7話
チチチ、と聞こえるのは鳥の声。目を開ければ光が入ってくる…朝だ。まだ太陽が登ったばかりのようで、あたりは涼しい。
遅起きしようと思ってたのに…夜襲があったせいか2度寝できそうにないので、起きることにした。ちなみにテントを出てすぐに太陽の方向を記録したので、大体の方角は記録できた。
収納の実験の結果としては、本当にこれ冷蔵庫だったわ。時間は経過していたようで松明は燃え尽きていた。
ただ結構な酸素の量を使ったはずなのに酸素は全く薄くなっていないし内部も暖まっていない。そこから、この収納は容量は限界があり時間も経過するが、酸素はどこからか供給されるし温度は一定に保たれるものだと結論づけることにした。
今日の予定は…朝から昼まで、狩りや採集。こんなにゆっくりできるのはそうそうないだろうから今のうちに蓄えを作っておきたい。肉と果実はブリザーベイションをかけて生の状態で保存して、ハーブ類は乾燥させるつもりだ。
物品1つにつきMP6消費と中々効率は悪いが、異形の面なら直ぐに回復するし何より永続なのがありがたい。…食べても大丈夫だよね、これ?
季節は…春と夏の間のようだけど、ローズマリーとかならあるかな?ちなみに昨日採ってきたのはミントだ。これが一年中大量にあるのはラクシアでも…前の世界?でも同じらしい。
そうなるとますます街に寄りたいな。高いだろうけど胡椒とか砂糖とか、さらにバターとかあれば上々だ。とりあえず油と塩の追加だけでも補充するべきだろう。それにレンジャー技能で分かったことだが、今の私はサバイバル生活するにしても道具が足りない。北向きの針とか地図とか、多少金はかかるだろうけど買わなきゃいけないものが大量にある。
やっぱり問題は金だな…一般技能『狩人』もとったし、ハンター生活始めるか。
幸いグリズリーがギリギリ無傷(あの傷は異形の面で一瞬で治ったので無傷だと言わせてくれ)で仕留められることは分かっている。あれから剥ぎとった熊の手は300Gで売れる…冒険者基準ならしょぼいが、ジリ貧の私にとってはなかなかに高額だ。
2日いただけでグリズリーに遭遇するということは、この辺には他にも中レベル帯の動物がいるのかもしれない。それなら少し移動しながら狩りをするだけでサバイバル用品代は稼げると思う。
そうと決まれば昼まで狩りまくりだな。
「アナザー、狩りに出るよ。昨日のグリズリーみたいなのも狩るかもしれないから、気をつけてね。」
「狩り?がんばる!」
アナザーはやる気のようだ。だけどレベル7とかの動物に遭遇したら危ないし、緊急避難の方法も欲しいなあ…私はデモンズウィング使えるけど、さすがにポニーサイズのアナザーを抱えるのはキツイし…いざとなったら収納に入ってもらってもいいな、と思ったのでそれもやってみることにした。
「アナザー、これに入れる?入ったら居心地も教えてほしいんだけど。」
そう言って収納を、アナザーが入れる程度にあけてやる。
「…入る、できる。ひんやり、気持ちいい、よ。」
どうやら普通に入れるようだ。私は腕か首までしか入れないから、術者以外なら生き物も入れるのかな…謎が深まる。
「ありがとう。もし危なくなったらこれに入ってね?私は飛べるから、離脱するし。」
「わかった。」
準備も完了。それじゃあ狩りの時間だ。
私もアナザーもやる気だったので、大漁だった。つい気分が乗って昼過ぎまで狩りしてしまった…まあ、3時間は眠れると思いたい。
戦果はウルフ×1、キラービー×2、ゴルゴル×6、ゴルゴルゴールド×1、タイガー×2、グリズリー×1か。上々だな。
最初はバリアドサークルの範囲から出て少し行ったところで文字通り一匹狼のウルフを見つけたため、瞬殺。
キラービーは、巣こそないものの働き蜂っぽいのがいたのでこれも瞬殺。
グリズリーと出会い、今度はアナザーと一緒に仕留めたところでゴルゴルの群れと遭遇した。流石にやばいと思ったから召異魔法で肉体強化して挑ませてもらいましたよ。アナザーを収納にしまって木に登ったり、飛んだりしながら相手を撹乱して群れの半数を撃破、ボスっぽいゴルゴルゴールドを倒したら逃げていったな。
帰りがけにタイガー2体に会ったのでそれは攻撃をかわしつつ同士討ちさせて、魔力撃で仕留めた。
本当はその場で剥ぎ取りたかったが、時間もないのでやめておいた。異形の面でMPが回復し次第順次ブリザーベイションをかけて収納にしまったので次に野営するときにでも解体しよう。
その後は普通に寝て、起きたらちょうど日が沈む頃だったので出発だ。
たった2日いただけだったのに愛着が湧くが…すまないな、拠点(仮)よ、私は行かねばならぬ。ルキスラにな。
そういやルキスラってどっちだっけ。
えーっと、今が自由都市同盟の東の端から北上してきたところだから…距離感はつかめないが、きっと北西の方だろう。
メインの街道は自由都市同盟の真ん中あたりを通ってるから、もう一日北に向かったら西に進路を変えようかな。そうすれば街道に出られる…はずだ。
そんなことを考えながらテントを収納にしまう。動物たちの死体の山がかなり容量食ってるなあ…早めに解体しちゃいたい。
「ランタンOK、契約本OK…よし、出発しよう。アナザーも大丈夫?」
「大丈夫。もう、出る、できる。」
アナザーにはウルフの毛皮を縄で括りつけて滑り止め代わりにしている。これも街に行った時に鞍を買わなきゃな。
さあ、出発だ。