表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い勇者と翠の少女(仮)  作者: 華珠夜
2/8

第一話 生きろ!

本編スタートです。

よろしくお願いします。

雨がポツポツと静かに窓を濡らしている。僕は窓を開け大きく深呼吸をした。冷やりとした風が身を引き締める。ポツポツと顔を濡らす雨も寝起きには気持ちいい。素敵な朝だ。


「コラッ!部屋を濡らすんじゃない!!」


ゴツンっと鈍い音のゲンコツをもらい一気に目覚める。


「いっっってぇぇーーよ!じいちゃん!!」


「雨の日に窓を開けるなと何回言われたらわかるんだっ!」


素敵な朝はこうしていつも鈍痛の朝へと変わる。

渋々窓を閉め、お気に入りのシャツに袖を通した。鈍痛の残る頭を撫でながらテーブルの上のパンに手を伸ばす。用意された搾りたての牛乳を飲み干し腹ごしらえを終え外を眺める。いつの間にか雨はあがり雲一つ無い青空が広がっていた。


「じいちゃん!出かけてくるねー!」


「アイルよ、お前はいつも一人でどこに行ってるのだ?」


「秘密っ!」


ブーツの紐をギュッと締め家を飛び出す。


「暗くなる前に帰ってくるんだぞぉー!」


「ハーーーーイっ!」


ゲンコツは痛いけど優しいじいちゃんに手を振り、小さな村を駆け抜ける。十数人しかいないこの村に子供は僕だけで、友達なんかはいなかったが皆優しい人ばかり。「いってらっしゃい」「気をつけてー」などと、すれ違う村人たちに見送られ僕の冒険が始まる。


「しかし今日のゲンコツはホントに痛かったなぁ・・・」


ブツブツと独り言を呟きながら頭を撫でていた。鈍い痛みが消えずにジンジンしている。いや、これは痛みが増してきてないか?ズキズキしてきたぞ?

そんな痛みを感じながらも森の入口までやって来た。雨上がりの森はいつもキラキラと輝く眩しい場所なのに、何だか今日は違う気がする。暗くてどんよりとした重い空気。足がすくみ森に入れず立ち止まったまま木々を見つめていた。


「ん?雨かな?」


雨の匂いを感じるとポツポツ木々の葉が音をたて始めた。雲一つ無かった青空が急に暗くなり夜の色に染まる。月も星もない真っ暗な夜。それはまるで闇だ。なんの光も無く只只暗い世界に僕は吸い込まれた────。



───冷たい風が吹いている。ポツポツと聞こえる雨音。雨に濡れた森の匂い。ズキズキと感じる痛み。何だろう、何かが重い。両手で何かを握り締めている。


んん?僕倒れてる??


「ィつッ!」


眼を開きズキズキと全身に痛み感じながら、手にした棒の様な物を支えにゆっくりと立ち上がる。目の前には大木がどっしりと構えていた。


ぁーー、思い出した。


握り締めてるコイツを大木から引き抜いて、そのまま地面に落っこちたんだ。その時頭を打って気絶しちゃったのかぁ・・・。

ふんわりと茂った草がクッションとなったおかげで大怪我にはならなかったらしい。全身の打ち身くらいで済んだ様だ。後で薬草でも探してみるか。と、辺りを見渡す・・・・・・うん、暗い。


「ヤバイ、、またじいちゃんのゲンコツか・・・」


どれだけ気を失っていたのかすっかり夜になっている。暗くなる前に帰らないと容赦なくあのゲンコツが飛んでくるのだ。


「じゃあ、また来るからね!」


大木に別れを告げ村への帰路につく。ゲンコツへの覚悟はしたが、今日は嫌々の帰宅にはならなかった。いつもとは違い冒険で立派な戦利品を手に入れたからだ。


大木に突き刺さっていたソレは何なのか解らないが、アイルにとっては初めて持った金属製のカッコイイ武器。朝は枝の剣を振り回す子供だったが、帰りはもう立派な剣士気分。ズキズキ痛む打ち身も気にせず、ずしっと重さを感じる新しい剣をビュッビュッと音をたて振り抜く。


満足気な顔で足どりも軽い。降っていた雨も打ち身だらけの身体には冷んやりと心地良かった。


今日の冒険も終盤に差し掛かり村の灯りが見えてきた。覚悟はできていたが、やっぱりゲンコツは嫌だ。軽かった足が急に重くなる。

村に近づくにつれ何やら騒がしい音が聞こえてくる。


まさかじいちゃんが捜索隊でも結成したか!?いやいや、それはさすがに大袈裟すぎるだろ!?


