探し人は、どこに
夜鵠が、今どこにいるのかことはにはわからなかったが、とにかく、屋敷の周りの林など、ぐるりと回るように夜鵠を呼んだり、きょろきょろと姿を探したりしながら歩いた。
だが、屋敷の周りを一周しても夜鵠はいなかったし、現れもしない。
「……、やっぱり、呼んでも出てきてくれないよね……。」
仕方がないとつぶやきながら、落ち込む気持ちを奮い立たせ、もう一周、今度はもう少し離れた位置まで探して歩いた。
その後も、屋敷の周りを探して歩くが、広い屋敷だから、三周もすれば、かなり時間が経っていて、もう日が落ちる頃だ。
日が落ちてから外を歩き回れば、いろいろと危険がある。道に迷う事もあるだろうし妖に出会ってしまうかもしれない。それに、ことはは闇の中では目が見えないのだ。探したところで月明かりのつたない光では、夜鵠の姿を見つけることは困難だ。
その日は、屋敷に戻った。
だが、夜鵠を探すことを諦めることは出来ないため、その後も毎日毎日、昼ごろから日が沈むころにかけて夜鵠を探して歩く。
それでも、夜鵠を探し始めて六日目になれば、だんだんとあきらめの気持ちが湧いてくる。
「やっぱり、私には見つけられないかも……。夜鵠さんが本当に会いたくないと思っているのなら、私が近づいたことに気が付いてその場から離れることぐらいするだろうし。そうなれば……、私には見つけることが出来ない。」
大体屋敷の周りのかなりの距離までを捜し歩いたため、最近となってはひたすら同じところを歩いて回っている。
諦めてしまいたいという思いが、ことはの中に生まれる。
でもその思いを押さえて、ことはは今日も夜鵠を探すために、屋敷の外へ出る。
いつもと同じように、夜鵠を探しながら屋敷の周りを歩いていれば、ちらりと、何か冷たいものが、顔に落ちてきた気がした。
今日の空は曇っており、いつ雨が降っておかしくない天気だったから、ついに降ってきてしまったのだろうかと、空を見上げれば降ってきていたのは雨ではなかった。
空を白い花びらのようなものが舞って、幻想的な景色を作り出していた。
「雪……。もう、そんな季節だったんだ……。どおりで寒いわけだ……。」
次々とことはに落ちてくる雪に触れていれば、冷たい風が吹く。
思わずその寒さに、ふるりと震えて少しでも寒さを和らげようと、身体を抱え込む。
「こんなに寒い中に、夜鵠さんはずっといるんだ……。辛いよ……。私なら耐えられない……。」
思わず出た言葉に、また涙が流れそうになる。だが、強く目蓋を閉じて涙を堪える。
「私が泣いてはいけない。泣きたいのも、辛いのも夜鵠さんのはずだもん。」
そう言って、寒さに震えながらも、背筋を伸ばして夜鵠を探すことを再開する。
―――――早く、夜鵠さんを探さないと。これから雪がもっと降ってくる。その前に夜鵠さんを探して、話しをして、それで父さまにお願いして屋敷の中に呼ぶ。部屋を与えることが出来ないと言われたら、私の部屋にいてもらおう。それで、私は……、あの犬の親子と一緒にでもいようかな……。毛布を持っていけば、きっと少しはましになる。――――
その日も雪が頭に積もって白くなってしまうまで、延々夜鵠を探して回ったが、夜鵠は見つからなかった。
雪の中夜鵠を探して回った次の日。朝、目が覚めれば、頭がぼんやりとして、ぐらぐらとした。それだけではなく、喉もなんだか変な感じがして、起き上がれば、身体がものすごく怠く重かった。
まずい、とそこで気が付く。この体の不調は、昨日薄着で歩き回ったせいで、風邪をひいてしまったのだ。
「頭痛い……。うーん……。夜鵠さん、探しに行けるかな……。」
試しに立ち上がろうとするが、頭がぐらぐらとして、立ち上がるのが辛い。
何とか立ち上がったが、ふらふらして上手く歩くことが出来ない。変な浮遊感を感じる。
「今日は……やめた方が、いいかもしれないなぁ……。」
流石にこれだけ体調が悪いと、歩き回るのは辛い。今日一日ぐらいなら、と思ったが、ふと窓の外を見れば、庭は一面白に覆われていて、それでもまだ、しんしんと雪が降っている。
これだけ雪が降っていて、昨日の昼間歩いただけでことはは体調を崩したのに、夜鵠は夜もずっとこの寒さにさらされている。
思わず部屋を出て庭に降りると、足元に冷たい雪が触れる。ふわふわと舞う雪はやはり冷たく、さらに今日は風が絶え間なく吹いている。
「寒い……。やっぱり夜鵠さんがこんなに寒いところにいるのに、私がゆっくりと部屋にいるわけにはいかないよ……。探しに行こう……。」
そう決意して、とにかく朝餉を食べて、出かける支度をすることにした。
朝餉を食べている間や、楓と話をしている間いつ体調不良がばれるかとひやひやしていたが、何とかばれないで済んだ。
満永は仕事が忙しいらしく、朝餉を食べたらすぐに自室に戻ってしまったし、今日はあえて楓と話しをあまりしなかったから、気づく暇がなかったのだろう。
ことはは、ばれる前にと早めに屋敷を出て夜鵠を探し始める。
足元がふらふらと、おぼつかない。無理に動いている為、余計に頭が痛んだ。
それでも、ただひたすら探して歩く。雪が吹きつけようと、ただただ。
しばらくの間、気力で歩いて回ったが、さすがに疲れて近くにある岩に座って休憩を取った。
座り込んだ岩にも雪が積もっていたため、払ったと言えどとても冷たかった。
乱れた呼吸を整えていると、ごほごほと咳が出た。
「もう少し、もう少しだけ、探そう……。それでだめだったら、今日は帰らないと……。楓さんに迷惑を掛けちゃう……。」
ここで倒れれば、ことはが帰っててこないことを心配して、楓たちに探させてしまうことになる。
それに、ことはが夜鵠を捜し歩いていることが知られてしまえば、見ぬふりをしてくれている楓が、咎められてしまうかもしれない。
「とにかく、早く探そう……。」
呼吸が整ったところで立ち上がったが、それと同時に、強い風がことはを襲う。
普段ならばよろめく程度だが、ふらふらとしている今のことはは体勢を崩して、雪の積もった地面に倒れこんでしまう。
雪が冷たく、急いで立ち上がろうとするが、頭がぐらぐらして立ち上がれない。
―――まずい、完全に身体の限界を見誤った……―――
動くことが出来ないことはに無情にも風と雪が襲いかかる。
かたかたと、その場で震えていれば、頭上でばさり、と音が聞こえた。
その音を聞いてことはまさか、妖がやって来たのかもしれないと、身を固くする。
それと同時に、ことはの前に何かが降り立つ。




