第2話 魔法少女の私に魔法少女のオファーがきたのだが
困りました。
この業界の人達、といいますか猫さん達は、情報交換などしないのでしょうか。
ジローさんという猫さんが、魔法少女にならないかと打診しております。
既に魔法少女であるこの私に。
「あのですね、私はもう魔法少女なのです。」
「またまた~。そういう断り方したら諦めると思った? よく居るんだよねぇ。」
困りました。信じてもらえません。
こんなことがあるのですね。
こんなこと、と言うのは2回も魔法少女のオファーが来る、と言うことではないのです。
17回目なのです。
17回と言ったら、甲子園出場校だとしたらなかなかの強豪校ではありませんか。
そんなレベルでオファーが来ているのです。
しかも1週間の間にです。
1週間で17回と言ったら、甲子園出場校だとしたらありえない強豪校です。
そうです。ありえないレベルのことが今起こっているのです。
丁度1週間前のことです。
学校から家に帰るとリビングに猫さんがおりました。
ソファで仰向けになってくつろいでいるようでした。
「おかえり久美ちゃん。待ってたよ~。オイラはカズってんだ!」
申し遅れましたが、私、久美という名前なのです。
「えっとねー、あのねー、魔法少女にさ――」
私に魔法少女になって欲しい。世界を救うために私の力が必要とのことでした。
突然のことでそれはもう驚きました。
でもさほど悩むことはなったです。
なぜなら私の力で世界中のみなさんをお守りできるなんて素晴らしいことではありませんか。
私は以前から、世の中にお役立ちできるような人間になりたいと考えておりましたので、
これとない機会と思い受諾いたしました。
しかし大変なのはそこからです。
登下校の道中や、公園、図書館、野球場など、いたるところで猫さんと遭遇し
魔法少女のオファーをその都度お断りしていました。
既に魔法少女であることをお伝えすると、大抵の猫さんは納得していただけました。
ですが、9人目の猫さんに遭遇したときのことです。
「え~! やだやだやだ! せっかく見つけたのにぃ~! 一回辞めてからまた魔法少女になってよぉぉ!」
というようにこのクソ猫さんは駄々をおこねになられました。
一度辞めるというのはできません。
カズさんに申し訳ありませんからね。
その旨をお伝えしましたが、それでも納得していただけませんでした。
その時です。何故だかわかりませんが持っていたカバンの取っ手が半分にちぎれていたのです。
断面は鋭利な刃物などで切ったような綺麗なものではなく、やはりちぎれていたという表現がしっくりくるものでした。
カズさんが急に汗をかいているような、何か焦りだしたような気がいたしました。
「あ、あ、あー、あのー、もう一度だけお願いをさせていただきますでございます。魔法少女になって欲しく思ってオリンポス!」
焦りのせいか日本語の崩れが見受けられました。
「いえ、やはりお受けできません。お引取り願います。」
「じゃあ! キミのパンツを下さい!」
その瞬間持っていたカバン本体が粉々になってしまいました。
やはりこれも刃物等ではなく、人間の素手でむしったような有様でした。不思議です。
「あわわわわ! 違うんだよ! 別に変な意味じゃなくてね、少女に声をかけて5回連続でなんの成果もあげられずに帰るのはこの業界では御法度なんだ! だからせめて魔力が宿るとされているパンツを持ち帰らないといけないんだ! すでに僕は4回連続で失敗していて・・・。」
どうなのでしょう。嘘ではないかと思いましたが確認のしようがありません。
それに私は人を疑うということに抵抗もありますし、これはもうこの要求にお応えして帰っていただこうかと。
「パンツをお渡しすればよいのですね?」
「そうそうキミのパンツねっ!」
私の祖母の名前はキミなので、祖母のパンツをお渡ししました。
こうしてようやく帰っていただけたのです。本当に苦労いたしました。
そしてこのジローさんです。
諦めてくれる気配がまったくありません。
27歳でもなければ、きちんと会話できる知能も持っている天才だ、絶対に魔法少女になってもらう、とおっしゃっております。
ふふふ、ふふ、
どうしましょう。困りました。
困りました。困りました。
帰ってくれません。困りました。
ふふ、ふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふ、ふ
困りました。机が割れました。
困りました。壁に穴が開きました。
困りました。テレビが消滅しました。
「あ、ああ、ボク帰るよ・・・。だからちょっとクローゼットに入ってたパンツ――」
ジローさんの毛が真っ赤に染まりました。不思議です。