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狂った魔王

魔女を殺してから数日たった。


雨霰のように打ち込まれる魔法の数々。稲妻に、火炎に、疾風に、水雲に、土石に、僕は襲われる。

必死の形相で魔法を唱え続ける魔族たち。

今、僕は魔王に会うために魔族領を進行中だった。

降りかかる魔法は僕の身体を傷付けることはなく、僕は闘う意思すらなく、ただ歩く。

だけどその様はとても異様で、彼ら彼女らは恐怖に慄き、攻撃してくる。

どうでもいいどうでもいいどうでもいい。僕は彼女に会いたいだけなんだ。

確認したいだけなんだ。


「退いてよ」


呟く。一斉に下がり道が開ける。

本能で悟っているんだろう。僕という生き物の異常さを。

人間を半ば辞めた僕のチカラを。


「ありがと」


魔王の城までもう少しだ。


やっと見えてきた。あの禍々しい景観の城が。

懐かしいな。百年ぶりだ。

あの時もまた僕は独りで。

今もまた僕は独りだ。

そしてまた僕は友達を殺すのだろうか。嫌だな、そんなのは。


ものの見事に魔王城はもぬけの殻だった。慌てて出て行った痕跡もあり、これは多分ギルの仕業だろう。

禍々しい赤の絨毯が敷かれた階段を上り、金細工の巨大な扉を開けた。


百年前と同じだ。


再び勇者と魔王が対峙する。


「よくきたな」


そこにいたのはかつての白ローブ。王座に座る様はかつてのギルバートと似通っていて……

吹き出す覇気はさながら魔王であり……

その気配は僕が知っている人間のモノだって。


「お前……阿久野マオか?」

「せーかいだよ、紅月君」


白ローブを脱ぎ捨て、笑う彼女。


「楽しそうだな」

「うん。楽しくて仕方ないよ。やっと待ち望んだファンタジーなんだから」

「そう。ギルはどこ……」

「どこ? ふふ、君の目は節穴かい?」


何が言いたい、と問う前に答えを示された。

白い霧が阿久野マオを覆い、阿久野マオの気配が変化した。


「やあ、ベルムーン」

「ギル……君はまた堕ちたのか」


やつれ果てたギル。濃い隈に痩せこけた頬。荒れた肌にぼさぼさの髪。

あの時と同じだ。僕とギルがわかれる直前のあの時と。

じゃあやっぱり……

魔女が言った通りにギルは……


「驚いたか、ベルムーン? これが生き返った理由だよ。どうやら我は貴様の世界の住人として転生したようだった」

「似てるなとは思っていたよ。阿久野マオと君の雰囲気は……」

「フハハ。いつも我らはあと一歩のところですれ違うな。我が魔法陣でこの世界に呼ばれなかったら違っていたかもしれないのに」


それが僕とギル、勇者と魔王の定めなのだろう。すれ違ってばかりで悲しいよ。


「理解できたかい、紅月君?」


また阿久野マオに……


「魔法陣を通ったものに与えられるチカラ。私の場合は前世への転化」

「そして我のチカラは……」


魔王の右手に禍々しい闇が集う。

魔王の右手に奇跡が集う。

吹き抜ける疾風、魔王がそれを振り抜いたから。


「……これだ」


握られる禍々しい黒の大剣。まるで負の感情全てを混ぜ合わせたかのような黒だった。


「今更になるかもしれないが我のこと、好きだったか?」

「うん。でも……」

「友人として、だろ。知っておる。ああ、これで安心して死ねる」


本当に、本当に安心しきった笑顔で魔王は僕に切っ先を向ける。


「まるで百年前と同じだ」

「そうだね」

「勇者よ、何故闘う? 何故我を滅ぼす?」

「約束を守るためだ」


かつての約束。自分が自分でなくなる前に、ギルが狂った魔王になる前に殺すという約束。

彼女は彼女のまま死ぬことを望んだ。

だから僕が殺すんだ。勇者として、友達として……


「哀しいな、勇者よ」

「ああ、悲しいね」


泣くな。まだ泣いちゃだめだ。僕にその資格なんて……ない。

友達を、愛する人をこの手で殺した僕にもう泣く資格なんてないんだ。


「さて、ではぼちぼちと殺し合うとしようか」

「……うん」


構える魔王。徐々ににその雰囲気から優しさが消え、狂おしいまでの殺意に染まっていく。


「我が名はギルバート・フォン・デュランダル。しかとこの名を刻め込め、我を殺すものよ」

「……十六夜紅月。お前を殺す」

「フハハ、推して参る」


気が付けば魔王が目の前に。

振り下ろされる大剣。咄嗟に絶望色の光剣を出現させ、受け止める。

身体の奥底まで響く一撃。強烈過ぎる。片手では耐え切れず、僕は左手で右手首を支え何とか……

腹部に鈍痛。目まぐるしく視界が流れる。

壁に激突。起き上がる時間もなく、魔王が突っ込んでくる。

追撃。神速の刺突。


「勇、者……」


