瑠璃色の石の正体
「やはり、お前が俺を呼び出したのだな?」
青年は、ことはの手の中にある瑠璃色の、石の首飾りを見て言うが、持っていることはと石を見比べるように見た後、不思議そうな顔をした。
「だが…、なぜおまえのような娘が俺を呼び出せた?」
不思議そうに、ことはを見ていた青年は、ふとあることに気が付いたかのような顔をした。
「…ん?お前、ずいぶんと美味そうな匂いがするな。」
青年はスッと近づいて、ことはの首元に顔を寄せ匂いをかぐ仕草をする。
「……っ?!」
あまりの驚きに、ことはは身を固くして動くことの出来ない。
だが、そんなことはに構うことなく匂いを嗅いだかと思うと、何もすることなく青年はすぐに離れる。
「……術師としての素質はあるが、制御するすべを知らぬようだな。先ほどの状況から察するに、生命の危機を感じて、とっさにその無駄にある霊力を無理やり引き出し、俺を呼びだしたというところか。」
青年は何やら一人で納得したようだ。
「う、美味そうって、あなた、私のことを食べるの…?」
ことはは、やっとのことで声を絞り出し、先ほどの青年の言葉の真意を問う。
ことはにはこの青年は、突然現れて人睨みするだけで、複数の妖を追い払ってしまった。
確かに形的にはことはを助けたことになるが、この青年もことはに敵意を向けてくる可能性が現段階でないわけではないのだ。
いい匂いがする、美味そうだ、などと言われれば恐怖が湧く。
青年は、ことはを瑠璃色の瞳でじっと見つめた。
ことはは思わず、視線から逃れるように目を逸らす。
「人間は食さない。そもそも、そのようなことが俺に出来るわけがないだろう?…なぜそのように怯える?お前は俺を呼び出し、使役するつもりだったのではないのか?」
先ほどの問いに対して青年は、心底不思議だというように答えた。
「使役…?何の話……?」
ことはは聞きなれない言葉に、思わず視線を戻す。
「違うのか?」
純粋に問い返されてしまって、ことはは困った。
ことはには、青年がどこから現れたのか、何者なのかすら、わからないのだから。
「わ、私は、村からの帰り道でさっきの妖達に襲われて、家に逃げ込んだのだけど、妖達に見つかりそうになって…。その時、おばあちゃんがもし困ったことがあったら、この石に祈れって言っていたのを思い出して。それで祈ったの。そしたらあなたが現れた。……だから、あなたが誰で、どうしてここにいるのかわからないの…。」
ことはの言葉を聞いて、青年は少し考えるように顎に手を当ていたが、視線を戻す。
「お前の持っているその石は、封じ石といって、俺はその封じ石の中に封じられている妖。お前はその石に祈ったことによって、石の中で眠っていた俺を呼びだした。」
青年の声は淡々としていた。何を考えているかわからない声色だ。
「本来、俺を呼びだすにはある程度霊力の使い方に長けていて、それなりの手順を踏まなければならない。だが、お前は強い霊力をその身に宿しているようだから、正式な手順や力の引き出し方を知らずとも、強引に俺を呼びだすことが出来たのだろう。」
「私に、霊力…?私は普通の人だけれど。」
霊力を持っていると言われたところで、今まで普通に暮らしてきたことはには、信じられなかった。
「信じられなかろうが、お前の中には強い霊力を感じる。先ほど襲ってきた妖共は、お前の霊力に惹かれてきたのだろう。妖にとって霊力を持った人間は何よりの馳走だ。」
青年の言葉に、先ほどの妖達を思い出す。確かに私のことを食べると言っていた。
「でも、今まで妖は見えたけれど襲われるようなことはなかった。なぜ今になって襲われたの…?」
疑問に思ったことを青年に尋ねてみる。
ことはの疑問に、青年は少し考える。次に口を開いたとき、青年は疑問の答えではなく質問をしてきた。




