第3話 転校生の私がスケバンと闘う羽目になったのだが
親の仕事の都合で転校することになった。よくある話だ。
今日は転校先の学校に初めて登校。
「おい、見ろよ。あの娘めちゃくちゃ可愛いぞ! ウチの制服着てるけどあんな娘いたか!?」
「いや、ないかったはずだ! まさか幻!? あんな可愛い娘が実在するわけがない! 幻だ!」
登校中に早速注目を集めてしまったか。
そう、私はめちゃくちゃ可愛いのだ。
前の学校では、平成のピチピチギャルと呼ばれもてはやされていたほどだ。
――朝のホームルーム。
「よし、席に着けー。今日はな、このクラスに新しい仲間が増えるぞ。転校生だ。喜べ男子! 女子だぞ~。」
「へ~、どうせブスっしょ。キモメガネっしょ。」
「だよな~。どうせデブメスゴリだぜ? イタリア風焼きそばだぜ?」
「そうよそうよ! どうせ倉敷工業地帯よ! 」
途中から悪口じゃなくなってる気もしたが、どっちにしろ歓迎も期待もされていないらしい。
だが大丈夫だろうか。何の気構えもなく私の美貌を目の当たりにしてしまえば、
驚きのあまり顎を外してしまうだろう。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「す、凄い美人よっ! 眩しすぎて目が燃えてしまいそう!」
「大変だ! 山田の顎が外れた!」
「柴本の関節が全部外れた!!!」
またこうなってしまったか。
私の美貌により混乱が巻き起こる。
これを前の学校では、ピチピチギャルパニックと呼ばれていた。略してピチパだ。
――そして放課後。本題はここだ。
玄関を出て校門へ向かう途中、セーラー服のスカートは地面すれすれの長さ、茶髪でパーマのかかったロングヘアー、手には竹刀という風貌の女が立っていた。スケバンというやつだ。
「おいアンタ、転校生らしいな。」
目立つ私にとって、こういったスケバンに目をつけられることは珍しくなかった。
「アタイは静香ってんだ。アンタは?」
「私は希美。」
「アンタ、転校初日から飛ばしてるねぇ。いきなり学校中が混乱してるじゃないか。
一応この学校シメてんのはアタイだからさ、あんまデカイ面されると迷惑なのよ!」
実を言うと私は美貌だけではなく、腕っ節にも自信がある。
ピチピチパンチという必殺技があるのだ。
誤解されないよう説明しておくが、私の心の師匠である島木譲二さんのアレとは全くの別物だ。
ケンカ上等。
「何よ。やろうっての?」
私の方から決闘の流れを作る。この方が面倒が少ない。
「もちろんさ。アンタいい目をしてる。楽しみだよ!」
「おい! 静姉ぇと例の転校生が何かやるらしいぞ!」
気が付けば周囲には大勢のギャラリーが居た。ほぼ全校生徒だろうか。
「じゃあアタイから行くよ! 覚悟しな! しりとりの『り』でスタート! りんご!!」
え、何それ。待ってわかんない。いや、『ご』で始まる言葉はわかるけど、
この流れ全然わかんない。
絶世のピチピチギャルである私が、スケバンとしりとりで闘えと?
「でたぁーーーー! 静姉ぇ得意のりんごスタート!」
「転校生相手にも容赦無しなのねっ! 痺れるわぁ!」
ギャラリー盛り上がってるよ。この学校ってバカしか居ないのかな。
やるしかないのかな・・・。
でも勝てばいい。そう勝てばいいの。
「ごま。」
「おおおおおお! 静姉ぇのりんごを返した!? あの転校生なかなかやるぞ!」
「一般的には、りんごに対してはゴリラで返すものなのだが・・・。なんて発想だ。人間とは思えねぇ。」
「ふっ、アンタやるじゃないか。そうこなくちゃね。
でも余裕ぶっこいてられるのもいまのうちだよ! マントヒヒ!」
「ヒト。」
間髪入れず返した。マントヒヒに対してヒト。この返しには狙いがあった。
「へぇ、そうくるのかい。面白い! トカゲ!!!」
どうやら向こうもその気のようだ。伊達にスケバンではないのだろう。
このやり取りでギャラリーの中にも気づく者が現れたようで、
「ま、まさか!?」
「お前も気づいたか・・・。そうだ、これは動物縛りだ!」
「ふぉっふぉっふぉ。面白くなってきたわい。良い勝負じゃのぉ。ワシも若い頃はよくやったもんじゃぁ。」
誰だよこのじいさん。
動物縛りが始まってから850のラリーが続いた。
しりとりのルールに本来は無い動物縛り。
この縛りを無視したところで負けにならない。
しかし両者にとってこの縛りは、ルール以上に重みのあるものだ。
意地と意地のぶつかり合い。これが本当の勝負というものだろう。
「ホーランドロップ。」
ここで私の会心の一撃が飛び出した。
「・・・・・・プ、プ――」
無いだろう。必殺ピチピチホーランドロップを返せたものなど誰もいない。
「プ・・・、プリンアラモード・・・。」
こいつにはプライドが無いのだろうか。
動物で返せないのなら負けを認めるという空気だったのは明白。
そこまでして勝ちを目指すのは、それはもう勝負でも何でもない。
「いや、待ってくれ! 今のは無しだ!」
意地のぶつかり合いから降り、挙げ句の果てには待ってくれか。
私は心底失望した。
「待ってくれ・・・。アタイの負けだ。」
「え?」
「真剣勝負を汚してしまった! 申し訳ない! もう少しで一生後悔するとろだった!」
彼女は深く頭を下げた。
そしてゆっくりと顔を上げた彼女の目には光るものがあった。
そうか。
私はこいつと少しくらいなら仲良くなれる気がした。
ピチピチギャルとスケバンのコンビ。面白そうだろ?