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夢の中



ふわふわと、意識が夢の中を漂う。

誰かが私のことを抱きしめて、頭をなでている。

だけど、その人の顔は逆光で見えない。

とても、きれいな人のはずなのに。

「ことは。あなたはこれからたくさんの苦労をすると思う。辛いこともたくさんある。だけれど、私はもうあなたを守ってあげる事はできない。でも負けないで。どんな困難がまっていたとしても、あなたならきっと乗り越えられる。」

慈しみに満ちた声が、ことはに語りかける。

そして、顔は見えないが、その女性は微笑んでそっと体を離す。

そのまま振り返りもせずに、自分を置いて暗闇に向かって歩いて行ってしまう。

ああ、そっちに行ってはいけない。そっちに行ったらもう戻れなくなる、もう会えなくなってしまう。いけない。

そして、追いかけようとするが体は動かない。



場面は変わり、おばあちゃんが寝床に横たわっている。

その顔は青白く、生気が感じられなかった。

一目見ただけでも、もう先は長くないと感じられた。

ふっと眠っていたおばあちゃんが、目を開けこちらを見る。

「ことは。」

しっかりとした声で名前を呼ばれる。

「どうしたの。おばあちゃん。」

そっと、冷たいおばあちゃんの手を取る。

「よくお聞き。これからお前はたくさんの悲しみや苦しみに出会うだろう。だが、お前はお前らしく生きるんだよ。決して諦めてはいけない。すべてを諦めて自分の心を投げ出してしまえば、お前はお前でなくなってしまうからね。」

「おばあちゃん…?」

突然の言葉に困惑したことはは、ただおばあちゃんを見つめることしかできない。

「だけど、もしも自分ではどうすることもできないことが起きたら、そこの押し入れの中にある、触れてはいけないと言っていた箱があるだろう?それを開け、祈りなさい。」

「祈るって…。あの箱の中身は何?何を祈ったらいいの…?」

おばあちゃんはその質問には答えずに、穏やかに笑うだけだった。

「さあ、もうお別れの時間だ。私はいつだってお前を見守っているからね。ことは。」

「待って、おばあちゃん。そんなこと言わないで。大丈夫だよ、お薬を飲めば治るよ。今お薬を、」

薬を取ろうと、立ち上がったことはの手を、そっとつかんで首を振り、おばあちゃんは静かに目を閉じた。

そして、おばあちゃんは二度と目を開けなかった。


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