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第一章 詐欺師はギルド長の夢を見る

コンコン。というノックに続き、「ギルド長、クロエだよ。」という女医の声かけ。


「入りたまえ。」


という返答。


「失礼するよ。」


と、ガチャリと扉を開いて入室。

面接かよ!?と思った僕であった。



「それで…どういった用事かな、クロエ?」


と、背の高い椅子に腰掛けている人物がいた。背もたれに隠れ、無効を見ているので姿は確認できないが、声から察するに、幾分か想像していたよりも若いようである。


「さっきのギルド員による一般人に対する暴力事件についての報告に。」


「ああ、それか。ハイネスとか言ったかな?威勢がいいのはいいんだけどねぇ…いかんせん、一般人に手を上げるのはよくない。それで、一般人のほうの容態は?」


「だよねぇ。で、この子が、その一般人。」


「ああ、そういうことか。こんにちは、はじめまして。私がこのニケの首のギルド長、ダンセルだ。以後、お見知りおきを。」


ギルド長はクルリと椅子を回転させ、こちらに向き直った。瞬間、僕は驚きを感じずにはいられなかった。


「あっ、あなたは酒場に…ていうか昨日も!!」


「うん?ああ!君か!!」


「なんだ、知り合いだったのかい?」


「はい。僕が働いていた酒場の常連さんなんですよ。」


「あれ、働いてた…ってことは、辞めちゃったのか?」


「あ、そうなんです。いろんな世界が見たくて。だからギルドに入団しようと思ったらこんなことになってしまって。ご迷惑をおかけしました。」


「そうだったのか。いや、今回のことはこちらの落ち度だ。君は気にすることないよ。」


「いえ、喧嘩腰だったのは事実ですから…」


「ふむ。まぁ、それにしても先に手を出したのはハイネスだ。それで?このギルドに入団したいわけか…なるほどなるほど。」


「はい、そうなんです。受付でもいいので、とにかく入りたいです。」


「そうか。受付は首にしてしまったところだし。君には迷惑をかけたからね。その要求は飲ませてもらうことにしよう。」


「ありがとうございます!」


「ただし。条件がいくつか。まず、今朝の件は不問にしてもらいたい。」


「はい、大丈夫です。」


「次に、ときたまでいいからあの酒場を手伝いにいってやってくれないか?」


「…と、申しますと?」


「実は、あの酒場のマスターは私の友人でね。君のことをずいぶん気に入っていたようだから、きっと寂しがってると思うんだよ。だから、顔出してあげてね。」


「…はい、わかりました。」


「うん、まぁ、それだけなんだけどね。で、受付でいいのかな?」


「ええ、大丈夫です。僕は(※1)エストをこなせるほど力はないので。」


「…その件は、医科療法術師とギルド長がいるこの場で話しておかなきゃいけないことかもしれないよ?」


「ん?いったいどういうことだい?」


と、唐突にいわれたのだが、まさかこのギルド長、僕に魔臓がないことを知っているのだろうか?いや、というか、あのマスターと旧知の仲なのだとしたら、僕の話をしたかもしれない。あいつは魔法が使えないらしいんだが、そんなこと聞いたことがない。何か知ってるか?みたいに。


「…マスターから、お話されたんですか?」


「そうだ。魔法が使えない。僕はアイツからそう聞いたんだがね。」


「ええ?魔法が使えない?それって…」


「僕もいろいろ調べてみたんですけど。どうやら魔臓がないみたいです。」


「…は?」

「え?」


「ですから、魔臓が…」


「いや、この世界で息とし生きるもの、魔臓がないということはありえない。どんなに低級で小さな生き物だって、魔臓がなくとも魔臓の代わりになる器官は持っているはずだ。」


「第一、魔臓がないんだったら魔法どころか魔力すら生成できないじゃないか。いいかい、アーサー。魔力がない生き物はね、この世界に適応できないんだ。魔臓がない状態で生まれる生き物も確かに存在するが、それは突然変異というか不完全な状態で生まれて、死んでしまうんだよ。だから、アンタの年まで生きながらえたって言う記録は残ってない。」


