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2話



「――おお、この方々が『転移者』か!」


次に私が目を覚ました時、そこは建物の中だった。

周りには私と同じように現状認識できていない人たちが4名。軽戦士っぽい王道のイケメンと、いかにも盾役な戦士、風が吹けば倒れそうな弱々しい神官?に、西部劇に出てきそうなガンナーだ。それを取り囲むようにいるのが、修道服を着た人々といかにも王様!って感じの人に、その護衛っぽい人たち。ちなみに今話しかけてきたのは王様っぽい人だ。


「転移者様…私はこのヴァーブシュ王国の王、アルデハイドと申します。どうぞお見知り置きを。」

いや、そんな事言われたって知らねえし…ヴァーブシュ王国?

ヴァーブシュ王国はルールブックにはなかった名前だ。しかしレオンの記憶によると、自由都市同盟の北東のすみっこの方にある王国らしい。森に囲まれた中規模の王国で、今すぐ飢え死ぬほどではないにしろお世辞にも豊かとは言い難い土地。森のめぐみといえば多少の果実と、定期的に襲ってくる野獣の群れくらいといったところらしい。


「あの、失礼だが――転移者、とは?」

私も含めみんなフリーズしていたのだが、そのうちの一人、主人公っぽい王道イケメンが最初に正気に戻ったようで、返答した。

「ああ、そうでした。転移者様方は事情をご存知ないのですね。ルロイ、説明を。」

「はっ。私はこの神殿の神殿長にしてライフォス様のプリースト、ルロイと申します。以後お見知り置きを。さて、転移者、とは単純に言えば転移してきた者のことでございます。ついひと月前、ラクシア全土のプリーストに神からの啓示がございました。『1ヶ月後、伝説級の冒険者が、このラクシアに転移してくる』と。場所はお伝えされませんでしたが、神殿であろうことは伝えられました。そのため我々は皆ここにいたわけです。」


びっくりするほど恭しい態度で説明された。伝説級の冒険者って…まあ確かにTRPGしてたら10レベの冒険者とかガンガン作るけどさあ…


「わ、私、どうなっちゃうんですか…?」

今度質問したのは神官っぽい女性。エルフのようで、耳が尖っている。まあ普通はそう思うよね。だって王様の周りには槍とか剣とか持った兵士がめっちゃいるんだもの。キャラクターの記憶があるとはいえ、現代日本に生きてきた一般人にはわりと怖い光景だよね。

「あなた方は伝説級の冒険者様ですので、この国に国賓として滞在していただくことになります。あなた方がいればこの国には最早怖いことなどありません――ああ、もちろん何かをしていただくわけではありませんが、緊急時にはお力を借りることもございます。」


ここでの私の心境を指し示すなら「あっ…(察し)」が一番適当だろう。嘘はついてないと思うよ?仮にも高レベルセージ。真偽判定ならお手のものです。だけどさあ、転生・転移系小説を愛読してた私からするとこれ、「他国への抑止力になってね!言うこと聞かない国にはお仕置きしちゃって!」としか聞こえませんよ?いやたぶんその通りなんだろうけど。


うーん、国賓としてぐだぐだできるんならいいかなーとか思ってた私をぶん殴りたい。こんな国さっさとおさらばしてルキスラとか行きたい、と転移1分で私は脱国を決意した。別にたまたまここに転移してきただけで無関係ですし?さーてどうやって脱国してやろうかなー。



「…ということは、転移者様方はこの国に滞在していただくということでよろしいのですか?」

「ああ、問題ない。俺が責任を持ってこの国を守ろう!」

「わ、私も頑張りますっ!」

「しょうがねぇなぁ!乗りかかった船だ!いっちょやってやるか!」

「…俺も手伝おう」

「おお、それは心強い!では早速王城に案内しましょう…こちらへ。馬車は3人乗りですので、2つに分けて乗っていただきます。」

私がルキスラに意識を飛ばしてた隙に話はどんどん進んでいたようで、なんか他の4人は国に滞在することにしたらしい。大丈夫かお前ら。

ていうか私は返事してないけどなんかカウントされてるしどういうことだおい。


逃げたいのは山々なんだけど、『レオン』ってぶっちゃけロマン主義満載のキャラだから効率厨どころか初心者が真っ当に作ったキャラクターにすら勝てる気しないんだよね。そもそも装備から私と同等のレベルだと思われる4人とソロでやりあうとか無理ゲーだし。

説得は…したいけどさ?一番乗り気なのが正義感強そうなイケメンさんで、次に西部劇っぽいガンナーさんかな。戦士さんはイケメンさんの知り合いだったのか付いて行く気満々だし、神官さんは乗せられやすいのか周りに合わせるタイプなのか…とりあえず「一緒に逃げよう」って言っても来てくれなさそうだよね。


そんなわけで、異世界召喚後の最初のクエストは隙を突いて逃げ出すことです。スカウト技能なんて持ってないけど、この国の兵士だけならなんとかなるでしょ。見たところ人間しかいないようだし、魔法戦士とかもそうそういなさそうだから暗闇に紛れればなんとかいけるかな。



