序章 2
劇中で難しかったり、説明しづらい文言はあとがきにて補足します。
「…え、マジで?」
およそこの神々しい空間には似合わない言葉を発した目の前の女性。
白いローブのような、羽衣のようなふわふわとした服を着ていて、プラチナともいうのだろうか、美しいロングヘアをしていた。
顔はモデル並みに小さく、整っていて、100人が100人、美しいと表現するだろう。
その女性が、「マジで?」なんて言葉を使ったのだから、僕としても、「え、マジで?」と思うのは致し方ないことだった。
「…え、どの世界でも召喚なんてしてないはずなんだけど…アンタどっからきたの?」
「…え、いや、日本から…?つかここどこですか?」
「え、日本から来たの?どうやって?」
「いや、まずここどこですか?」
「あ、ここは召喚の間っていって…いや、そんなのはいいんだ。アンタどうやってここに来たのか分かる?」
「…それ多分、僕の両親が残した短剣に血を流したからです…」
「…え、短剣?どんなの?」
「緑色の宝石がはめ込まれた黄金の柄に、文字っぽい模様の彫られた刀身の短剣です。」
「…えっ…マジ…?アレ、まだそっちの世界にあったの…?ヤバくない?」
「え、あの。」
「いや、その短剣ね、元々はアンタの居た世界にはないものなんだ。強制召喚術式ってのが組み込まれてて、それで刺されたものを、ここ、召喚の間に転送する短剣なんだ。」
「…え、それ何のためにあるんですか。」
「本当は、人間の手じゃ負えないくらいヤバい存在を、神がその短剣でぶっさしてここに送ってきて、消滅させるためのものなんだけど、いつのまにか消えちゃってて、最後にその存在が確認されたのがアンタの居た世界で、それから20年も発見報告なかったから、どこいったのかなーって…」
「…てことは、僕は消滅させられるってことですか?」
「いやいやいや!しないよ!しないけど…アンタにはすごく言いづらい。」
「何を?」
「あのね、すごい単刀直入に言うと…」
「もう、元の世界には戻れない…とか。」
「…そう、そういうこと。そっか、アンタの両親が、20年前の召喚された人たちだったのね…」
「そうですね。だから、僕の両親がいない理由がやっとわかったって感じです。」
「…そう…アンタには、悪いことしちゃったね。ごめん。」
「なぜ、あなたが謝るんですか?」
「…うーん、なんとなく。それで、アンタはどうしたい?」
「どうしたいって?」
「いや、ここは召喚の間なわけ。だから、アンタのいた世界には戻れないけど、別の世界だったら飛んでいけるの。もちろん、片道切符だけど。」
「つまり、ここは神の世界ってことで、つまり、こっちから向こうに干渉はできるけど、向こうからこっちに干渉はできないってことなんですね。」
「そう。だから、こっちからどこかの世界に送れば、アンタはもうこっちに戻れない。」
「…そうですか。」
「そう。もちろん、その世界で生きていくために、気持ち程度の能力はあげるよ。」
「能力、ですか?」
「そう。アンタの居た世界では存在しないけど、ここから飛んでいく世界はほとんどがアンタのとこまで文明が進んでるわけじゃない。というか、まったく別のベクトルで進化がなされてるってわけ。」
「たとえば?」
「その短剣にかかっているように、魔法と剣が主流の世界だったり、人間が存在しない世界、まだ文明が生まれていない世界、怪物に支配されている世界、たくさんあるよ。」
「…そしたら、その魔法と剣の世界がいいです。楽しそうだ。」
「そう、わかった。そしたら、本当に少しだけ、能力をあげるわね。」
そういって、女性は僕に息を吹きかけた。光の粉のようなものが、僕に降りかかる。
「それは、女神の加護。普通の人にはない能力。効果は、「幸運」って感じね。それじゃ、いい人生を送ってね。年は、ちょっと若くしてあげるから!」
女性がもう一度僕に息を吹きかけると、なんだか、すごく力がわいてくるような気がした。なんというか、高校生くらいに戻った感じがする。多分、15歳くらいになったんだろうか。
「ありがとうございました。それでは、お元気で。」
僕がそういうと、フワァ…と目の前が暗くなっていく。どうやら、転送されたらしい。
いざ、剣と魔法の世界へ。
ドカッ!!と背中に激痛が走った。
「イダッ!!?」
僕が叫び声をあげた。どうやら、転送は終わったらしい。しかし、転送された先は、石畳の上である。
背中をさすりながら起き上がる。どうやら、まったくこの世界のことを知らない僕でも分かるくらい大きな町の裏通りに送られたらしい。
「えっと…お兄さん、大丈夫?」
「えっ?」
どうやら、僕の転送を見ていたらしい女の子が、僕に話しかけてきた。
大体10歳くらいの見た目で、大きな赤いリボンでポニーテールに髪を結っている。
「あ、あの、お兄さん、空から急に降ってきたから…すごい音してたし…」
