らか。もし、その来訪者とやらがいたのなら、さっき既に証言されていた筈だ」
そう。そうなんだよ……。普通なら、そうする筈だ。でも、多分この人は犯人を庇ってるんだ……。理由までは分からないけど……。
「琴割検事。仰りたいことは分かります。ですが、もしかしたらということがありますので」
「ら、来訪者なんていませんでしたよ!そんなのいたらすぐに気付きますし!」
化生さんがあからさまに動揺し始めた。さっきからずっと眼鏡を触っている。
「守部クン。ここはボクに任せてもらってもいいかな?」
「え?ええ、どうぞ」
多逗根さんは化生さんの方を向くと、話し始めた。
「化生さん。君の学校の生徒に聞き込みをしたんだけどね?君の仕切ってる科学部、よく文屋さんが遊びに来てたそうだね?」
「え……!?あっ、いや、ぇ……えっと……」
やっぱりそうか。多逗根さんがあの写真が無意味と言っていたのも、今となっては意味が分かる。
僕が発言しようとすると、突如大きな声が法廷に響き渡った。
「待ぁあったぁああああぁあーーーーーーー!!!!」
「な、何ですか今のは!?」
「……証人、法廷では大声を出さないように」
声を上げたのは文屋さんだった。
「大声を出すな!?出したくもなりますよ!今の流れだと、完全に文屋に疑いが向いてるじゃないですか!!」
「そうだね文屋さん。ボクは最初から君が犯人という体で話をしていたつもりだよ?」
「ふざけないでください!文屋はただの情報提供者に過ぎません!人を殺したりなんかしてない!」
「検察側としても特に疑う余地は無いと思うが?」
「それ見た事か!文屋が毒を盗んだなんて!言いがかりです!」
確かに今の状態だと言いがかりだ。何とか証明出来ないか……?
「守部クン。重要なのは盗んだ理由じゃなくて、盗んだ方法だよ?瓶ごと持ち出していないという事は中の毒だけを数量だけ持ち出す方法がある筈だ。そして、その方法はもう既にあの証拠で証明されてる」
「あの証拠?」
僕はノートを開く。どこだ?どの証拠だ?
メモを見ている最中、僕の目はある証拠に止まった。もしかしたら、これかもしれない。
「多逗根さん。分かりました。多分これです」
「うん。そうだね。実際、よく考えた方法だと思うよ」
僕は文屋さんに質問する。
「文屋さん。その胸ポケットに入っている万年筆、ちょっと貸してもらえませんか?」
「だっ駄目です!!これは文屋が祖父から貰った大切な……!」
「現場となったレストランのトイレで黒いシミが見つかりました。あれ、万年筆のインクじゃないですか?」
「お、憶測です!!そんなの証拠にならないです!」
「……新人。そのシミがインクだという証拠でもあるのか?」
う……痛いとこ突いてきたな。時間が無かったからまだ調べ切れていないのに……。
「調べる必要はないですよ検事さん」
「……何が言いたい、探偵?」
「彼女の万年筆の中をすぐに化学検査すれば分かることです。何も反応が無ければシロ。反応があればクロです」
「う、う、う、絶対に渡しません……!」
「……裁判長、どうします?」
「仕方ありません。ここは多逗根殿を信じましょう。係官。文屋さんから万年筆を取り上げてください」
その後、入ってきた係官によって文屋さんは万年筆を取り上げられた。
また、化学検査に時間が掛かるとの事で、僕たちは少し休憩を挟むことになった。
僕は多逗根さんと味美さんと共に控え室にいた。
「味美さん。今回はすぐに済みそうですよ」
「た、多逗根さん……本当にあの子が毒を盛ったんでしょうか?」
「それは調べれば分かることです。それと、守部クン。次は毒について議題に挙がることになるけど、君は毒についてどのくらい知ってるの?」
「毒ですか?実はあまり詳しくは……」
「多分だけどね、文屋さんは毒が検出されたとしても認めないと思うよ。あの子にはあの毒では被害者を殺せないという確固たる自信があるからね」
何を言ってるんだ……?あの毒じゃ殺せない?でも確か、キングコブラの神経毒はかなり強力だって聞いたことが……。
「どういうことですか?」
「少しは自分で考えて御覧。ヒントを出すとすれば、被害者の解剖記録かな」
僕は急いで解剖記録に目を通す。特におかしな所は見当たらない。毒殺であることは間違いないようだし……。
「そんなにおかしな所は無いように思えますが……」
「君、もう少し勉強した方がいいよ?いいかい?毒には種類がある。それは分かるね?」
「ええ。かなりの種類があります」
「大きく二つに分けると、傷口から侵入するもの。経口摂取によって侵入するものに分類出来るね。ここまで言えば分かるんじゃないかい?」
僕は何となく多逗根さんの言いたい事に気付き、スマホを開く。すぐさま検索サイトでキングコブラの毒について調べた。……こういうことか。
「分かりました。多逗根さん。言いたい事が」
「聡明だね。それが文屋さんにとっての大きな後ろ盾なのさ」
「ですが、もしそうだとしたら、どうやってこの毒で殺害したんでしょう?」
「そう。そこが次に重要になってくるんだ。どうやってこの毒で被害者を殺害したか?」
僕は考える。この毒で被害者を殺害する方法を。解剖記録と照らし合わせながら、答えを導くために。
……そうか。これだ。これならあの毒でも殺せる。
「気付いたみたいだね?」
「はい。確かにこれなら」
僕たち二人の会話を係官が遮る。
「検査が終わりました。審理を再開します」
「おっ、時間みたいだね。じゃあ行こうか?」
「はい!」
「よ、よろしくお願いしますね……?」
僕達は無罪を勝ち取るため、再び法廷へと足を踏み入れた。