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紅い勇者と翠の少女(仮)  作者: 華珠夜
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第七話 再会

アートリアの神殿を後にし神樹の広場へと出た。初めて魔物と戦った場所────。


神樹の元に近づきいつもなら「ただいま」の挨拶が今日は「行ってきます」へと変わる。

風が吹き木々が揺れ聞こえてくる葉音は「行ってらっしゃい」と見送ってくれている様だ。


「アイルは・・・愛されてる。森が、神樹が・・・喜んでる」


ハノンは神樹を見上げ、まるで森と会話をしているかの様にそう呟いた。


僕は神樹に触れ、またここに戻ってくる事を約束した。


───キィィィィィン・・・


耳鳴りの様な音。封印を解除する時に聞こえた音。封印でもあったのだろうか?今までは神樹に触っても何もなかったのになぜ?


───『アナタノチカラトトモニ・・・ワタシハアル・・・・・・』


声が聞こえた。二人には聞こえて無い?僕の力と共に?


「二人とも、ミラルーンの街まではまだ長いわよ。暗くなる前に着きたいから急ぎましょ」


「はい。行きましょう」


「・・・・・・うん」


リズさんの言う通り暗くなる前に街には着きたい。結界が無くなって魔物が出るなら野宿は避けたいもんな。


ここからもう少し歩けば村に着く。ルーシュ村・・・。見たくは無いけど現実から逃げてはダメだ。二度とあんな事にしない為に僕らは行くんだ。


村の入り口が見えてくる頃、雨はすっかりあがっていた。


三人は昨日まで村だった焼け野原を進む。放たれた炎は雨で鎮火されたがまだ煙は上っている。焼け落ちた家屋が並び、その先にはアイルの過ごした家が見えてくる。それもまた破壊され以前の姿では無くなっている。

リズはアイルを思いやり声をかけようとするが、彼の現実を真っ直ぐ見つめる姿勢にかける言葉が見つからないままでいた。


───ガタンッ!


アイルの家を過ぎようとした時、急な物音に三人は身構えた。破壊され倒壊しそうなその家の中に何か気配を感じ戦闘態勢に入る。が、家から出てきた姿を見るなりアイルは駆け寄っていた。


「じいちゃん!」


「アイル・・・良く無事で・・・」


ガーランドはアイルを優しく抱き締め安堵の表情を浮かべた。アイルと一緒にいた二人を見て何が起こったかも予想する事は出来たが、何よりもアイルが無事でいた事を今はただ素直に喜んだ。


「こんな状態の村じゃ長話もできんからの、とりあえずアートリアの街へ行って話を聞かせてくれんか?逃げた先からこんなべっぴんな娘さんを二人も連れて来るとわ思いもよらんかったわい。よろしいかな?」


「貴方がガーランド様でいらっしゃいますね?最初からそのつもりでしたが、喜んで参りますわ♪」


「・・・うん」


「行こう。じいちゃん」


こうして四人はミラルーンの街へ向かった。予定外の合流ではあったが、ガーランドの存在は街へ到着したとき功を奏する事となる。


ミラルーンの街は外周が高い壁で覆われており、東西に大きな門を構える商業都市である。近隣の街や村との交易も盛んで、人の行き来が多い分警備も自然と厳重となる。そこにルーシュ村魔物襲撃の一報が入ったため警備はさらに厳しいものとなっていた。


四人がミラルーンの街へ到着したとき、東門前には大勢の通過希望者が列を成していた。ガーランドはそんな待ち順など気にせず警備の門番の元へ三人を連れて行く。


「おぉ、ガーランド殿!お帰りになられましたか!!」


鉄の鎧を纏い大剣を携えたいかにも屈強そうな門番の男がガーランドの姿を確認すると興奮気味に声をあげた。

ガーランドの名前が周りに聞こえると「ガーランドぉ!?本物かぁ!?」「どこにいらっしゃいますか!?」「実在するの!?」などと響めきが起こった。


じいちゃんは「ガハハッ」なんて笑ってるけど本当に名前が知られた戦士だったなんて、今まで一緒に生活してたじいちゃんからはどうしたって想像出来ない。


「とりあえず中に入れてもらうぞ。こっちはワシの孫とそのお客人じゃ。なぁ〜に、怪しい事などありゃせんから心配なんぞせんで良い」


「はい!ガーランド殿の言う事なら問題ありませんから!」


長蛇の列を横目に僕達は簡単に中へと通された。並んでた人達の視線がチクチクと痛かったけど、村でじいちゃんに会えたのはホント幸運だった。一緒じゃなかったら並んだ挙句に色々聞かれて中に入れるのがいつになっていたか・・・。


