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セントゲイト奪還作戦

翌日、ひょっこり帰ってきた僕を待っていたのは、あの憎たらしいゼクスだった。

あいつは何も言わず、着いてこいと言わんばかりに、背を翻し……

そして僕を作戦司令部で、今回の作戦を聞かされることになった。


机に置かれた地図を囲むように複数の男たちが立ち、地図を睨みつけていた。

場違いにも、僕はそこらにあった椅子に座り、彼らを眺めているのだが。

時折、ちらりと此方に視線を送ってくる金髪の男が、やや気になる。


まあそんなことどうでもいいんだけど。

というか、ここにいる必要ないよね、僕。

というわけで立ち上がり帰ろうとしたんだが……


「おい勇者。誰が帰っていいと言った?」


ゼクスが噛み付いてくる。


「……帰っていい?」

「だから駄目だって言ってんだろうが」

「……」


仕方なく椅子に座る。ゼクスは溜息を吐いてまた地図を睨む。

そしたら、金髪の男が何やらにこやかに近づいてきた。


「君はなかなか面白いね」


意思が強そうな碧眼に端整な顔立ち、そして自信溢れる笑顔。

まるで人の上に立つべくして存在しているかのような男だった。


「オレはリベル。リーズの兄で次期国王様だ」


手を差し出してくる。

さあこの手を取れと言わんばかりに。

だが僕はその手をとらない。


「十六夜紅月です。一応勇者やってます」


手持無沙汰となり、宙に浮いたままの差し出された右手をばつが悪そうにひっこめ、リベルは苦笑する。


「おいリベル。そんな奴と話してないで早く作戦を決めるぞ」

「わかっているよ、ゼクス。それにもう作戦は決まった」


リベルは何故か今度は強引に僕の手を取り、立ち上がらせた。


「さあ、取り戻すぞ。オレたちの世界を」


決意に満ちた宣言。勇者という刃を手に入れた人間の反撃ののろしだ。

それから僕は作戦を聞かされた。


作戦名、セントゲイト奪還作戦。


このセントゲイトという城塞都市はかなり重要な立地にあるらしく、しかもそこを魔族に奪われ占領されている。


「だいたいこの作戦の重要性がわかったな?」


リベルが覗き込むように見てくる。

だいたい理解はしている。

この都市が魔族領に攻め込むための中継地点として重要で、逆に言い変えれば魔族がこの国に攻めやすくなっている。

だから絶対に落ちないように、一年は籠城できるほど食料はあるし、絶対防御と名高いアイギスという結界も張られているのに、堕ちた。


「分かってます。いち早く取り戻さないと攻めれない。でもどうやって?」

「ソレはだな」


リベルは自信たっぷりな笑みと共に有り得ないことを言い放った。


「少数精鋭で潜入し、アイギスを破壊。そして全軍で奪い返す」

「それを僕にやれと?」

「できるだろう? 単身で魔王軍を退けたのだから。それにゼクスとあと数名一緒だから大丈夫だろう」


確かに大丈夫だが……

隠密行動何てできるだろうか。武術の心得なんてまるでない僕が…‥


作戦当日。


僕たちは見つからないように隠密魔法を維持しながらセントゲイトまで駆け抜ける。

編成はフォーマンセル。僕にゼクス、その部下の剣士と魔法使いだ。

今魔法使いの女が必死に隠密魔法をかけ続けている。

これが今回の作戦。

アイギスと言えど常に発動しているわけではなく、基本的に敵を発見してから発動させている。


だからこうして地味な作業が必要だった。


前方に巨大な壁が見えてきた。


「あの美しかった都市は魔族どもが闊歩している魔都になっている」


ゼクスが突然何か語り始めた。


「俺たちは死ぬかもしれない。だが……生きて帰れたら俺たちは、英雄だ。さあ存分に暴れてやろうじゃねえか」


恥ずかしいセリフを聞かされた僕は吹き出しそういなっていた。

