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食事は一人では寂しい



先を行く夜鵠の背をしばらく追いかけていたが、やはり、男性と女性の身体能力の違いだろうか。ことはは、少し小走りをしないとついていけない。


しばらく歩いて、少し息が切れて来た頃、夜鵠がふとことはを振り返り、歩く速度を落とした。


ことはは、少しほっとして夜鵠の後ろを歩いた。

今度は、ことはも追いつける速さだった。

しばらくお互いに無言で歩いていたがことはが、ふと空を見上げると穏やかにゆっくりと雲が流れていた。


「穏やかな天気ですね。ああ、だいぶ葉っぱが黄色くなってる。もうじき、綺麗な紅葉が見られそう。」

周りの木々を見れば、赤や黄色の葉を付けていた。

時折吹く風に、赤や黄色の葉が舞い上げられ宙を舞っている。

「そうだな。それに、秋は実りの季節だな。生き物たちに恵みを与える季節だ。」

「この季節は食べ物がとてもおいしいです。キノコにお米に、果物。何を作っても美味しくできるんですよ。」

そういえば、今日の夕食は何にしようか、などと考え始めることは。


そんなことはを、夜鵠は振り返る。

「夜鵠さんは、食べ物は食べないっておっしゃっていましたけど、食べることが出来ないってことなんですか?」

ことはと生活を始めた初日に、夜鵠は食べ物はいらないとことはに言っていた。

妖というのは、食べ物を食べることが出来ないのだろうか。


「いや。ほとんど食べる必要がないだけだ。食べれないわけではないが。」

「なら、帰ったら一緒にご飯食べませんか?必要がなくてもおいしいものを食べればなんだか幸せな気持ちになると思いますし、一緒に食べていただけると、すごくうれしいです。」

軽い気持ちで口を出た提案であったが、ことはは言いながら、すごくいい案だと思った。


おばあちゃんが死んでからというもの、ずっと一人で食事をしていたから、誰かと一緒に食事をするというのはとても魅力的なことだった。

もちろん、夜鵠に秋のおいしい食材で作った食べ物を食べてもらいたい、という気持ちもある。


ことはの瞳は期待に満ちていて夜鵠は思わず、といったふうに笑う。

「お前は、そんなに食べ物を食べるのが好きなのか?先ほどからとても楽しそうに食べ物の話をしている。」

夜鵠の言葉に、ことははそんなことを言われると思っておらず、頬に熱が集まっていく。

「ち、違います!おいしいものを食べると確かに幸せになりますけど、そういう事じゃなくて、夜鵠さんと一緒に食べれたら、きっともっと料理がおいしく感じるんだろうなって思ったからで、食べることが特別好きでしょうがないとか、そういう事じゃないんですよ?」

このままでは、夜鵠に食いしん坊だと思われてしまう。

ことはの必死の弁解が、夜鵠の笑いを誘ったらしく、笑いをこらえて、くくく、と殺しきれなかった声が漏れていた。


「わかった、わかった。そのように必死になるな。では、今宵は夕餉を共にしよう。」

「夜鵠さん、わかってないでしょう…。」

明らかに笑いながら、ことはをなだめる夜鵠に少しすねた表情になる。

「……けど、一緒に食べてくださるのはうれしいです。今日は、腕によりをかけて作ります。嫌いなものとか、ありますか?」

「いや。特にない。」


夜鵠に好き嫌いがないならば、と夕餉の献立がことはの頭の中をぐるぐると巡る。

まずは、穀物を炊いて、おかずは山菜を使ってお浸しを作って、汁物はほうれん草と家の近くで取れたきのこと、鶏肉を牛乳で煮て味付けをしたものを。それと、豆をなん種類かに薄く切った玉ねぎを混ぜ合わせて、木の実からとれた油を少しあえて、そこに塩、胡椒、果実の絞り汁で味を付けた付け合せを出そう。

後、この間森に入った時においしそうな木の実を見つけたから、食後に食べたらいいかもしれない。


献立を考えるとことはは、今から夕餉が楽しみになって来た。

「どんな料理が出来るか、楽しみにしている。」

楽しそうに献立を考えていることはに、夜鵠はそういった。




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