「さあ、こちらです。今日は疲れていらっしゃるでしょうから、国民への発表などは後日ということで。夕食は随時お持ちします。」

王城につくと、自分たちの部屋を紹介され、談話室みたいなところに通された。ルロイさんが下がると残されたのは転移者5人だけだ。…微妙な雰囲気が流れる。誰から口を開こうか、といったところだろうか。


「あー疲れた。なあユウキ、本当にこれって現実か?自分がプレイヤーキャラクターになったとか、全然実感できねえんだが…」

最初に口を開いたのは戦士さんだ。やっぱりイケメンさんと知り合いだったようで、そちらに話しかけている。

「それは僕も同感だが、現実だ、と思うしかないだろう。こんなリアリティのある夢、ないだろ?」

「まあな…なあ、そこのガンナーさんよ。あんたはどう思うんだ?」

「…現実でも、夢でも、構わない。俺は俺の流儀を通すだけだ。」

「あー、かっこいいねえ。まあなんでもいいやあ。俺はユウキに付いて行くことにするぜ。」


ガハハ、と豪快に笑う戦士さん。ユウキさんはそれをたしなめるように咳払いすると、落ち着いた声で話しだした。

「…さて、お四方。どうせこれから長くやっていくことになりそうだし、自己紹介でもしないか?お互いの名前もわからないんじゃ不便だろう。


まずは俺からだな。俺はユウキ。サイトウユウキだ。見ての通り、フェンサースカウト。冒険者レベルは…最後にやった記憶からすると14ってところかな。」

14って…まじですか?私、11ですけど。うっわー逃げ出さなくてよかったー。勝てる気しねえわー。

ユウキさんは人間のようで、金髪に青い目をしている。非金属鎧を華麗に着こなし短剣を二本差ししている姿はどこかの国の王子か、と突っ込みたくなるほどだ。

「次は俺だな。俺はモリナカマサハル。こいつ、ユウキとは幼なじみで親友だ。盾役で、ちょっとは練技が使える。それ以外何もできねえけどな!あ、レベルは13だ。」

こっちも高レベルだな…だけど経験点的にいえば妥当なのか?私は横のばししてたから11なだけで、他全部捨てればたぶん13くらいにはいくだろうし…となると転移してきたのはみんなこのくらいのレベルなのか…?

「俺はマサノスケ…じゃない。『必中の弾丸』シェイズ・レイニード、ガンナーだ。慣れ合うつもりはないから話しかけるな。以上。」

そっかーマサノスケさんかー(棒)。ロールプレイヤーなのか格好つけたがりなのか…いや、詮索するのはよそう。たとえ決めポーズしながら言ってきてても、慣れ合うつもりはないとか言いつつ3番目に自己紹介してても、視線を逸らしたのにこっちをちら見してきてても詮索はしないことにしよう。


「あー…そっちの戦士?はどうなんだ?」

…私も神官さんも自己紹介しないからか、ユウキさんが指名してきたよ。まあ私実は神官なんだけど金属鎧着てるからしょうがないね…って、あ。


やべえ。ものすごくやべえ。

いやほら、普通、神官って言う時その神って第一の剣じゃないですか。何を隠そうこの私、ラーリス様の神官なのです!ラーリス様に救われたから当然なんだけどね。ついでに言うとあと2つのメイン技能はデーモンルーラー、つまり魔神使いとセージだ。魔神使いで魔神の神に仕える者とか浪漫に溢れすぎてて素晴らしいよね。魔神バンザイ。

…って言えたらいいんですけどね?

ちょっと忘れかけてたけれど、今夜にでも抜け出したいこの身の上。ここでデーモンルーラー+プリースト(ラーリス)でーす☆とか印象深い自己紹介しちゃったら逃げられてもすぐ見つけられるのではないでしょうか…

幸いなことに、ファイターは低レベルながら持ってるし戦士だと思われてるみたいだし、セージは私より神官さんのほうが上っぽいから嘘はつかずにそれっぽいことを言うことにしよう…よし。


「…あー、すみません。ぼーっとしてました。私はミコと言います。ご指摘の通り戦士で、ウォーリーダーも持ってます。最初は支援キャラだったんで一番高いのはセージです。よろしくお願いします。」


よし、これでいいだろう。ファーター持ってるよ、レベル5だけど。ウォーリーダーも同レベルだけど。他にプリーストとかデーモンルーラーとか持ってないとは言ってない。

「最後に、そこの神官は?」

「あっ、わ、私ですか…?私は、マイと言います。えっと、その、フェトルの神官で、セージです…あのっ、そのっ、よ、よろしくお願いしますっ!」

マイさんは人見知りかあ。まあ見た目通りだよね。フェトル…やっぱり第一の剣だよねー。第二の剣なんてGMに認められないといけないし、メインプリなら隠すのも大変だからそりゃあそうなんだけど。


その後、当たり障りのない会話をしていたら夕食が来た。豪華な皿に豪華な料理で、いかにも「歓迎してますっ!」って感じだ。味も…まあ薄味だけどそれなりだ。

食事は次いつ取れるかわからないからしっかり取っておこう。だけど食べ過ぎもよくないし、それなりに。携帯食料は1ヶ月分持ってるからすぐに飢え死にはないだろうけど…ある程度ここから離れたら街にも寄りたいなあ。



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