「え、あ、あぁ…心配してくれてありがとう。えっと…どうやら、ちょっと記憶が混乱してて…ここ、どこだい?」
「あ、ううん、どういたしまして。ここはエリクシールの街だよ!」
「え、エリクシール…そうか、ありがとう。大きな町だね。」
「うん、エリクシールはね、この辺じゃ一番おっきな町なんだ!」
「そうか、じゃぁ、酒場とかもあるのかな?」
「あるけど…場所分かる?行きたいなら、つれてってあげる!」
「ああ、それは助かるよ…お願いしてもいいかな。」
「うん、こっちだよ!」
おいでおいで、と、こちらを手招きする少女について、僕は町を歩いていく。
木造、石造り、レンガ…およそ統一感のない素材で作られている建物がいくつも並んでいるこの町は、どうやらさまざまな文化を取り入れて成り立っているようだ。
そして、この世界の文字たちは、どうやら僕には読めるらしい。一応、僕は5つくらいの言語をマスターしていたので、この世界の文字が読めなくても勉強すれば大体分かると思ったのだが、よくよく考えれば、この少女と話が成り立っていた時点で、この世界に転送されたときにある程度最適化されていたのだろうという答えに行き着いた。
そして、歩いている間、少女にいくつか質問をしてみた。
まず、酒を飲めるのはいくつからなのか、ってことであるが、この世界には未成年飲酒禁止法なんか存在しないらしい。「うーん、少なくとも、この国ではいくつから、なんてのはないよー。お酒は私は嫌いだけど、お友達は好きなんだー。」なんて返しをされてしまった。
それが賢明だ、というほかない。この世界のお酒、っていうのはよく分からないが、すくなくとも、脳細胞の成長がなされている時期に飲酒をするのはよくないのである。
次に、この世界の統治者の話である。これも話を振ってみると、「王様だよ!王様はこのあたりぜーんぶの王様なんだー!最近はうーんと遠いとこのバリアモンテっていう国と仲が悪いみたい!」との返答。なるほど、王政か。
王政となると、王がすべての政治的部分を担う制度だ。つまり、王様の命令は絶対。税や外交、貿易やらなにやらまで、王がイエスといえば可能で、ノーといえば不可能。国民の意思を汲んで、どう国を発展させるかが国を維持するかという点になるので、よほどの政治的思考がなければ、難しい話である。
次に、この国での通貨。ペタル、という通貨らしく、聞けば、物によって値段がすごく違うらしい。たとえば、宿屋で一泊するのは平均的に見て2000ペタルくらいらしいが、大人が満足するような食事をするのには安くても1000ペタルほど必要とのことだ。このあたりは、慣れて行くしかないんだろう。
お次は魔法について。少女の名前はリリアというらしいが、そのリリアに魔法は使えるのか?と聞いたところ、「当たり前だよ!魔法が使えない!なんて聞いたことないよ!」と言われてしまった。ためしに、と魔法を使ってもらうと、「ファイアー!」という掛け声とともに火を手からボボォ!と出して見せてくれた。
なるほど、この世界で魔法を使うというのは、僕らが日常的にケータイやパソコンを使うのと同じくらい普通のことらしい。
ためしに、同じことをしてみると、チョロっとろうそくのような炎が手から揺らめいた。
まったく使えないというわけではないらしいが、それをみたリリアは、プフッと噴出して笑ってしまった。
すごく恥ずかしい。
そうこうしているうちに、酒場にたどり着いたらしく、「それじゃまたね!魔法の苦手なお兄さん!」とすっかりなめられてしまったようだ。
僕としては、気にしてられないなと思いつつも、どうにかしないとな、と、魔法についていろいろ調べてやろうと決意した。
そして、酒場の両開きの扉を開き、中へと進んでいったのであった。
※1 エリクシール
本来では、万能の霊薬エリクサーの別の言い方です。
錬金術によって作り出されるとも言われ、飲めば不老不死になると伝えられています。
この作品においては、サウスユーレンシア(南ユーラシアみたいなノリ)という区分の領域において、王都とも呼ばれるほど大きい街であり、サウスユーレンシアを収める大国、ブルータニアという国の城下町でもあります。
※2 バリアモンテ
サウスユーレンシアに対し、ノースユーレンシア領を統治する大国の名前です。
国名にたいした意味はありません。
※3 ペタル
この世界の通貨です。
ものによって値段が違うとマコトは言っていますが、実際には、その解釈も少し違います。
この世界では、物品と、サービスについての認識が違うのです。
つまり、物品に対する価値観と、サービスというくくりのものに対しての意識がちがくて、宿というサービスについては、あまりお金を取るものではないというのがこの世界の認識だと思っていただければ幸いです。当然、サービスに対して接客などという考え方もないわけですから、チップなどは本当に高級なホテルくらいでないと、この世界には存在しません。