街に入るとそこには立派な建物が立ち並び、行き交う人々は溢れんばかりに店々を渡り歩く。村の外は森しか知らなかった僕にはそれがまるで別世界の様に映った。


「さてさてお前達、腹は減っておらんか?あの角の料理屋で待っていなさい。ワシはちと用事を済ませてくるからの。アイルよ、店の人にガーランドの孫だと言いなさい」


「ぅ、うん。わかった」


「うむ。では、さっさと済ませてくるからの」


じいちゃんと別れた僕達は言われた料理屋までやって来た。美味しそうな匂いに釣られ賑わう店内へ入ると、すぐに恰幅の良いおばさんが声をかけてきた。


「あらまぁ、かわいいお客様方だねぇ♪お食事かい?それだと見ての通り満席でねぇ・・・申し訳ないが少し待ってもらうことになるんだけども」


「ぁ、はい。あの、じいちゃんに・・・。僕、ガーランドの孫でして、ここのお店で待つ様に言われて来たんです」


「なんだってまぁ〜あの人のお孫さんかい♪そ〜かいそ〜かい♪じゃあ、そ〜だねぇ二階の部屋で待ってておくれよ。ついておいで〜♪」


元気いっぱいのおばさんに通された二階の部屋はちょっと立派なテーブルが準備されており、いかにもお偉い人用の部屋と言う雰囲気だった。こんな部屋にまで通されるじいちゃん恐るべし・・・。


「それじゃぁゆっくり休んでておくれ♪」


「ありがとうございます」


アートリアの神殿を出てほとんど休み無く歩いて来たから少し疲れたな。でもハノンとリズさんは疲れた表現を見せてない。女の子が平気でいるのに疲れたなんて言っていられない。こんなんで疲れてたら本気で冒険するなんてじいちゃんにも認めてもらえないしね。


「アイ君、難しい顔してどうしたの?疲れちゃったかな?」


「アイル・・・疲れてる」


「そ、そんなことないよ!大丈夫、まだまだ行けますよ!」


「ふふっ♪アイ君強いわね♪私は足が疲れちゃった」


「だ、大丈夫ですか!?今日はもうゆっくり休みましょうね」


「リズ・・・情けない」


「女の子はか弱いくらいがかわいいのよ♪」


こんな和気藹々とした雰囲気で時間は流れ、ガーランドが用事を終えて店へとやって来た。


「いやいや、待たせたのぉ。メシにしようじゃないか。色々注文してきたからたんまり食ってくれぃ〜ハッハッハ」


言葉通り次々と料理が運ばれてきた。次々と・・・


じいちゃん・・・・・・注文し過ぎだから・・・・・・・・・


「アイルよ、もっと食わんか〜!」


「じいちゃん・・・こんなに食ってたことないでしょ・・・けぷっ」


「流石にちょっと多いですわね♪」


「・・・もぐもぐ」


多いと思われた料理だったが、ガーランドは食欲でも予想外の力を見せ全ての皿を空にした。


四人は食事を終えると話をし始めた。まずは昨日の出来事をリズが丁寧にガーランドへ説明し、ベルーナが魔物討伐をしている事やアイルの能力について、また自分達がアイルと共に来た理由を理解してもらった。

アイルは二人の話している様子を見て、ガーランドが神樹や神殿が森にあることを知っていて自分に教えなかったことを悟る。同じく魔法や魔物の存在についてもそうだろうと確信した。全ては自分が平和に生きていける様にと考えてのことなんだと。


「アイル・・・お前はいつか必ず冒険の旅へ出て行くと思っていたよ。ワシが冒険者であった様にな。しかしお前の不思議な力は見抜けんかったわい。平穏な毎日を村で過ごしてほしかったんだがのぉ・・・」


「うん。ごめんよじいちゃん。もう行くって決めたから」


「ルーシュ家の男が決めたんじゃ、止めはせんよ・・・。ただ一つ約束して行け、いつか必ず無事に帰って来るとな」


「うん・・・。絶対に生きて戻るよ」


無事再会を果たした二人の別れはすぐ訪れる。『運命』だと簡単に割り切れる事ではないが、二人は多くを語らずただじっとお互いの目を見つめていた。


「さてぇ、ちと長居しすぎたのぉ。すっかり夜になっておるわい。今日はもう疲れただろ?勝手とは思っがお前さんたちの宿はワシが準備させてもらったよ。出たらそこで休むと良い」


「じいちゃん、ありがとう」


「何から何まですみません。とても助かりますわ」


「ありがとう・・・」


元気の良いおばちゃんに見送られ四人は店を後にした。ガーランドの用意した宿は料理屋のすぐ目の前にあり、明日の朝またこの料理屋で朝食の約束をし三人は宿へと入って行った。

こうしてそれぞれの夜は更けていく・・・・・・。


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