「…ですが、事実です。」


「…よし、クロエ。アルセリアを呼ぶんだ。」


「アルセリア?正気なのかい?」


「ああ。彼がこういっている以上、あの子を近づけても問題はないはず。もしそれが、本当なのだとしたら、だけどね。」


「…そうかい。それなら。」


そういうと、クロエ女医は早足でどこかへ行ってしまった。気になったので、たずねてみることにする。


「あの、アルセリアって?」


「ああ、僕の娘だ。少し…変わった体質で生まれてしまってね。」


「…話の流れから察するに、他者の魔力をどうこうしてしまう、とか?」


「そういうことだ。アルセリアはね、触れたものの魔力を根こそぎ吸い取って自分のものにしてしまう。だから、僕も含めて、誰も彼女に触れられない。」


「そうなんですか…」


「だから閉じこもってしまってね。普段は手袋をしているから大丈夫なんだが、肌に触れるだけでもだめなんだ。仲良くなった子も、すぐに離れていってしまう。」


「…気の毒、ですね。」


「そうなんだ。だけどね、もし、君が彼女に触れても大丈夫なんだったら、そのときは友達になってあげてほしい。年も君と同じくらいだし。かわいいしね。」


「ええ。もちろんです。」


と、その子に触れる前提で話しているが、本当に僕には魔臓がないのか実際のところわからない。ということで、さっきから話に入れず、ぶーたれているリリアに確認してみることにした。


「ところでギルド長。僕は今からおかしなこと言いますが気にしないでもらえますか?」


「…ああ、非常に気になることだが、いいだろう。え、どういうことなんだ?」


「いえ、ちょっと。リリア、僕にはやっぱり、魔力がないのか?」


「…うん、ないよー。精霊は魔力の集まる場所を見ることができるんだ。だから、そこにいる男の人の魔臓の場所もわかるんだけど、お兄さんの体には魔力が本当に少しも見えない!だから、魔力の欠片も体にないよ!」


「そうか。ありがとう。ごめんな、話ができなくて。」


「ううん、大丈夫!普通の人には見えないし、むしろ人間とお話できることってないから、気にかけてもらえるだけでもうれしいよ!」


「そうなんだ。それじゃ、もうちょっと待っててね。それか、どっか行っててもいいよ?表のとおりの宿屋で泊まるつもりだから、そこにいなければギルドの中にはいると思うし。」


「ううん、大丈夫ー!待ってるよー。それに、見ておかなきゃいけないかもしれないからー…」


「ん、どういうこと?」


「別に!なんでもないよ!!」


「そ、そっか。」


「…なぁ、やっぱり気になってしまうんだけど、君はいったい誰と話しているんだい?」


「あ…この話、してもいいのかな?」


「多分…大丈夫。悪意は感じないし!」


「だよね。僕も悪意は感じないから、大丈夫だよね…。」


「悪意…?」


「ああ、いえ。実は、今精霊のイフリートと話してるんです。」


「ええ!?精霊と話してるだって?しかも、イフリート!?」


「珍しいことだそうですね。イフリートも、人間とはなすのは初めてだって言ってます。」


「今まで、精霊と話せるっていう人はいたけど、全部ペテンだった。…でも、なぜだろう。嘘には聞こえない。」


「…そうですね…リリア、この場に火の精霊は君だけ?」


「うん、ここにいる火の精霊は私だけだよ!土の精霊はいるみたいだけど…。」

と、リリアの視線の先には、不自然なことに帽子が地面から突き出しているのが見える。


「…あの、ギルド長?あそこに帽子が見えますね?」


「いや、見えない。」


「…ってことは、あれが…。」


僕は死ぬほど気になったので、その帽子の元へと歩いていく。


「こんにちは、はじめまして。」


「…は、はじめまし…て。…あれ?僕人間としゃべってる!!!」

と、帽子がブワッと跳ねた。そして帽子の下から身長60センチくらいの小人が姿を現す。


「ノーム…」


「うっひゃあああああ!!!!すごいすごい!!!わああああい!!!」


(※3)の精霊ノーム。と、思われる彼は興奮していて、そこらじゅうを跳ね回っている。


「うん、まあいいや。それでリリア、僕が今からちょっと炎を出すんだけど、それは助けてもらう。で、そのあとギルド長にも同じ魔法を使ってもらうから、そのときは手助けしないでくれるかな?」


「あ、わかったー!」


「…まったく状況が読めないんだけど、とりあえず君が魔法を使った後、僕も同じ魔法を使えばいいんだね?」


「そういうことです。では。ファイアー!」


と、僕が唱えると、メラッ!と火が手から噴出す。おお、前よりも高火力だ!