───ギギギィ、、、ガガッ、、、ゴンッ、、、ゴンゴンッ


!?


聞いたこともない様な音が響く。


『イヤーーーーっ!!!』


『うぁああああああああああ!!』


『早く逃げろ!街の方まで走るんじゃぁぁああ!!』


!!


じいちゃんの声!?


思わず村へと駆け出していた。何なんだ?只事じゃないだろこれわっ・・・・・・。


村へとたどり着き目に入ったそれはまさに─地獄─

家屋崩壊、放火、、、緑色した小さな怪物たちが破壊の限りを尽くし、もはや自分の知っている村の面影は無かった。


「くっ、、、、じいちゃん!じいちゃん!!」


声をあげると怪物たちはこちらを睨みつけ、今にも襲いかかってこようと武器を振り上げ奇声を発した。


「アイルっ!逃げろぉぉぉぉぉぉ!!」


じいちゃんは牛小屋にあった大きなフォークを振り回し怪物から村人たちを守っていた。


「じいちゃん!」


「アイルっ!早く逃げるんじゃ!!」


「でもっ、、、!」


「早く行けぇぇぇぃ!!ワシはっ大丈夫じゃぁぁあ!!!」


力いっぱいフォークを振り上げたじいちゃんは怪物の一匹を思い切りぶっ飛ばした。


す、すげぇ・・・・・・。っと、感心してる場合じゃない。数匹の怪物がこっちに向かってきたのだ。


「アイル走れぇぇぇぇぇえええ!!!」


じいちゃんの声で僕は来た道を振り返り全力で走り出した。


「じいちゃん死なないでっ、、、」


「アイル・・・生きろよっ!!」


───ギィィィィィィィッ


雨空の下怪物の奇声が響く。


こっちには何匹ついて来てるんだろうか、ザッザッザッザッと地面を蹴り上げる音が近づいてくる。


村からずっと全力疾走で逃げ、森の入口を過ぎた頃急に身体が重くなった。ズキズキとした痛みも全身にまとわりつく。落下のダメージがこんなときにっ・・・。


必死で木々の間を通り抜け、息を切らしながらやっとの思いで大木の広場へとたどり着く。


「たっ、ただいま・・・」


どっと疲れが込み上げ倒れそうになるが、ずっと持っていた武器でぐったりとした身体を支える。今思えば重りを持って走ってたんだなぁ・・・と少し後悔。


ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ・・・


『ギッギギィィギィィィィ』


とうとう怪物に追いつかれたか・・・。


満身創痍で怪物たちに武器を向ける。何匹だ?1.2.3.4...5...

5匹の怪物が横一列に並び、その後ろから少しだけ大きな怪物がやって来た。あのデカイのがリーダーか。


『ギィィィィィ』


リーダー格の怪物が低い声で唸り声をあげると5匹の怪物は一斉に武器を構え戦闘態勢に入った。


『キィィィィィィイ』


一匹の怪物が奇声をあげて突っ込んでくる。怪物は僕の身体を縦真っ二つに割る勢いで剣を振り下ろす。


ガチーーーンッ!パシッッ!!


鈍い金属音と高い破裂音が響く。


僕は怪物の剣をなんとか武器で受け止めた。と、同時に怪物の剣にはヒビが入り砕け散った。怪物はナンダ?と不思議そうな顔をして首をかしげたが、僕をそのまま大木の方へ蹴り飛ばした。


「カハっ・・・」


大木に背中を強打し息が詰まる。グリップもない武器で剣を受け止めた為、一撃で手も痺れてしまった。武器を落とさなかったのが奇跡と言えるだろう。


怖い・・・・・・


足はすくみ恐怖と痛みで意識も飛びそうだ。せっかくじいちゃんが逃がしてくれたのに・・・。


───ガサッガサッ


森の奥から物音がした。ウサギやネズミが危険を察知して逃げ出したのか・・・。


ん?


怪物たちは物音の方に向かい身構えている。


この広場から奥の森へは僕もまだ行ったことがない。ここまでの森の雰囲気とどこか違うのだ。暗くもの静かで近寄りがたいそんな雰囲気。

怪物でも恐れる猛獣なんてのもいるのかな・・・やっつけてくれよ・・・そんな安易な考えが頭を過ぎる。


アイルが軽く現実逃避しているなか、怪物たちにはゆっくりとこちらに近づく小さな灯りが見えていた。

まだまだ始まったばかりですので、今後も読んで頂ければ幸いです。

ご意見、ご感想などあれば今後のためにも是非教えて頂きたいと思います。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