しかし感激したように二人は頷いた。

そして、僕たちは侵入に成功した。


潜入は無事成功したのだが、どこかこの街から違和感を感じる。


フォーマンセルで見つからないように、屋根から屋根へ飛び移りながらこの街の中心へと向かいながら僕は観察しているのだが……

あまりにも平和すぎる。


仮にもここは重要拠点で、しかも戦時中なのに殺気立っていない。

エルフの親子は幸せそうに休日を満喫しているし、悪魔の男は獣人の女の子をナンパしているし、これじゃまるで……

唐突に天が赤く染まる。

まるで膜の内側を眺めているようで……


「くっ、あれはアイギス。見つかったのか?」


ゼクスは呻くように言うと同時に、足元から……


「居たぞ! 屋根の上だ」

「敵を殺せッ!」


どこからともなくわらわらと集まる魔族たち。

その手には多種多様な武器の数々。笑えることに包丁とかフォークを持っている奴もいる。

まあ実際は笑えないんだけど。剣士や魔法使いの人は強張っているし。

無数の矢が飛んでくる。それを魔法使いの女が一歩前に出て防御結界を張り、全て防ぐ。

物量が違いすぎるよ。足元には埋め尽くす数の魔族。彼方から武装した正規兵が攻めてきた。


さあ、どうしようか。


考えている間にも魔族たちの数人が屋根に上ってきた。


矢の雨が止んだが、魔法使いはかなりの時間、魔術を使った代償かかなり息を荒げていて、剣士とゼクスは魔法使いを守るために動けそうにない。


僕がやるしかないか。


右手に奇跡が集う。

それほど速くはない速度で、上ってきた魔族たちに肉薄し、一閃。

無造作に振るった光の剣は魔族たちを纏めて両断したようで、吹き出す鮮血の雨がもろに僕にかかった。


「早く移動しろ。袋叩きにされたいのか?」


僕ならこの程度の数は問題ないが、流石にゼクスたちには荷が重すぎるだろう。


「チッ、わかっている。お前はどうするつもりだ?」

「僕? ここに残って殺しておくよ。ほら、早く。隠密魔法なりなんなり使って見つからないようにしてよ」

「お前…………死ぬつもりか?」

「この程度では死ねないよ。ほらさっさと行け」


ゼクスは苦虫を噛み潰したように、顔を歪ませ、去り際に……


「死ぬんじゃねえぞ。死んだらオレが殺すからな」


…………それ、死亡フラグだよ。


魔法が発動したようで、ふっと彼らの姿が視認できなくなった。それに気配もかなり薄くなっていた。

優秀な魔法だな、とのんきに考えながら僕は屋根から飛び降りた。


まるで人の絨毯のような、埋め尽くされた魔族の海。

そのまま飛び込めば揉みくちゃにされるだろうな。


嫌だな、ソレは。


着地するまでの短い時間で、光の剣を全力で、何度も何度も振り抜いた。

細切れになる肉片。滲み出る様に血液が溢れだし、それが何十人分ともなれば、バケツを返したように血液だ。

しかもそれは一瞬。だから僕以外の視点で見ればそれはきっと、ミキサーに入れられたものの末路と似ているんだろうな。


べっとりとした赤い血液に溺れそうになるが、生憎と僕は呼吸をしなくても一週間くらい生きれる化け物だ。

着地と同時に僕は駆け抜け、その轍には無数の赤い花が咲き誇っていた。


しばらく戦闘を続けると何か違和感を覚える。

おかしい。

拭いきれない違和感。

まるで小骨が刺さったかのような違和感。

僕は敵を殺しながら、ある程度の速さで駆け抜ける。

曲がり角を曲がったとき、出くわしたエルフの女の子。手には包丁。それが振るわれるより早く、僕は光の剣を振り抜いた。


おかしい。

駆け抜ける僕を追いかけてくる魔族たち。

人間が出せる程度の速さなのに、アイツらは追い付いてこない。

中には獣人などの人間より身体能力が高い種族がいるのに……


おかしい。

それに魔族は魔法が得意な種族が多いはずなのに……

身体能力は人間程度。

魔法は使ってこない。

一体何が目的なんだ?


