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主従関係の行方

「お前、今日が十八回目の誕生日だったのではないか?」

まさか今日であったばかりの青年に、年齢と誕生日を言い当てられるとはおもわず驚く。

「どうして、それを知っているの?」

「強い霊力を宿す者の中には、十八の誕生日まで己の霊力を開放しないものが時折いる。お前はそのたぐいのものだったのだろう。」

そういって、青年は一度言葉を区切ると、話しを続ける。

「話しを戻そう。手順がどうであれ、お前は俺のことを呼び出した。…結果的に俺の主という事になったわけだが。」

青年はさらりと、何でもない事のように驚きの言葉を口にした。

「え、待って!主って、私が?」

「そうだ。俺はその石を持つ者に仕えなければならない。……俺の封印は、そうなっている。」

そういう青年の声は、普通は気が付かないほどだが、悲しげな響きがあった。

「だが、お前は石を持っていようとも、その力を制御することは出来ないだろう。俺を使おうと思うな。俺はお前に従わない。」

青年の言葉は冷たく、はっきりとことはを突き放していた。

だがことはは、その言葉の中になぜか、懇願のようなものを感じた。

ことはには青年を従わせることが出来ないというならば、主導権は青年にあるはずなのに。

それでも、ことはは感じた違和感を特に気にすることなく、会話を続けた。

「私は、別にあなたのことを使おうとか、従わせようとかそういうつもりはなかったの。ただ、助けてほしかっただけなんです……。」

「ならばもういいだろう。先ほどの妖達は退いた。」

青年の言葉にことはは、はっとした。

「あ、ごめんなさい、お礼を言うのが遅くなってしまって。助けてくださって、本当にありがとうございました。」

そういって、深く頭を下げる。

「……。」

青年は頭を下げることはに、何も言わなかった。

そのことを不安に思い、そっと顔をあげると、青年は驚いた顔をしていた。

そんな顔をされると思わなかったことはも、どうしていいかわからず、ただ青年を見ていてしまい、お互いに見つめあう格好になってしまった。

先に口を開いたのは青年の方だった。


「なぜ礼を?」

「なぜって…。助けてもらったから、ですけど…。」

「俺がお前を助けたことは、当然のことだと思わないのか?」

「…それこそ、どうして?あなたは私のことを見捨てることも出来たのに、それでも助けてくれた。当然なんて思ってないです。」

青年はその言葉を聞いて、とても複雑な顔をする。

「それに、助けてもらったら、それこそお礼を言うのは当然の事だと思います。」

ことはの言葉に、青年は大きく目を見開く。

だが、すぐに顔を逸らして小さな声で呟いた。


「礼の言葉を聞いたのは、数百年ぶりだ。」

その声は、ことはにはっきりと届かず、問い返そうとしたが、その前に青年はこちらに顔を戻す。

その顔は、また先ほどまでの感情の読めない、無表情に戻っていた。


「とにかく、俺を使おうと思うな。その封じ石はまた、その箱にでもしまっておけばいい。それと……。お前はもう休め。霊力を無理に引き出したのだ、身体に相当な負荷がかかっているはず。」

それを一方的に告げると、ことはの言葉を待たずに、青年は踵を返して家を出ていこうとした。

ことはは、とっさに青年を引き留めようと立ち上がるが、なぜか力が抜け、めまいのような不快感を感じる。身体がぐらりと傾ぐ。

床に倒れると思い、身を固くする。だが、その前に何かが身体をふわりと受け止めた。


驚き目を開けると、そこには家を出て行こうとしていたはずの青年の顔がすぐ近くにあった。

「霊力を無理やり引き出したから、身体が思うように動かないんだ。無理をしないほうがいい。」

そういう青年の声が、どんどん遠くになっていく。

「眠れ。次目覚めた時には、体調は戻っているだろう。」

その言葉を最後に、ことはの意識は途切れた。







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