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1話

木々の間から差し込む木漏れ日、涼しげな風が肌を凪ぐ。

―――朝、目が覚めると、森のなかだった。

「ふああ…あれ?ここは…そっか。そういえばここはラクシアだったっけ…」

私は白木御狐、つい2日前までは普通の女子高生だった者だ。

ごく普通の私立高校に通い、ごく普通に漫研に所属する、どこにでもいるオタクだった…はずだ。

そう、確かに2日前、私はこのラクシアという世界に来た。いわゆる異世界召喚というヤツだ。

「あの時は驚いたなあ…」



===========2日前===========

私が校門から出ると、突然目の前が真っ白になった。

いや、別になにもめまいがしたとか意識が飛んだとかじゃなく、文字通りだ。周囲の世界から色が抜けてゆき、だんだんと輪郭までぼやけてくる。

現状認識もできないまま周りの景色は白に染まってゆき…気がついた時にはただただだだっ広い、真っ白な草原にいた。

「どういうこと?っていうかここどこ?」

周りを見回してみるが真っ白の世界には誰もいない。少し歩いてみようと足を踏み出した時、


「う、あ、ぐあああああ!?」

突然頭に走る激痛。頭のなかを塗り替えていくような、脳を切り裂いて書き換えていくような鋭い痛み――いや、ような、ではない。まさにそれだった。


気が付くと御狐は頭のなかに自身のモノではない記憶を入れられていた。

なぜそれが分かるかというと、ようやく頭痛が収まった頃、御狐の頭のなかにあった新しい記憶は覚えこそあるものの、自身の知るものとは全く別の「何か」だったからだ。


例えば、植物の知識。御狐の新しい知識では、魔香草という薬草が存在している。それは珍しい薬草で高値で取引されており、使えばMPが回復するという――そう、MPが回復する、だ。どう見たってRPGのアイテムの説明だ。なのに御狐は、それの見た目から匂いからどのくらいの売値かまで、「まるで見てきたかのように」知っている。


その知識には、御狐のいた世界には決していないはずの魔物――例えばアンデッドやゴブリンなど――の生態や弱点もあった。さらにおかしいことには、その知識は普通の記憶とは一線を画しているのだ。まるでノートに書いたメモのような…意識しないことはできるのだが、忘れることができない記憶。まるで誰かに書き込まれたかのようだ。


そして極めつけが、この世界の常識だ。それによるとこの世界、ラクシアには人族や蛮族などというくくりで生き物が存在しており、穢れという概念がある。大気中に散ったマナはMPとなり、それを使うことで魔法が使える、等々…どう考えたっておかしい常識が自身の中に違和感なく入っている。まるでその世界で生きてきたかのように…と、いうより、ぶっちゃけてしまうとあるのだ。生きてきた記憶が。


その記憶は、とあるナイトメアのものだった。その「私」はルマ湖畔のエルフ村に生まれ、忌み子として蔑まれてきた。その頃の記憶といえば暗いか痛い、それに怖いというだけだ。何か名前を呼ばれていた気もするが覚えていない。3歳か5歳か、とにかくまだ幼い頃に捨てられ、のたれ死ぬところだった私はラーリス様に救われた。ラーリス様は私に神聖魔法と、名前を――レオン、という名前を授けてくださった。感銘を受けた「私」はラーリス様への恩返しとしてラーリス様に最も近いと思われる魔神王を目指している――ということらしい。




さて、御狐はこの記憶に覚えがあった。それはそうだ。なにせその記憶は、御狐が今さっきまで部活でやっていたTRPG、ソード・ワールド2.0の世界設定にそっくりなのだから。ソード・ワールド2.0はラクシアという剣と魔法の世界で冒険者となり、クエストをこなして英雄になる、というような王道ファンタジーだったはずだ。その世界観も敵役となる蛮族の設定も新しい記憶通りで、むしろ違うといったほうが嘘になる。


しかしそれはあくまで設定の話だ。ルールブックには魔香草の色も形も書いていなかったし、ゴブリンが卵生なのか胎生なのかなど考えられもしなかった。しかし確かに、御狐にはその知識がある。

「全く、本当にどういうことなの…って、え?」


少し落ち着いて現状分析ができたところで声を出したら、なんか違った。主に声質が。

もともとの私の声は女子にしては平均的な、高めの声だったはずだ。なのに今の声は少し低めの――なんというか、すごくドスとかきかせられそうな、腹式呼吸とかしてそうな声だ。

そこで気がついた。

「…あれ?この体、小さくね?っていうかこれ、私じゃなくね?」

自分が縮んでいることに。


「え、あれ?真っ白だからよくわかんなかったけど背、低くなった?ていうか私こんな色白だったっけ?あれ、なんで私鎧着てんの?え、あれ…えええええ!?」

そう、私は全く見た目が変わっていた。オタクにしては健康的だった肌色は、一度も太陽の下に出たことがないかのような青白い肌に。日本人らしい茶の混じった黒髪は、漆黒といって差し支えない光を反射しない髪色に。165はあった身長は、比較対象がないため分からないが10㎝は縮んでいるのだろう。制服を着ていたはずだったのに今着ているのはRPGのような中世風の金属鎧。背中には片手でも両手でも使える、使い込まれた感満載のバスタードソードがあった。


「果てしないデジャヴを感じる…」

これは――もう、認めてしまおう。私、白木御狐は、ついさっきまでTRPGで使っていたキャラクター…『レオン』の体になったのだと。『レオン』はナイトメアで、年は14。身長は150㎝だったはずで、設定に相違ない。記憶も、ルマ湖畔生まれの忌み子のナイトメア…あれほど細かいことは設定していないはずだが、大まかには設定通りだ。高レベルのセージだったので、薬草の知識やなんかはそれ由来だろうか?

…人なんていないから自問自答だけどね。


とまあ、そう思った瞬間だった。その声が聞こえたのは。

【自己認識、確認。転移準備、完了。――転送、シマス。】

機械音声としか言い様がないその声は、ひどく不気味に草原に響いた。そしてその声が途絶えた時――私は、意識を失っていた。


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