8話
それから私たちは夜通し走った。
今回はヴァブーシュ王国から必死で逃げ出した時とは違い、アナザーがいることでかなり楽だ。鞍はないけど、毛皮は厚いしそもそもアナザーもそこまでスピード出ないから問題ない。
移動速度は14…今はほぼ全力で走らせてるから、秒速4.2m?50mなら約12秒か。普通の馬なら途中で休憩を挟んだりするんだろうが、魔神は睡眠も食事も必要ないからな…私の食事の時だけ止まって、アナザーと一緒に飯を食うことにする。
今日も今日とてスープもどき、あとは黒パンがあったので、それに野兎の焼いた肉を挟んで食う。パンは固いが肉が新鮮なだけあって中々のものだ。兎の肉はよく言われることだが鶏肉に近く、それなりにおいしいようでアナザーもガツガツ食べていた。
野兎サンドイッチは移動しながらでもつまめるので2,3個作っておいて、また走りだす。
夜中に何匹かジャイアントバットに遭遇したので仕留めて収納に入れた。夜行性の動物も結構いるみたいで、出来る限りは避けて通ったけど…真正面からぶつかったら戦うしかないだろう。この辺は人族も蛮族も少ないらしく、代わりに幻獣を数匹見つけた。薄々気づいていたが、かなり街道からは離れているようだ…明日からは西に進路を変えることにしよう。
北へ向かって12時間あまり…日も昇ってきたので、この辺で野営する。今度も、木の下でこそないが似たようなところだ。
正直野営地としては微妙な場所だが、ここから30m以上離れたところに岩場があって解体できるのがいい。血の臭いは自然と動物を引き寄せるから野営地から離れてたほうがいい。
野営地と決めたところをならして、バリアドサークルを張り、見回りをして、と言った流れは昨日と同じだ。見回り中にグレイリンクスを見つけたのでアナザーが仕留め、ブリザーベイションを使って収納にしまう。他には何もいないな。
バリアドサークルは小動物以上の大きさじゃないと感知できないため、小さくて強い…つまり妖精の類は入ってきていても分からない。ただ入った時点で何らかの術中にあると感じられるはずのため、穢れとか瘴気を嫌う妖精なら避けてくれないかなあ、というのが希望的観測だ。
妖精は金にもならんし、そもそもTRPGの頃からフェアリーテイマーも性に合わないしで妖精には苦手意識があるから会いたくないのが本音なんだが。
野営地の準備が整ったら、次にするのは解体だ。アナザーを連れて目星をつけていた岩場に向かい、解体用のナイフと動物の死体を取り出す。アナザーには見張りをお願いして、私は解体だ。
まずは肉を取れないキラービーから解体した。これは素材だけ取ったらあとは捨てる。
ウルフやグレイリンクス、ジャイアントバットは肉と皮だけとって、内臓は捨てる。
ゴルゴルとゴルゴルゴールドは骨細工用に骨もとっておく。
タイガーとグリズリーは内臓も漢方薬になるから、捨てるところはほとんどないな…使いどころは未だに謎だが。
肉はもちろん食用で、本来は肝臓や動脈を刺して仕留めることで血抜きするんだろうが、私はブリザーベイションがかけてあるので血も腐らない=血抜きしなくていい、はず。収納の中もひんやりしてるし微生物の繁殖とかはないでしょ。
こんなサバイバル生活するならプリーストよりレンジャーとるべきだったか…明らかにデーモンルーラーよりソーサラーとかコンジャラーのほうが有用だし…あ、そうすると逃げ出さなくてよかったやん。
あたりには血の臭いが漂ってるし、内臓やなんかも散らばっている…解体が終わったらさっさと去るに限るな。帰ろう。
野営地に帰ってくる前にアナザーが川を見つけたので血の臭いを消すために水浴びをした。綺麗そうだったけど川の水は飲んじゃダメだから水袋には入れない。
冒険者レベル11だし生命抵抗力高いからイケるかもしれないけど、なんかこう、現代日本人的にダメな気がするので本当に必要なとき以外飲まないことにする。雫のブレスレットあるから飲料水はギリギリ足りるし…。
ちなみにアナザーは普通に川の水飲んでるよ。マイさんみたいにフェトルの神官なら水には困らないんだろうけど、信仰を変える気はさらさらないし別にいいや。
水浴びついでにその辺にいた食えそうな鳥を狩る。あとは…しいたけと、セリやナズナなど野菜を数種類見つけたので採ってきた。春だなあ。
帰ってきたらもうそろそろ昼…10時位だったので、今日のご飯を作る。私は夕方と真夜中にも食事をすることにしているが、真夜中は走りながらだし夕方はすぐに出発しないといけないので一番手間をかけられるのは昼ごはん…いや、寝る前の飯だし夜ご飯なのか?だ。
まずはグリズリー肉食べたいな…いや、だけどもっと調味料を入手してからのほうがおいしくいただけるか…うーん…とりあえず一番数も量も多いゴルゴル食うか。
ゴルゴルは筋肉のせいなのかもともとの肉質なのか、かなり固いので薄切りだ。猿肉って豚っぽい味とか聞いた気がするのでスープの具材にしよう。
ダシは鶏…ではなく鳥ガラにする。ドバトとかのダシがどうなのかは知らんが、獲ってきた鳥は鶏と同じキジ科っぽいからセーフだと思う。それにしいたけも加えれば、即席のだしスープだ。時間もかかるので鳥がらスープはたくさん作って置いておきたいが、容器がないので代わりにキジっぽい鳥を保存することでいつでも作れるようにした。
ゴルゴルの薄切り肉と、さっき採ったセリやナズナを入れて今夜の飯の完成だ。主食は今日も乾飯オンリー。シンプルすぎたので、一番獲りやすいであろうウルフの肉をステーキにして添えている。
椅子が欲しかったので『デモンズブレード』で腕を剣状に変異させ、その辺の木を一閃する。切り株の椅子を作ったところでアナザーを呼ぶことにした。
「アナザー、ご飯できたよー。」
「はーい。いただき、ます。」
「いただきます。」
アナザーにはなんとなく「いただきます」と「ごちそうさま」を覚えてもらった。そっちのほうがご飯食べてるって感じもするし、これもラーリス様への祈りにカウントされるらしいし。信仰心の薄い魔神はめったに祈らなさそうだけど、普通に祈ってたらアザービーストでも神聖魔法が使えるようになったりするんだろうか。
スープの味としては卵のない中華スープっぽい感じ。思ったよりおいしいけど物足りなく感じるな。やっぱり卵も欲しいから今度鳥の巣見つけたら強襲してみることにしよう。ウルフ肉は…やっぱり塩味だけじゃ微妙だな。調味料早く欲しいなー。
食べ終わった頃にはもう正午だったので、6時間寝た。
起きたら簡単に片付けて、西に向かう。この後は街道か近隣の村にたどり着くまで、ずっと北寄りの西に向かい続ける。夕ごはんを作る時に一緒にゴルゴル肉の薄切りステーキを多めに作ったので、それとパンで真夜中の飯を済ませたら、またひたすら西に向かうことにした。