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体調不良の原因


その日の夜、家で今日採ってきたキノコや木の実を干したり、保存のための処理をしていると、カタン、と外で音がして扉が開く。

そこには夜鵠がいて、なんだか朝より顔色が優れないようだった。

なんとなく心配でことははつい声をかける。


「夜鵠さん、お帰りなさい。昼間は助けてくださってありがとうございました。……あの、なんだか顔色が今朝より優れないみたいですけど、やっぱり具合が悪いんじゃないですか?」

今までおこなっていた作業を一旦止め夜鵠に寄っていくが、夜鵠はことはをスルリとよけて、部屋のいつもの定位置に座り込む。

放っておいた方がいいのかもしれないと思ったが、やはり具合が悪そうなのを放っておくことが出来ず、ことはは夜鵠のそばに座る。


夜鵠は閉じていた目をちらりと開き、ことはを見る。

「なんだ。」

拒絶のこもった声に一瞬ひるむが、ここで引くわけにはいかない。

「夜鵠さん、やっぱり…無理してますよね?」

「たとえ俺の具合が悪くとも、お前には関係のない事だ。」

「関係なくなんてないです。目の前に具合の悪い人がいたら心配になります。」

出来るだけ、声が震えないように意識して答える。人と接することが極端に少ないことはには、このような時どう声を掛ければいいのか、どうしたらいいのからない。

それでも自分なりに、夜鵠に心配だという事を伝える。

「俺は“人”ではない。“妖”だ。異形の者の事など心配するのか。お前は。」

「人とか妖とか、そんなの関係ありません。苦しんでいるのなら、力になりたいです。何かしてあげる事が出来るのなら、してあげたいと私は思います。」


そう答えたことはを、瑠璃色の瞳がじっと見つめた。

しばらく見つめていたあと視線が緩み、ことはの前ではじめて、ごく小さくだが笑みを浮かべた。

「お前はまこと、変わっている。人も妖も心配だなどと。」

「私、変わってるんでしょうか?あまり人と関わらないから、自分ではわかりません……。」

「変わっている。少なくとも、俺が出会った術師たちとは違う。」

からかうような笑みを浮かべて夜鵠は言った後、ふと表情を引き締め続ける。

「それで。俺の体調のことだが、これは病ではない。俺にかけられた封印が関係しているんだ。この話を聞けば後悔するかもしれない。それでも、聞くか?」

「…私は、その話を聞かないで夜鵠さんが苦しんでいるのに、なにも出来なかったら、きっと後悔します。話を聞いても聞かなくても後悔するのなら、話を聞きたいです。」

知っても知らなくても後悔するのならば、知って後悔したいという、その思いをはっきりと告げる。

「わかった。」

そういうと夜鵠は少しの間、目を閉じて息をつく。


そして、ゆっくりと話し始めた。


「まず、先ほども言ったが、これは病からくるものではない。俺の中の妖気が濃くなりすぎて、体内で力が暴走し、己の体を傷つけている事が原因だ。」


「妖気が濃くなって、暴走…?」


「そうだ。多くの妖はそのようなことはないのだが…。俺は特殊な存在で、…そうだな、人間は俺みたいな存在のことを、突然変異によって生まれた存在、というのだったか。」


「突然変異…?夜鵠さんは、普通の妖とはまた違うんですか?」

驚いてそう聞くことはに、夜鵠はうなずく。


「その当たりにいる妖怪とは少し違う。普通の妖ならば、その者の器に合わせて妖気の濃さは無意識のうちに調節されるが、俺にはそれが出来ない。だから放っておけば、己の中の妖気がどんどん濃くなっていき、結果的に、己自身をむしばみ始める。」


その説明を、ゆっくりと噛み砕くようにして理解していく。

夜鵠は生まれた時から、普通の妖たちとは違う存在だった。

違いの一つとして、妖気の濃さを己の器に合わせて調節できないという事。

妖気は放っておけば放っておいただけ濃くなっていき、やがて自分の体を傷つけ始める。

ことはの理解が追いつくまで夜鵠は待ち、ことはが理解した頃に言葉を続けた。


「俺は封印される前は、己の妖気が濃くなりすぎることがないよう、適度に自然や大地から、気を取り込むこみ中和をしていた。だが、この封じ石の中に封じられたことによって、俺は外の世界との繋がりを一切遮断されている。故に、ここに封じられている限り外から気を取り込むことは出来ない。」

夜鵠は、言葉の最後に目を伏せてそういった。


「な、そんな…、それじゃあ…!」

その話が本当なら、夜鵠の苦しみを取り除くには、封印を解くしかないという事になる。


だが、ことはには封印のことなど全くわからないし、その封印を解くなんて事が出来るはずがない。

そうなれば、夜鵠はこのまま苦しい思いをずっとしているしかないのか。

そう考えていると、夜鵠はぽつりと口を開いた。


「……だが、一つだけ……。気を取り込む方法がある。」


伏せていた目をあげ、ことはの方を見るが、その眼には光が灯っていないように思えた。


「その方法って、どうするんですか?私に、何か手伝えることはありますか?」

自分に出来る事なら、何でもしようと思い、そう尋ねた。



「…封じ石の持ち主、つまりお前なら、俺に気を分け与えることが出来る。」




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