前から武装した正規兵が来た。

挟み撃ちか。

無数の矢が放たれた。

背後にアイツらの仲間がいるはずなのに。


光の剣を一閃、二閃。

僕に当たるものだけを切り落とした。

背後で苦痛の叫び。

犠牲を厭わず、よほど僕を仕留めたいらしい。

僕は駆け抜ける。一度も足を止めることなく。


正規兵たちが剣を抜く。矢が効かないと判断したようで、同じく駆けてくる。

奴らが剣を振るよりも早く、僕は光の剣を振り抜く。

鉄製の鎧も、剣も、まるでバターか何かのようにあっさりと、斬り裂いた。

まとめて三人。

僕は一歩奥に踏み込み、さらにもう一閃。

これで五人。残りは三人。

踏み込んだ脚を軸に、強烈な回し蹴り。

仲良く吹き飛ばされ、壁に激突した。

開けた進行路をまた僕は駆け出した。


それからすでに三時間。日も傾き始めてきた。

それでも未だに僕は追われ続けている。

といっても流石にああも戦い続けるのは精神的に辛く、今は誰かの家を勝手に使わせてもらっている。


「はあ~~。流石にめんどくさい」


建物を壊せないから全力で無我夢中で戦えないから辛いよ。

溜息を吐いて適当に置いてあった飲み物を飲む。しゅわしゅわとした炭酸の刺激が心地よい。

少し甘く、アルコールの味がするからお酒なんだろう。


ソファーにどかりと座り、リラックス。


「暫くは見つからないかな」


カーテンの隙間からちらりと覗くと、外には魔族たちが闊歩していた。

ゼクスたちがどうなっているか心配になるが、まあ最終的に僕が全滅させれば問題ないはず。


「……そんなことよりも」


この違和感はなんだ。

僕の感じているこの違和感はなんだ。


それを解消するために、僕は一つずつ整理していくことにした。


僕が感じている違和感はいくつかあるんだ。

一つは、この街の奇妙な平和。まるで薄い膜にでも覆われているような平穏。

二つは魔族たちの攻撃行動。まったく魔法を使ってこないこと。

三つめは何より弱すぎる。いくらなんでもだ。前回、百年前の魔族はもっと抵抗してきたのに。

そして最後、これが一番理解できない。

なんで……

戦場に子供がいるんだ。


確かこの街は魔族に攻め落とされたはずだ。なら子供がいるなんておかしい。

攻め落とせたから家族でも連れて来たのか。

時間的にはありえるけど、普通戦場に我が子を連れてくるか。

しかも一番人間側が攻めてくる可能性が一番高いここに。


それに尋常じゃない数の、魔族の子供がいた。

まるでここで生活しているかのようだ。

本当に意味が分からない。


さて………行くか。


アイギスもなかなか解除されないみたいだし、僕も中央に向かおう。

そう思い、僕はドアを突き破り、外に出たんだが……


「……何、これ?」


僕は茫然とした。

滅多なことで動揺しない僕が、屍程度で動揺しない僕が……


「どうなってるの?」


入ったときと打って変わった景色。

無数の屍が転がっているのは変わらない。

それがただ、“人間”の死体だっただけだ。

エルフや悪魔でもない、魔族でない、見間違えようもないくらい、人間だった。


「……意味がわからない」

『いたぞッ! あそこだ、殺せ!』


駆け寄ってくるのはこれもまた人間。

思考の海に溺れた僕だが身体は勝手に、右手に集う奇跡は形を成し、敵を斬り裂いた。

ごとん、と落ちた頭部。

鮮血を撒き散らす胴体。

ああ、どうしようもなく……

……人間だった。


ああ、そうか。

くそっ……どうして気付かなかったんだろう。

僕の中で違和感が瓦解していく。

僕が今まで気づいていなかった違和感。

それは、敵が同胞の死に対して一切動揺していなかったことだ。

多分あの人間たちは洗脳されているんだろう。

そして僕たちも。

多分タイミングは街に入ったとき。その瞬間に、僕たちはこの街の住民が魔族だと思わせられていたんだ。

天のアイギスが解除されていく。

ゼクスたちが上手くやったようだ。

城の中心部から魔法が打ち上げられる。

作戦成功の合図。しばらくすればここを全軍が攻めてくる手筈だ。


僕たちの幻術、もしくは洗脳系の魔法は解除されたようだが、人間たちは攻撃をやめない。

どうする。一度この事態を教えた方がいいか……


敵が人間だと知れば動揺するだろうが、負けはしない。それよりも僕が巻き込まれるのは厄介だ。

ムカつくけど、一度ゼクスたちと合流しよう。


天を駆け、ゼクスのもとに向かう。

ムカつくけど、アイツの気配は強烈で異様だから少しその気になればだいたいどこにいるかわかる。

……見つけた。


僕は空を蹴るのをやめ、落下する。

するとゼクスは驚いたように上を見上げ、阿呆みたいに口を開けていた。

華麗に着地、とはいわず、どしんと音を立てて堕ちた。


「お前……空も飛べるのかよ」


飛べはしない。跳べるだけだ。

と心の中で反論する。


「そんなことよりも──」

「──わかっている。敵がえげつない真似をしたことだろ」


むっ……ムカつく。


「さっさとここから逃げるぞ。敵と間違われて攻撃されたら堪らん」

「わかった。他の二人は?」

「…………」


よく見れば所々ゼクスは傷を負っていた。ということは中で戦闘があったということ。

こいつほどの実力者が傷を負った。

そうか……

……死んだか。


「何があった?」

「……中でアイギスを管理していた四天王とか言う魔族と戦闘になった」


ぎりっと奥歯を噛み締め、紅い目が、殺意でより一層色濃くなる。

反応からみると仕留めそこなったみたいだ。


「……あの野郎。今度会ったら絶対、ぶっ殺してやる!」


ゼクスは右手から血が滲むほど強く、強く、握りしめた。


「……行くよ」

「……ああ」


それからこの戦さは無事、人間側の勝利だった。

いや、人間側の勝利と言っていいのか些か疑問だけど。

魔族側の被害はゼロ。対する人間側の被害は、セントゲイトの人間全てとアイギスの損傷。

それでもセントゲイトを取り戻したことには違いなく……

でも、人間側に多大な動揺を与えた。


悪辣な戦略を取った魔族。今までにない卑劣だが、実に効果的な作戦。

そのせいでこれから先、敵が本当に魔族であるか、幻術、洗脳されていないか確かめて戦わなくてはいけなくなった。

でも僕には関係ない。

人間だろうが魔族だろうが、敵となったものを殺せばいいのだから。


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