僕は全力で回避した。身を捩り、ぎりぎりで避け、素早く跳躍、大気を蹴り魔王の背後へ退避。

……強い。狂った魔王はこんなにも強かったのか。

百年前の比じゃないぞ。

それともあの禍々しい大剣が原因なのだろうか。


「ユウシャーッ!!」


大剣を振り下ろす。予想通り、禍々しい色をした斬撃が飛来する。

無造作に右腕を振るい斬り裂く。


「……ッ!?」


今まで感じたことがないほどの危機。背筋が凍るほどの悪寒。

横に転がり回避。

背後を振り向くがそこには何もなく……

前方から強烈な魔力反応。


幾重にも張り巡らされた魔法陣。魔王の詠唱、そして数瞬後……

強烈な閃光と灼熱に塗り潰された。


僕の周囲に展開された防御魔法が解れていく。

流石にあれほどの魔法を無傷で凌ぎ切れる自信はなかった。腕の一本は覚悟していたんだが……

どうして魔法が使えるはずのない僕が魔法で守られているんだろう。


それに……


「そこにいるの?」


振り向く。だけど誰もおらず。でも、懐かしい、大好きなヒトがいた気がした。

最上階にある王座は見事に消し飛び、天上と壁には大穴が空いていた。


「がああぁあああぁああッ!!」


咆哮。魔王が咆える。


「幾千もの怨嗟喰らいし絶望色の刃金」


絶望色の光が集い、質量が増していく。実体を得ていく。

確かな実感が右手に伝わる。

意識が加速する。

前方の魔王を見据え、後方からの攻撃を防ぐ。

鈍い金属音。

どういう理屈かわからないが、魔王は空間を操作している。だからこうして背後から魔王が斬りかかってきた。

目を離すはずもないのに、魔王は背後にいる。

防御と同時に、僕は背後に強烈な蹴りを放っていて、それは理性を失い獣と成り果てた魔王に直撃した。


血反吐を吐きながら、それでも魔王は向かってくる。

横へ薙ぐ斬撃。僕も絶望色の刃金を振り抜き迎え撃つ。

何度も何度も何度も何度も……


互いの斬撃は速度を増す。

加速、加速、加速。

斬撃はより鮮烈に、より苛烈に。


「ユウシャァァァアアッ!!」

「魔王ッ!!」


魔王が上段に振りかぶる。

次の一撃は極めて強烈で、最後だろう。

その気迫、その緊張から伝わってくる。

振り下ろされる狂気。振り上げられる絶望。

交差する刃と刃金。

刹那が久遠となる。

見つめ合う僕とギル。


「ごめん」

「構わん。これが我らの定めさ」


言葉を交わさずとも意思は伝わる。

また時が流れ始める。


虚空を舞う大剣。血飛沫が上がり、勇者と魔王の闘争に終止符が打たれた。

崩れ落ちる魔王。僕は彼女を抱き留めた。


断ち切られた上半部と下半部。それでも魔族の王らしく、その生命力は逞しく、けれども死は逃れられないだろう。


「ごふっ……フハハ、ベルムーンは強いな」


悲しげに、それでいてどこか誇らしげに笑う。

何故笑えるの、と聞くと…‥


「我が愛した男が……我よりも強かったからだ。褒美に我のチカラ全てやる」


そんなこと、言わないでよ。僕は思いっきり罵倒して、憎しみをぶつけてよ。じゃないと僕は、僕は……


「なあ、ベルムーン。もし、もしまた会えたその時は我を、我だけを愛してくれるか?」

「……うん。約束する」

「……嬉しいな。今世ではもう貴様の隣は埋まっていたから…………来世は我の番だぞ」

「……うん」

「ああ、ベル……もう目が見えないんだ」

「ここに、ここにいるッ!」

「声も……聞こえない」


僕は大声で彼女の名前を叫ぶ。


「なあ……最後のお願いだ」

「うん。言って、言ってよ」

「……抱き締めてくれ。力一杯。貴様を刻ませてくれ」

「ギルッ……ギルッ……」


僕は全力で彼女を抱き締める。


「ああ…………ありがと。幸せ、だ……」


泣かないって決めていたのに、泣かないって決めていたのにッ……

止め処なく溢れてくる涙は頬を伝い落ち、胸が張り裂けんばかりの悲しさが抑えきれなかった。

……どうしてこんな結末になったんだろう。


メアを殺され、リーズを殺し、ギルを殺した。

数少ない心許せる人たちを僕は殺した。

……僕はどこで間違ったんだろう。


この世界に来たことが間違えだったのかな。

しぶとく生き残ったことが間違えだったのかな。

生まれてきたことが間違えだったのかな。


「ああもう……どうでもいいや」


大切な人たちがいなくなった世界なんてどうでもいい。

僕から奪ったこの世界なんてどうでもいい。


「だからもうこんな世界、ぶっ壊してやる」


左目の銀十字が回転し、ギルのチカラを占奪。

僕の右手に大剣が現れ、振り抜き、次元の裂け目へ僕は飛び込んだ。


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