「では、ギルド長、お願いします。」


「わかった。ファイアー!…あれ、出ない。ファイアー!ファイアー!…あれぇ…?もしかして、本当に!?」


「そうです。」


「なんてことだ…僕は、歴史が今塗り替えられる瞬間を見ているというのか…。」


「大げさじゃないですか?」


「大げさなもんか…さっき、帽子が見えるといったね。僕には見えない。ということは、君は精霊と話ができるどころか、精霊の姿さえも見ることができている!!これは、いまだかつてないことだ。」


「…そう、ですか。」


「うん、だからといって、誰かに言うつもりはないけどね。…まてよ。もしかしたら、君の魔臓がないということにも関係が…?」


と、そのとき、ガチャリと扉を開いてクロエ女医が入ってきた。

しかし、どうやら焦燥の色が見える。


「ギルド長!!アルセリアが消えた!!!」


「なんだって!?」


「アルセリアの部屋に、これが…」


と、クロエ女医の手に握られているのは一枚の紙。

ギルド長はその紙をひったくるように受け取ると、読み始めた。


「どれどれ…私は生涯、誰にも触れることなく、人のぬくもりも知らず生きていくなんてことは、もう耐えられません。友達だと思っていた人に、怖くて一緒にいられないといわれてしまいました。私は森で静かに生きることにします。さようなら…た、大変だ!!!!」


「追いかけましょう。森ってどこですか?」


「え!?えーっと…森はここから西にある(※2)いの森って場所のことだと思う。でも、危険だ!君は残っていたほうが!!」


「いえ、僕も行かないと。彼女に触れることができる可能性があるのは僕だけです。」


「しかし!」


「ギルド長、アンタなら彼を守れるだろ。アタシもついていく。行こう。あの森は最近モンスターが活発になってるし、ちょっと危険だよ。」


「…わかった。すまないがアーサー君、頼めるかい?」


「もちろん。」


「よし、行くぞ!!」



唐突に、僕はモンスターがいる森へと出向くことになった。不謹慎だけど、ちょっとだけ、僕はわくわくしていた。

僕がいた世界では味わえ得なかったであろうスリル。人との出会い、かかわり。それに対する好奇心、高揚感。そういったものが、僕の中で芽生えているのを感じたから。

※1 クエスト

英単語にしてQUEST。和訳すると依頼。

さまざまなゲームやRPGにおいて、とても広く使われている単語です。

この作品でも、例に漏れず、ギルドに発注される報酬を伴う討伐や採集の依頼として扱っています。


※2 迷いの森

サウスユーレンシア王都エリクシールの西にある、モンスターが徘徊する深く入り組んだ大きな森のことです。

昼でも暗く、鬱蒼としていて、冒険者やハンターでもある程度の実力がなければ無事ではすまないとされる森で、まず一般人は護衛もなく近寄りません。


※3 ノームと四精霊

ノームは土の精霊です。土の精霊魔法を手助けする精霊として、数多く存在します。

精霊には、主立って4種類の属性が存在し、中でも下級精霊として数多く存在しているのが、火の民サラマンダー、水の民ウンディーネ、風の民シルフィード、土の民ノーム。これらの精霊は精霊魔法を手伝う精霊としてこの作品の世界において有名です。一方、リリアをはじめとする上位精霊たちは基本的に数種類、多くは存在せず、リリアのように世界中を旅して回っています。土と風の民、ノームとシルフィードは町や道などに多く、サラマンダーは火山や暑い地域、ウンディーネは水辺に多いです。

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